さて、本稿ではこれまで『ひみつのアッコちゃん』のアウトラインとキャラクタリスティックを簡潔に整理しつつ、作品が持つ本質的意義とは無関係な誇張を避け、その魅力を余すところなく分析、理論化し、新たな知見を加えて言語化してきたが、ここで一旦趣向を変え、異色作と見なされながらも、『アッコちゃん』を語る上で欠かすことの出来ない、趣の深いエピソードも纏めて紹介しておきたい。
筆者が愛着を寄せる一編にして、作中、アッコが姿かたちの異なるものへ一切変身することなく、ドラマが進行してゆく異端作「小さな世界の冒険」(「りぼん 夏休み大増刊号」64年8月15日発行)をまず挙げてみることにしよう。
この物語は、鏡を使って、人形と同様のサイズにミクロ化したアッコが、冒険心に駆られ、小さな身体のまま街へ飛び出したことで、猫に追い掛け廻されたり、カラスにさらわれたりと、災難に次ぐ災難に晒されるという、フライシャー・スタジオ制作による傑作アニメ『バッタ君 町に行く』をしのばせる冒険ファンタジーである。
単純明快なシークエンスをベースとしながらも、要所要所に笑いとなるポイントをしっかりと押さえ、中弛みが一切ないテンポの良いコマ運びは勿論、アッコが命綱代わりに使う糸巻きや、足を痛めて松葉杖の代用品にするマッチ棒、道端で見付けたマンホール並みに重たい旧一〇〇円銀貨など、身の回りにある物体の特徴を、リアル過ぎず、しかし質感たっぷりに丁寧に捉えた描写力の秀逸さが、殊更際立つほか、小さくなったアッコが、食べ切れない大きなケーキに舌鼓を打ったり、人形の洋服に着替え、お洒落を楽しむ一連のシーンなどは、概して小さな女の子の憧れをそのままダイレクトに画稿に描き起こした『アッコちゃん』屈指の名場面と言えるだろう。
『アッコちゃん』のオフィシャルな路線から若干軸移動しつつも、スマートな遊び心がコマの隅々まで行き届いており、まさしく隠れた名作と範疇化されて相応しいエピソードの一本だ。
また、本エピソードで見せるアッコの感情やモーションが、他のエピソードで見せるそれらよりも、実に生き生きと洗練されており、アッコの一挙一動そのものが、ドラマに躍動を刻む大きな魅力を湛えていることにも注目されたい。