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山本 謙三、藤巻 健史③「異次元緩和」の副作用 円安物価高 市場機能の崩壊 通貨の信認 

2024年10月07日 16時12分12秒 | 社会

「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」

2024/10/7(月)   現代ビジネス 山本 謙三、藤巻 健史

 

異次元緩和の歪みや副作用

−−11年にわたって続いてきた異次元緩和の歪みや副作用がさまざまなところに現れているように思います。

 

山本:日銀が、市場からこれだけ大量に国債やETF(上場投資信託)を買い入れれば、債券市場や株式市場が歪むのはある意味当然のことです。いまや日銀は、株式市場において国内最大の投資家です。

 

藤巻:中央銀行は、価格の変動が激しいリスク性資産は極力持たないという不文律がありますが、日銀のように大量の株式を買い入れている中央銀行はほかにはないですよね。

 

山本:金融政策として、株式を買い入れている中央銀行は、ほとんどありません

歪みが生じているのは株式市場だけではありません。国債市場では、日銀は国内最大の購入者であり、保有者です。日銀の国債保有残高は約590兆円に及んでいます。

日銀は、大量の国債買い入れを継続して実施することで長期金利を0%台に抑えてきました。もし、日銀が市場に介入せず、長期金利の変動を市場に任せていれば、実際の名目GDPの成長率から見て、少なくとも1%前後になっていたはずです。

長期にわたって市場の実勢より1%近く金利を抑圧してきたのですから、さまざまな副作用が生じていることは間違いありません。

第一は急激な円安です。図は、1970年代から現在にいたる実質実効為替レートの推移を示すグラフです。実質実効為替レートは、通常の為替レートではなく、相対的な通貨の実力を測るための計算上のレートです。

2024年春の円相場の実質実効為替レートは、1ドル=360円時代をさらに下回る円安水準まで下落しました。つまり、1971年8月のニクソンショック直前の、1ドル360円並みの水準まで、円安が進んでいます。ここまで円安が進むと、海外から見れば、明らかに日本のものは何でも安く見えます。それゆえ、インバウンドの観光客が増えていますし、外国人の投資家が都心の土地やマンションを購入するようになっています。一見すると、景気のよい話のように見えますが、日本国内から見ると、国内の資源や労働力を安売りしていることに他なりません。これでは、私たち日本人の生活はいっこうに豊かになりません。

第二の副作用は、市場の機能が低下したために、成長性の低い企業が選別、淘汰されることなく生き残ったことです。その結果、日本経済の新陳代謝が進まなくなり、経済のダイナミズムが失われました。これは自由主義市場経済にとっては非常に痛手だったように思います。

第三の副作用は、金融機関へのしわ寄せです。金融機関は、市場金利が低下したことによって収益が圧迫されたため、それを補うために外債などのハイリスクの投資を増やしました。その結果、いくつかの金融機関は、金利上昇局面になってから、購入した外債の損失が膨らみ、増資に迫られるようになっています。もちろん、個別金融機関のリスク管理の甘さが原因ですが、異次元緩和が金融機関をハイリスクの投資に追い込んでいったという事実は残ります。

 

国民に幸福をバラ撒きすぎた

藤巻:感覚的な言い方になりますが、黒田日銀は、国民に幸福をバラ撒きすぎました。日銀が国債を爆買いして長期金利を低く抑えたことによって、住宅ローンの金利も0%近くになりました。金利負担が下がったうえに地価やマンション価格は高騰しましたから、住宅ローンを組んで不動産を購入した人は非常にハッピーなわけですよ。日銀によるETF購入で株式相場も上昇しましたから、株を持っている人もハッピーでした。なにより超ハッピーだったのは日本政府で、新規国債の金利負担がないから予算が好き勝手に作れて、バラ撒きもできた。こうした政策は、選挙民からの受けもいいので次の選挙にも当選できるので、バラ撒きはさらに加速していく。このように、日銀は異次元緩和を11年間も続けることで、日本国民に幸福のバラ撒きを続けてきたわけです。

問題は、この幸福は、日本人が実力で勝ち取ったものではなく、日銀によって作り出された、かりそめの幸福です。私は、日本人は、何か後で、とてつもない「しっぺ返し」を受けることになるのではないかと心配しています。

黒田総裁の前任の白川方明日銀総裁は、自らもやむを得ず行った非伝統的な金融政策である質的緩和の危険性を自覚され、憂慮されていた。印象的だったのは、2013年3️月19日の退任記者会見での発言でした。

「わが国を含め欧米諸国が現在展開している非伝統的な政策の評価も、いわゆる『出口』から円滑に脱出できて初めて、全プロセスを通じた金融政策の評価が可能となる、そうした性格のものだと思っています」

しかし、白川総裁を引き継いだ黒田日銀は、白川日銀の質的緩和を中途半端と批判して、伝統的金融論からすると、あり得ない規模の超金融緩和を11年も続けてきました。巨大なクジラのような日銀が大量の株と国債を買い進めて、市場機能を殺してしまった以上、もはや日銀には異次元緩和から抜け出る「出口」はありません。

私は、異次元緩和は「出口」から無事に出られて初めて評価できる金融政策だと思っています。「出口」から出られなかったら、最悪の政策だと結論づけるしかない。

黒田前総裁は、メディアから日銀の出口戦略を何度も質問されましたが、「時期尚早」を繰り返して、その道筋を最後まで語ることはありませんでした。引き継いだ植田和男総裁は異次元緩和の終了を宣言しましたが、出口戦略をどのように進めるのか具体的なシミュレーションを出していません。

山本さんが書かれた『異次元緩和の罪と罰』には、金融正常化を進めるには、最短でも10年かかるとあります。この一事をとっても、やはり出口から抜け出るのは相当難しいと言わざるを得ないですね。

 

金融の正常化には非常に長い時間がかかる

山本:藤巻さんがおっしゃられたように金融の正常化には非常に長い時間がかかります。

私の試算では、約561兆円ある日銀当座預金残高を「平時」の約30兆円に戻すには10年以上かかるという結果になりました。しかも、これは、正常化完了までの間、いっさい新規の国債買い入れを止めるという仮定のもとでの試算です。

植田日銀は、2024年7月に日銀の国債買い入れ額の減額計画を公表し、それに着手しています。ただし、この計画に沿って日銀が国債買い入れ額を減らすとしても、いまから2年後の2026年3月末時点では依然、約550兆円の保有残高が日銀に残ります。

当面に限って言うと、国債の減額は大きな支障なく進められるだろうと思っています。なぜならば、最初の2年は日銀の国債買い入れの減額は月間3兆円程度ですから、国内の金融機関がこれを補うことは難しくありません。異次元緩和によって収益を圧迫された金融機関のなかには、リスクのある外債投資に追い込まれたところも多いので、為替リスクのない日本国債を購入するところも多いはずです。

ただし、当面は、国債減額は支障なく進められるでしょうが、いずれ金利の上昇が避けられないと考えています。なぜかというと、国は、借換債以外にも毎年約30兆円台の新規国債を発行しているからです。借換債に相当する国債は日本の金融機関が購入できるとしても、新たに発行される国債を購入できる原資があるのかという問題に突き当たります。仮に国内の金融機関だけでは消化が難しいとなれば、海外の投資家に頼らざるを得ません。ただし、彼らにとって、日本国債は金利変動リスクや為替リスクがありますから、相応の金利をつけなければ、彼らも買わないでしょう。

ただ、金利が上昇するのは、ある意味、自然なことです。もともと異次元緩和で隠されていた本来あるべき金利が、表面に出てくるという話なので、金利急騰といったような非常事態を除けば、国や日銀もこれは受け入れる必要があります。

いったん金利が上がり始めると、いろんなところからプレッシャーがかかってくるでしょうが、日銀としては正常化のプロセスを着実に進めていく必要があります。藤巻さんがおっしゃったことに近いのですが、金融正常化のプロセスを途中でやめてしまうことになれば、「なんだ異次元緩和は結局、財政ファイナンスだったのか」と市場から評価されてしまいます。中央銀行が財政ファイナンスを事実上認めるようなことをしたら、円という通貨の信認は揺らいでしまいます。

 

長期金利が上昇すれば、国債の評価損がどんどん膨らむ

藤巻:山本さんは、今後、日本の長期金利は一段と上がっていくとおっしゃいましたが、私が参院予算委員会で日銀に質問したところ、2023年9月末時点で日銀の保有国債の評価損はすでに約10兆円(当時、10年物金利は0.76%だった)もあり、金利がパラレルシフトすると、1%の金利上昇で評価損は29兆円程度増加するとの話でした。今後、長期金利が一段と上昇するようになれば、日銀が抱える国債の評価損がどんどん膨らんでいきます。

目下のところ、本来なら中央銀行が保有すべきでない株の評価益があるからいいものの、今後、日銀が国債やETFの買い入れ額を減らして過剰流動性を吸収する局面になれば、株価が下がり、評価益が激減するリスクもあります。私は、日銀が本格的に出口戦略を進めれば、ものすごい債務超過になると予測していますが、それでも大丈夫でしょうか?

 

山本:あくまでも2023年度末時点ですが、日銀が買い進めてきたETF等の含み益が約38兆円もあるので、国債の評価損が出ても、なんとかそれでカバーできてしまうという状態です。

ただし、これはあくまでも株価次第ですから、株価が急落したり、金利が大幅に急騰したりする局面では、日銀が債務超過になる可能性があることは否定できません。ただし、中央銀行の場合、債務超過になったからといって、ただちに資金繰りに困るということはありません。

 

藤巻:日銀は、自分で日銀券を発行できるので、資金繰りに窮することはないですからね。

 

山本:債務超過になったからといって、ただちに危機が発生することはありませんが、かといって楽観視できる状態ではありません。要は、マーケットがどう見るかというその一点に尽きると思います。日銀が市場からの信頼を失えば、資金繰りではなく、まず為替が急落するところからスタートして、混乱が起きかねません。

 

藤巻:要するに中央銀行が危機的状況になるということは、その発行する通貨が信用を失うことを意味します。円の価値が失墜することになれば、円は紙くず化し、1ドル=1兆円になるようなハイパーインフレが起きるでしょう。

 

山本:藤巻さんのおっしゃることは過激で、少しついていけない部分もあるのですが(笑)、最終的にハイパーインフレにならないまでも、非常に高いインフレ率になることはあり得る話です。通貨に対する信認は、心理的な要素によるところが大きく、ある閾値(しきい値)」を超えた時点で突如崩壊するものです。それがいつどこで起きるかは、マーケットの心理によるので、それを予測するのは難しい。とはいえ、日銀も政府もそのような事態になるまでに、何らかの手を打つとは思いますが……。

 

藤巻:私に言わせると、日銀も政府も手を打ちすぎです。むしろ、過剰な介入で市場機能を殺してきたことに、日本経済の長期停滞の原因があるのではないでしょうか。常々感じていることですが、日本は資本主義の国というよりは計画経済の社会主義国のようです。

 

山本:私も、藤巻さんがおっしゃっているように、日本はどんどん市場経済から離れつつあるように感じます。戦後はずっと「市場競争を大事にする」という考えが主流でしたが、1990年代から、こうした考えが明らかに後退しています。政治的にも、選挙対策で、社会保障を充実させる政策や不況に苦しむ企業を救済する景気対策が広く行われるようになりました。その結果、生まれたのが、財政規律の著しい後退です。競争に負けた企業まで救済するような政策が広く行われた結果、経済の新陳代謝が進まず、生産性が低下していくという悪い流れになりつつあります。その流れを断ち切ることが一番大事なことだと考えています。

 

中央銀行の目的は「物価の安定」だけではない

−−山本さんは日銀理事を務めた日銀OBとして、現在の日本銀行の姿はどのように映りますか。また、植田日銀は、今後どのような金融政策を進めていくべきだとお考えですか?

 

山本:世間に誤解があることなのですが、中央銀行の目的は「物価の安定」だけではありません。日銀が目指すべきものは「物価の安定」というよりも、より高次で広い概念である「通貨の信認確保」です。その意味するところは、「物価の安定」のほかに、金融システムの健全性維持、銀行券の円滑な発行・流通、日銀ネットと呼ばれる大規模な資金決済ネットワークの維持など広範な目的を含みます。これらをひっくるめたものが「通貨の信認確保」だと理解しています。

日銀がやれることは、突き詰めると、1つだけで、資金をマーケットに供給ないし吸収することしかありません。しかしこの資金の供給・吸収が経済に非常に大きな影響力を持っているわけです。それは物価にも影響を与えるし、金融システムにも影響を与えるし、決済にも影響を与えます。中央銀行は、これらをバランスよく達成することが使命であって、物価目標2%を絶対視するような硬直的な政策運営はすべきではありません。 

こうした観点に立てば、異次元緩和がもたらす金融システムや市場機能への悪影響を意識するのは、中央銀行として当然の責務になります。

植田日銀は、黒田日銀が始めた11年続いた「異次元緩和」の幕引きをするという難題を背負わされたわけですが、その過程で、これまでの総括を行い、今後どのような道筋で正常化を進めていくのかを、国民にきちんと説明したうえで支持を得なければなりません。

こうした取り組みをないがしろにすると、また、いずれ政治サイドから「国債をもっと買い入れてほしい。なぜ異次元緩和でやれたことが、いまできないのか」と迫られることになってしまいます。

 

藤巻:説明をうかがって改めて、今日もまた「さすが山本さんだな」と感服しました。私の過激な説明よりも、ジェントルマンとして冷静に丁寧に説明していただくと、多くの方が納得するんじゃないかと改めて思いました。『異次元緩和の罪と罰』は本当に素晴らしい作品ですので、ぜひ皆さんも読みください。

 

山本:藤巻さんとの対談は刺激的で私も楽しかったです、本当にありがとうございました。

山本 謙三、藤巻 健史②「異次元緩和」財政ファイナンス 日銀・子会社説(統合政府論)


山本 謙三、藤巻 健史②「異次元緩和」財政ファイナンス 日銀・子会社説(統合政府論)

2024年10月07日 15時10分27秒 | 社会

いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態

2024/10/7(月)   現代ビジネス 山本 謙三、藤巻 健史

 

守るべきルールをことごとく破った

−−異次元緩和は、伝統的な金融論で守るべきルールをことごとく破ったといわれます。なかでも、膨大な長期国債を大量に市場から買い入れる政策は、世界最悪レベルの借金大国の日本にとって都合の良い政策でした。日銀が国債を爆買いすることによって、財政規律が弛緩したと言われますが、山本さんはどのように分析されますか?

 

山本:世界の多くの国、ほとんどの国と言ってもいいと思いますが、中央銀行が国債を引き受ける財政ファイナンスを禁止しています。それは財政規律を維持するための「人類の知恵」で、そのようなことをしたら、通貨の信認を失い、将来的には非常に高いインフレが必ず起きるからです。

日本でも財政法で国債の日銀引受が禁止されています。その一方で、黒田日銀は、物価目標を実現するための政策として資金の大量供給を決めました。「物価目標2%を何が何でも実現する」という異次元緩和の政策枠組みの中で、日銀は、市場にサプライズを与えるほどの巨額の国債を市場から買い入れました。政府が発行した国債を直接引き受けたわけではありませんでしたが、市中に出回る国債をほとんど買い入れてきたというのが実態です。

左の棒グラフをご覧ください。異次元緩和が始まる直前の2013年3月末の日銀の保有国債残高は、約125兆円でしたが、これが10年後の2023年3月末には、約5倍の約582兆円になっています。この間、日銀の保有国債は一挙に456兆円も増えています。実はこの額は、この期間の新規国債の発行額480兆円に匹敵します。いうなれば、日銀が、財政赤字のほとんどの資金繰りの面倒をみたという状態ですので、政府にしてみれば、金利ゼロで国債がいくらでも発行できる状況になりました。このような状態では、国にも財政赤字を減らそうというインセンティブが働きません。もちろん、財政規律は国に一義的な責任があるわけですが、日銀が財政規律の働きにくい環境を作ったということは間違いありません。

 

財政ファイナンスそのもの

藤巻:『異次元緩和の罪と罰』のなかで、山本さんは「財政ファイナンスに酷似した」と書かれましたが、私は、まさに財政ファイナンスそのものだと思うんですよね。

私は国会質問で、当時の黒田日銀総裁や麻生財務相に「これは財政ファイナンスじゃないですか?」とお聞きすると、彼らは「いや、これはデフレ脱却のために行っていることだから財政ファイナンスではありません」と答弁されるわけです。これに対して、私は、「中央銀行である日銀が、日本政府の資金繰りを賄っている以上、これはもう財政ファイナンスそのものです。火事は、火が出れば火事になるのであって、失火であろうと放火であろうと、火事であることには変わらない。これと同じように、異次元緩和の目的がデフレ脱却であろうとなかろうと、政府の資金繰りを中央銀行が賄っていれば、それは財政ファイナンスです」とお二人に申し上げましたが、議論は深まりませんでした。

 

この本にも書いてありましたが、いまの日銀は、中央銀行としてやってはならないことをやりまくってるわけですよ。いったん買い入れると市中での売却が難しい長期国債や、株や土地のように価格が大きく変動するリスク性資産を買いまくっている。正統派金融論の常識では、通貨の信認を守るため、中央銀行が固く禁じられてきたことを、黒田日銀は10年以上も続けてきた。これは由々しきことです。

 

山本:法律上は、財政法で日銀が直接引き受けることを財政ファイナンスと定義しています。したがって、日銀による市場からの国債買い入れは、法律的には財政ファイナンスには相当しないということになるのでしょうが、経済機能的に言えば財政ファイナンスとほぼ同じですね。

伝統的に多くの中央銀行は、そのような財政ファイナンスが行えないようにする、いくつかの仕掛けを用意してきました。日銀にも、「日銀が保有する長期国債の残高は、銀行券発行残高を上限とする」という銀行券ルールという内部規律が存在しました。しかし異次元緩和では、このルールは一時的に適用停止(注.現在も停止中)されてしまい、国債の大量購入に歯止めをかける仕掛けが骨抜きにされてしまいました。

 

藤巻:普通の中央銀行はこんなことしないですよ。私は、やはり財政破綻を免れるために日銀は政府を手助けしているように思っています。

 

「統合政府論」という考え

−−11年に及ぶ、空前の金融緩和で日銀のバランスシートは異様なまでに拡大しています。一方で、リフレ派の経済学者やMMT論者たちは、日本には潤沢な資産があるので、まだまだ国債を買い入れる余地がある、と主張しています。彼らは、国が支払う利払い費は、国債を買い入れた日銀に支払われるので、たとえ、今後、利払い費が増えても、子会社である日銀から親会社の政府に還流されるので全く問題は生じないといいます。それどころか、市場に流通する国債を日銀がすべて買い入れてしまえば、財政再建が完了するという識者もいます。

藤巻:これは「統合政府論」という考えですね。日銀は政府の事実上の子会社であるから、日銀が、政府発行の国債を保有していることは、子会社が親会社の債務を負っているに過ぎないことになります。そこで政府と日銀を統合したバランスシート(図参照)を作ると、国の負債である国債と日銀の資産である国債が相殺されて、バランスシートから国債が消えてしまいます(実際には、日銀は国が発行した国債の約50%しか所有しておらず、残り50%の国債は相殺されません)

統合政府論者は、政府が国債の金利を支払っても子会社である日銀がその金利を受け取り、利益の一部として政府に戻すのだから問題はない。したがって日本の財政はおよそ危機的ではなく、まだまだ財政余力があり、引き続き大量の国債を発行できると主張します。

 

しかし、だからと言って、統合政府の債務が消えるわけではありません。上の図でいえば、青色の国債だけは相殺されるけれども、統合後は国債の替わりにオレンジ色の「日銀当座預金」という債務が残るのです。「そっちのことを気にしなくてもいいんですか」という話なんです。

藤巻家を例にして考えてみましょう。歳をとって借金する能力がなくなった私の代わりに息子が銀行から借金をして私に貸し、そのお金で私が家を建てたとしましょう。確かに藤巻家でみると、親子間の貸借は相殺でなくなるかもしれませんが、息子には借りた住宅ローンが残ります。息子は銀行に利子を払いながら住宅ローンの返済を続けていかねばなりません。

 

英語では財政ファイナンスのことをマネタイゼーションと言います。国債(長期負債)を通貨に変える超短期負債化)からです。現在のような超低金利時代には問題は顕在化しませんが、ひとたび金利が上昇すると、一気に利払い費が増えて、国全体として大変危険な状態になります。「統合政府で考えれば財政は健全」という考えは、財政ファイナンスは正しいと主張するに等しいわけですから、どう考えてもトンデモ理論です。

 

山本:藤巻さんおっしゃる通りで、政府の子会社である中央銀行が国債を買えば、国債が相殺されて消えるので財政再建が完了するというのは、これは100%間違っています、

藤巻さんが作成された図を見ていただくとわかるように、国債という政府の債務が日銀当座預金という日銀の債務に置き換わったに過ぎません。日銀当座預金は、日銀の金融機関に対する債務、すなわち借金です。統合政府で見ても、膨大な債務が残る以上、全く財政再建が完了したわけではない。

 

要するに、政府の信認が低下すれば、論理的に日銀の信認も低下し、日銀が発行する通貨の円の信認も低下することになります。政府の財政状態を示す「一般政府の債務残高対GDP比率(2022年実績見込み)」は257%と、世界約190ヵ国・地域中第2位の高さにあります。日本より財政状態が悪いのは、中東紛争でイスラエルと交戦状態にあるレバノンだけで、日本の財政状態は、内戦状態にあった第3位のスーダンよりもかなり悪い。国と通貨に対する信認は先人たちの努力の積み重ねによって築き上げられてきたものですが、このような財政状態を続けていて、いつまで信認を保ち続けることができるのか不安になります。

 

藤巻:数字だけでみれば、債務残高対GDP比率257%は、太平洋戦争直後よりも悪いですからね。結局、そのときは、日本は悪性インフレを抑えきれず、1946年(昭和21年)に預金封鎖と新円切り替えを強行し、インフレと国民の負担によって財政赤字を帳消しにしました。いまはまだ問題が顕在化していませんが、国民の皆さんも現在の財政状態は戦時や戦争直後よりも悪いという認識をしてほしいですよね、

 

−−日本には、換金可能な潤沢な金融資産と有形固定資産があるので、財政危機など杞憂にすぎないという意見もあります。

山本:国は741兆円もの資産を保有しているので心配はないという方がいらっしゃるのですが、そんな楽観視ができるような状態ではありません。

図(国の賃借対照表)をご覧ください。実は国の資産は、この負債サイドとの見合いになっています。例えば有価証券126兆円のほとんどが外貨証券です。これは外貨準備の運用として持っている有価証券ですが、仮に売れるとしてもその代金は右側にある政府短期証券の償還に充てられなければいけないというルールがあります。

 

有形固定資産も195兆円ありますが、これは橋や道路などのインフラなので、これも簡単に売れるようなものではありません、実際のところ、国の資産741兆円には、自由に売却できるようなものはなく、新しい財源になるようなものはほとんど存在しません。

一方、バランスシートの右側の負債サイドを見ると、「負債および資産・負債差額合計」の702兆円があります。日本は、資産以上に負債を抱えており、国債の発行額が保有する資産の評価額を702兆円も超えていることを意味します。言い方を変えれば、国は702兆円の債務超過の状態にあります。

ただし、債務超過になったからといって、直ちに国が破綻するというわけではありません。なぜなら、国には、国民から税金を集める徴税権が認められているからです。将来、国民に課される税金でこの差額は埋められるという仮定で成り立っている、そういうバランスシートになっているわけです。

ただし、日本は、民主主義社会ですから、国に徴税する権利があるからといって、増税はそんなに簡単ではありません。税率3%で始まった消費税を10%に引き上げることに30年間もかかったことを思えば、増税が簡単ではないことがわかります。

702兆円に及ぶ資産負債差額がさらに増えるようになれば、マーケットにおいて国への信頼が揺らぐ危険があります。すでに日本の財政は持続可能性を疑われる状態にありますから、将来を楽観視するのではなく市場が不安を持つ前に早く財政再建に着手する必要があるというふうに思っています。

 

藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りで、楽観視できる状態ではありません。

基本的にGDPと税収は、大雑把に言えば比例関係が成り立ちます。GDPが2倍になれば、個人の収入も2倍になり、国の税収や歳出も2倍になるということです。

財政の健全度を表す「債務残高対GDP比率」は、税収と借金の比率を示す指標です。いうなれば、税収で借金を返す難易度ランキングです。これが世界最悪レベルにあるということは、財政を再建することが世界で最も難しいことを意味します。我が国が置かれている状況はかくも深刻であることを、国民も認識すべきだと、私は思います。

 

第3回記事<「黒田日銀」は国民に幸福をバラ撒きすぎた…これからやってくるとてつもない「しっぺ返し」>では、「異次元緩和には出口はあるのか」について議論する。

山本 謙三、藤巻 健史①「異次元緩和」これからどんなツケを払うことになるのか


山本 謙三、藤巻 健史①「異次元緩和」これからどんなツケを払うことになるのか

2024年10月07日 14時10分19秒 | 社会

私たちはこれからどんなツケを払うことになるのか…なんと11年に及んだ「異次元緩和」がもたらしたもの

Yahoo news  2024/10/7(月)   現代ビジネス 山本 謙三、藤巻 健史

 

(撮影:森清)

元モルガン銀行・日本代表兼東京支店長で伝説のトレーダーと呼ばれる藤巻健史氏が心酔するのが元日銀理事の山本謙三氏だ。同氏は、「異次元緩和」は激烈な副作用がある金融政策で、その「出口」には途方もない困難と痛みが待ち受けていると警鐘を鳴らす。

2024年9月17日講談社現代新書より山本氏初の本格的著作となる『異次元緩和の罪と罰』が刊行された。これを記念して、著者である山本氏と藤巻氏が、異次元緩和の功罪を検証する対談を行った。

現代ビジネスでは、その対談の内容を3本の動画に分割して公開する。第1回目は、「史上最大の経済実験と呼ばれる異次元緩和は本当に成功したのか?」について議論する。

以下、対談の要旨を掲載する。

 

37年にわたる付き合い

藤巻:私は、普段は全く人の本を読まないのですが、さすがに今回は、尊敬する山本さんが書いた本だということで、全部きっちり読ませていただきました。重要なところはマーカーで線を引いて精読しました、いや、本当に素晴らしい作品です。

 

藤巻健史(ふじまきたけし)氏。1950年、東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後、三井信託銀行に入行。80年、行費留学にてMBAを取得(米ノースウエスタン大学大学院・ケロッグスクール)。帰国後、三井信託銀行ロンドン支店勤務を経て、85年、米モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)に入行。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、当時としては東京市場唯一の外銀日本人支店長兼在日代表に抜擢される。同行会長からは「伝説のディーラー」と称された。

2000年、モルガン銀行を退行後、世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーなどを務めた。1999年より2012年まで一橋大学経済学部で、02年より09年まで早稲田大学大学院商学研究科で非常勤講師を務める。2020年に旭日中綬章を受章。日本金融学会所属。現在、参議院議員。(株)フジマキ・ジャパン代表取締役。東洋学園大学理事。

 

はじめて、私が山本さんにお会いしたのは、1987年のことです。当時、私はモルガン銀行日本支店の責任者(日本代表)で、山本さんは日銀の外銀担当の係長でした。以来、37年にわたってお付き合いいただき、金融政策について議論を重ねてきました。

私は金融マーケットのスペシャリストとして、黎明期から活躍し、生き残ってきた最古参のトレーダーです。これまで、金融市場の中心人物といわれるプレイヤーだけでなく、日銀や金融庁などの監督サイドの要人にも多数お目にかかりましたが、山本さんほど素晴らしい知識があって、実務経験のある方はいませんでした。私は金融の知識や経験については、人に負けない自信があるのですが、それでもやっぱりわからないことが出てきます。そんな時はいつも山本さんに助言を求めてきました。どうして、そんな優れた人が、今まで本を書かれなかったのかなという思いさえあります。そういう意味でも、山本さんの初の著作にして大変な力作である『異次元緩和の罪と罰』は、ぜひ皆さんに読んでいただきたいと思っています。

 

山本:面映ゆいほどのお言葉ありがとうございます。1987年に最初におめにかかったとき、すでに藤巻さんは名うてディーラーでした。最初にお目にかかったときは、マーケットを非常に大事にされる方という印象を持ちました。「金融機関の資産の評価は、簿価評価ではなく、常に時価評価でなければいけない」「金利の自由化を急ぐべきである」など、私は藤巻さんから教えていただいたことを大変参考にして、金利の自由化などを進めてきました。

 

山本謙三(やまもと けんぞう)氏 1954年 福岡県生まれ。76年日本銀行入行。98年、企画局企画課長として日銀法改正後初の金融政策決定会合の運営に当たる。金融市場局長、米州統括役、決済機構局長、金融機構局長を経て、2008年、理事。金融機構局、決済機構局の担当として、リーマンショックや東日本大震災後の金融・決済システムの安定に尽力。2012年NTTデータ経営研究所取締役会長。2018年からはオフィス金融経済イニシアティブ代表として、講演や寄稿を中心に活動している。

 

史上最大級の経済実験

写真:現代ビジネス

--あしかけ11年にわたって行われた「異次元緩和」ですが、一般の理解は十分ではありません。史上最大級の経済実験とも呼ばれる「異次元緩和」とはどのようなものだったのでしょうか?

 

山本:日銀が2013年の4月から開始した金融政策を異次元緩和と呼びます。いわゆるリフレ派の主張を強く色濃く反映した金融政策で、私なりに要約しますと、その考え方の柱は大きく分けて3つあります。

第1は、日本経済の停滞の原因は、デフレすなわち持続的な物価の下落にあるという現状認識です。第2の柱は、日銀の責務は、その物価を押し上げることつまり物価目標を達成することにあるという信念です。第3は、物価を押し上げるには、市場に資金を大量に供給して、同時に「物価目標を必ず達成する」と国民に約束するというアプローチです。こうした考え方に基づいて、黒田東彦前日銀総裁は以下のような目標を掲げました。

「〈資金の供給量を約2倍に増やすことによって物価目標を2年程度で必ず達成する〉と日銀が約束すれば、国民がこれを信じて、人々のインフレ心理が高まり、実際の物価も上がる」。異次元緩和は、このように極めてシンプルなシナリオに基づいて行われた政策でした。

ただし、このシナリオは、過去に実証されたことがないもので、それゆえ実験的な金融政策と呼ばれました。

 

--実験的な金融政策、異次元緩和の評価については、専門家の間でも意見が大きく異なります。いわゆるリフレ派は「異次元緩和」の効果を高く評価して、長く低迷してきた日本経済を復活させたように言っていますが、山本さんはどう評価されますか、異次元緩和は本当に成功したのでしょうか?

 

山本:もともと2年程度での期限で、目標の達成を目指すという政策が、(目標を達成できずに)11年間も続けられてきたわけですから、その一事を持ってしても、この政策が成功ではなかったことは明らかです。黒田日銀総裁は前任の白川総裁までの金融政策を「小出しである」「戦力の逐次投入である」と批判し、異次元緩和では「必要な政策を全て講じた」とまで言い切りました。

にもかかわらず、最初の9年間は、出だしこそ良かったものの、物価はなかなか上がらず、自ら否定していた政策の逐次投入を行うことになりました。ただし、小出しではなく、黒田バズーカと呼ばれた、市場にサプライズを与えるような大がかりな政策を次々に投入しました。こうした経緯を踏まえても、黒田日銀が根拠とした「日本経済の停滞の原因は、デフレすなわち持続的な物価の下落にある」という見立てが、見当違いだったように思えます。

 

私は、日本経済の抱える問題は、金融緩和の不足にあったのではなくて、生産性の低下によるものであったと理解しています。異次元緩和は、市場への介入を強めた結果、金利や為替市場の機能を著しく低下させ、日本経済の新陳代謝を著しく阻害したと考えています。

 

藤巻:山本さんのおっしゃったことはまさにその通りですが、私は異次元緩和には、財政危機を先送りする隠された意図があったと考えています。ちょっと過激な見立てなので、日銀OBの山本さんは否定されるかもしれませんが…。

 

物価上昇にこだわる理由

写真:現代ビジネス

 

--山本さんは、『異次元緩和の罪と罰』のなかで、「物価目標2%」への日銀の尋常ならざるこだわりが、期間限定だった金融緩和をずるずると11年続けることにつながり、もはや後戻りできない困難な事態を招いたと分析しています。なぜ、日銀は物価を上げることにそれほどまでにこだわったのでしょうか

 

山本:物価目標自体は1980年代の後半から各国の中央銀行が採用するようになっています。ただし、その多くは、インフレによって物価の高騰が続いた国が、物価を抑える目標として定めたものでした。日本の場合、これらの国とは違って、物価が上がらないデフレ的な状況が長く続いたため、物価を上げる目標として2%を設定しました。背景には、中央銀行として説明責任を果たしたほうがよいという考えがありました。

ただし、物価目標2%の捉え方は各国中銀でまちまちで、日銀のように物価目標2%を絶対視している中央銀行はなく、もっと柔軟な政策運営を行っています。

 

一方、異次元緩和では、物価目標2%を絶対視した結果、超緩和的な金融政策を達成目標の2年を超えて11年も続けることになりました。

先ほど申し上げましたように、もともと、この政策のベースになっているのは、「物価目標2%が必ず達成される」と国民に信じ込ませることに重点があったために、「絶対に2%は譲らない」という強い姿勢を示したかったのだと思います。

ただ、もともと2%という数字に絶対的な何か根拠があるわけではありません。アメリカでさえ、FRB(連邦準備制度理事会)が重視している物価指標(コアPCEデフレーター前年比)の実績は、高インフレが収束した1990年代半ば以降、ほとんどの期間で1%台でした。1%を超えたのは、直近のインフレを除くと、2005年から2007年の3年間だけです。しかもこの3年間は、平均するとわずか年率2.3%にすぎず、目安となる2%をわずかに超えただけです。にもかかわらず、この物価上昇は、住宅バブルを発生させました。そして、その後に起きた住宅バブルの崩壊はリーマンショックに繋がっていき、世界的な金融システムの不安と景気の後退へと連鎖していきます。やはり、振り返ってみると、2%という目標を絶対視するという政策はリスクが大きい政策だったように思います。

 

藤巻:2%を絶対視するなという主張については同感ですね。山本さんと少し違うのは、黒田日銀の異次元緩和には財政危機を先送りしたいという(隠れた)意図があるがゆえに、2%という物価目標に執着したのではないかと思っています。現状の物価は、2%を超えているにもかかわらず、「出口」がないから、安定的な物価目標2%を達成していないという理由で金融緩和を継続しているような気がします。

それともう一つ、これも昔から山本さんと同じ意見だったのですが、単に消費者物価指数だけではなく、資産価格も景気に大きな影響を与えます。特に顕著だったのが1985年から90年の資産バブルです。

 

表を見ていただくとわかりますが、バブル時代は、消費者物価指数は、1985年こそ2.0%でしたが、86年は0.8%、87年は0.3%、88年は0.4%しかありません。いまの2%よりもはるかに物価は低かったにもかかわらず、日本は狂乱経済と言われるほどに景気がよくなりました。84年に1万1542円だった日経平均は、89年には3万8915円と3.4倍近くに高騰し、地価も急騰しました。資産価格が暴騰したがゆえに景気が良くなりすぎて、バブルが起きたわけです。こうした動きを見ていると、また同じ間違いをするじゃないかと不安になってきます。

バブル時代は、円高がものすごい勢いで進んだこともあり、物価は上昇しませんでしたが、当時とは逆に現在は急激な円安が進んでいるので、資産効果によるインフレが起きる可能性もあります。

 

第2回記事<いまの日銀は、「中央銀行としてやってはならないこと」をやりまくっている…「日本が置かれた深刻な状況」の実態>では、「異次元緩和がもたらした財政規律の緩み」について議論する。

 

*本対談のきっかけとなった山本謙三『異次元緩和の罪と罰』(講談社現代新書)では、異次元緩和の成果を分析するとともに、歴史に残る野心的な経済実験の功罪を検証しています。2%の物価目標にこだわるあまり、本来、2年の期間限定だった副作用の強い金融政策を11年も続け、事実上の財政ファイナンスが行われた結果、日本の財政規律は失われ、日銀の財務はきわめて脆弱なものになりました。これから植田日銀は途方もない困難と痛みを伴う「出口」に歩みを進めることになります。異次元緩和という長きにわたる「宴」が終わったいま、私たちはどのようなツケを払うことになるのでしょうか。

 


山形市 山形県立博物館③城輪柵 慈恩寺 大石田

2024年10月07日 10時02分56秒 | 山形県

山形県立博物館。山形市霞城町。

2024年9月8日(日)。

城輪柵(きのわのさく)。

奈良時代末期に造営された出羽国国府。庄内平野北半部のほぼ中央東寄りに位置する。

遺跡の外郭は一辺約720mの方形をなし、その各辺中央に八脚門を構え、また各四隅に2×3間の小さな櫓状遺構を配している。遺跡の中心部は自然堤防を核として整地され、周辺より1m程高い。一辺約115mの1本柱塀や築地塀で囲まれた政庁の正殿や後殿、東西両脇殿等の主要殿舎群が「コ」字形に配置された。

慈恩寺(じおんじ)。山形県寒河江市。

神亀元年(724年)行基が、この地が景勝の地であるのを見て京に帰り、聖武天皇に奏上し、天平18年(746年)聖武天皇の勅命でインドの婆羅門僧正が開山したという。その後、鳥羽天皇の勅で再建され、後白河法皇と源頼朝によって山号を与えられた。平安時代は藤原摂関家、鎌倉・室町時代は地頭・寒河江大江氏の庇護を受け、寒河江大江氏が滅ぶと最上氏や江戸幕府によって寺領を認められた。

江戸時代には東北随一の御朱印地を有し、院坊の数は3ヵ院48坊に達した。

本尊は弥勒菩薩で、脇侍として地蔵菩薩、釈迦如来、不動明王と降三世明王を配する日本国内でも珍しい五尊形式である。創建当初は八幡大菩薩を鎮守神として祭っていたが、時代の変化とともに法相宗、真言宗、天台宗を取り入れ、現在は天台宗真言宗兼学の一山寺院として慈恩宗を称する。

 

見学後、二の丸東大手門から市街に出て、聖ペテロ教会へ向かった。

山形市 山形県立博物館②古墳時代 大之越古墳 単凰式環頭太刀