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グルーズ「壊れた甕」

2004-10-12 21:39:25 | 絵画
楕円形のカンバスに描かれた絵をみれば、だいたいの人はピンとくるだろう。テーマはロストヴァージンである。
甕は少女の処女性を示し、その破壊は、破瓜を意味している。下腹部をおさえる両手も暗示的だ。
タイトルの「壊れた甕」のもともとの由来は、「たびたび水を汲みに行けば、甕も最後には壊れる」という諺である。処女喪失をモチーフとした絵画には、鳥の死を嘆く少女であったり、鏡を壊した少女であったり、いろいろヴァリエーションに富んでいるのだが、ポイントは「喪失」を嘆くか、意に介さないか、という二通りの描き方にあるように思う。

水汲み場のライオンの口から吐き出される水、黒々としたシルエット、それは少女を襲った「もの」である。それなのに、この絵の少女はスカーフもずれ、胸が半分あらわになって乳首が見えるほど服装が乱れていながら、自分のしでかしたこと(あるいは自分の身にふりかかったこと)に対して、さして気に病む様子が見られない。
もっとも澁澤龍彦はそうは見ていない。少女の顔を「放心状態」と見、「割れたのは甕だけではないらしい」と書いている。強いられたものだったのか、あるいは合意に基づくものなのか、見方によっていろいろな解釈も出てくるのはやむを得ない。そう思わずにはいられない、少女の曖昧な表情によって。

作者のジャン・バティスト・グルーズは非常に世俗的な絵を残しているが、この絵画はかのポンパドゥール夫人の後釜になって宮廷で寵愛されたデュ・バリー夫人が所有したこともある。
この絵を澁澤龍彦の『エロティシズム』(中公文庫)の挿絵で見て以来、いつか現物を見たいものだと思っていた。それが叶ったのは、1997年の「ルーブル美術館展」において。

エロティシズム 改版(中公文庫)
渋沢竜彦著

出版社 中央公論社
発売日 1996.11
価格  ¥ 760(¥ 724)
ISBN  4122027365

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