せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

或いは幸福

2010-07-12 13:30:55 | 小説
(時系列的に或いは恋の前。矛盾に関してはまた書く)


姉さんは、記憶喪失だ。
あんな事が有ったのだから無理もない事だとは思う。既に息も絶え絶えだったところを恋人に救われ一命は取り留めたが、その場では平静を装えたらしいものの家に帰って来てからその日の出来事を話すと狂ったようにごめんなさい、ごめんなさい叫びながらと一日中泣いていた。
泣いて泣いていつの間にか意識を失った姉さんは三日後に漸く目を覚まし、そして代償のようにあの人とあの事件の記憶だけがすっぽりと抜けていた。

仕事に行きたがる姉さんを死に物狂いで引き止めその日のうちに家を出ると、俺たちは十ほど離れた駅にある知り合いの別荘に転がり込んだ。きっと姉さんが自分を忘れていると知れば、あの人は壊れてしまうと思ったからだ。幸いなことに姉さんの上司は話の分かる人で、数少ない姉さんの友人には出張と言い訳しておいてくれたらしい。

別荘での生活をしていた時、たまに姉さんにあの人の話をすると不思議そうに首を傾げて「誰のことを言ってるの?」と俺を笑っていた。


それが三日前。一昨日どうしても仕事の関係で家の方に向かわなければならなくなった姉さんは、それから消息を絶っている。

―――
(或いは幸福)


もうなにもいうまい

或いは恋

2010-06-13 04:40:53 | 小説
(※ストックホルム症候群と鬱病と監禁と部分的記憶喪失とレズとソフトアッーとそして何故か誠死ね!な話。毎回見てる人なんて居ないだろうから通りすがりの人ごめんなさい)


久々の日光は肌に刺さるように眩しくて、ただ、私を見る他人の目と繋がれた右手が怖くて、恐くて、お腹に抱えた私の未来を握り潰すように抱えながら歩いた。

もういつになるのか覚えていない。それどころか覚えている事と言えば基本的な生活の仕方と自分の名前、ちょっと前に健康検診で測った身長と体重、最近重たくなってきて酷い肩こりの原因になっていた胸のサイズ、小さすぎてSサイズすらたまに脱げてしまう足のサイズ、服のサイズに私の目は眼鏡が要らないってこと。歳と、住所と、どうやって生きていたかとかの記憶は、いつか全部抜け落ちて転がっていたので彼女が食べたらしい。
彼女は"やさしい"。何も出来ない私に食べ物を用意して、いつもは身体を拭くだけでも週に一度くらいはお風呂に入れてくれて、私を可愛がる。小さい子がお人形遊びをするように髪を梳いて服を着替えさせて撫で回して、そうして棚に飾るようにベッドへ置き去りにして出かけていくのだ。誰にも取られないようにと首にサイズの合わないペット用の首輪を嵌めて(首の方が細くなったせいでもう苦しくないのだ)、手には鎖をかけて。足は――あるんだろうか。ないんだろうか。折れているのだろうか。壊死しているのだろうか。私が忘れてしまっただけだろうか。もしくは本当に動かないんだろうか。とにかく私は自分の足元にある膨らみの正体をまだ掴めずにいる。とりあえず今のところ異臭だけはしない。そしてその膨らみの先には鎖が繋がっているので、結局は動かないことだけは確信を持って言える。
「はるか!」
ぼうっと存在の判らない足をばたつかせる妄想にふけっていると、扉に3つ付けられた鍵(縦、横、平型。それのどれも防犯性は最高峰のものだ)が慌しく開け放たれ子兎が跳ねるように明るく彼女が帰って来た。胸元に飛び込んでくる妹のような可愛らしい存在を抱き締めて、頭を撫でながら私は可愛い少女の名前を呼ぶ。「お帰りなさい、エリカ」それが犯人の名前だ。そして彼女はいつも決められたセリフを吐く。
「一人にしてごめんなさい。寂しくなかった…?」
「エリカが帰って来てくれたから。もう平気」
心底不安そうにぱっちりとした小動物のような黒い瞳を揺らして小首を傾げる様は、女の私ですら眩暈を覚えるほどに可愛らしい。だから私はいつもの角度で頷きいつもの笑みを作っていつもの声色でいつものセリフを返した。そうすれば彼女は怒ることもなく暴力を振るうこともなくただ幸福そうに笑って抱き締めてくれる。問題ない、問題ない。いつも通りの素敵な毎日だ。母が子を撫でるように彼女の頭を撫でていると、私のお腹辺りに顔を鎮めていた彼女が不意に目を輝かせて顔を上げる。その瞬間までは確かに幸福なだけの毎日、だったのだ。
「あのね、はるか」
憎しみすら持てない悪戯っぽく可愛らしい笑みが警戒心を揺り起こし、警報音が頭の中に鳴り響く。
「半年よりちょっと前くらい、はるかのご飯にね」
「…遅効性の、毒?」
もったいぶって言う彼女の物言いに我慢できず口を挟むと、彼女はぷっくりと頬を膨らませて女の子らしく口を尖らせて見せた。「違うよう」拗ねたように紡がれる言葉からやや遅れて、頬に平手打ちが飛んでくる、「私の話、ちゃんと聞いて?」それでも彼女の笑みは可愛らしい女の子でしかなく、首輪を撫でる手はどこまでも優しく愛おしげなのだ。静かに聞く事を強要し私がそれに従ったのを感じると彼女は腰を揺らめかせもじもじとしながら、彼女より背の高い私を上目遣いに見上げ花も綻ぶような笑顔になった。

「妊娠する薬混ぜたの。効いたみたい、もうそろそろ20週目くらいじゃないかな?」

愕然とした。その事実を普通の笑みで言う彼女にでも、薬を混ぜられていた事にでも、今まで気付かなかった私にでも、女同士にも関わらず口走られた夢みたいな事にでもない。喉の奥が乾いて張り付いた喉がひゅうと間抜けな音を立てていた、背中を嫌な汗が伝って唇が、頬が、手が震える。頭が警報を通り越して殴られたようにじくじくと疼く。途端に腹が重くなったような気がして目線を落せずに沈み込むほど暗い彼女の瞳を見ていれば「何とか言ってよう」とまだもじもじしながら、まるで自分の妊娠を報告する奥さんのような事を言う。
「…………冗談よね?」
辛うじて搾り出された声は無様にも震えていて、彼女はそれにかそれともセリフにかくすりと笑ってあからさまに腹を避けながら私に馬乗りになる。そうして唇を重ねると慈しむような薄い笑みを浮かべ私の頬を撫でた「私はるかに冗談なんて言ったことない」確かにそうだ。首輪をしたいと言った数時間後私は酸素不足に喘いでいたし、求められたことは大体その日中に実行された事が多い。最初は冗談だと言い聞かせ従っていたけれど、そのうち本気なのだと気付いて一晩中明日の命令に怯えたのはいい思い出だ。
今はもうそんな事もなく、彼女と私は最悪の予定調和を楽しみながら生きていた。私は彼女を愛しているし、彼女は私を愛している。それでいいと思っていた、けれど彼女にはその先があったのだ。放心していると見慣れない小さな鍵が取り出され、重い金属音が響いて右手、左手、そして下の方の膨らみへ順繰りに衝撃が走った。
「だからね、産婦人科に行こう。大丈夫、まだ大丈夫だよ?ね、安心して」
猫が甘えるようにして彼女が私の胸元に顔を埋める。普段ならむず痒いはずの感触も麻痺するほどただ彼女の声は恐ろしい。そして私は理解しなかった。できなかったのか、したくなかったのかは分からない。ただ一つ、そう。彼女のまだ大丈夫、が何を意味していたのか。

それから先はよく覚えていない。布団を捲られ久々に白い足をベッドから降ろすと案外すっくと立ち上がれたものの私は酷く内股で、やっぱり感触は全く無く転びそうになるのを彼女が手を繋いでくれたのを覚えている。歩いている間はひたすらあるのか無いのか分からないような足が、腹が重くて道中数回吐いた。その度に彼女は私の背を擦って、待合室でも同じようにして背を擦ってくれて、それからなんだかモニターに映ったそれに対して彼女はぽつりと言ったのだ。
きもちわるい」それを合図にしたように電気が消えて、私の記憶は途切れた。ただ、林檎がぷつりと潰れる夢を見たことだけは覚えている。

家に帰ったらまたあの赤い首輪を嵌められるのだろう。局部的に細くなってしまった首筋を撫でながらそこから恐怖心が這い上がるような彼女の暖かく心地良い掌をしっかと握る、この感情の意味も知らないまま。腹に重みを抱えた私を、それでも彼女は愛すんだろうか?

―――
(或るいは恋)
答えは誰も知らない。



エリカは教えてくれないし、はるかは覚えてない。
医者に聞く事は、はるかが外に出られないから不可能。
出産予定日になろうが「うまれないなー」ぐらい。
エリカが誠死ねをしたのは「なんとなく」。

あと一人で妊娠できる薬とかそんな無茶苦茶ものはない
いくら化学が進歩しようがちょっと難しいだろうww

黒猫日和

2010-06-13 02:45:38 | 小説
震える両手を握り締めて、今日も彼は怯えている。

元々飼い猫だったのか人懐っこいくせ、艶の良い黒の下には人為的な傷が幾つもついていた。私が何もしていない時にだけ擦り寄ってきて、少しでもそちらに意識を向けると牙を向いて私の手を引っ掻いて去っていく。痛い。バカ猫め。

その黒猫は私の古傷をよくなぞった。舐めるなどという可愛らしい行為ではなく古傷をまた開かせるように引き裂き流血沙汰を引き起こすのだ。覚えているのだかいないのだか、治ったと思えばまた引き裂かれおかげで包帯だらけだ。このバカ猫め。


―――
んん?秋田

小説にしたかったけど無理だったメモ

2010-06-09 05:14:23 | ネタ張
ローリンガールの届かない夢(現実逃避P/ローリンガール)
 そのたった一日だけ、私は生まれなかった。
 16年を一緒に過ごした友でさえ私を知らない。
 不思議な感覚だった、まるで私が幽霊に―
 いや。
 "初めから無かったもののように"
 なったなんて、多分言っても誰も信じない
 それ以前に明日があるのかな、とか
 他愛も無く考えて、ただ私は怯えていた
 私が居なくても、何事も無く回る世界に
 これが私の求めていた孤独ってやつなんだと
 どうしようもなく、酷く愕然とした

吐きそうな子のはなし

2010-06-09 05:03:31 | 小説
吐く。やばいやばいやばい、吐く。
昨夜は珍しく早く寝て、明日は学校ででも友人と遊ぶ約束をしてるからって楽しみに寝た。明日は言いことありそうだなんて柄にもない事考えてみたりとかして、なんか夢を見て飛び起きたらこれ。朝飯を見たら普通に腹は減って、詰め込んでも戻すようなことは無かったのにただ胃の中に重く燻りせり上がって来ようとする鉛のような感触だけがどうも消えてはくれない。
学校で吐こうものなら友人は明日から俺を嘔吐物と呼ぶだろうからそれだけは避けたい。誰にも会わずに、今日は遊びも断って誰にも関わらずに居たい。朝必ず来るはずの友人を避けて早く学校に行かなければと思い立ち上がった瞬間、間抜けなことによろけてドアに頭を強打。そのままひっくり返る。

(あ、やばいかも)

目の前がぐるぐる回って、あるはずのない記憶がくるくると再生された。待ったこれは記憶じゃない。ああそうだ、今日の夢だ。確かにこんなのを見た気がする、毎朝迎えに来るむっさい男の友達がいて、そんで俺は、俺―――

「…うそだろ」

あまりの事にしばらく玄関でひっくり返ったまま、見慣れた友人の顔がぬっとドアから出て湧いた。一瞬目を見開いたあと、そいつは俺を見下ろしてさも馬鹿にしたように指をさして腹をかかえだす。ちくしょうこいつ殴りたい、俺は今人生で一番最悪な気分だ、なんかもう吐きそうってか、これは吐く。駄目だ駄目だ吐く吐く吐く吐く。起き上がった途端顔から血の気が引いてまた蹲る俺に今まで笑っていたそいつもさすがにヤバイと思ったのかしゃがんで目線を合わせてくる。馬鹿止めろ吐いちまうっつってんだろ。いい加減にお前本当、ああもうやめろ。やめろこっち見んな心配そうにすんなお前わかってないだろ。俺はお前のせいで吐きそうなんだよ、どれもこれもお前が俺の夢なんかに出やがるから。俺は本当なら今日普通にお前と学校に言って友人と遊んで帰るはずだったのにこんなトコで吐く羽目になるとは、もう二度と学校には行けそうにない。いいか?吐くぞ。お前が全部悪い、

「   、  」

―――
(吐きそうな子のはなし)


吐きそうっていっても嘔吐物じゃないから

きえていく

2010-06-09 04:49:27 | ネタ張
たとえばわたしは貴方と手を繋ぎたいです
でも、わたしにはその手がありません
それならわたしは貴方を腕で抱き締めます
でも、わたしにはその腕がありません
それならわたしは貴方と背中を触れたいです
でも、わたしにはその背がありません
それならわたしは貴方の隣を足で踏みしめます
でも、わたしにはその足がありません
それならわたしは貴方を瞳に映します
でも、わたしにはその目がありません
それならわたしは貴方の香りを鼻で感じます
でも、わたしにはその鼻がありません
それならわたしは貴方と唇を触れ合わせます
でも、わたしにはその唇がありません

それなら、わたしは貴方をこの心で愛します
でも、その心がないとしたら?

それでも愛します
手も腕も背も足も目も鼻も唇も全て失ったとしても
それでも、愛するのです

全てなくしても、わたしは貴方を存在全てで愛します
でも、その存在が無いとしたら?

…それはもう、わたしではありません

だから、ねぇ、そういうことなのです
わたしは何があろうと貴方を愛していますよ
だから、ねぇ、そういうことなのです
そういう、ことなのですよ

めもめも

2010-06-09 01:50:10 | ネタ張
死を待つ出会い
君を待つ死別れ(わかれ)

息を殺して、此処で死を待つ
神を騙る偽善者
なにもできないどうにもできない
なにもできないどこへもいけない
さよならはまだ遠い
さよなら恋心

優しさでも刃は磨げるのです、貴方の私への恋心を刺して殺せるほどには
悲しさで出来た刃は脆いです、私の心を傷つけて殺さないまま折れるほど
怒りで刃は決して磨げません、それは無差別に人をきずつける両刃刀です
嬉しさでも刃は磨げるのです、貴方を傷付ける力を全て増す刃になります

窒素は、誰にも吸われないように逃げ回るのです
(それでも吸われて、たとえばどこかで人をころします)
酸素は、吸ってもらえないのならば去るのです
(その場に留まりすぎると、やがてそれは毒になるからです)
アルカリ金属(ナトリウム/一人では壊れる、二人なら壊す。だから孤独に身を沈めて待つのです。「ペーパーナイフはまだですか?」←ペーパーナイフ(なまくら)で切れるから。切ったらそこは石油が付いてないのですぐ酸化するし下手すると火がついて別の物質になってしまうか消えるか、そんなん)
ハロゲン(塩素/限り無く毒に近い白。普段の中に生きているのに誰にも気付かれないのです、彼が毒などとは気付かないのです。「そこに俺も居るのにね?」誰も彼には、気付かないのです)
ナトリウム+塩素=塩化ナトリウム(はっかったっのーしお♪)



化学とか…取ってごめん…
授業中こんなことばっかり考えてるの…
生きててごめん…凄く…ごめんorz

あたまぐるぐる

2010-06-04 21:07:21 | ネタ張
ボタン取れる話書いてボタン取れる会話してたら
服のボタン全部取れた。いっこなくした。

うん…まあいいや…呪われたんだろうきっと。

なんか脳内もいいかんじに呪われてるしな
あうあう。疲れた。ただいま。


メモ
どこにも行かないでここに居て死んで下さい
お前が死ぬのを待っている

初めまして、さようなら
自分に対しての嘘つきと心理学者志望(愛してるの呪い/嫌いの免罪符/不幸な調和)
無感情な被虐趣向者と臆病者の加虐趣向者(透明な恋慕/漆黒の恐怖/幸福な心中)

ネタばっかかく

2010-05-07 22:43:37 | ネタ張
よ!

苦さしか残らない(すき、すき、すき、…うそつき)
やさしいうた(否定しないで嫌わないで/肯定しないし好かないし)
しなないでいきないでころさないで(このままでいて)
きみさえしねば(どうしようもない虚無感の行き場所)
こっちを見ないで(きらわれるならむかんけいのまましなせて)
そこが終わりだとしたら(道のりがどんなに幸福だろうと駆けて行くよ、その末路まで)
欺瞞
私の居ない朝(私が生まれなかった世界では)
そこにあるもの(底に在る者/其処に在る物)
ゆびきりげんまん(はじめからやぶるため)


密やかな絶叫

貴方を殺した日

2010-05-05 05:14:03 | その他
自己満足。
見る人によっては吐き気がする程気持ち悪い。
私もこういうの好きじゃないけどたまにはね。


気が付けば、血溜まりの中に俺のボタンが落ちていた。
蒸し暑かったはずの白い太陽は落ちて、代わりに白く冷ややかな月がぼんやりと足元を照らしている。救急車のサイレンがちらちらと揺らめいて煙草は相変わらず苦くて不味くて怒りで熱くなった頬を冷たい風が撫ぜて吐き出した煙がゆらりと立ち上って消えて耳鳴りの様に罵声が響いてぼんやりと赤く染まった手の平を見下ろして警察が俺の手を掴んで白いシャツが赤く染まったのを見て、それから車に押し込まれるまでにあれが見えた。とりあえず言いたい事はあれ、ビニールシートを掛けられた担架からはみ出てるその腕は、俺の大嫌いなあいつじゃねえか。

「死んじまえ!」


その腕へ手を伸ばしたはずが天井に向かって伸ばされていた手は虚空を切り、握り締めた瞬間強すぎた握力で掌から血が伝った。胸糞悪い夢に心底くだらない苛立ちを抱えたまま、いつも通りに街に出る。残念ながら今日は休みだ。
当てもなくふらつく街で同僚と先輩に会うと二人とも何とも言えない表情になり同時に肩を叩かれ落ち込むなと励まされた。何を?
通る道すがらすれ違った運び屋がわざわざUターンまでして引き返してくると俺の横に止めてPDAに細かい文字を打ち込んだ。『あいつもやりすぎたがお前もやりすぎだ。二人ともどうかしていた』と書いてあった。あいつって誰だ?
それからすれ違う細っこい少年は何かを言いたげにして怯えた目をして去っていった、ぶつかりかけた金髪の少年は泣くような笑うような不思議な顔をしてアンタならやると思ったと歓喜するように言った、すれ違った大人しそうな女の子は肩を竦ませ早足に掛けていった。一体何なんだ?

妙な違和感と共に募る苛立ちをぶつけるなど持たないせいで、ただいつもの噴水に行き煙草を吹かす。今日は嫌な臭いもしない、平和な一日だ。そうしているとふと耳に飛び込んだ一言で、(「化け物、人殺し」)なんだ、ああ、と苛立ちを解消していた術を思い出す。そしてそれは。駆け足で逃げていく通行人を尻目に空を見上げる。強烈な違和感の正体は、そもそもがただの違和感でしかないようだった。

「ああ、そうだよな」

あいつはもう居ないんだ。

蒸し暑い白い太陽とその顔に煽られて、近くにあった白く冷ややかな自販機を衝動的に手に取った。自販機の警報音がちらちらと響いて脳内は相変わらず煮えたぎってどうしようもなくて怒りで熱くなった頬を生暖かい風が撫ぜて吐き出した暴言がゆらりとかわされて消えて耳鳴りの様な挑発が鼓膜に響いてぼんやりと嘲笑の色に染まった奴の顔を見下ろして俺が自販機を持ち上げて黒い服に影が掛かるのを見て、それから奴は避けもせず自販機の下敷きになり頭が鈍い音を立て倒れ込んだのが見えた。とりあえず言いたい事はあれ、自販機の下から漏れ出る血溜まりに落ちてるそのボタンは、俺の大事な服のじゃねえか。

「死んじまえ!」