日本でもっともふつうにみられる赤い椿はこの「ヤブツバキ」。大島の椿もこの品種だ。花弁が開ききらずに筒咲きのままなので、茶花に好まれる。江戸時代から多くの品種の作出のために使われてきた。
(2020-03 東京都 神代植物公園)
【ヤブツバキとは】
・ツバキ科ツバキ属に属する日本固有の常緑樹。本州(青森県夏泊半島が北限)から沖縄の各地に自生するが、東北地方では海岸沿いに多く、それ以外の場所では山地にも見られる。大島を代表とした伊豆七島はヤブツバキの名所として古くから知られる。
・日本最古の観賞用花木あるいは代表的な茶花として知られ、江戸時代には本種とユキツバキを掛け合わせるなどして数多くの品種が作られたが、単にツバキという場合は本種を示す。
・2月から4月にかけて赤又は白の五弁花を咲かせる。花は枝先に一輪ずつ、やや筒状に開くのが特徴。サザンカのように全開せず、その控えめな様子が好まれて茶花に使われる。花にはヒヨドリやメジロが集まり、花粉を運ぶ。
・野生種では咲き終わった花が丸ごと落下するのもサザンカとの違いだが、武士たちは、これが打ち首を連想させるとして忌み嫌った。花はサルの好物であり、人間社会でも花弁を天婦羅にして食べる風習がある。
・9月から10月にかけて熟す実には3~5個の種子ができる。この種子からはオレインを含む良質の油が採れ、かつては食用(てんぷら油など)、整髪用、薬用、工業用に使われた。
・葉は長楕円形で先端が尖り、周囲には細かなギザギザがある。長さ5~11センチ、幅3~8センチほどで、枝から互い違いに生じる。両面に毛がなく、年中ツヤツヤとしていることから、光沢を表す古語の「ツバ」を冠した「ツバの木」からツバキとなった(他にも「艶葉木」、「厚葉木」など諸説ある。)。
・漢字は「椿」、「海石榴」、「山茶」が当てられる。最も有名な「椿」は和字(日本ならではの使い方)であり、中国語の「椿」はチャンチンという別の木を示す。英名のカメリアは、この木を日本からロンドンに持ち帰ったチェコスロバキア人宣教師の名前。
・ヤブツバキの樹高は最大で15m以上になる。樹皮には細かな皴や模様が出ることもあるが触り心地は滑らか。材は緻密で耐久性が高く、光沢のある仕上がりはツゲに似ている。ツゲほどの高級品とは見なされないが、櫛、将棋の駒、印鑑等に利用される。