心にも あらでうき世に ながらへば
恋しかるべき 夜半の月かな
☆ こころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな
★ こころにも あらでうきよに ながらえば こいしかるべき よわのつきかな
第68番
三条院
(さんじょういん) 思いがけなく、このつらい世を生きながらえていたならば、きっと恋しく思い出すだろう。この美しい夜半の月を。
三条院と道長は、恐らく性格も関係していたのでしょうが、利害関係が合わず、院の在位中は、つらいことが多かったようです。院には、道長の娘とは違うお后に皇子がいて、その皇子を皇太子にしたかったのですが、道長は自分の血をひく皇子を即位させたかったのです。そして、その皇子を即位させるため、院にさまざまな圧力をかけました。この和歌は、退位を覚悟しなければならなくなった状況で詠まれました。眼病で、今夜のような美しい月をみることはできなくなるかも知れない恐れ、そして帝王として、皇位のこと、皇子のこと、そして道長の自分への仕打ちのこと、心のうちを誰にも明かせない苦しみが、ひしひしと伝わってくるようではありませんか?
三条院は、三条天皇(さんじょうてんのう)という、いまから1000年ほど前の天皇です。「院」とは位を退いた後の呼び名です。三条院は、藤原道長(ふじわらのみちなが)権勢時代の天皇で、道長の娘をお后にしていましたが、皇子に恵まれず、また性格も道長とあまり合いませんでした。病弱で、眼を患われたこともあって退位されました。
心にも あなこよ。