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山本 謙三、藤巻 健史②「異次元緩和」財政ファイナンス 日銀・子会社説(統合政府論)

2024年10月07日 15時10分27秒 | 社会

いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態

2024/10/7(月)   現代ビジネス 山本 謙三、藤巻 健史

 

守るべきルールをことごとく破った

−−異次元緩和は、伝統的な金融論で守るべきルールをことごとく破ったといわれます。なかでも、膨大な長期国債を大量に市場から買い入れる政策は、世界最悪レベルの借金大国の日本にとって都合の良い政策でした。日銀が国債を爆買いすることによって、財政規律が弛緩したと言われますが、山本さんはどのように分析されますか?

 

山本:世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。

日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。

左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました。このような状態では、国にも財政赤字を減らそうというインセンティブが働きません。もちろん、財政規律は国に一義的な責任があるわけですが、日銀が財政規律の働きにくい環境を作ったということは間違いありません。

 

財政ファイナンスそのもの

藤巻:『異次元緩和の罪と罰』のなかで、山本さんは「財政ファイナンスに酷似した」と書かれましたが、私は、まさに財政ファイナンスそのものだと思うんですよね。

私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです。火事は、火が出れば火事になるのであって、失火であろうと放火であろうと、火事であることには変わらない。これと同じように、異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした。

 

この本にも書いてありましたが、いまの日銀は、中央銀行としてやってはならないことをやりまくってるわけですよ。いったん買い入れると市中での売却が難しい長期国債や、株や土地のように価格が大きく変動するリスク性資産を買いまくっている。正統派金融論の常識では、通貨の信認を守るため、中央銀行が固く禁じられてきたことを、黒田日銀は10年以上も続けてきた。これは由々しきことです。

 

山本:法律上は、財政法で日銀が直接引き受けることを財政ファイナンスと定義しています。したがって、日銀による市場からの国債買い入れは、法律的には財政ファイナンスには相当しないということになるのでしょうが、経済機能的に言えば財政ファイナンスとほぼ同じですね。

伝統的に多くの中央銀行は、そのような財政ファイナンスが行えないようにする、いくつかの仕掛けを用意してきました。日銀にも、「日銀が保有する長期国債の残高は、銀行券発行残高を上限とする」という銀行券ルールという内部規律が存在しました。しかし異次元緩和では、このルールは一時的に適用停止(注.現在も停止中)されてしまい、国債の大量購入に歯止めをかける仕掛けが骨抜きにされてしまいました。

 

藤巻:普通の中央銀行はこんなことしないですよ。私は、やはり財政破綻を免れるために日銀は政府を手助けしているように思っています。

 

「統合政府論」という考え

−−11年に及ぶ、空前の金融緩和で日銀のバランスシートは異様なまでに拡大しています。一方で、リフレ派の経済学者やMMT論者たちは、日本には潤沢な資産があるので、まだまだ国債を買い入れる余地がある、と主張しています。彼らは、国が支払う利払い費は、国債を買い入れた日銀に支払われるので、たとえ、今後、利払い費が増えても、子会社である日銀から親会社の政府に還流されるので全く問題は生じないといいます。それどころか、市場に流通する国債を日銀がすべて買い入れてしまえば、財政再建が完了するという識者もいます。

藤巻:これは「統合政府論」という考えですね。日銀は政府の事実上の子会社であるから、日銀が、政府発行の国債を保有していることは、子会社が親会社の債務を負っているに過ぎないことになります。そこで政府と日銀を統合したバランスシート(図参照)を作ると、国の負債である国債と日銀の資産である国債が相殺されて、バランスシートから国債が消えてしまいます(実際には、日銀は国が発行した国債の約50%しか所有しておらず、残り50%の国債は相殺されません)

統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。

 

しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです。「そっちのことを気にしなくてもいいんですか」という話なんです。

藤巻家を例にして考えてみましょう。歳をとって借金する能力がなくなった私の代わりに息子が銀行から借金をして私に貸し、そのお金で私が家を建てたとしましょう。確かに藤巻家でみると、親子間の貸借は相殺でなくなるかもしれませんが、息子には借りた住宅ローンが残ります。息子は銀行に利子を払いながら住宅ローンの返済を続けていかねばなりません。

 

英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です。

 

山本:藤巻さんおっしゃる通りで、政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、

藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。

 

要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります。

 

藤巻:数字だけでみれば、債務残高対GDP比率257%は、太平洋戦争直後よりも悪いですからね。結局、そのときは、日本は悪性インフレを抑えきれず、1946年(昭和21年)に預金封鎖と新円切り替えを強行し、インフレと国民の負担によって財政赤字を帳消しにしました。いまはまだ問題が顕在化していませんが、国民の皆さんも現在の財政状態は戦時や戦争直後よりも悪いという認識をしてほしいですよね、

 

−−日本には、換金可能な潤沢な金融資産と有形固定資産があるので、財政危機など杞憂にすぎないという意見もあります。

山本:国は741兆円もの資産を保有しているので心配はないという方がいらっしゃるのですが、そんな楽観視ができるような状態ではありません。

図(国の賃借対照表)をご覧ください。実は国の資産は、この負債サイドとの見合いになっています。例えば有価証券126兆円のほとんどが外貨証券です。これは外貨準備の運用として持っている有価証券ですが、仮に売れるとしてもその代金は右側にある政府短期証券の償還に充てられなければいけないというルールがあります。

 

有形固定資産も195兆円ありますが、これは橋や道路などのインフラなので、これも簡単に売れるようなものではありません、実際のところ、国の資産741兆円には、自由に売却できるようなものはなく、新しい財源になるようなものはほとんど存在しません。

一方、バランスシートの右側の負債サイドを見ると、「負債および資産・負債差額合計」の702兆円があります。日本は、資産以上に負債を抱えており、国債の発行額が保有する資産の評価額を702兆円も超えていることを意味します。言い方を変えれば、国は702兆円の債務超過の状態にあります。

ただし、債務超過になったからといって、直ちに国が破綻するというわけではありません。なぜなら、国には、国民から税金を集める徴税権が認められているからです。将来、国民に課される税金でこの差額は埋められるという仮定で成り立っている、そういうバランスシートになっているわけです。

ただし、日本は、民主主義社会ですから、国に徴税する権利があるからといって、増税はそんなに簡単ではありません。税率3%で始まった消費税を10%に引き上げることに30年間もかかったことを思えば、増税が簡単ではないことがわかります。

702兆円に及ぶ資産負債差額がさらに増えるようになれば、マーケットにおいて国への信頼が揺らぐ危険があります。すでに日本の財政は持続可能性を疑われる状態にありますから、将来を楽観視するのではなく市場が不安を持つ前に早く財政再建に着手する必要があるというふうに思っています。

 

藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りで、楽観視できる状態ではありません。

基本的にGDPと税収は、大雑把に言えば比例関係が成り立ちます。GDPが2倍になれば、個人の収入も2倍になり、国の税収や歳出も2倍になるということです。

財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います。

 

第3回記事<「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」>では、「異次元緩和には出口はあるのか」について議論する。

山本 謙三、藤巻 健史①「異次元緩和」これからどんなツケを払うことになるのか



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