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火星植民は如何に進むか?:『アルドノア・ゼロ』より

2018-12-14 06:41:35 | 架空世界
 前回の記事で、作品データベースというサイトにアルドノア・ゼロの感想もあって辛口の厳しい指摘が多いことを書きました。そのいくつかを私のコメントと共に紹介します。

 が、まず脳とアニメーションという感想サイトの「アルドノア・ゼロ」 第5話 「謁見の先で」(8/3)から。

イナホの方は、ブラドのビームソードの攻撃を回避する爆破防御装備をしていたことが判明ます。ちょ、それ正規パイロット達にも情報共有しようよw

 まさしく、伊奈帆(いなほ)には情報提供の時間はありました。自分のカタクラフトに装備する時間はあったのですから。あれっ、この装備は整備担当者がやったはずで・・、共謀して隠したのか(爆)


 さて作品データベースからの感想紹介ですが、例の義眼に組み込まれたアナリティカルエンジンについても次の指摘があります。

イナホの新しい力である義眼もなんか……いまさら強い理由付けられてもって気になりますし。
量産しろとか、劣化版でもいいから味方ロボにもつけろよとか思ってしまいますね。

義眼の性能がチートすぎるのは少し気になりましたが・・

二期を特徴付けた主人公の眼窩に植え込まれたコンピュータの描写も中途半端な印象が拭えない。

 お説の通り。あの技術を一介の兵士の治療にだけ使うというのはちと不自然なのです。死なれるとアルドノアドライブ動かなくなるという急所だから未完成で治験例皆無の高リスク治療法だけどやむなく、という理由は示されていますが。さらに、デブリ飛び交う空間での軌道予測ができるというソフトウェア技術があるなら、既に使われてるはずですよね。人の脳とのコラボで初めて実現したとか言い訳してればまだいいのですが[*1]


 ところでモブ[*2]って御存知ですか?

話の展開も単調で、前半は毎回イナホが調子乗ってる敵を相手に無双するという物なんですよね。敵も味方も変わらず、イナホには当たらないような弾丸でぽんぽんギャグのように死んでいく、ちょっとシュールな光景もウリの一つにしていたみたいですし

モブがバンバン死んでいるからこそ更にご都合臭が強く感じる。

モブと比べてなんか優遇されすぎな運。~それによって「旧型量産型ロボで強いロボを倒す」というロマンあふれる展開もただの接待でという感じすらしてきます。

訓練とかはもっと受けているはずのれっきとした軍人が雑魚にされすぎて

 そういわれても仕方ない。前半でモブとして薙ぎ払われるのは地球側の通常兵器やカタクラフトなんですが、カタクラフトなどは結構高価な兵器ではないかと思えるのに消耗しすぎのような・・。

あれだけ損耗率の高いロボット三等兵部隊が翌週には『ヤマト』並みに回復しているし

 お説ごもっとも。


敵ロボットの撃破方法のいくつかに、やや理想的すぎる要素が散見されたのは残念。論理的ではあるものの、現実的な方法だったかというと微妙なものがいくつかあったので、

 それはありそうです。いちいち検証する気はなくなりましたが、なんとなくマネリ化して御都合主義が紛れ込んではいないかという疑惑は濃厚です。


月軌道までたった3人を送り込むのに、ケロシンと水素とヒドラジンで片道3日掛かるのである。
そこへ軍隊を送るというのだ。お決まりの「最終決戦」を描きたいが為に!!

 ここは設定上でかなり重要だと思います。月と火星の間は瞬間移動でつながっているとしても、月と地球の往来は従来技術です。これは火星植民の時にも大きな障害、とまでは言えないとしてもコスト要因のはずなのです。


火星で貴族自体はそこまで問題はない。
ただ、問題は現実の歴史から三、四十年ぐらいを分岐したような世界観であること。
数百年前から火星帝国はあった、物語の部隊が数百年後設定とかならおかしくはないのですが~
火星が貧しい設定も一般火星市民の描写やエピソードがはっきりしないと……

 まさしく、私が世界設定上で一番問題だと思ったのもこの点です。ヴァース帝国の成立過程がありえなさそうに見えるのです。レイレガリア博士は一体どんな魔法を使ったのか?


 ヴァース帝国の成立過程すなわち物語の前史は、年表では次のようになります。wikipedia参照。

1972年 ハイパーゲート発見
1985年 レイレガリア博士が「ヴァース帝国」を建国
1999年 地球へ宣戦布告。ヘブンズ・フォール発生。新皇帝ギルゼリアの戦死。
2000年 休戦協定締結
2014年 アセイラム姫の地球訪問

 "RakuzaNet"ヴァース帝国は●●の夢をみるか?によれば、もっと詳しい経緯が書かれていますが、出典は不明です。

1972年、月面に到達したアポロ17号の宇宙飛行士達は、そこにあるはずのないものを見つけてしまった。
1975年から80年にかけて、火星をめぐり宇宙開発が大きく進展していきます。
 調査隊として火星に滞在していたレイレガリア・ヴァース・レイヴァース博士は、突如開拓民を扇動し反地球を標榜し武装蜂起。
1985年、火星は地球より独立を宣言。
 こうして、火星は超技術によりテラフォーミング(地球化)され、短い期間に人口は増加していきましたが、一方で技術占有を巡り地球とは対立、新たな「冷戦」となりました。
1999年 病気を理由に退位したレイレガリアに代わり2代皇帝に就任した息子ギルゼリアの治世、1999年に「熱い戦争」へ発展します。

 アニメ『アルドノア・ゼロ』の年表公開!(2014/7/16)には「34万人が火星へ移住」との記載もあります。

1972年 アプロ17号が月面で古代火星文明の移籍を発見し、~以下略
1975年 火星開発計画が始動。第一次火星調査団を派遣。レイレガリア博士が観測隊主任として同行。
1980年 火星開拓使が設立。34万人が火星へ移住。
1982年 突如レイレガリア博士が反地球を標榜し、火星開拓民を扇動。
  ~ 以下略 ~


 ハイパーゲート発見から13年後にヴァース帝国建国ですが、あまりに速い。そして植民者達はなぜレイヴァースの扇動に乗ったのか?

 前提としてレイヴァース博士はアルドノアを自分だけが起動できることは蜂起するまで秘密にしていたはずです。さもなければ、まずアルドノアの研究が最優先に行われたはずですし、レイヴァース博士は火星になど残らずにアルドノア解明プロジェクトの中心人物になっていたはずだからです。アルドノアは火星にあるのだから火星で研究が行われても構いませんが、ただ一人アルドノア起動の権利を持つレイヴァース抜きでは何もできません。しかし地球と火星の最初の衝突までは地球側はアルドノアの力をよく知らなかったところを見れば、彼はアルドノア起動の権利を手にした瞬間から帝国建国の野望を抱き着々と準備を進めたとしか考えられません

 するとレイヴァースによる扇動の時点の火星植民とはどんなものだったのでしょうか? 上記の10万人以上の規模がハイパーゲイト発見後の8年後に、というのがまず難しい。とはいえ蜂起できるほどの民衆がいるのですから、どう少なく見積もっても1万人以上、普通なら10万人程度はいないと不自然でしょう。では、どんな人たちが植民してきたのでしょうか?

 さらにテラフォーミング技術の問題です。当時の地球の技術でできるわけがありませんから古代火星の技術でしょうが、アルドノア・ドライブを使ったとも考えられません。これはドライブの名の通りカタクラフトなどの機械を動かす機関の技術らしいからです。騎士達のカタクラフトに似た個性的なものしかできないとしたら使いにくそうです。個性的過ぎるトラクターがたくさんあってもねえ。自由に動かすには運転員にアルドノアの力を与えないといけないし。いやまあ、騎士の面々が自分のカタクラフトで改造した土地を自分の領土にできた! なんて平和的な開発競争があったとしたら素敵なんですがねえ(^_^)

 となると、ハイパーゲイト同様にアルドノアなし、つまりレイヴァースによる起動が不要な技術としてテラフォーミングに使える技術が発見されていた、ということになるのかも知れません。開戦時点で火星カタクラフトの性能、つまりアルドノアドライブの性能は地球側は知らなかったが、テラフォーミング技術については当然知っていたはず、という点を踏まえれば、テラフォーミング技術はアルドノア・ドライブと直接のつながりはないというのが設定には一致します。が、これって単にひとつのマシンが見つかればできるという技術ではないでしょう。ひとつの惑星の環境をそっくり改造するという、非常に様々な技術を組み合わせた総合的手順が必要なはずです。個々の技術はもちろん、それらをきちんと組み合わせて運用するソフト的ノウハウこそが必要でしょう[*3]。でないと、惑星改悪になりかねません。

 なお、リアル2018年現在でもあれほどの性能のものはないのではと思える光学迷彩はありますが、あれはどうも地球オリジナル技術のようにも見えて古代火星の技術ではなさそうです。

 いすれにせよ植民が始まった時点ではまだテラフォーミングなどされていないとすると、可能な居住施設としてはドーム都市か地下都市というところでしょう。その建設を1972年頃の技術でやるのですからかなりの費用が必要です。また既に述べたように地球から月へ人を送るには、まだまだコストがかかります。むろん、月への旅ができれば火星はすぐそこだ、というモチベーションがあれば技術開発が加速されるのは確かでしょうが。

 このような高コストをかけて送り込む人員、テラフォーミングなしの火星に人類の橋頭保を作ろうと乗り込む人員、というのは、リアル2018年の現実の宇宙飛行士試験ほどではないにせよ、肉体的にも精神的にもかなりのえりすぐりの人達のはずです。それが一体どんな不満を抱いたのか不明ですが、一人の独裁指向の人間の扇動に簡単に乗るものでしょうか? しかも結果として、大半は下層階級になり下がり、騙された結果に終わるのですから[*4]

 そもそもコストをかけて火星に植民するメリットは何でしょうか? それよりは火星にある資源を無人機械などに採掘させて地球で活用する方が利益が上がるのではないでしょうか? 従業員も火星に常駐する理由は何もありません。月に住居を構えてハイパーゲートで毎日出勤する方が遥かに良好な職場です。これは火星調査団とかも同じことです。地磁気も大気も少なくて放射線リスクの高い所にわざわざ寝泊まりしなくても勤務時間だけ行けばいいのです。いや寝泊まりして研究したいという人間はきっといるだろうけど(^_^)

 でも月だったら、さほどの設備でなくてもテレビもラジオもインターネツトも楽しめますしねえ。ん、インターネツトどころかパソコン通信もまだ登場していませんでしたね。この分岐歴史で、地球上の国家間戦争前提の軍事技術からスピンアウトしたインターネツト技術が登場するのかどうか心配になってきました(^_^) まああれは民間需要からでも登場するだろうし、どちらにせよ通信技術は発展するだろうし[*5]

 やはり蜂起の時点でテラフォーミングはなされていて扇動されるほどの大衆社会ができていた、ということでないと不自然ですが、今度は、その人たちはどんな夢を見て植民したのだろうかという疑問が出てきます。それともどんな謳い文句につられたのか(^_^) 上記のように火星で働くだけなら月から出勤する方が遥かに楽なんですから、わざわざ住み込むというのは、よほど使命感かロマンに駆られているか、よほど地球での生活に希望を失くしていたか、どちらかとしか思えませんが、それにしても希望を抱かせるだけの植民計画が打ち上げられていなければ、人は集まらないでしょう。

 そして植民者たちは、植民のわずか数年後には扇動に乗って独立を目指したのですが、その動機は何でしょう? 独立の理由と言えば「現状では自分たちの成果が宗主国に吸い上げられていて、独立すればそれが自分たちの自由にできるから今よりも良い暮らしができるず」というのが基本でしょう。でも、わずか数年で植民地経営がそんなに軌道に乗るものでしょうか? それともアルドノアで素晴らしい世界が作れるみたいな宣伝でもしたのでしょうか? 今なら抽選でアルドノアの使用権が当たります! 確かに当たったら貴族生活が約束されたことになったけども・・。当たらなかった多数は地獄・・・。


 という次第で、破綻を挙げていったらキリがありません。


-------------
*1) あのソフトウェア技術がどんなものかは実際的に興味深い。深層学習しかなさそうだが、学習のためのデータをどうするのかが最大のポイントだろう。
*2)
 a) モブ
   「主要キャラ以外の登場人物」「名前も分からないようなキャラクターのことで、」
   「ゲームなどでは弱い敵を意味する言葉にモブキャラというものがあるなど、」
 b) wikipedia"モブキャラクター"
   「個々の名前が明かされない群衆のこと」
   モブキャラクターを英語風に表記すると、“mob character”になる。略してモブキャラともいう。また、群集キャラ・背景キャラと呼ばれることがある[3]。俗にザコキャラクターともいう。
*3) 高千穂遙クラッシャー・ジョー・シリーズにはテラ・フォーミングを仕事とするクラッシャーという職業が登場するが、惑星改造手順がきちんと描写された場面はなかった。名前のイメージからは一旦更地にしてから好みに作り上げるというようにも思える。更地にするよりも、その後にどんな生物を持ち込んでどんな生態系を作るかということを決めるのが大変だろう。どんな土壌や水系でどんな微生物を持ち込むのか? できれば余計な病原性微生物ははじきたいところ。このようなノウハウは火星古代技術からでは絶対に得られないだろう。
*4) この点だけはリアル過ぎて怖い。気を付けよう、甘い言葉の独裁者。
*5) 実はヴァース帝国建国の1985年からヘブンズ・フォールの1999年までというのはコンピュータの性能がムーアの法則に沿って発展していた時代。"WorldWideWeb"登場以来のインターネットの発展が1990年代で、このあたりの高性能コンピュータ技術やネット技術はヴァース帝国には禁輸になってたりして。とはいえヘブンズ・フォール以前はまだまだ各国の思惑もバラバラという状態で、そんなものは火星には筒抜け。でも人口数十万の独裁国家にネット網なんてできないだろうなあ。そしてヘブンズ・フォールの災厄にも負けず民生コンピュータもインターネットも発展を続け、個人がスマホで気軽に買い物をするまでになっていたのでした。恐るべきは地球の底力です。

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