アケボノコミックス『赤塚不二夫全集』版の『九平とねえちゃん』に同時収録された『青い目の由紀』(「少女クラブ」62年4月号~6月号)も極めてマイナーな印象を纏いながらも、『ひみつのアッコちゃん』にも連結する童話的世界観を、叙情的なSF的手法で純粋結晶したファンタスティックな一編である。
町工場の仕事に追われ、全く構ってくれない父親に何処か複雑な想いを抱いていた由起は、満天の星空が煌めくある日の夜、山奥に住む集落の停留所で、母親とともに父の帰りを待っていた。
最終バスには、父親の姿はなく、ふて腐れた由起は、家路に就こうとするが、その時偶然、目の前を小さな星が流れ落ちてゆく。
流れ星は、由起の住む集落の隣の雪山に落ち、その翌日、由紀は強い好奇心から雪山に向かうが、星が落下したと思われる場所には、不思議なことに女の子を模った小さな人形らしきものが落ちていた。
可愛らしい造形から、その人形をすっかり気に入った由紀は、自らの名前・ユキを取って人形に名付け、持って帰るが、何と人形は、人間と同じく当たり前のように動き、そして感情を持っていた。
由紀は、星の墜落で怪我をしたユキを匿い、誰にも知られず、ともに暮らそうとするが……。
ノスタルジックな田舎の山合いの生活風土を色濃く活写した一場面一場面が、もの憂気でありながらも、秀麗さを湛え、さながら一幅の絵葉書の連続のようなドラマ構成が、光と影の縺れ合う神秘的な画調総体のイメージに、更に華美なる彩りを強めている。
由紀の心に沸き起こる様々な葛藤が、息を飲まずにいられない程デリケートに描かれており、殊にユキとの別れを余儀なくされ、感情が引き裂かれてゆく瞬間は、現実と幻が時空を超えて交錯する由紀の意識領域を具象化した心象風景とも取れ、哀切がよぎりながらも、暫し深い感慨に襲われる名シーンだ。
ユキとの出会いを通し、自己意識の中で、自問自答を重ねながら、由紀が父親からの深い愛情を理解してゆく物語の流れも、心地好い落ち着きに委ねながら、安心して読むことが出来、ディテールに至るまで微に入る細心の演出が凝らされた赤塚少女漫画ならではの美的統一の冴えが特段に滲み出た名編と言えるだろう。
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