文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

『天才バカボン』の連載開始とそのタイトルの由来

2021-03-17 13:21:41 | 第5章

『天才バカボン』というタイトルのネーミングは、フランス語の「ヴァガボンド」、即ち「放浪者」から来ており、赤塚は、本作を連載するに当たり、当初お人好しのボンクラ男が幸福の世界をさ迷い歩く放浪記のようなドラマを朧気ながら考えていたという。

暫しネットユーザーの間で、『バカボン』のタイトルを梵語(サンスクリット語)で、「世尊」や「有徳」を意味する「薄迦梵」(バキャボン)に由来し、バカボンのパパの決め台詞「これでいいのだ」も、悟りの境地を表すとともに、仏陀の人物像をイメージしたものであるという言説が流布されているが、原作者である赤塚は勿論、当時のフジオ・プロの側近人物らに至っても、過去にそのような証言をした事実はなく、この伝聞もまた、赤塚情報にままある誤説の一つと言えよう。

では、「ヴァガボンド」のタイトルから「バカボン」へと改称するに至るまで、一体どのようなプロセスを辿ったのか……。

『天才バカボン』の連載を迎えるにあたり赤塚は、講談社ビルの別館で、この時「週刊少年マガジン」編集長を務めていた内田勝より、編集部全員で知恵をしぼって出したという、六九もの連載設定案を見せられる。

そのプランは、凸凹コンビによる世界旅行、世界名作全集のパロディーネタ、過去、現在、未来への珍旅行を繰り広げるタイムトラベル物といった実にバラエティー豊かな内容で、それらは、大学ノートにビッシリと綴られていたそうな。

その中に、大天才少年キム君という項目があり、赤塚の目が止まる。

キム君とは、弱冠五歳にして、四ヵ国語を操り、微分積分の問題も難なく解いてしまうというIQ・210の超天才児、金雄鎔(キム・ウンヨン)のことで、当時、日本でも、あらゆるメディアで紹介され、話題を集めていた少年だ。

そうした人類史上最高の頭脳を持つ天才児が現実にいるならば、エジソンのように、どんな大発明も可能にしてしまうのでないかというアイデアがそこに付け加えられていた。

このアイデアが叩き台となって、赤塚はバカな少年と大天才少年の組み合わせで、キャラクターを作ることを発案する。

この前段階において、赤塚は六つ子というシチュエーションを除けば、比較的スタンダードな人物設定である『おそ松くん』の松野一家との差別化を図るべく、完全なるバカなファミリーを主人公に据えたドラマ作りも、選択肢の一環として踏まえていたからだ。

だが、主人公がバカで、その父親もバカ。尚且つ母親もバカだったら、ドラマとして余りにも悲劇的であるため、母親に美貌と聡明さを持たせ、天才児を産ませるという展開を検討していたのだ。

つまり、バカに対し、天才と良識を配した家族構成を設定し、世界観のバランスを確保したのである。

こうして、バカボン、バカボンのパパ、バカボンのママ、ハジメの四人家族が誕生することになる。

『天才バカボン』のタイトルは、超天才児に比肩し得る主人公なら、超絶的なバカでなければならないという想いから決定した。

つまり、超天才児をも凌駕する天才的なバカなボンボンという意味合いが、このタイトルの中に込められている。

『天才ヴァガボンド』も、当初はそのタイトル候補に挙がってはいたそうだが、「ヴァガボンド」という言葉自体、日本では馴染みが薄いため、覚えやすく、また語呂的にも親しみを持たれやすい響きも持つ『天才バカボン』に落ち着いたそうな。


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