
連載終了から実に二〇年余りの時を越え、『へんな子ちゃん』は、一般女性週刊誌(「週刊女性」91年1月8日・15日合併号~94年8月16日号)に発表の舞台を移し、キャラクターデザインをリニューアル。同名異作のシリーズとして平成の世に再び登場することとなった。
初代へんな子ちゃんは、母子家庭で、お母さんと二人だけで暮らす、若干貧しい生活を強いられていた女の子だったが、二代目へんな子ちゃんは、亭主関白を気取りつつも、会社や酒場では、女好きでセクハラ癖のある一面を露呈してしまう痛々しいお父さん、家族想いでしっかり者のお母さん、色情的で、出会った男とは必ず関係を持ってしまう、当時で言うところのイケイケギャル風のお姉さん、『ドラえもん』がその名の由来なのかは定かではないが、へんな子ちゃんが拾ってきた、人語を喋る野良犬ののび太等の家族に囲まれ、決して貧しいわけではなく、かといって、それほど生活水準が高いわけでもない中級レベルの家庭の中で暮らしているという設定だ。
二代目へんな子ちゃんは、そのキャラクターメイクにおいても、髪型やファッション等、若干のマイナーチェンジが計られており、新たなる魅力を醸し出している。
取り分け、アフロヘアにリボンを纏ったそのデザインは、アメリカの人気カートゥニスト、アーニー・ブッシュミラーの代表作『フリッツィ・リッツ』に登場する名キャラクター・ナンシーの風采をそのままスライドさせたものと見て間違いないだろう。
また、その人物設定も、何の特別な能力も持たない普通(?)の女の子だった初代とは異なり、人や物体を凝視することで、目からビームを放ち、対象となるものを爆破させたり、変形させたりするというサイコキネシスや、人の心の奥底を鋭く読み取るテレパシーといった超能力を身に付けており、そのパーソナリティーにおいては、底意地が悪いというよりも、物事に対する斜に構えた一面のみが強調され、本質的には心の優しい女の子という性格付けがなされている。
サディスティックな残虐性を弄し、平穏な日常を戦慄の瞬間へと変えてゆく、ある意味魔的な存在である初代へんな子ちゃんとは違い、二代目『へんな子ちゃん』では、傍観者的なスタンスをキープしつつも、世の中に蔓延る理不尽を持ち前の超能力でぶった斬ってゆくという、時には、読者に胸のすくような生理的快感をもたらすエピソードも多い。
そうした点からも、平成版『へんな子ちゃん』もまた、寓意性を含み、それなりの読み応えもあるのだが、ギャグセンスの鋭敏さ、モチーフの選択、短いページ数ながらも、起伏を与えて発展させたスリリングなドラマ構成等、それら全てよりアプローチされた多層性に富んだ作劇法を勘案した際、元祖『へんな子ちゃん』の側に軍配が上がるのは、言わずもがなであろう。
しかしながら、掲載誌「週刊女性」では、三年以上に及ぶ長期連載となり、あらゆるコーナーにへんな子ちゃんのイラストが登場し、誌面を賑わすなど、それなりにOL、主婦層からの支持を集めたようで、最晩年(90年代)の赤塚作品をシンボライズするシリーズとなった。
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そして、連載終了から約十四年後の2008年には、株式会社GDHの傘下企業であるゴンゾロッソの製作により、二代目『へんな子ちゃん』は、ウェブアニメーションとして復活する。
赤塚の直筆原稿をそのまま取り込み、デジタル処理により動きを付け加えた所謂コミックモーションとして再現され、動画共有サイトの公式チャンネル(GONZO・DOGA)にて、全六話がインターネット配信された。
原作のテンポを損なうことなく、声優のアフレコや効果音を乗せ、巧みに映像へと落とし込んだ画像エフェクト技術が大きな評判を呼び、全エピソードがDVDにて完全パッケージ化。最新の赤塚アニメとして注目され、『へんな子ちゃん』は、名実ともに赤塚の代表作として一般にも広く知られるようになった。
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