文化遺産としての赤塚不二夫論 今明かされる赤塚ワールドの全貌

赤塚不二夫を文化遺産として遺すべく、赤塚ワールド全般について論及したブログです。主著「赤塚不二夫大先生を読む」ほか多数。

時代に向き合ったギャグと時事風刺 『ギャグゲリラ』連載の真の意義とは?

2021-12-21 23:51:01 | 第7章

その後も、『ギャグゲリラ』は、順調に掲載本数を重ねるとともに、時代と向き合った傑作ギャグをコンスタントに生み出し、連載開始から十一年目に突入した1982年、遂に最終回を迎えることになる。

赤塚は、1978年から毎年、「週刊文春」の12月最終号に発表される『ギャグゲリラ』で、その年を騒がせた重大ニュースを戯画化することを恒例としており、本作の最終回が掲載された12月23・30日合併号でも、「重大ニュース'82」と題し、この一年を総括した。

「重大ニュース'82」は、『なんとなくクリスタル』で一躍ベストセラー作家となった田中康夫を狂言廻しにドラマが進み、「人工心臓の装着手術の成功」、「ソ連共産書記局のレオニード・ブレジネフの死去」、「三越の偽秘宝事件」、「日本航空350便墜落事故」、「千代の富士による富士昇リンチ事件」、「金平正紀協栄ジム会長のオレンジ注射スキャンダル」、「森村誠一『悪魔の飽食』のベストセラー」、「侵略か進出か、歴史的事実の認識を巡る教科用図書検定」、「斎藤勇東大名誉教授惨殺事件」、「日本ケミファー新薬申請データ捏造事件」、「東京高裁部総括判事・倉田卓次への『家畜人ヤプー』原作者疑惑」、「日立と三菱によるIBM産業スパイ事件」、「西武ライオンズ日本一」、「鈴木善幸首相辞任」、「中曽根内閣誕生」といったニュースをギャグとして絡めながら、最後に田中康夫の滞在先である〝ホテル・ニュージャパン〟が火災により炎上し、ラストを締め括る。

このように、息も付かせぬ慌ただしい展開が、本来なら収まり切らないであろう僅か6ページというスペースの中で、目まぐるしく繰り広げられ、有終の美を飾るに相応しい、高密度なラストエピソードとなった。

そして、最後のコマでは、赤塚自らが登場し、読者にこう挨拶の文言を捧げる。

「そして 最大の重大ニュース」「十一年に渡って連載しました「ギャグゲリラ」 今週をもちまして終わらせていただきます みなさま 長らくの御愛読 ありがとうございました」

「週刊文春」は赤塚にとって、憧れの檜舞台でもあった。

その雑誌に、自身にとっての代表作と誇れる作品を長期に渡って発表し、強烈なギャグと時事風刺で、読者を牽引し続けた。

そのような執筆の背景を想察した際、私は、この台詞に、赤塚の万感の想いが込められているように思えてならない。

『ギャグゲリラ』終了後、その掲載枠は、手塚治虫の歴史的大作『アドルフに告ぐ』へとバトンタッチされる。

ナチス興亡の時代をバックに、アドルフというファーストネームを持つ三人の男の数奇な運命を、インターナショナルな観点から綴った『アドルフに告ぐ』は、連載開始から大反響を巻き起こし、その後も、講談社漫画賞を受賞するなど、手塚にとって、久方ぶりのヒットタイトルとなった。

『ギャグゲリラ』のコミックスは、1974年、朝日ソノラマから全3巻が初刊行されて以降、アケボノコミックス(曙出版・全4巻、77年)、立風書房漫画文庫(立風書房・全8巻、80年)、アクションコミックス(双葉社・全5巻、84年)、ごま書房(全12巻、99年~01年)、文春文庫(文藝春秋・全1巻、09年)といった各版元より叢書化されたほか、多数の未収録作品を含む、80年~82年掲載分のエピソードも、無会派のキリスト信仰団体・イエスの方舟を材に選んだ一編(「あこがれのハワイ航路」80年7月31日号)を除き、02年発売の『赤塚不二夫漫画大全集DVD―ROM』(小学館)に完全収録され、漸く陽の目を見ることとなった。

因みに、「あこがれのハワイ航路」は、竜之進が、〝イエスの方舟〟代表・千石イエスの如く、若い女性達に聖書の教えを説き、聖なる使徒として導いてゆこうとする崇高性と、そのおこぼれに預かりたいと、煩悩を絶ち切れずにいる実父の俗物性とのコントラストを隠れ蓑に、当時、団体を〝現代の神隠し〟〝千石ハーレム〟と煽情的に報道していたマスコミの恣意性を問い掛けた一作だ。


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