homme fatal 運命の男
p.209~210
「二月二十一日(土曜日)午後九時」
四ノ宮の指が、桜庭の疵痕をなぞった。桜庭はビクッと戦いたが、眸(め)を閉じたまま、口唇(くちびる)を開いて吐息を吐いた。閉じた女性器を思わせる妖しい疵痕を養父に撫でられて、桜庭が恐怖以外のものを感じているのが、鷹司には判った。自分には触らせなかった疵痕を撫でさせて、官能を覚えているのだ。四ノ宮の手で、桜庭が官能を満たされはじめたとしたら、鷹司には厄介なことになる。桜庭を奪い返されるかもしれないという恐れを、感じるのだ。現在の四ノ宮康煕は、車椅子での移動を余儀なくされた老人だが、彼の偉大さ、邪悪さは、息子だからこそ誰よりも鷹司には判っていた。この年齢になっても「タリオ」のNo.2と呼ばれていても、鷹司はいまだに実父に気後れを感じてしまうのはそのためだ。そしていま、桜庭を愛撫している父を見ていると、かつて四ノ宮邸で盗み見た光景が、鷹司の脳裡に蘇ってきた。暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、桜庭が身体を丸め、蹲(うずくま)るように眠っていたときの光景だ。最近、鷹司はその話を桜庭にしたが、気になる部分は端折(はしょ)っておいた。あの時、眠っていた桜庭は裸身であり、その姿を四ノ宮は凝視(みつ)めていたという部分を――。
homme fatal 運命の男
p.24~25
「一月十五日(木曜日)午後二時」
寝台に運ばれた桜庭は、純白の毛皮が敷かれた上へと横たえられると、自分から両脚をひらき、鷹司の居場所をつくった。雪よりも白く、純白の毛皮よりも甘い肌の色が、鷹司を昂(たかぶ) らせる。「なぜ、ベッドに毛皮を敷くのです?」前々から訊きたかった事柄を、桜庭は口にした。とても心地快(ここちよ)くて、素肌で触れているだけで癒やされるのだが、これもまた、恐ろしく不経済だからだ。「憶(おぼ)えていないだろうが、むかし、君に一目惚れして、父に屋敷への出入りを禁じられたことがある」「ええ、前にもそう仰っていましたね」鷹司が、秘密を話す。「禁止された後も、何度かこっそりと入りこんだことがあって、…その時、暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、君が眠っているのを見た」その時の光景が感動的であり、鷹司には忘れられないのだ。「お養父(とう)さまの部屋ですね?暖炉の前に毛皮があったのは憶えています…」桜庭は記憶をたぐるように、視線を動かしたが、諦めた。「そこで眠ってしまうこともあったかもしれませんね。あまり自覚がないのですが」「君は本を読んでいて、眠ってしまったのだろうな。近くに車椅子に座った父が居て、君をじっと見守っていた」普段、四ノ宮は車椅子で生活している。杖を使っての移動もできるが、介添えがなければ無料だった。ゆえに、眠ってしまった桜庭を運べなかったのだろう。
DVD第3巻
第6話 爆弾魔 ペティ PAXTON PETTY
第7話 毒殺犯 マッキー JOHNNY McKEE
DVD第4巻
第8話 エイムズ兄弟 脱獄事件 THE AMES BROTHERS
第9話 営利誘拐犯 バーネット SONNY BURNETT
DVD第5巻
第10話 料理人 モンゴメリー CLARENCE MONGOMERY
第11話 バイオリン弾き ポーター WEBB PORTER
蘇芳5兄妹
蘇芳霧生(すおう・きりゅう)
第1子。長男。「煌龍」の張道明。
蘇芳櫂(すおう・かい)
第2子。次男。「煌龍」の劉。
蘇芳諒(すおう・りょう)
第3子。3男。「煌龍」の結城直人。
蘇芳采(すおう・さい)
第4子。4男。「UB」のNo.10。
蘇芳葉(すおう・よう)
第5子。長女。「UB」の右分けにした第1・第2シリーズの篠塚高(No.9)。