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次元バリアを考察する:『アルドノア・ゼロ』より

2018-11-28 07:05:44 | 架空世界
 前回の話の通り、次元バリアはその性質から必ず隙間が必要で、それが弱点となったのですが、この弱点をカバーする方法を考えてみましょう。

 次元バリアの原理や詳しい作用は明らかではありません。ともかく物質であれ光や放射線であれ、まるで抵抗がないかのようにバリアの中に入り込んでどこかへ消えてしまいます。入り込んだ物がどうなるのかもよくわかりませんが、可能性を列挙してみると、
  ・異次元へ飛ばされる、または単に消える
  ・エネルギー変換されて動力にされる
といったことが考えられますが、後者らしき描写もないので前者の可能性が強そうです。後者だと運動量の方の処理がしにくいという問題もありますし。

 そして次元バリアは例えば球状に空間に展開するのではなく、カタクラフトの表面に設置されています。そして一部に隙間を空けることもできます。このような仕様とするためには表面の各パーツや小部分ごとにバリアを張る機能を持たせて、それぞれを独立にオンオフ制御できる仕組みが考えられます[*1]

 すると、このオンオフ制御を高速で行って、例えば上空の眼からの情報を受けるための窓の位置を常時移動させるということもできるのではないでしょうか? こうなるとバリアの隙間をを狙って攻撃することはおろか、見つけることさえ難しくなりそうです。

 これで弱点はなくなった。愚かなる地球人の猿知恵など恐るるに足らずだ、ワッハッハッハッハ・・。失礼しました。まあヴァース帝国の体制だと、この程度の工夫のできるような技術開発人材を活用できるものではないような気もします。もともと人口も少ないし、腹も減っているし。下手をすると古代の技術をそのままコピーするしか能のない人材だけという事態も考えられます[*2]

 さらに1部分だけミリ秒単位でオンオフする技術も考えられます。マンガでよく見るような、剣の達人が高速で剣を振り回して矢でも弾丸でも弾いてしまう、という方法で・・・。と喩えるのあんまりなので、蛍光灯が50HZとか60Hzで明滅していても使えるという例にしておきましょう。もっともこの技術では、弾丸なら防げても連続的な光線兵器は防ぎにくそうです。オフの間だけ光線が通過するので威力は減らせますが完全遮断はできません。せいぜい自動的にオフ時間を調整して・・濃さの変化するサングラスですね(^_^)[Ref-1]。でも光速で飛来する攻撃に瞬間的に対応できるはずもありません。

 話は変わりますが、もしバリア等を張ろうとしても物理法則による原理的理由で秒単位の短時間しか持たないとします。科学者たちはなんとか持続時間を伸ばそうとしますが、どうしてもできません。現在でも地上での核融合の持続時間(プラズマの閉じこめ時間)がなかなか増えずに「〇〇秒を越えた」と喜んでいる状態のようなものです[Ref-2]。しかしもし、極く短時間でも一旦オフすればまたオンできるとすればオンオフの繰り返しで十分に実用的なバリアが張れるでしょう。例えばバリアだけで空気を閉じ込めて宇宙船が作れるかも知れません。深海の高圧水を排除できれば深海探査船も作れるでしょう。というアイディア・ストーリーのSF短編を昔のSFマガジンで読んだ記憶があるのですが、題名を忘れたので今のところ見つけられていません。

 ところでwikipediaの記事では「本来ならバリア展開中は外部からは、ほぼ黒一色に見えるはずだが、バリアの上に光学迷彩を展開し、元のカラーリングを投影することでバリアの穴の発覚を防いでいる。」と書かれています[*3]。内部からの物体や光はバリアを通過するはずなので[*4]、説明が必要そうです。要するに日光が入らないので反射光が生じず見えない、ということでしょう。すっぽりと影に隠されているというイメージです。しかしそれならば、光学迷彩はバリアの上に展開しなくても本体表面で普通に発光させておけばよいのではないでしょうか? いえ発光では不自然に見えるかも知れません。となるとバリアの上の光学迷彩とは、自然光をうまく利用して反射なり屈折なりさせるような高度技術なのでしょうか?

 この光学迷彩ですが人体並みのコンパクトな装置でも実現できるらしくアセイラム姫がこの技術で変身をします。第4話で「さきほどのはホログラムを利用した迷彩の一種」との言葉が出ますが、つまり通常の普通人の姿は迷彩で本当は御姫様の衣装姿だったのです。いやいやいやいや~~~、絶対逆でしょう。本当の姿が御姫様衣装だったら動きにくいし、今頃はずたずたでしょう。御姫様衣装の方が迷彩としておけばすっきりするのに、なんで無茶な設定にしたんでしょねえ。


 と、ここまで本作品を一応はハードSFと見なして考察してきましたが、全体を含めてみると色々とあらが見えてきてハードSFとしては破綻していると考えざるをえませんでした作品データベースというサイトにアルドノア・ゼロの感想もあって辛口の厳しい指摘が多いのですが、いちいちもっともと言わざるをえません。このサイトには指摘のなかった設定破綻も色々と見つかりました。とりあえず、これだけ破綻している作品をハードな作品として評価していると思われては恥ですから、評価はしていないことだけ書いておきます。

 出だしは痛快で、主人公も魅力的だっただけに残念です[*5]。そもそも世界設定がずさんだったのですね。もっとも一番ひっかかったのは世界設定や科学的矛盾ではなくて、第7話で伊奈帆(いなほ)がスレインと一旦は共闘しながら、「君は敵だ」と突き放してしまう展開でした。この時の会話を見直すと「アセイラム姫は死んだことになっているのに何故まだ探すのか?」ということで疑いを持ったようなのですが、ここは取り合えずもっと話し合って情報を得るのが普通の発想でしょう。なぜにこの瞬間だけ伊奈帆(いなほ)の判断が鈍ったのかと言えば、スレインの運命を無理矢理変えようという作者達の陰謀としか考えられませんね(^_^)


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*1) 驚くべきことに第2話では、カタクラフトを運ぶスカイキャリア(スレインの操縦)の表面にも次元バリアが張られていた。スカイキャリア自体は次元バリアを持たないので、どんな仕組みかは謎である。スカイキャリアが次元バリア機能を持たないことはwikipedia記事にも書いてあるが、2-3話でアセイラムがライエに話していた。
*2) 爵位を持つ騎士たちのカタクラフトは各機体ごとにオーダーメイドのごとく個性のある仕様であり、このような多様な機体を生み出せるところは独創性あふれた技術陣だとも思えるのだが、開発経緯が描かれていないので詳細は不明である。種類が多すぎて各機体についてチューンナップを突き詰めるような点には手が回らないのかも知れない。また量産型兵器はおざなりということも考えられる。あれだけの無敵兵器がそろっていれば量産型兵器などあまり必要ないとも考えられるが。
*3) このような説明が作品中のどこで言及されていたのかは不明。
*4) (さもないと飛び道具で攻撃できない)
もしも内部からも通さない設定だと、バリアの上の光学迷彩をどうやって操作するかという問題が生じる。
*5) 主人公が何を考えてるか表に現れないので魅力的じゃないという評価も多く、そう感じる人が多いだろうとは思います。あくまでも私には魅力的だということです。

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Ref-1)
 「偏光レンズ」と「調光レンズ」の違い(2017/02/14)
Ref-2)
  a) 核融合科学研究所の記事
  b) 4,900万度のプラズマを102秒間持続(2016/02/10)

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