イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

毛皮を敷く理由 -02

2012年12月04日 06時23分18秒 | 小説

homme fatal 運命の男

p.209~210
「二月二十一日(土曜日)午後九時」

四ノ宮の指が、桜庭の疵痕をなぞった。桜庭はビクッと戦いたが、眸(め)を閉じたまま、口唇(くちびる)を開いて吐息を吐いた。閉じた女性器を思わせる妖しい疵痕を養父に撫でられて、桜庭が恐怖以外のものを感じているのが、鷹司には判った。自分には触らせなかった疵痕を撫でさせて、官能を覚えているのだ。四ノ宮の手で、桜庭が官能を満たされはじめたとしたら、鷹司には厄介なことになる。桜庭を奪い返されるかもしれないという恐れを、感じるのだ。現在の四ノ宮康煕は、車椅子での移動を余儀なくされた老人だが、彼の偉大さ、邪悪さは、息子だからこそ誰よりも鷹司には判っていた。この年齢になっても「タリオ」のNo.2と呼ばれていても、鷹司はいまだに実父に気後れを感じてしまうのはそのためだ。そしていま、桜庭を愛撫している父を見ていると、かつて四ノ宮邸で盗み見た光景が、鷹司の脳裡に蘇ってきた。暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、桜庭が身体を丸め、蹲(うずくま)るように眠っていたときの光景だ。最近、鷹司はその話を桜庭にしたが、気になる部分は端折(はしょ)っておいた。あの時、眠っていた桜庭は裸身であり、その姿を四ノ宮は凝視(みつ)めていたという部分を――。


毛皮を敷く理由 -01

2012年12月04日 06時23分03秒 | 小説

homme fatal 運命の男

p.24~25
「一月十五日(木曜日)午後二時」

寝台に運ばれた桜庭は、純白の毛皮が敷かれた上へと横たえられると、自分から両脚をひらき、鷹司の居場所をつくった。雪よりも白く、純白の毛皮よりも甘い肌の色が、鷹司を昂(たかぶ) らせる。「なぜ、ベッドに毛皮を敷くのです?」前々から訊きたかった事柄を、桜庭は口にした。とても心地快(ここちよ)くて、素肌で触れているだけで癒やされるのだが、これもまた、恐ろしく不経済だからだ。「憶(おぼ)えていないだろうが、むかし、君に一目惚れして、父に屋敷への出入りを禁じられたことがある」「ええ、前にもそう仰っていましたね」鷹司が、秘密を話す。「禁止された後も、何度かこっそりと入りこんだことがあって、…その時、暖炉の前に敷かれた毛皮の上で、君が眠っているのを見た」その時の光景が感動的であり、鷹司には忘れられないのだ。「お養父(とう)さまの部屋ですね?暖炉の前に毛皮があったのは憶えています…」桜庭は記憶をたぐるように、視線を動かしたが、諦めた。「そこで眠ってしまうこともあったかもしれませんね。あまり自覚がないのですが」「君は本を読んでいて、眠ってしまったのだろうな。近くに車椅子に座った父が居て、君をじっと見守っていた」普段、四ノ宮は車椅子で生活している。杖を使っての移動もできるが、介添えがなければ無料だった。ゆえに、眠ってしまった桜庭を運べなかったのだろう。


蘇芳5兄妹 -〈キルト〉シリーズ

2012年12月02日 12時21分17秒 | 高橋美由紀

蘇芳5兄妹

蘇芳霧生(すおう・きりゅう)
第1子。長男。「煌龍」の張道明。
蘇芳櫂(すおう・かい)
第2子。次男。「煌龍」の劉。
蘇芳諒(すおう・りょう)
第3子。3男。「煌龍」の結城直人。
蘇芳采(すおう・さい)
第4子。4男。「UB」のNo.10。
蘇芳葉(すおう・よう)
第5子。長女。「UB」の右分けにした第1・第2シリーズの篠塚高(No.9)。