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私家版 野遊び雑記帳

野遊びだけが愉しみで生きている男の野遊び雑記帳。ワンコ連れての野遊びや愛すべき道具たちのことをほそぼそと綴っていこう。

シェラカップへの憧れ――25年目の『BE-PAL』に寄せて

2006-05-21 20:17:05 | Weblog
 25年以前に想いを馳せるなら、やっぱり、シェラカップについて最初に記しておくべきだった。当時、30代のいい年をした野遊び好きな男たちが、このステンレス製の小さなカップに、いまにして思えば、滑稽なまでの憧れをいだいたものだった。むろん、ぼくもそのひとり。シェラカップを買ったあとの最初のキャンプでは、誰もが手にした自分のカップためつすがめつしながら焚火を囲んでいた。
 
 シェラカップの存在を知ったのも、当初はフィッシングマガジンなどに掲載されたバックパッキングの紹介記事からだった。いわく、「熱湯を注いでも把手や唇に接する部分は熱くならない構造」「火に直接かけてお湯を沸かせる」などなど、知るほどに、それはあたかも“魔法のカップ”に思えたし、何をさしおいてもほしい1品だった。
 ほどなく、ICI石井スポーツの本店にメイドインジャパンのシェラカップが並んだ。ふるえる思いで2個を買う。うれしかった。自慢げにキャンプへ持っていくと、仲間たちは全員同じシェラカップを持っていた。
 
 翌年くらいだろうか、アメリカ製のシェラカップがあちこちのアウトドアショップの棚を飾った。
 どうもおかしい。すでに愛用しているシェラカップとどこか違うのである。アメリカからやってきたシェラカップはぼくらが使っているのよりも心もち深いように思える。
 まもなく、「SIERRA CLUB」と刻印の入ったシェラカップが発売になった。本家のコピー商品であれ、これは興奮した。またしても2個をゲット。最初の国産品2個と比較してみると、高さとカップの底部の直径がやはり微妙に違っていた。
 
 最初の日本製は高さと底の直径がそれぞれ3ミリほど少ない。この違いは、ぼくの憶測に過ぎないけど、日本のメーカーが雑誌の記事などに紹介された寸法のデータだけを元に実物を見ないまま作ったからではないのかと……。しかし、素材と造りの丁寧さは刻印があるヤツよりもはるかにいい。
 ぼくが知るかぎり、同様の作りのよさでは、なんの刻印もないMSR製の製品がいい。手元にあるMSRの1個は、そのころ、ルアーロッドを携えて足繁く通っていた本栖湖のキャンプ場で拾ったものである。底に小さく「MSR」と印刷されていたが、とうの昔に消えてしまった。
 
 SIERRA CLUBの刻印入りが出ると、ぼくばかりか、当時の仲間たちもこぞってこのシェラカップに入れ替えた。だが、何年かして誰も彼もが同じシェラカップを持つようになると、ぼくらは最初のシェラカップも持っていくようになった。
 理由はさまざまだったが、ちょうど、初恋の相手への追慕にも似た想いだけは共通していたのだろう。
 
 シェラカップは、やがて出現するロッキーカップによってすっかり影が薄くなってしまった。食事用のカップとしてシェラカップでは容量が物足りなかったからである。シェラカップのおよそ1.5倍の容量があるロッキーカップのほうが実用性が高かった。
 だが、そのロッキーカップもまたチタンという素材の出現でぼくの寵愛を失っていく。現在、ぼくがキャンプで標準的に使っているカップはロッキーカップをそのままチタン製にした国産のカップとこれまたチタン製のシェラカップである。
 把手は収納に邪魔になるとはいえ、熱いものを入れたときに便利だし、洗ってから干すときには木の枝に渡した細引きに引っ掛けて乾かせるのでなにかと重宝する。

 しかし、ぼくは旅のパートナーとしていつもSIERRA CLUBの刻印が入ったできの悪いステンレス製シェラカップを持参している。むろん、野遊びばかりではない、海外へ仕事で出かけていくときも、ミニマグライトやスイスアーミーナイフ、コンパス、パラシュートコードなどとともにシェラカップの入った小さなキットがスーツケースにおさまっている。
 自己満足でしかないけれど、これがぼくのアイデンティティだからである。

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