好酸球性副鼻腔炎

好酸球性副鼻腔炎について知っていただくために開設したブログです。現在更新は行っていません。

好酸球性副鼻腔炎とは

好酸球性副鼻腔炎とは、多発性の鼻茸(鼻ポリープ)で鼻閉と嗅覚障害を起こし、通常の薬が無効で、内視鏡下鼻内手術を行っても再発が多い、難治性副鼻腔炎です。白血球の一種である好酸球が、血液や粘膜で増えているのが特徴です。しばしば喘息(とくにアスピリン喘息)を伴い、好酸球性中耳炎を合併することもあります。アスピリン喘息とは、ほぼすべての解熱鎮痛剤と、着色料や防腐剤などいろいろな誘発物質で喘息を起こす病気です。

好酸球性副鼻腔炎の患者数

2011-08-21 12:48:52 | 好酸球性副鼻腔炎一般

 好酸球性副鼻腔炎の患者さんが、どれぐらいいらしゃるか、直接示す統計はありません。しかし、喘息の患者さんの数から、推測することができます。

 日本における、成人の喘息の累積有症率(現症と既往の合計)は、約3%と言われています。人口12000万人として、360万人。そのうちアスピリン喘息の方が10%ととして、36万人。アスピリン喘息の71.9%に鼻茸を合併すると言われ、この鼻茸を好酸球性副鼻腔炎の鼻茸と考えれば、アスピリン喘息を合併する好酸球性副鼻腔炎は、25万人。

 一方、好酸球性副鼻腔炎の60~80%に喘息を合併すると言われますので、もしそれがすべてアスピリン喘息であるとすれば、好酸球性副鼻腔炎は、喘息を合併していない者を含めると、32万人から43万人。好酸球性副鼻腔炎に合併する喘息がすべてアスピリン喘息でなければ、計算上の患者数は、もっと多くなります。好酸球性副鼻腔炎に合併する喘息に占める、アスピリン喘息の割合を示すデータはありませんが、好酸球性副鼻腔炎の患者さんは、日本に50万人近くいらっしゃると推測されます。

 難病情報センターのサイトによれば、どのように推計したかは示されていませんが、3万5000人から5万人とされています。私の推計より一桁少ないですが、それでもけして少ない数ではありません。

 余談ですが、難病情報センターのサイトは、インターネットで検索して既にご覧になっている方もあると思いますが、私にはいくつか疑問があります。まず、好酸球性中耳炎が進行して聾にいたるということを強調しすぎていることです。この病気に気をつけるように、という注意喚起は必要ですが、好酸球性副鼻腔炎の方がすべて好酸球性中耳炎を合併するわけではないし、高度の観音難聴にいたる方はさらに少数であるからです。必要以上に患者さんの不安を煽る表現になっていないか、危惧されます。

 もうひとつ、”一般的な副鼻腔炎では、上顎洞の病変が一般的であり、抗菌薬に反応して”とあるのですが、これは少し乱暴な表現です。急性副鼻腔炎と小児副鼻腔炎では、そのとおりなのですが、ここで好酸球性副鼻腔炎と対比すべきは成人の慢性副鼻腔炎です。一般的な成人の副鼻腔炎は、やはり軽度のうちは骨洞病変が主体で、抗菌薬にはあまり反応しません(急性増悪時は別ですが)。慢性副鼻腔炎のマクロライド療法は、一般には抗菌薬としての作用を期待するのではなく、他の抗炎症作用を期待して行います。

 余計なことを書いてしまったかも知れませんが、難病情報センターは、患者さん、ご家族の皆様の療養上の悩みや不安を解消するため、また、難病治療に携わる医療関係者の皆様に診療上必要となるような情報を提供するのが目的とありますので、そうれあれば違う表現の方が良いように思われます。

コメント (7)
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好酸球性副鼻腔炎と他の好酸球性炎症疾患

2011-08-20 21:50:19 | 好酸球性副鼻腔炎一般

気管支、鼻副鼻腔、中耳は一続きで、よく似た呼吸粘膜を持ちます。そして、その粘膜で、よく似た好酸球性の炎症を起こし、それぞれがしばしば合併します。アスピリン喘息、好酸球性副鼻腔炎、好酸球性中耳炎です。これらの少なくとも一部は、同じ原因で起こっていると考えられます。

しかし、その頻度には差があり、アスピリン喘息の71.9%、好酸球性中耳炎の61~82%に、好酸球性副鼻腔炎ないしは鼻茸が見られます。これに対して、好酸球性副鼻腔炎の10~30%にしか、中耳炎を合併しません。アスピリン喘息も好酸球性中耳炎も、好酸球性副鼻腔炎ないしは鼻茸が先行することが多いとされます。これらを総合してみると、副鼻腔炎が一番多く、しかも最初に発症するということになります。

他に類縁疾患として、アレルギー性真菌性副鼻腔炎があります。これは真菌(カビ)が引き起こす、アレルギー性の炎症であるとされ、好酸球性副鼻腔炎と非常によく似た病態を示します。現時点では、その位置づけがはっきりしないので、上図では、円の外に書きましたが、好酸球性副鼻腔炎の多くは、真菌が原因である考えている先生もいます。しかし、そう結論するには、証拠が少ないようにも思います。

またChung Strauss 症候群も、気管支や副鼻腔で、よく似た病態を示します。しかし、それに引き続いて、全身の血管で好酸球性の炎症が起こり、多くの臓器で障害が起きます。診断基準の好酸球の増加は800/μl以上ですから、好酸球性副鼻腔炎の診断基準の400/μl以上の2倍です。一方、好酸球性副鼻腔炎ではあまり関連がないとされるIgEが高値で、好中球細胞質抗体(P-ANCA)も上昇します。気道に限局する好酸球炎症が進展したものなのか、別の疾患なのか、これもまだ位置づけがはっきりしません。

いずれにせよ、副鼻腔炎が最も多く、また最初に発症する場合が多いので、好酸球性副鼻腔炎をはやく通常の副鼻腔炎と鑑別して診断し、落ち着いた状態を保てるように治療できれば、ほかの好酸球性炎症疾患の発症を、予防できる可能性があるのではないかと推測されます。ただし、エビデンスはありません。


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好酸球について 1

2011-08-18 14:23:07 | 好酸球性副鼻腔炎一般

私が医者になった1980年頃までは、好酸球はアレルギー炎症を軽減する、いわば善玉ではないかと考えられていたこともありました。強力な組織破壊性をもつMBPというものが発見されて以来、いろいろな研究によって、好酸球は悪玉と見なされるようになりました。でも、今でも分からないことが多いのです。

局所に好酸球が増えるということは、1.骨髄での産生の増加 2.走化能(いろいろな化学物質の働きで、移動してくること)の増加 3.寿命の延長(長生きすれば、数がどんどん増えることになる)、の3つによると考えられます。

好酸球性副鼻腔炎では、血中の好酸球が増えていることから、骨髄での好酸球産生も増えていると考えられます。しかし、好酸球の産生も、局所への遊走も、数分で起きるわけではありません。症状がないときも、その準備状態は起きていると考えなければなりません。準備状態があって、誘発物質(典型的なのが解熱鎮痛薬NSAIDs)が体の中に入ったときなどに、急に症状が悪化するのでしょう。通常の鼻茸と違って、好酸球性副鼻腔炎の鼻茸は、急に大きくなります。

通常の副鼻腔炎、とくに急性あるいは急性増悪期には、好中球がしばしば見られます。好中球はかなり速いスピードで、一定の方向、すなわち副鼻腔の内腔の方に移動していきます。血管壁(内皮細胞の間)を通るときと、基底膜を抜けて上皮細胞の間を通るときだけ、少し時間がかかります。ですから、副鼻腔炎の粘膜の組織を見ると、流れが渋滞する血管壁の直下と上皮の直下、そして上皮細胞の間に集中して存在し、他の部分にはほとんど見られません。副鼻腔の内腔あるいは上皮の表面に、好中球が戦うべき相手、細菌がいて、好中球はそれに向かっていくのです。

それでは好酸球性副鼻腔炎の好酸球は、何を目指して、副鼻腔にやってくるのでしょう。好酸球は、副鼻腔の内腔にも出て行きますが、好中球のようにまっしぐらにではありません。好中球のように上皮下だけに多いわけではなく、粘膜のあちこちに留まっているように見えます(好酸球は、好中球より、組織の中を移動するスピードがかなり遅いのですが、それだけでは説明できない程、分散しています)。

好酸球が局所までやってくる、細かいメカニズムはいろいろ分かってきているのですが、何の目的で好酸球が集まってくるのか、根本的なことがよく分からないのです。好中球のように単純に外敵に向かっていっているのではないことは確かです。

ステロイドを使うと数日のうちに鼻茸が急に縮むのも、通常の副鼻腔炎の鼻茸では、考えられないことです。通常の鼻茸は一般に、薬では(ほとんど)小さくなりません。典型的な好酸球性副鼻腔炎の鼻茸では、驚異的な数の好酸球が見られます。鼻茸が数日で小さくなるというのは、膨大な数の好酸球が、一斉にその寿命を終えて壊れて消えるというようなことが起こっているのでしょうか。

分からないことが多いです。もっといろいろなことが分かってくると、ステロイド以外の画期的な治療法も出てくるはずです。

 


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リモデリング

2011-08-15 22:53:50 | 好酸球性副鼻腔炎一般

リモデリングとは、炎症が繰り返し起こった結果として(実際には1回炎症が起きただけで軽度の変化は起きますが)の上皮化生(杯細胞化)、上皮下線維増生、平滑筋肥厚、粘膜下腺の増殖などをいいます。結果として気管支粘膜は肥厚し気道が狭くなり、喘息が悪化します。リモデリングには可逆的な部分と、不可逆的な(治らない)部分があるとされます。主たる原因は好酸球などによる炎症だと考えられています。狭い意味では、治りにくくかつ直接気道を狭くする原因になる、線維増生と平滑筋の肥厚だけを、リモデリングと呼ぶ場合もあるようです。

私は、喘息については専門医レベルの知識を持っていません。したがって、まず副鼻腔粘膜のリモデリングについて書かせてください。

副鼻腔粘膜と気管支粘膜は、よく似た粘膜なのですが、大きな違いがひとつあります。副鼻腔には、気管支のような、平滑筋がありません。副鼻腔は、気管支のように、収縮することはないのです。

もうひとつの違いは、鼻腔や副鼻腔には、はじめから粘膜下腺がたくさんあるということです。おそらく、気道の入り口で、まず外気が最初に入ってきて、下気道(気管支、肺)を守る役目の部位ですので、常に炎症の危険に曝されているからでしょう。副鼻腔炎の専門家だった故足川力雄教授は、新生児、乳児の副鼻腔粘膜を調べて、”人間は皆生まれてすぐ副鼻腔炎になり、厳密に正常な副鼻腔粘膜というものは、存在しない”という意味のことをおっしゃっていました。

それ以外の杯細胞化生、基底膜の肥厚(正確には基底膜下のコラーゲン沈着)といったリモデリングは、喘息の気管支粘膜と同じように、好酸球性副鼻腔炎(ポリープが多発し、高粘性の貯留液があり、好酸球が著明で、喘息を伴う副鼻腔炎)の粘膜組織でも起きていることは、1999年に私が報告しました(文献7)。その時の結果では、好酸球の浸潤と杯細胞化生は、相関していました。杯細胞は、好酸球性以外の炎症でも増えますが、このような極端なものは、好酸球性副鼻腔炎でなければ、見られません。粘膜の線維増生に関しては、好酸球との相関は確認できませんでした。

好酸球には、いろいろな働きがあります。組織を破壊するような物質(ECPなど:文献7)を出すかと思えば、線維化を促進したり好酸球自身の寿命を短くするような物質(TGF-βなど:文献7)を出したりします。線維化は、もともと、炎症性細胞が浸潤しにくくなるような、ある意味で急性炎症を終息させるための働きです。粘液の分泌も、本来は、外敵から粘膜を守るためのものです。それが過剰になって、かえって病気を悪化させるのが、リモデリングだとも言えます。

一般に慢性炎症では、組織の傷害と修復が同事に起こっているのですが、好酸球には組織を傷害し炎症を起こす働きと、本来は急性炎症を終息させる働きと、両方を持っていることになりますが、その両方の働きともが、結果として症状を悪化させています。

しかし、副鼻腔炎では、発症の機序としては重要であっても、実際の臨床では、もともと細い管である気管支と違って、リモデリングが問題になることは少ないです。鼻ポリープは、リモデリングとは別のものですが、ある意味究極のリモデリングかも知れません。しかし、これに対しても、気管支と違って、手術という手段があります。

ここから先は、専門外のことになりますが、気管支のリモデリングは、それが軽いうちに、あるいは不可逆的になる前に、リモデリングの原因になる炎症を、ステロイド吸入などで抑えていくというのが原則だと思われます。線維増生や平滑筋の肥厚が高度になってからでは、それを治すのはなかなか難しいと考えられます。

最近、気管支のリモデリングは好酸球性炎症がなくても、気管支の収縮の物理的刺激で起こるという論文が出ましたEffect of Bronchoconstriction on Airway Remodeling in Asthma N Engl J Med 2011; 364:2006-2015)。 これが一般的に肯定されるようになっていくのかどうかは、専門外の私には、分かりません。しかし、収縮しない副鼻腔粘膜でも、同じようなリモデリングが起きているのだということは言えます。

コメント (2)
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夏休みをいただきます。

2011-08-06 08:21:05 | 好酸球性副鼻腔炎一般

今日から1週間夏休みをいただきます。このブログも1週間、お休みさせていただきます。

夏休み明けには、アスピリン喘息との関係、真菌(かび)の関与、点鼻ステロイドと抗ロイコトリエン薬は有効か?などについて書きたいのですが、私自身もう少し勉強しなければならない点がありますので、少し時間をください。

 


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