骨董と偶像

好きなもの&気になるものリスト

『まちがいの狂言』THE KYOGEN OF ERRORS

2004-09-27 21:18:51 | 演劇
「ややこしや~」をぜんぶ見たい場合は、野村萬斎演出の狂言「まちがいの狂言」を観るしかない。舞台は、室町時代の瀬戸内海にある小国、黒草の国。幼い頃に生き別れてしまった双子の息子たちを再会させたいと、白草の国の商人、直介が敵国の黒草の国に上陸するところから始まる。息子と従者、ややこしい2組の双子の取り違えに巻き込まれた人々の騒動を、息のあったアンサンブルで、どこかユーモラスな魅力に富んだ「人間劇」として描く。


世田谷パブリックシアター

野村萬斎の「まちがいの狂言・グローバルバージョン」のDVDはこちらで入手可能。


『まちがいの狂言』

2004-09-27 21:07:17 | 
巷で「ややこしや~ややこしや!」とつぶやいている幼児に出会わないだろうか?
NHK教育テレビ「にほんごであそぼ」の中で、野村萬斎が演じる狂言「まちがいの狂言」の一節である。もとネタはシェイクスピアの喜劇「まちがいの喜劇」であるが、これを高橋康成が日本の室町時代に舞台を置き換えたもの。
ふだんNHK教育テレビなど見ない方は、そのシュールな装いを刮目して見て欲しい。

まちがいの狂言
高橋康也著
出版社 白水社
発売日 2003.11
価格  ¥ 1,890(¥ 1,800)
ISBN  4560035806

NHK教育テレビで話題の「ややこしや」は、ここから誕生した! 野村万斎と著者との交流から生まれた、シェイクスピアの翻案狂言である「法螺侍」と「まちがいの狂言」を収録。 [bk1の内容紹介]
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『腸詰工場の少女』

2004-09-25 15:23:54 | 
「あたし、牛や馬や豚の血や皮やはらわたが散乱した腸詰工場で働いてます。あたしの運命ってどうなるのかしら?」

かんりにんのトラウマ編。はじめて読んだ高橋葉介の作品は、『腸詰工場の少女』だった。工場のきつい仕事を終えて、家へ帰っても飲んだくれの父親(少女の稼ぎで酒を飲んでいる)に乱暴される毎日。そんな薄幸の美少女が腸詰工場でこきつかわれているうちに、人肉をまぜている事実に気づいてしまう。腸詰機の中にときどき女工のおばさんがはまっちゃったりするし、冷酷な工場長は片腕がソーセージの鞭になっている。人肉は当然まざっているだろう。
雇主たちは遊び人の息子に言い含めて少女をデートに連れ出し、色仕掛けでまるめこもうとする。
ハンサムな息子にひそかに恋していた少女は大喜び。せいいっぱいおめかししていくが、デートの待ち合わせ場所で、息子は「もっといい服なかったの?」
それでも、遊園地などでさんざん楽しく遊んだ挙句、夜になってとうとう連込み宿に。息子は「(相手が女工だから)こういうこと知ってるだろう? 教えてよ」と誘う。少女は本当に自分を愛してくれているのかと確認するものの、なりゆきで身をまかせてしまう。
少女はやがて身ごもるが、恋人は会ってくれない。雇主によれば、近々結婚するのだという。少女は仕事のほうもうわの空になってしまい、うっかり腕を機械にはさまれる。ガチャングシャドスンバギャガリガリガリ・・・
片腕がソーセージに。鞭みたい。
すべてに絶望した少女は・・・・・・

・・・しばらく、ソーセージが食べられませんでした。
なんとなく、葉山嘉樹の『セメント樽の中の手紙』を連想させますね。





電子本はこちら。

ヴィリエ・ド・リラダン『未来のイヴ』

2004-09-21 00:42:14 | 
全編ほとんどがエジソン博士による人造人間ハダリーの機能説明。しかし、その断片だけをとっても詩的で啓示的。読む人それぞれに抱くイメージがある。
押井守のアニメ映画『イノセンス』の冒頭でもその一節が引用され、作中でもハダリー・タイプのアンドロイドという設定にニヤリとした方も多いはず。


未来のイヴ(創元ライブラリ)
ヴィリエ・ド・リラダン著・斎藤磯雄訳出版社 東京創元社発売日 1996.05価格  ¥ 1,575(¥ 1,500)ISBN  4488070043
輝くばかりに美しく、ヴィナスのような肉体をもつ美貌のアリシヤ。しかし彼女の魂はあまりに卑俗で、恋人である青年貴族エワルドは苦悩し、絶望していた。自殺まで考える彼のために、科学者エディソンは人造人間ハダリーを創造したが……ヴィリエ・ド・リラダンの文学世界... [bk1の内容紹介]
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センセイと先生

2004-09-18 22:08:30 | 
川上弘美については、あまりいい読者ではないのだが、この『センセイの鞄』はいつか文庫になったら買おうと決めていた。

「ツキコさん。今からいらっしゃい」突然センセイが言った。
「センセイのおうちへですか」
「はい」
 わたしは急いではぶらしとパジャマと化粧水を鞄に入れて、センセイの家まで小走りで行った。センセイは門のところに立って、わたしを迎えてくれた。そのまま手をつなぎあって八畳間に行き、センセイが布団を敷いた。わたしは布団にシーツをかぶせた。流れ作業みたいにして。寝床を用意した。
 何も言わずに、センセイと布団の上に倒れこんだ。はじめてわたしはセンセイに、強く激しく抱かれた。
(川上弘美『センセイの鞄』文芸春秋)

読んでいるうちに、老教師と教え子の関係について考えた。筒井康隆の『敵』の中で、に同じように教師と教え子が寝る描写があった。たしか、性交の前に布団を敷くところが共通していたので、思い出したのだ。


「そうか。じゃあ、いっそのこと泊まっていくかい」
 かすれ声だったので靖子は儀助の真意を悟ったようだ。しばらくし机の上の料理の皿を見つめたあと真剣な顔をあげて口ごもりながら訊ねた。「先生。わたしと、したいの」
「まさに」と、儀助は言った。口の中が乾ききっている。「まさに、その。そう」
 靖子は不審げな顔をした。「それ、前からだったんですか」
「それは、もう」恥かしさに堪えて懸命に鷹司靖子を見つめ返し続ける。
「じゃあ」彼女はなぜかもう一度柱時計を見あげたりしてそう言った。「それならそう言ってくださってれば。わたしだって先生が。でもそれなら」それならすぐにでもと言わんばかりに切迫した口調で彼女は立ちあがり勝手を知った様子で押入から布団を出しはじめる。最終電車の発車は十一時四十分頃。どうやら彼女は是が非でも今夜中に鎌倉へ帰らねばならないようなのだ。
「汗掻いてるから、このままで」彼女は服のまま横たわった。儀助に否やはない。ワンピースの裾は前ボタンで開くのだった。飾りも何もない白いパンティが他の男との交渉がない証拠と想像できて儀助には好ましい。
 挿入までの慌ただしさに反して交接は濃密だった。
(筒井康隆『敵』新潮社)


ツキコさんがセンセイと寝るシーンは、ラストのほう近く、「一度だけ、センセイが携帯電話をかけてくれたときの話をしようか。」と意味深に挿入される。いつのことか、前後の時間とは順番になっていないらしい。どうやら、話そうかどうしようか迷った挙句、とうとう最後のほうで告白した、ということらしい。

ドラマや映画では、男女が倒れこむのは圧倒的にベッド。あまり布団を敷いて・・・という場面は見たことがないが、性交の前に布団を敷く描写が、何だか非常に艶かしいのだった。一度、トレンディドラマ(死語か?)でも使ってみたらどうだろうか?



センセイの鞄(文春文庫)
川上弘美著

出版社 文芸春秋
発売日 2004.09.02
価格  ¥ 560(¥ 533)
ISBN  4167631032

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敵(新潮文庫)
筒井康隆著

出版社 新潮社
発売日 2000.12
価格  ¥ 540(¥ 514)
ISBN  4101171394

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『青春の門』

2004-09-15 21:16:09 | 
五木寛之の大河小説『青春の門』がまたまた文庫化。なんで今頃、と思ったが、コミック誌で連載が開始されるのだね。
描かれているのは、性と暴力である。いっそ、青春の「悶」としたほうが内容とピッタリくるような気もするのだが。
今回で何度目の文庫化だろう。最初の上下巻全十二冊版、合本された全六冊版、そしてふたたび全十二冊版である。おそらく、最新刊の初文庫化も含まれるかもしれないから、全十四冊版か。

構想では、全十二部、二十四冊になるらしいのだが、まだようやく折り返し地点を少し越えたところ。

主人公伊吹信介は実によく女にもてて、彼女たちと寝る。それも圧倒的に誘惑される側であって、それがリアリティのなさを感じさせるのだが、やはりメスをひきつける存在というのはいるのだろう。作中、信介と関係をもたなかった女性を探すほうが難しいぐらいだが、登場するヒロインのほうもそろって好色。風間完の挿絵もエロティックなのだが。

シリーズ通じてのヒロインといえば、信介の幼馴染、牧織江。幼い頃は信介の「お医者さんごっこ」の犠牲になったりしていたが、女になると立場は逆転して、「して。信介しゃん、して」と信介との初めての性交を懇願したり、ふざけて、信介のペニスを握って「牧織江を愛しています、と言え」と迫ったり。もっとも、織江にとっては、一家離散になって売春婦に身を堕としながらも、信介とセックスできたら、この先、どんなつらい目にあってもそれを支えに生きていける、というけなげな理由があるのだが。
ドン臭さと洗練されていく女の部分が同居した多面性を持つキャラクターが魅力だ。
この作品は何度も映画化されていて、織江は大竹しのぶとか杉田かおるなどが演じている。しかし、筑豊編・自立編どまりなので、その先の放浪編、堕落編、望郷編、復活編も映像化されるといいなと思う。



マーラー「大地の歌」

2004-09-07 21:45:47 | 音楽
はじめて買ったCDが、マーラーの『大地の歌』だという人は結構いるのではないか。
サントリーウィスキーのテレビコマーシャルで、墨絵のようなタッチのアニメーションに乗せて、ドイツ語の歌曲がブラウン管から流れてきたのは、CDがレコードにとってかわるメディアとしてブレイクした間もなくのことであった。
マーラーの『大地の歌』第三楽章「青春にふれて」である。これは、李白の詩「江南春懐」「題元丹近山居」に拠っている。
マーラーは友人から詩集「支那の笛」を教えられ、それに収録されている李白や銭起の詩にインスピレーションを受けた。

CDプレイヤーを購入して、はじめての一枚をどれにしようか、と考えた時、迷うことなく手にとったのが、ブルーノ・ワルター指揮、ニューヨークフィルハーモニックによる『大地の歌』だった。

「やがてわたしの時代が来る、とマーラーは言った」というナレーションも効果的だった。あれは、おそらく人々にマーラーの名をうえつける仕掛けであったように思う。

クラシックというと、学校で生演奏会などを聴いた記憶があるが、退屈きわまりないものだったが、CMが効果的にクラシックを取り入れると、たちまち魅了されてしまった。今でもクラシックのCDを購入する時は、CMに使われたものの中で、とくに気に入ったものを選ぶようなケースが多くなっている。

マーラー:交響曲 大地の歌

にっぽんにも素晴しいファンタジーはあるのダ

2004-09-03 01:12:52 | 
いつか、ふしぎなものを見たことがあった。あれはいったいなんだったのだろう。なぜぼくは、もっとよく調べてみなかったのだろう。

少年時代の不思議な体験を再確認するため、ふたたび謎の小山へ向かう主人公。そんな主人公の思いにダブるかのように、周期的に「また読みたい」と思う一冊である。

アイヌに伝わる小人伝説コロボックル、ふきの葉の下の人。不思議な山で少年時代を過ごした主人公。昔、トマト売りのおばあさんから聞いた「さま」の話。
謎は大人になるまで持ち越される。山で出会った謎のおちび先生。彼女は山の秘密とコロボックルの存在を知っているのか? 主人公とおちび先生とのカマのかけ合い、互いの心の探りあいが読んでいてワクワクする。
ヒイラギノヒコ、エノキノヒコ、ツバキノヒコ、ハギノヒメ(男はヒコ、女はヒメ)と植物の名前を持つ個性的なコロボックルたちも魅力的なのだが、彼らや主人公を翻弄する聡明なおちび先生のファンなのだった。

amazonはこちら。だれも知らない小さな国コロボックル物語 (1)

だれも知らない小さな国 新版(コロボックル物語 1)
佐藤さとる作・村上勉絵

出版社 講談社
発売日 1988
価格  ¥ 1,155(¥ 1,100)
ISBN  406119075X
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立って歩く小さなかえるを、童子さま、知ってらっしゃるでしょうね。

フューチャーメン出動!

2004-09-01 21:34:39 | 
SF、とくに銀河をまたにかけるスペースオペラは近年、元気がない。この分野では、映像が活字を圧倒しているのだ。スター・ウォーズやスタートレックのような映画やドラマは人気を集めても、あまりレンズマン・シリーズだとかスカイラーク・シリーズだとか太陽の女王号シリーズだとか火星のプリンセス・シリーズだとか、あまり本に関する話題にものぼらないなあ、と実感している。最近では中には入手困難なものもある。世はミステリとファンタジー全盛期だ。実際の科学技術の進歩からして、陳腐化したセンス・オブ・ワンダーでは21世紀の読者の心はとらえられないのだろうか。

しかし、ひっそりと火星のプリンセス、レンズマンなど合冊による再刊や新訳によるリフレッシュしたスペースオペラの発行が続いている。そして、いよいよキャプテンフューチャー全集(!)の登場である。イラストも人気作家鶴田謙二を起用。旧版のアメコミ調のバタ臭いジョオン・ランドールも鶴田作品特有のおてんばそうなヒロインに様変わり。

時は未来 ところは宇宙
光すら否む 果てしなき宇宙へ
愛機コメットを駆るこの男
宇宙最大の科学者であり 冒険家
カーティス・ニュートン
だが人は彼を
キャプテン・フューチャーと呼ぶ

こんな前触れではじまったアニメもあったっけ。

キャプテン・フューチャーことカーティス・ニュートンに従うは、フューチャーメンたち。人造人間オットー、ロボット・グラッグ、そして「生きている脳」サイモン・ライト。
宇宙船コメット号に乗って、往くは輝く星々の彼方!

恐怖の宇宙帝王 暗黒星大接近!(創元SF文庫)
エドモンド・ハミルトン著・野田昌宏訳
出版社 東京創元社
発売日 2004年8月上旬
価格  ¥ 1,260(¥ 1,200)
ISBN  4488637116

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