日本語の原郷は「中国東北部の農耕民」 国際研究チームが発表
Yahoo news 2021/11/13(土) 毎日新聞
日本語の元となる言語を最初に話したのは、約9000年前に中国東北地方の西遼河(せいりょうが)流域に住んでいたキビ・アワ栽培の農耕民だったと、ドイツなどの国際研究チームが発表した。10日(日本時間11日)の英科学誌ネイチャーに掲載された。
日本語(琉球語を含む)、韓国語、モンゴル語、ツングース語、トルコ語などユーラシア大陸に広範に広がるトランスユーラシア語の起源と拡散はアジア先史学で大きな論争になっている。今回の発表は、その起源を解明するとともに、この言語の拡散を農耕が担っていたとする画期的新説として注目される。
研究チームはドイツのマックス・プランク人類史科学研究所を中心に、日本、中国、韓国、ロシア、米国などの言語学者、考古学者、人類学(遺伝学)者で構成。98言語の農業に関連した語彙(ごい)や古人骨のDNA解析、考古学のデータベースという各学問分野の膨大な資料を組み合わせることにより、従来なかった精度と信頼度でトランスユーラシア言語の共通の祖先の居住地や分散ルート、時期を分析した。
その結果、この共通の祖先は約9000年前(日本列島は縄文時代早期)、中国東北部、瀋陽の北方を流れる西遼河流域に住んでいたキビ・アワ農耕民と判明。その後、数千年かけて北方や東方のアムール地方や沿海州、南方の中国・遼東半島や朝鮮半島など周辺に移住し、農耕の普及とともに言語も拡散した。朝鮮半島では農作物にイネとムギも加わった。日本列島へは約3000年前、「日琉(にちりゅう)語族」として、水田稲作農耕を伴って朝鮮半島から九州北部に到達したと結論づけた。
研究チームの一人、同研究所のマーク・ハドソン博士(考古学)によると、日本列島では、新たに入ってきた言語が先住者である縄文人の言語に置き換わり、古い言語はアイヌ語となって孤立して残ったという。
一方、沖縄は本土とは異なるユニークな経緯をたどったようだ。沖縄県・宮古島の長墓遺跡から出土した人骨の分析などの結果、11世紀ごろに始まるグスク時代に九州から多くの本土日本人が農耕と琉球語を持って移住し、それ以前の言語と置き換わったと推定できるという。
このほか、縄文人と共通のDNAを持つ人骨が朝鮮半島で見つかるといった成果もあり、今回の研究は多方面から日本列島文化の成立史に影響を与えそうだ。
共著者の一人で、農耕の伝播(でんぱ)に詳しい高宮広土・鹿児島大教授(先史人類学)は「中国の東北地域からユーラシアの各地域に農耕が広がり、元々の日本語を話している人たちも農耕を伴って九州に入ってきたと、今回示された。国際的で学際的なメンバーがそろっている研究で、言語、考古、遺伝学ともに同じ方向を向く結果になった。かなりしっかりしたデータが得られていると思う」と話す。
研究チームのリーダーでマックス・プランク人類史科学研究所のマーティン・ロッベエツ教授(言語学)は「自分の言語や文化のルーツが現在の国境を越えていることを受け入れるには、ある種のアイデンティティーの方向転換が必要になるかもしれない。それは必ずしも簡単なステップではない」としながら、「人類史の科学は、すべての言語、文化、および人々の歴史に長期間の相互作用と混合があったことを示している」と、幅広い視野から研究の現代的意義を語っている。【伊藤和史】
韓国語の起源は9000年前、中国北東部・遼河の農耕民
Yahoo news 2021/11/13(土) 朝鮮日報日本語版 李永完(イ・ヨンワン)科学専門記者
韓国語がチュルク語・モンゴル語・日本語と共に9000年前の新石器時代、中国東北部で暮らしていた農耕民から始まったことが明らかになった。これまでは、それよりはるか後に中央アジア遊牧民が全世界に移住して同様の体系を持つ言語が広がったと言われていた。
ドイツのマックス・プランク人類史科学研究所のマーティン・ロベーツ博士研究陣は「言語学と考古学、遺伝学の研究結果を総合分析した結果、ヨーロッパから東アジアに至るトランスユーラシア語族が新石器時代に中国・遼河一帯でキビを栽培していた農耕民たちの移住の結果であることを確認した」と11日、国際学術誌「ネイチャー」で発表した。
■母音調和・文章構造が似ているトランスユーラシア語
今回の研究にはドイツと韓国・米国・中国・日本・ロシアなど10カ国の国語学者、考古学者、遺伝生物学者41人が参加し、韓国外国語大学のイ・ソンハ教授とアン・ギュドン博士、東亜大学のキム・ジェヒョン教授、ソウル大学のマシュー・コンテ研究員ら韓国国内の研究陣も論文に共著者として記載されている。
トランスユーラシア語族はアルタイ語族とも呼ばれ、西方のチュルク語、中央アジアのモンゴル語、シベリアのツングース語、東アジアの韓国語と日本語からなる。汁などが煮え立つ時の擬声語・擬態語である「ポグルポグル(ぐつぐつ)、プグルプグル(ぐらぐら)」のように前の音節の母音と後ろの音節の母音が同じ種類同士になる「母音調和」がある点や、「私はご飯を食べる」のように主語、目的語、述語の順に文が成り立っている点、「きれいな花」のように修飾語が前にくる点も共通の特徴だ。
トランスユーラシア語族はユーラシア大陸を横断する膨大な言語集団であるにもかかわらず、起源や広まった過程が不明確で、学界で論争の対象となっていた。ロベーツ博士の研究陣は古代の農業と畜産に関連する語彙(ごい)を分析する一方、この地域の新石器・青銅器が出ると見られる遺跡255カ所の考古学研究結果や、韓国と日本で暮らしていた初期農耕民の遺伝子分析結果まで比較した。
研究陣があらゆる情報を総合分析した結果、約9000年前に中国・遼河地域でキビを栽培していたトランスユーラシア祖先言語の使用者たちが新石器初期から北東アジア地域を横断するように移動したことを確認した、と明らかにした。
■新石器時代の韓国人と日本人の遺伝子が一致
今回の「農耕民仮説」によると、トランスユーラシア祖先言語は北方と西方ではシベリアと中央アジアの草原地帯に広がり、東方では韓国と日本に至った。これは3000-4000年前、東部草原地帯から出た遊牧民が移住し、トランスユーラシア語が広がったという「遊牧民仮説」を覆す結果だ。
ロベーツ博士は「現在の国境を越える言語と文化の起源を受け入れれば、アイデンティティーを再確立できる」「人類史の科学は言語と文化、人間の歴史が相互作用と混合の拡張の1つであることを示している」と述べた。
韓国外国語大学のイ・ソンハ教授は「各分野の研究結果を立体的に総合分析し、トランスユーラシア語が牧畜ではなく農業の拡大による結果であることを立証したという点で注目すべき成果だ」「韓国の(慶尚南道統営市)欲知島の遺跡で出土した古代人のデオキシリボ核酸(DNA)分析により、中期新石器時代の韓国人の祖先の遺伝子が日本の先住民である縄文人と95%一致するという事実も初めて確認した」と語った。