本朝徒然噺

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夏キモノの種類

2006年08月26日 | キモノ便利帳
紋駒絽のキモノ」についてご紹介したついでに、夏キモノの種類について書いてみたいと思います。

夏キモノと一口に言っても、生地の織り方によってさまざまに分けられます。
生地によって風合いや着心地が異なるので、気候や用途に応じて着分けると、夏キモノをより楽しめるのではないかと思います。

■絽(ろ)

夏キモノのなかで最も一般的な生地です。
生地のなかに細かな透かし(絽目)が入っています。

横絽

絽目が横向きに入っているものを「横絽」、縦向きに入っているものを「竪絽(たてろ)」と言います(上の写真は横絽の鮫小紋)。

絽目と絽目の間の幅が広い「段絽」というのもあります。段絽は、絽目が少ないので単衣の時期に着ます。
また、縮緬(ちりめん)の生地に絽目が入っている「絽縮緬」というものもあります。絽縮緬は本来、単衣の着物の代わりとして着るものなのですが、最近では盛夏にも着られているようです。

木綿の着物(浴衣)にも絽目が入っているものがあり、「綿絽(めんろ)」と呼ばれます。綿絽の浴衣は、半衿、襦袢、足袋をあわせて、普段着の夏キモノとして着ることもできます。

綿絽
↑このブログでもよく登場している竹柄の綿絽をアップで見ると、こうなっています。吊るした状態で撮ったので、後ろにある茶色い柱が透けて見えています(汗ジミではありません 笑)


■紗

絽とともに、夏キモノを代表する生地です。
2本の縦糸が横糸1本ごとにからみ合うように織られており、すきまが多くなっています。遠目に見ると「モワレ」のように見えます。

紗は絽に比べて透け感が強いので、より涼しげな印象になります。
ただし、生地にすきまが多いため、繊細な柄を描くことができません、そのため、無地のものが多くなります。
紗は、絽に比べるとややカジュアルな印象になります。


■紅梅

細い糸の間に太い糸を織り込み、太い縦糸と太い横糸が交差して格子状に見える生地。

細い糸と太い糸の両方とも木綿で織られているのが「綿紅梅(めんこうばい)」、細い糸が絹、太い糸が木綿になっているのが「絹紅梅(きぬこうばい)」です。

綿紅梅も絹紅梅も、浴衣の一種になりますので、あくまでも普段着です。
透け感が強いので、下に襦袢や浴衣用肌着を着けます。
半衿、襦袢、足袋をあわせて、普段着の夏キモノとして着ることができます。

絹紅梅は家庭では洗えませんが、綿紅梅なら家庭で洗えますから、気軽なお出かけに着て行くのに便利です。

綿紅梅
↑このブログでも登場している、濃紺地に朝顔柄の綿紅梅を近くで見ると、こうなっています。遠目だとわかりにくいですが、近くで見るとかなり透け感があります。黒や濃紺だと、襦袢の白がかすかに透けて見えて、淡色の着物とはまた違った涼感が出せます。


余談ですが、最近、インターネットの着物屋さんなどで「紗紅梅」という言葉を発見し、不思議に思っていました。
「紗」と「紅梅」は全然違う織り方の生地なのに、それがあわさっているって、一体どんな着物なんだろう?
実際の商品画像を見てみると、「紅梅」のようでした。
推察するに、「紗=透ける着物の総称」と誤解され、透ける生地である紅梅に対して「紗」という表現が用いられてしまっているのではないかと思われます。
一般の方ならまだしも、着物屋さん(たとえインターネット販売店とはいえ……)がこうした間違った知識を持ってしまっているのは、いかがなものかと思います。顧客に対して誤った知識を与えることのないよう、留意していただきたいものです。


■縮(ちぢみ)

縮は、縦糸に強い撚(よ)りをかけて織り、湯もみをして「シボ」(細かな縦のシワ)を出した麻織物。

なかでも最も有名なのは、新潟県小千谷地方で作られる「小千谷縮」です。

縮は、浴衣の高級品といった位置づけのものですが、透け感が非常に強いため、通常は半衿、襦袢、足袋をあわせ、カジュアルな夏キモノとして着ます。
涼しくて肌触りもよく、家庭で洗えるので、気軽なお出かけ着として重宝します。

小千谷縮
↑このブログでも登場している小千谷縮のアップ写真。シボまではちょっと見にくいかもしれませんが、縞の柄が細かく波打っているので、シボがあるのがおわかりいただけるでしょうか。


■上布(じょうふ)

上布は高級な麻織物で、縮と違って表面にシボがなく、繊細な質感です。ただし、高価でも麻織物なので、礼装にはなりません。

透け感が強く、まさに「薄物」といった表現がぴったりで、見た目にも着る人にも涼しい着物です。
盛夏のちょっとしたお出かけや観劇などにぴったりのおしゃれ着だと思います。
縮とちがい、家庭で洗うわけにはいかないので、長時間外にいる場合などは避けたほうがよいかもしれません。

産地によって、宮古上布、越後上布、近江上布、八重山上布など多くの種類があります。


■おわりに

細かく挙げるとまだまだたくさんの夏キモノがありますが、ここでは、代表的なものだけをご紹介しました。

私も、もちろんすべての夏キモノを持っているわけではありませんが、手持ちの着物のなかでいろいろ着分けて、夏キモノ生活を楽しんでいます。
例えば、長時間屋外にいるときなどは、家庭で洗えて透け感も強い綿紅梅や麻などを着ると、快適さと安心を得られます。
一方、あらたまった場面で着るときは、正絹の絽などが向いているでしょう。

着物も洋服と同じで、オンとオフのメリハリが大切だと思います。
いつも「やわらかもの(絹の染めの着物)」ばかりだと疲れてしまいますし、反対に、どこへ行くにも誰と会うのにも普段着というわけにはいきません。
花火大会で長時間外にいるのに正絹の着物では、とてもじゃありませんが安心して着ていられませんし、反対に、劇場やレストランに行くのに浴衣に素足、下駄ではちょっと浮いてしまいます。

そのへんの「着分け」の判断ができることが、「着慣れる」ということなのではないかと思います。
夏キモノは、さまざまな素材や生地があるからこそ、賢い着分け方の勉強をするための良い機会なのではないでしょうか。
「夏キモノを制する者はキモノを制す」と言えるかもしれません。
私は、「キモノを制し」ているとまではまだまだいきませんが、夏キモノを頻繁に着るようになってからというもの、ほかの季節にもキモノを着る回数が圧倒的に多くなりました。
今では、夏の週末のお出かけ着はすべてキモノになってしまい、洋服のコーディネートを考えられなくなってしまいました(笑)。

「夏にキモノを着たいけれど、汗が心配……」という方も多いと思いますが、夏なればこそ、縮や綿絽、綿紅梅など洗える素材の着物を、カジュアルなお出かけ着として堂々と着るチャンスです。
袷の時期だと、木綿やウールの着物で街なかへ出て行くことは気が引けますが、夏なら別。
夏なら、TPOさえわきまえていれば、木綿や麻の着物でも違和感なく街を歩けますし、見た目にも却って自然で涼しげに見えます。

夏こそ、「キモノで街へお買い物」など、気軽に着物を着られる絶好の機会ではないかと思います。
まずは、映画やお買い物、寄席など気軽なお出かけに、麻や綿絽、綿紅梅といったお手入れの楽な夏キモノで出かけてみませんか?
夏キモノ未体験のみなさんも、来年はぜひ!

そろそろ夏物のシーズンが終わるので、夏物セールが開催されるこの時期を狙って購入しておき、来年までにゆっくり仕立てておくと、おトクかもしれませんよ。
(私はこの方法で、2枚目の小千谷縮を買ってしまいました……苦笑)


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ありがたいです (kazura)
2006-08-27 23:57:08
藤娘さんのまとめ、非常に実践的で的確、頼りにしております。

出来ましたら、次回は夏帯を(ずーずーしすぎますね)
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こちらこそ、ありがとうございます! (藤娘)
2006-08-29 06:11:24
kazuraさま、ありがとうございます!

微力ながらお役に立てて、本当に光栄です



夏キモノは、カジュアルからおしゃれ着まで幅広く楽しめるので、袷の時期のキモノよりもハマってしまう感じがします(笑)。

薄物の季節が終わるので、ちょっとさびしい気がする今日このごろです……

来シーズンはぜひ、夏帯についてまとめてみたいと思います!

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