deep forest

しはんの自伝的な私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

80・バイク

2018-12-26 13:21:07 | Weblog
 バイクブームがやってきていた。突如として出現したフレディ・スペンサーという天才レーサーが、世界GPを席巻しているらしい。ワイン・ガードナー、ケニー・ロバーツらと死闘をくりひろげ、しかも同時に、彼らの駆るホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキという日本のバイクメーカーが、最高峰の舞台でしのぎを削っている。さらに日本人でも、平忠彦というスターライダーが誕生し、テック21というかっこいいバイクで、鈴鹿の八耐をドラマチックに走り抜けている。免許を取得できる年齢に達したワカモノにとっては、たまらなく心躍る話ではないか。マッタニの部屋の床に転がっているバイク雑誌を開いては、まったくこの命知らずの連中ときたら、なんという角度にまで車体を傾けてカーブに突っ込んでいくのだ、と感嘆しつつ、羨望した。
 彫刻科の駐輪場を見わたすと、いつの間にかチャリの数が減り、バイクだらけになっている。マッタニは当初から、両手で抱き上げられるほどコンパクトな「モンキー」というミニバイクに乗っている。大人用の三輪車か、と思えるようなそいつにまたがる(しゃがみ込む、と言おうか)マッタニの姿は、まるでお猿の機関車運転手のようだ。なるほど、モンキーなのだ。その横には、同級生たちのバイクがずらりと並んでいる。ホンダNS400R、VT250、ヤマハFZ400R、SRX250・・・昭和最後期に活躍した、キラ星のような名車たちだ。高校から一緒に入学した日本画科のイトコンも、いつの間にかCB400に乗っているし、油絵科の麗しきくにちゃんも、黒いツナギに身を包み、かっこいいレーサーに乗っている。他にも、同級生たちの50ccが次々に横付けされていく。いつの間にこいつら、免許を取っていたのか?岐阜のダイエー横の空き地で拾った真っ赤なチャリ「カマキリ号」を駆りつつ、オレは焦る。
 そんなとき、バイト先で、悪い先輩・アキヤマと知り合った。ちょっと男前で、女たらし風のこいつは、村さ来から支給されるオレンジのバイトTシャツ(なぜ紫でないのか?)を肩までたくし上げ、片岡義男の小説に出てきそうなスタイリッシュさを醸している。それもそのはずだ。この男は、美大からさらに僻地方向に奥まった工業大学に通っていて、休日には、小立野の谷向こうにある医王山のくねくねとした峠道を走り回っている、バリバリ伝説的ライダーなのだ。そのアキヤマが、耳元で囁き掛けてくる。
「バイクなら俺、新しいのに乗り換えるから、旧いカワサキでよかったら、10万でゆずってやるよ」
 「GPZ400」という、真っ黒なイカツイやつだ。8000キロ走っているが、そこそこ状態もよろしそうで、バトラックスという、走り屋仕様のシブいタイヤをはいている。車検も二年残っていて、まあまあお買い得か。いよいよオレは焦る。金の問題もあるが、それに先立って、まずは・・・
「バイク免許を取らなきゃ・・・」
 夏休みに入ると、矢も盾もたまらず、岐阜に帰省した。せいしゅんの時間を、いっときも無駄にできない。教習所に通うのだ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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