せかいのうらがわ

君と巡り合えた事を人はキセキと呼ぶのだろう
それでも僕らのこの恋は「運命」と呼ばせてくれよ

貴方を殺した日

2010-05-05 05:14:03 | その他
自己満足。
見る人によっては吐き気がする程気持ち悪い。
私もこういうの好きじゃないけどたまにはね。


気が付けば、血溜まりの中に俺のボタンが落ちていた。
蒸し暑かったはずの白い太陽は落ちて、代わりに白く冷ややかな月がぼんやりと足元を照らしている。救急車のサイレンがちらちらと揺らめいて煙草は相変わらず苦くて不味くて怒りで熱くなった頬を冷たい風が撫ぜて吐き出した煙がゆらりと立ち上って消えて耳鳴りの様に罵声が響いてぼんやりと赤く染まった手の平を見下ろして警察が俺の手を掴んで白いシャツが赤く染まったのを見て、それから車に押し込まれるまでにあれが見えた。とりあえず言いたい事はあれ、ビニールシートを掛けられた担架からはみ出てるその腕は、俺の大嫌いなあいつじゃねえか。

「死んじまえ!」


その腕へ手を伸ばしたはずが天井に向かって伸ばされていた手は虚空を切り、握り締めた瞬間強すぎた握力で掌から血が伝った。胸糞悪い夢に心底くだらない苛立ちを抱えたまま、いつも通りに街に出る。残念ながら今日は休みだ。
当てもなくふらつく街で同僚と先輩に会うと二人とも何とも言えない表情になり同時に肩を叩かれ落ち込むなと励まされた。何を?
通る道すがらすれ違った運び屋がわざわざUターンまでして引き返してくると俺の横に止めてPDAに細かい文字を打ち込んだ。『あいつもやりすぎたがお前もやりすぎだ。二人ともどうかしていた』と書いてあった。あいつって誰だ?
それからすれ違う細っこい少年は何かを言いたげにして怯えた目をして去っていった、ぶつかりかけた金髪の少年は泣くような笑うような不思議な顔をしてアンタならやると思ったと歓喜するように言った、すれ違った大人しそうな女の子は肩を竦ませ早足に掛けていった。一体何なんだ?

妙な違和感と共に募る苛立ちをぶつけるなど持たないせいで、ただいつもの噴水に行き煙草を吹かす。今日は嫌な臭いもしない、平和な一日だ。そうしているとふと耳に飛び込んだ一言で、(「化け物、人殺し」)なんだ、ああ、と苛立ちを解消していた術を思い出す。そしてそれは。駆け足で逃げていく通行人を尻目に空を見上げる。強烈な違和感の正体は、そもそもがただの違和感でしかないようだった。

「ああ、そうだよな」

あいつはもう居ないんだ。

蒸し暑い白い太陽とその顔に煽られて、近くにあった白く冷ややかな自販機を衝動的に手に取った。自販機の警報音がちらちらと響いて脳内は相変わらず煮えたぎってどうしようもなくて怒りで熱くなった頬を生暖かい風が撫ぜて吐き出した暴言がゆらりとかわされて消えて耳鳴りの様な挑発が鼓膜に響いてぼんやりと嘲笑の色に染まった奴の顔を見下ろして俺が自販機を持ち上げて黒い服に影が掛かるのを見て、それから奴は避けもせず自販機の下敷きになり頭が鈍い音を立て倒れ込んだのが見えた。とりあえず言いたい事はあれ、自販機の下から漏れ出る血溜まりに落ちてるそのボタンは、俺の大事な服のじゃねえか。

「死んじまえ!」