アレックス
日本猫とペルシャのハーフ
世田谷生まれの女の子
碑文谷ダイエーの『あげますコーナー』でみつけた
どんなフワフワな子が来るかと思ったら
生後3ヶ月のコウモリのような大きな耳の黒猫がやってきた
名前の由来は当時ちょっとだけ販売された黒いパッケージのタバコ『alex』から
アレックスは人見知りせず、誰が来ても怖がらなかった
避妊手術で入院し、翌日術後のお見舞いに行ったら
私の顔を見て「にゃあ~」とそばへ来てくれた
「私が飼い主だ」とその時初めて自覚した
もう少し入院の予定だったが、家でしっかり見るからと連れて帰った
小さな頃はヤンチャだった
観葉植物に登ってポッキリ折ったり…
怒られた腹いせにテレビの後でウンコしたり…
留守中、勝手に冷蔵庫を開けてウナギのパックをかじったり…
朝は目覚まし時計が鳴る前から、舐めてかじって激しく起こしてくれた
アパートの二階の部屋に住んでいた時は、窓から勝手に飛び降りて外の世界へ遊びに行った
階段を上り、ちゃんと玄関に戻ってきた
私が仕事から帰るまで外で待っていた
私をみつけると、1日あったことを「にゃーにゃー」と報告してくれた
たくさん草や木の実を体につけて遊び回って帰ってきた
一晩帰ってこない日があり、探しに行った
大きな声で名前を呼ぶと「にゃー」と返事が聞こえた
数件隣の用具入れに入り込んで出られなくなっていた
毎日外に遊びに行っていたので、筋肉質な体になっていた
体重は5キロだった
気に入らない人が家に来ると、玄関から中に入れようとしなかった
私の話をきっと友達のように、姉のように
「しょうがないわね」と聞いていたに違いない
私がヒロちゃんと結婚した時は、犬相手のように接するヒロちゃんに呆れて
「この人シツコイ!助けて」と言っているようだった
アレックスを解放してあげたくて我が家にヒューイがやってきた
小さなヒューイは何でもできるアレックスの真似をして、後ろをくっついてまわった
「ヒューイもしつこい!何とかして!」
ヒューイの遊び相手としてヴィータがやってきた
やっと、解放されたアレックスはいつの間にかヒロちゃんのことが大好きになっていた
寝るときはいつも私とヒロちゃんの間に入って寝ていた
寒い日は足の間に入って寝ていた
寝ていても何時でも、お腹が空くと私を起こした
頬っぺたにリンパ液が溜まりコブができるようになった
何度も水を抜いた
キリがないので手術をすることにした
いきなり病院に連れていってそのまま手術になったので、ものすごく怒っていた
ある日、二階から逃亡して屋根に落ちて歯を折った
大事な牙を一本と、小さな歯を折ってしまった
悔しかったのか、それ以来、口の中を見せてくれなくなった
何でもよく食べ、よくしゃべる子だった
嫌なことは我慢しないし、怒るし威嚇もする
たまに多美子ちゃんの家にお泊まりした時は、みんなから解放されてのびのびとできるのか、
いつも毛が艶々になって帰ってきた
15歳を過ぎた頃から少しずつ体重が減ってきた
たくさん食べているのに痩せてきた
シニア用のご飯は好まなかった
若い子用のご飯が好きだった
クリームが好き
プリンも好き
アイスクリームだって食べる
クッキーも好きよ
パンが好き
チーズも好き
バターは大好き
唐揚げが好き
揚げ物大好き
揚げ玉も好き
もちろん魚も好き
焼き魚も刺身も好き
ウナギも好き
なんだって食べてみたいの
ミカちゃんがおいしそうに食べているから
アタシも食べてみたいのよ
真っ黒い短い毛で、お股にパンツをはいたような白い模様、喉元にもほんの少し白い毛
艶々でベッチンのような光沢のある毛並み
美しかった
しなやかな身体
長くてまっすぐなしっぽ
美人だった
いつまでも元気だと信じていた
もともと元気で病気と無縁だと思っていたが、鼻水が止まらなくなった
寝ている顔の下に鼻水の水溜まりができるほどだった
年もとったし風邪をひきやすくなったのだろう…鼻水を止める薬と抗生物質ですぐに治った
でもいつの間にか、また鼻水が出ていた
病院は大嫌いで大暴れするので、本当に具合の悪いときにしか連れていかなかった
最初はサラサラな鼻水がだんだんと粘っこい鼻水に変わっていった
ヘルペスウイルスでしょう、
年もとったし免疫が下がったら症状が出るのでしょう、
免疫力を上げるサプリメントをもらい、様子を見ることにした
食欲はあるから大丈夫と思っていた
それが一ヶ月前
でも
歩くのもフラフラする
トイレまで行けない
間に合わない
踏ん張れない
砂の上で脚がすべる
今までのご飯を食べにくそうにしていたから、ペースト状やスープ状のご飯に変えた
新しいご飯をよく食べた
でも、どんどん痩せて、お腹だけが膨らんでいた
ただの便秘だと思っていた
病院行ったばかりなのに?
血液検査では何も異常なかったのに?
おかしい
日に日に弱っていくアレックス
昨日はできたのに今日はできない
「血液検査ではわからない病気が隠れているかもしれません」
翌日の朝に予約を取った
寝てばかりだったけど、ご飯はよく食べた
私が食べているものも欲しがった
その晩は
何度かオシッコを漏らした
横たわったまま、ウンコもした
真夜中、状況は一変した
小さな叫び声をあげて痙攣が始まった
今思えば、お腹の腫瘍が破裂したのだろう
急いで夜間診療へ連れていった
腕の血管からは血が取れなかった
血糖値を図ったら、とても低くなっていた
血糖値を上げる処置をしながら他の検査をしていった
腕の血管から血が取れなかったから、首の血管から血を取った
低血糖
貧血
かなり危ない状態
お腹を触診すると内臓以外のモノがあると・・・
毛を剃り、エコーで調べたら、何か流れるものが見える
どろどろしている
ソレは何かわからない
破裂したのかもしれない
腸が破れたのかもしれない
でも、この状態で「何が破れて何が出ているか」を突き止めても、
その次の治療は耐えられないだろう
検査さえも耐えられないかもしれない
何も出来ることがないので連れて帰った
アレックスは意識朦朧とするなかで「にゃぁ」と一言
「もういいのよ、おうちに帰ろう」そう言った
ずっと目は開いていた
意識があるのかどうかわからない
静かすぎて、生きているのか死んでいるのかわからない
お腹が呼吸で動いていて、あぁ、生きているんだと確認できた
時々、私を見て何か言っていた
私は「頑張って」と声を掛けてすぐに
「もうういいよ、頑張らなくていいよ」と言い直した
夜も明けて、外が明るくなってきた頃
アレックスの目の光が消えた
身体から魂が完全に離れた瞬間だった
まだ身体は温かいのに
まだ身体は柔らかいのに
目も開いたままなのに
私が抱いているアレックスは、ただの、魂の入れ物になってしまった
あと少しで19歳だった
まだまだ元気でいてくれると信じていた
まさか病気だったなんて
もしかして病気のことを気づかれないようにしていたのかもしれない
何日もお別れできないでいた
ようやく火葬にしたのは亡くなって5日目だった
たくさんの花で囲んで焼いてもらった
悲しみもぶっとぶほど立派な骨だった
まるで恐竜の博物館に飾れそうなほど美しい骨だった
一本だけ残った牙と爪、シッポの骨を分けて
残りは骨壺に収まった
逝ってしまって一ヶ月がたった
まだ近くにいるのかな?
天国には行ってみた?
タローとは会えた?ケンカしてない?
一度だけ、廊下から部屋を覗くアレックスを見たよ
ヒロちゃんとは夢で何度も会っているみたいだね
私は、アナタが起こしてくれないからいつまでも眠れているよ
夢も見てないよ
ヒューイとヴィータは一緒に寝てくれないから
寒いよ
ヒューイとヴィータはおしゃべりしないから
静かすぎて寂しいよ
でもこの二匹がいつも通りだから
普通でいられるよ
安心してね
こうやって
どんどん過ぎていくんだね
次は何に生まれ変わるんだろうか?
また会えるかな?
会えたら、わかるかな?
そろそろ次は
人間に生まれ変わっても良いと思うよ
待っているね
私を守ってくれてありがとう
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