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ビバ!ドラゴンズ『テメレア戦記(Temeraire)』より

2022-10-20 06:12:10 | 架空世界
 紹介する作品は、まだほんの一部と世にあふれる紹介文を読んだだけですが、とはいえ【ネタバレ注意】です。また、全巻を読んではいないので誤りが多々あるかも知れませんが、そこは御容赦ください。
 ドラゴンズ・ファンの皆様に朗報です[*1]。ドラゴンを主人公とした素晴らしい作品が翻訳されました。ナオミ・ノヴィク(Naomi Novik)『テメレア戦記』("Temeraire")というシリーズです[Ref-1]

 この架空世界は現実の地球とそっくりですが、人類の他に竜または龍(dragon;ドラゴン)と呼ばれる知的動物が存在し、いつの頃からか人類と結構深い共生をしています。最も目立つ共生関係で作品での中心となるのが、竜が人を乗せて戦うというものです。当然ながら敵国となるドラゴン同士も殺し合うことになります。ドラゴン達自身は国というものは作っておらず、個々のドラゴンは人が作っている国々に所属している形です。その意味を個々のドラゴンがどこまで理解しているかどうかは不明ですし、個体にもよると思われます。ま、それは人でも同じだったりして。
 なお"野生のドラゴン"と呼ばれる存在もいますが、人でいうと原始部族社会のレベルにとどまっているようです。

 竜という動物は種類が多く、種類により体格や生理機能に差があり、知的レベルも様々のようです。現実世界では鯨類を想像すると良いかも知れません。人により品種改良された種もいるらしく、登場する異なる種同士の違いが、犬の品種のような亜種レベルなのか、それとも交配不可能な本当の種レベルなのかは個々にみないとわからないでしょう。

 さて、この架空の地球ではなぜか歴史も我々の地球と極めてそっくりに進行し、時は1800年代初頭のナポレオン戦争真っ只中です。表題にもなっている主人公のテメレアは、竜の中でも大型種であり、中国では最も高貴な種とされているというセレスチャル種として中国で生まれましたが、卵のときにフランスに贈られることとなり、輸送途中でイギリス海軍に奪われてイギリスの軍艦上で孵化し、たまたま軍艦の艦長だったために"担い手"となったウィリアム・ローレンスの保護のもとで成長するという数奇な運命をたどります。軍用ドラゴン[*2]は空軍に所属するのでローレンスは海軍から空軍に転属し、全編の主な語り手となっています。なお、当時の中国は満州族が建国したの時代で、まだ列強の軍事侵略は受けていませんが、英国にアヘンを売りつけられ始めている時代です。

 "担い手"とは何か? 竜は多くの鳥類と同じく、卵から孵化した時に視界に入った動いている物に愛着を持つという性質があるとされています。刷り込みと呼ばれています。なので、人は孵化の時に個人を立ち合わせ、そのものを"担い手"として竜の管理をさせるという方法を取っていたのです。本来なら飼育場で"担い手"となるべき人物のもとで孵化させるのですが、上記のような状況で適切な人物がローレンスくらいだったというめぐり合わせだったのです。
 このような性質を持つ竜というのは、鳥類の一種である恐竜と深い血縁関係にあるのかも知れません。姿かたちも似ていますし。

 幸いにも"担い手"となったローレンスは心優しく責任感も強い立派な軍人でしたので、2人は相思相愛の中となり、タッグを組んで波乱万丈の人生に乗り出すこととなります。というか、龍とその"担い手"とは相思相愛となるのが普通のようですが、稀にはひどい扱いをする"担い手"もいないわけではないのです。言葉を話せる竜が相手では、話の通じないペットのように安易な虐待をすれば罪に問われかねないでしょうけれど。
 言葉について言えば、多くの種は普通に言葉を使えるようで、卵の時に周囲の言葉を聞いて覚えるとされています。テメレアの場合は、中国で生まれてフランス語も多少は聞いたということで、英語も含めて3ヶ国語を話せます。さらにドラゴン固有の言語であるドゥルザグ語も話せます。もちろん英語はほとんどが孵化してから聞いたものでしょうし、フランス語も成長後のに聞いたものが多いでしょうが、中国語とドゥルザグ語は卵の時に中国で覚えたものです。竜の種類によっては人より知能が高いともされていますが、この言語能力は確かに人の平均値を遥かに越えているように思えます。

 ドラゴンの寿命も種により異なるかも知れませんが、普通に高知能の種の場合は雰囲気からは人や象並と思ってよいようです。これから作品をちゃんと読んだら詳しくわかるのかも知れません。いずれにせよこの作品は、心優しく勇敢なドラゴンの若者の冒険と成長の物語と言って構わないでしょう。

 実際、ドラゴンも深く関わらざるを得ない人間社会には多くの矛盾もあるわけで、そのことにも気づき、怒り、悩みながらも"担い手"との絆だけは信じて進んでいく物語、なんだと思う、多分。

 ああ、まだ色々と紹介し足りないことが・・。架空世界がかなりしっかり構築してあるようなので、簡単に紹介しようとしたつもりが短くはまとまりません。また次に回しましょう。


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Ref-1)
 a)テメレア戦記1 気高き王家の翼 上』静山社( 2021/12/07) ;ISBN13: 9784863896406、から始まり、『テメレア戦記5 鷲の勝利 下』静山社(2022/08/09) ;ISBN13:9784863896499、まで出版中。電子版も出ている。
 b) 作者のサイトでの作品紹介
 c) 作者の紹介

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*1) タイトルに思いついたフレーズに記憶があるように思ったら、ズバリの題名の本が出ていました。G.K.チェスタートンと言えば名探偵"ブラウン神父"で有名ですが、ファンタジーも書いていたとは知りませんでした。
  G.K.チェスタートン; 佐藤高子(訳); 渡辺南都子(訳) 『ビバ!ドラゴン―ファンタジイ傑作集2 (ハヤカワ文庫 FT 28) 』早川書房 (1981/01/31), ISBN-13=‏ 978-4150200282。
  ・王様の首の不思議な冒険(L.フランク・ボーム)
  ・ムラサキ・ドラゴン退治(L.フランク・ボーム)
  ・最後のドラゴン(E.ネズビット)
  ・竜とカクレンボ(G.K.チェスタートン)
  ・ドラゴンの執念(ロバート・ブロック)
  ・コンラッドと竜(L.P.ハートリイ)
 1a) 圏外の日常というブログに紹介と感想が書かれていました。『ファンタジイ傑作集2/ビバ! ドラゴン』(2012/01/10)
 1b) 早川書房の書誌
 1c) アマゾンにて、読者感想含む
*2) 英国では、たぶん欧州の他の国でもドラゴンはほとんど軍用らしいが、実は中国ではそんなことはない。

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