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おさむい相互協力も『図書館に訊け』

2004-10-18 13:44:50 | 
夏休みや年末年始は「教えて君」が増殖する季節である。サイト管理者の大半が彼ら彼女らの訪問を受けた経験があると思う。
質問をぶつけるのは一瞬だが、回答と言うものは即答できるようなものばかりではない。かんりにんは、「他人に回答を調べさせることによって、その人の時間を奪う」行為とみなして、自サイト(ここではないが)では気分で応対することにしている。
「教えて君」ばかりを責められない。おそらくその背後には「インターネットを使って調べること」などと安易な課題を出す学校の先生がいる。言っておくが「インターネットで調べる」と言うことは、どこかの個人サイトの掲示板やメールで質問することではない。

本書ではそんなインターネット偏重を批判する。「そのぐらいググれ」ではなく「安直にググるな」と。別に「教えて君」を弾劾しているわけではないが。

しかし、分野にもよると思うが、冊子体のレファレンスブックは今日、あまり役には立たない。先日もある会社社長の経歴を調べたが、各社から出されている人事録をあさっても記載はナシ。結局、日外アソシエーツが提供するオンラインデーターベースサービス「WHO」を使って情報を入手した。冊子体や百科事典の扱い方は基本中の基本と、図書館学の立場に忠実だが、最近では百科事典よりも年ごとに出される『現代用語の基礎知識』『イミダス』などのほうが手に取られることが多いように思う。

図書館相互協力も一般の人には耳慣れない言葉だろうが、たしかに便利なサービスである。図書や雑誌もひとつの図書館だけでカバーすることなどは到底不可能である。そんな時、他の図書館や資料室にお願いして、資料を借り受けたり、文献のコピーを送ってもらったりできるのは便利だ。
本書でもその点を強調して、ユーザーニーズを掘り起こそうとしている。それはいいのだが、本書を読んだのが、ちょうど相互協力がらみで「かんりにん」が頭にキている頃だった。

相互協力で困ったことは、ただ参加だけしているという館があるということだ。他の館へ借受や複写の依頼は出しても、他館からの依頼は受けないのだ。
中には「人員削減のため」とか「オンライン化で人手が足りない」といった馬鹿げた理由で断ってくる都内某有名大学図書館もある。
国立情報学研究所はこういう実態を分かっているのだろうか。NACSISに参加する上で、各館特有の条件はなるべく撤廃して欲しいものである。このあたりを利用者側から見た図書館事情という形で告発本でも出てくれば面白いのだが。もちろん、真の意味でのヘビーユーザーに書いてもらい、無料貸本屋と化した公共図書館にもメスを入れてもらいたい。
もう一つ、相互依存症が進まないか、という危惧がある。相互協力を重視して、自館の蔵書を削って行く(あるいは買い控える)と、どうなるか。その館に直接来館する利用者にとっては、実に貧困なコレクションに映ってしまうのだ。
まだ「ウチはこの分野に特化していく」という志ある館ならばいい。これが資料費の圧縮による他館依存であるとすれば?
ベストセラーばかり揃えた図書館など、魅力のカケラもない。

図書館に訊け!(ちくま新書 486)
井上真琴著

出版社 筑摩書房
発売日 2004.08
価格  ¥ 777(¥ 740)
ISBN  448006186X

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