deep forest

しはんの自伝的な私小説世界です。
生まれてからこれまでの営みをオモシロおかしく備忘しとこう、という試み。

13・パーリーピーポー

2019-09-30 17:35:17 | Weblog
 なんだか、パーティばかり催されるのだ。バブル期で、日本中がこんな具合いに浮かれた雰囲気だったのかもしれない。マンガ界でも、とにかくしょっちゅう、なんやかんやとパーティが行われている。まず、「なんとか賞の授賞式」というのがある。スピリッツ誌にも新人賞が二種類あって、月間賞、という毎月のやつと、半年に一度の大々的な、賞金も豪華なメインの賞とがある。その受賞の発表後に、いちいち(当然だが)パーティが開催される。担当編集者は、子飼いにしている飢えた新人作家に哀れみをかけ、そんな会場に呼んで養ってくれる。普段、コンビニ弁当しか与えられていないオレたちにとって、パーティは重要な栄養摂取の機会だ。この場にもぐり込むために、新人はネームを描き、担当の元に足を運ぶと言っても過言ではない。
 毎月のように、なんとかホテルのかんとかの間だ、どこどこ会館だ、なになに飯店だ、と聞きつけては、お邪魔をする。パーティは、大抵の場合が立食で、要するに食べ放題だ。出版界は景気もよく、料理にも大盤振る舞いをしてくれる。鮮やかなパテが花壇のような面積で並べられ、フロアの一角ではローストビーフがコックの手でスライスされている。ふと見ると、ライチがバットにふんだんに盛り上げられ、小山を築いている。楊貴妃の好物で、産地から都まで早馬で運ばせたという幻のやつではないか。わたくしも食してみる。うまいっ!上京したこの年は、一生で最も多くのライチを食べた一年となった。
 マンガ家ら個人も、事あるごとにパーティを開いている。出版記念だ、増刷だ、何周年記念だ、ドラマ化だ、映画化だ・・・マンガが売れて売れてしょうがない時代らしい。少年マガジンが400部発行された、少年ジャンプは600万部だ、と、夢のような数字が飛び交っている。マンガ家氏たちのふところもふくらむ一方だ。ある夜、例の酒場で仕事にへとへとになって飲んでいると、某売れっ子マンガ家さんに「カラオケにいこう」と誘われた。すでに深夜の2時をまわっている。おごるから、と言うので、ほいほいとついていくと、江古田からタクシーで六本木にまで乗りつけている。目の前にはお城のような建物がそびえ建つ。手を引かれるままに中に入り、ボックス席に座った途端に、両サイドにジェニファー・ビールスとジュリア・ロバーツみたいな超ミニスカートのお姉ちゃんがかしずいてくれる。呆然としたまま、なにか一曲を歌わされたようだが、記憶がない。黄色い太陽が昇らんとする帰りのタクシーの中で、支払いはいくらでした?と、後学のために売れっ子氏に訊くと、事もなげに「40まん」と返ってくる。冷や汗が流れる。聞かなかったことにして、眠りに沈む。
 最も大きなパーティは、出版社本体が主催する忘年会だ。このパーティは、規模が桁違いだ。有名ホテルの広大なフロアを使い、日本中のマンガ家たちが一堂に会する。アシスタントたちもお供ができるので、もちろんもぐり込む。ステージ上では、おぼん・こぼんと、細川ふみえが司会をやっている。会場内には、「お~い竜馬」を原作している武田鉄矢や、闘魂コラムを連載しているアントニオ猪木までが闊歩している。藤子不二雄が出版社幹部に取り巻かれている。江口寿史もいるし、内田春菊も森園みるくもいるし、もちろん楳図かずおもシマシマシャツでウロウロしている。なぜかいしかわじゅんに「たのしんでる?」と声を掛けられる。UFOから降りてきた宇宙人のような扮装をしたハイレグのお姉ちゃんたちが、飲み物をどうぞ、とグラスをよこしてくる。めくるめく光景だ。ステージ上では、ビンゴ大会がはじまった。弘兼憲史の社会派マンガを原作している猪瀬直樹が、大画面テレビをゲットして、舞台上で挨拶をしている。まったく、とんでもない世界だ。(有名人物は敬称略で失礼)
 しかし、そんな幻想は一晩かぎりだ。翌日には、現実世界に連れ戻される。四畳半一間に四人が雁首を並べ、時給333円なりで夜明けまでペンを走らせている。うちのマンガ家先生も相当な原稿料をもらっているはずなのだが、この出し渋りっぷりはどうしたものだろう?ページ一万円をもらっているとしても、毎週20枚で、月に四週だから・・・それくらいの月収にはなっているはずだ。なのに、仕事が長くなると、「長引いた分は、アシ代サービスしてね」などとのうのうとのたまう。銭ゲバだ。次第に、やつの性格の悪さにも我慢がならなくなってくる。この悪環境から抜け出すのは、喫緊の課題だ。タイトなタイトな時間を使い、オレは自作品を描きはじめた。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

12・ハセガワさん

2019-09-29 07:55:32 | Weblog
 翌週末。社交辞令だったのかもしれないが、山田さんの「忘年会においで」を額面通りに受け取り、パーティにお邪魔する。練馬駅前にあるレストランのワンフロアを貸し切りだ。中に入ってみると、部屋のサイドにバイキングのような「ご自由にどうぞ」の食べもの、飲みものがふんだんに並べられている。豪勢だ。フロアの中央には低いカラオケステージ、別の一角には特設のゲームコーナーまでが設えられていて、各種催しものが会を盛り立てている。若い男女が30人ほどもいるだろうか。山田さんと親交のある「第三野球部」のむつ利之さんや、「つるピカハゲ丸くん」ののむらしんぼさん、のちに「カイジ」を描くことになる福本伸行さんもいる。しかし集まったうちの大半は、彼らのアシスタントと思われる。そして、どういうわけか女子大生が何人かいる。
「やあ、きたね」
 山田さんは、来客たちにとても気を配っている。こんな新参者にも、自然にくつろげる空気をつくってくれるのだ。大先生の品格を身にまといつつ、友人のような気安さで接してくれて、本当にありがたい。周囲と会話を交わすうちに、すぐに場になじむことができた。
 女子大生らの正体は、日芸の学生だった。山田さんの仕事場に「メシスタント(食事を用意するスタッフ)」としてひとりの日芸女子がおり、彼女が気を回して、同級生たちをこの場に招集したようだ。その女子、カイさんは、イングリット・バーグマンのようにゴージャスな顔立ちの美女だ。貫禄と言いたくなるような自信に満ちた立ち居振る舞いで、会場での存在感が際立っている。オレはこの女子とは、山田さんからのご招待以来、すでに何度も件の酒場で顔を合わせていて、懇意になっている。
「杉山サン、女の子たちを紹介するよ」
 カイさんは、お見合いババアのまねごとをするのが大好きらしい。なんというラッキーだろう。そうして、何人もの女子を紹介される。
「ゆりなちゃん、ゆみちゃん・・・そして、これが恭子ちゃんαね」
 恭子ちゃんにアルファが付くのは、もうひとりベータというのがいるからだが、この清楚なひとがひときわ美しい。凛として落ち着いたたたずまいは、まるで百合の花のようだ。上京するまでの一年半を男子校の教師として過ごし、久しく若い婦女子と触れ合う機会がなかった身には、目がチカチカするようなまばゆさだ。
 恭子ちゃんαは、日芸のマジ研で腕を磨くマジック女子で、さっき、カラオケのステージ上でも魔法を披露したばかりだ。まったくハラハラさせる手際なのだが、実はそれは演出で、最後の最後にはそのもたもたぶりをまるきり無しにするどんでん返しを用意している。そのあざやかな展開には、目を見張らされた。舞台上に呼ばれて助手をつとめていた山田さんまでが目を白黒させて、最高に盛り上がったのだった。
「あ・・・すぎやまです・・・」
「恭子です、よろしく」
 まぶしい。これが東京の女子大生かっ!目を合わせることもできない。
「で、あれが・・・」
 と、カイさんが最後に指差したのは、今カラオケを歌わされているメガネ女子で、ハセガワさん、という。内気そうなその子は、フシギ女子特有のつま先を内側にグネらせるななめ立ちで、オザケンを一生懸命に歌っている。カイさんが勝手に曲を入れ、無理矢理に彼女をステージ上に押し上げたにちがいない。背が低くて、ぽわーんとしたハセガワさんは、お経のように抑揚のない歌声をしぼり出しながら、それでも結構たのしそうに肩を揺らしている。よく見ると、薄みどり色のタイツの丈があまって、ひざ部分にたわんでいる。おかしなひとだなあ、と、そのひざのくしゅくしゅばかりが印象に残る。
「フィーリングカップル、5対5~!」
 突如として、ゲームの開始だ。男子と女子とがあっちとこっちに五人ずつ分かれ、いろんな質問を浴びせ合って相性をはかり、最後にいっせいに、意中のひとのスイッチを押す、という例のやつだ。スイッチの代わりにヒモを用いた原始的なものだが、かなり盛り上がる。オレも引っ張り出されて、参加することになった。ありがたいことに、恭子ちゃんαが同じ組だ。ついでにカイさんも、そしてハセガワさんもだ。ゲームが進み、ついにあの瞬間が待ち受ける。
「では、最終チョイス~!」
 決断の時間だ。せーの、でヒモを引く。
「わああ・・・」
 歓声が上がる。メガネのハセガワさんは、オレのヒモを引っ張ってくれている。しかしオレはあいにく、恭子ちゃんαのヒモを引っ張っている。ところが、恭子ちゃんαは山田さんのヒモを引っ張っていて、その山田さんがまたカイさんのヒモを引っ張っている。カイさんは、義理からか自分の先生のヒモを引っ張っているため、山田さんとカイさんがカップル成立、と相成った。
「予定調和でつまんねー!」
 ふたりが照れて手をつなぎ合う中、ブーイングが飛び交っている。オレはぼんやりと、失恋に似た苦味を噛みしめている。ふとハセガワさんを見ると、相変わらずぽわーんとしている。オレは、将来よめはんになるこのひとの、ひざのタイツのたわみがまだ気になっている。

つづく

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11・酒場の客

2019-09-28 07:49:33 | Weblog
 東京に友だちはひとりもいない。仕事場を離れ、江古田のアパートに帰り着けば、深刻なひとりぼっちだ。こうした環境では、まず最初に酒場を探さなければならない。酒こそ友。酒場こそ基地。そんな店を見つけねば。
 ぶらぶらと探険がてらに駅前を歩くと、江古田の街は小さいわりに、結構な繁華街をふところに抱えている。三つばかりの商店街が入り組み、その間隔を塗り込める形で、居酒屋、バー、カラオケボックス、その他飲食店が軒を連ねている。名の知れた居酒屋チェーン店にはほとんどお目にかかれるし、気分よく過ごせそうな小規模個人店も数多い。学生街なので、色っぽい店構えのものは少なく、気軽に入れそうな安酒場が大半だ。ウソかホントか、聞いた話によると、テナント数における居酒屋の割り合いが日本一、らしい。なかなかのパラダイスと言える。しかし、学生たちが大騒ぎをするような居酒屋に興味はない。ああいう場所にひとりでいると、よけいにさびしい気分にさせられる。それよりも、脱力してくつろげる「場末の酒場」が好みだ。そういう場所こそ、さびしそうに見えて、居心地がよろしいのだ。一軒の素っ気ないバーが目に入った。街の中央の雑多な地域で、小さな商業ビルの二階に「イングレイン」の看板を掲げている。酒場選びは、直感がすべてだ。降りてきた神託を信じ、入ってみる。
「いらっしゃいませ」
 ころりとした体型のマスターが、店の奥のカウンターでグラスを磨いている。のちに同い年とわかる彼は、こちらをひとり客と見ると、柔和な笑みを浮かべて、自分の目の前の席へと促してくれる。そんなマスターの横に、妖怪のようなおば・・・姐さん、と言わねば牙をむかれるが、銀座のママといった感じのものすごい迫力の女性がたたずんでいる。
「おひとりね?」
 タバコに荒れた声。厚化粧の奥にうずめられた眼光鋭い目つきで全身を睨めつけられ、値踏みされる。えらいところにきてしまったようだ。
 誰もいない四つ五つのテーブル席をパスし、とりあえず、おいでおいでをされるままに、四席しかないカウンターの真ん中に座る。打ちっ放しのコンクリートの壁に、むき出しの配管。簡素にして、清潔。スポットライトを壁の絵に当てるだけのほの暗さ。頭上の大画面テレビに、古いクラプトンの映像。すみっこでは、ひとりの男性客が自分のボトルからバーボンを飲んでいる。どうしよう・・・五千円しか持っていない。しかしメニューを見ると、たいした値段ではない。オレは、ひとりの酒はキリなく飲んでしまうたちなので、ボトルを手酌でないとだめなのだ。ええい、といきなり、いちばん安いジンをボトルで頼む。
「まあ、お強いんですのね」
 キのやつ(ショット)を歯ぐきで飲んでいるうちに、カウンター内のふたりと打ち解けていく。マスターは気さくで、場の空気をうまくつくり、おば・・・姐さんは辛辣だが、世間をよく知った風な重石になっている。常連らしき隣の客も朗らかで、頭がよさそうだ。悪い場所ではない。
「実はオレ、マンガ家になるために、先週上京したばかりなんです」
 ついに自己紹介をする。賞に引っかかりましてね、へへ、どうですか、なかなかの決断でしょう?マンガ家なんて、珍しくないす?なんてところだ。ところが、これを聞いた隣の客が、
「へえ。ぼくもマンガを描いてるんですよ」
などと言い出すではないか。聞いてみると彼は、のちにドラマにもなる「Dr.コトー診療所」で一世を風靡する山田貴敏さんだった。びっくり仰天ではないか。本物のマンガ家なんて、はじめて見た。しかも、オレはあまり単行本を買わないのだが、彼の「風のマリオ」だけはずっと書棚に置いているのだ。それは少年彫刻家を主人公としたマンガで、美大生にとってはバイブルのような一冊なのだ。東京で最初に飛び込んだ酒場で最初に隣り合わせたのが、その作者だとは。本当に託宣を得たような気分だ。
「だったら、来週、別の店でぼく主催の忘年会があるんだけど、こない?」
 山田さんに誘ってもらい、天にも昇る気持ちだ。運が向いてきたのかも知れない。なぜならその忘年会で、さらなる出会いが待っていたのだ。

つづく

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10・アシスタント

2019-09-26 20:51:09 | Weblog
 編集部の紹介で、とあるマンガ家氏のアシスタントとして働くことになった。その人物は、オレと同い年で、スピリッツ誌におけるこの新連載がデビュー作というルーキーだ。「塀の中の懲りない面々」でおなじみの安部譲二原作という話題作だが、その画を見たときの印象は、パッとしないなあ・・・というものだった。ありきたりで、魅力がわからない。オレの方がうまいことは一目瞭然だ。しかしまあ、技術習得のためだ。いろいろと勉強させてもらおう、と割り切って飛び込む。
 仕事場は、江古田のわがアパートからチャリで15分の場所にある、木造アパートの一室だ。マンガ家氏が住居としても使っているその部屋は、なんと四畳半で、ここにすでに二人のアシスタントが折りたたみ式のデスクをひろげている。それよりもひとまわり大きなマンガ家氏のデスクとの三台で、すでにスペースはいっぱいだ。最もペーペーであるオレは、仕方なく入口ドア脇のわずかなスペースにちゃぶ台を置き、諸先輩方のデスク下の暗がりでの作業を命じられた。
「雨を描いて」
 最初の仕事だ。マンガ家氏が原稿をよこしてくる。そこには、すでにワク線とフキダシ、それにマンガ家氏の描いたキャラに、先輩アシの背景が入っている。そこに雨粒の細線を散らかせ、というわけだ。なかなかドキドキな仕事ではないか。先生様の本番原稿を、画の上から無数の線で汚せ、と言われているに等しいのだから。
「ペンとインクは、これを使って」
 ペン軸とペン先、それに製図用のインク壺を渡される。つまり、木製のペンの柄に、金属製のペン先を付け、黒インクで描け、というのだ。マンガ家なら誰もが知る当たり前のことだが、ボールペンで処女作を描いたオレにとっては初耳の作法だ。
「えっ!ペンを見るのがはじめて?そこから教えなきゃだめなの・・・?」
 マンガ家氏は戸惑っている。えらいド素人が入ってきたぞ、ってなもんだろう。仕方がないではないか。教えを乞う。曰く、ペン先にはいろんな種類があり、Gペン、カブラペン、それに丸ペンを、状況に応じて使い分けるのだという。そいつにいちいちインクを吸わせ、ペン入れをしていくようだ。線の質は、ペン先のチョイスと、筆圧の強弱によって描き分ける。なるほど、それならボールペンのようにのっぺりした線にならなくてすむ。
 作法は理解した。が、ぶっつけの本番ではあまりに危ういので、白紙上で線の練習をさせられる。雨の線は「抜き」が重要だ。マンガのペン使いは、書道における筆使いと同じなのだ。入れて、走らせ、止める、あるいは抜く。こいつを、延々と練習させられる。が、オレは天才なので、たちまち習熟する。線が安定してきたところで、ようやく本番だ。
「へえ、なかなかうまいじゃない」
 道具の使い方さえ理解すれば、画の方には自信があるのだから、雨粒などお手のものだ。次第に信頼を得るようになり、定規を使うスピード線や集中線係に昇格だ。さらに、パチンコ台や、キャベツ畑、階段、マンションの外観などもまかされるようになる。描けば描くほど、上手くなる。線の質も向上していく。猛烈な勢いで成長しているのがわかる。そしてオレは心に誓う。半年でデビューして、とっととこの仕事場をやめてやろう、と。
 実際、背景描きなど、バカバカしいかぎりだ。無機物を描くのが上手くなったところで、どうしようもない。描いていてたのしいのは、人間だ。キャラクターだ。なにより、ひとのマンガを手伝っていても、少しも面白くはない。尊敬できる先生なら、わが身を捧げようと思えるのかもしれないが、目の前にいるマンガ家氏は、自分より劣るザコだ。はやく自分の作品に取り掛かる必要がある。ところが、ここからがマンガ界のジレンマだ。仕事が、昼の正午から、夜をブッ通して、明け方の6時までつづくのだ。連続十八時間労働という、ブラックバイトだ。その日給が、なんとわずか六千円だという。時給にして333円と知り、腰を抜かしそうになる。週五日間、一日中拘束され、休日には眠ることしかできない。自分の作品など描きようがない。が、編集部から紹介された手前もあり、足抜けもままならない。他のバイトもできず、金もたまらず、仕事場で毎度まとめて買いに走るコンビニ弁当で食いつなぐしかない。今考えれば、このマンガ家氏の職場は特別に過酷で・・・というよりも、マンガ家氏が特別にケチな野郎で、こんな有り様になっていたわけだが、とにかくアシスタントをすればするだけ疲れ果てる。すると、制作意欲も萎え、ただ流れに身を委ねるだけのだらしない生活に落ち入っていく。これは、ワナだ。

つづく

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園