ことのはのはね~奈良町から

演劇、アート、短歌他、町家での出会いまで、日々を綴ります。

小町座「お、あるひとへ」報告 ②

2017-07-27 | 小町座
今回は第1部の「きつねものがたり」について。これは2年前の奈良演劇祭プロデュース作品として書いたものです。基本的に中味は大きな変更もなく作りましたが、長姉が小町座のメンバーとなり、三人の芝居のリズムは一からという感じでしょうか。客演の次姉を演じる高橋まこさんは、私の息子、長男と同い年。もちろん、小町座キャストは私より皆若いので、娘というほどでもないですが、けれど、三人が姉妹、といってもそれほど違和感がないのは、芝居の力?!本番、ようやくきつねの姉妹たちに見えました。
三人芝居なので、それぞれのキャラクターの違いが全面に出しながらの戯曲です。長姉はぼんやりしているように見えるけど、実はいろんなことも知っている、ちょっと含みのあるキャラクター。次姉は乱暴でハチャメチャでアナーキーなんだけれども、実は心根が優しく孤独を抱える。主人公の唯一、大きな尻尾が隠せない妹は、いじめられても素直で、ただ「友達」が欲しいと心から思う…。長姉は、単に穏やかでぼおっとという芝居は、ある程度始めから作れるのですが、節々に、何かを抱えている、妹たちの知らないものを、というあたりを出すのを苦労していました。しかも、最後、自分たちを滅ぼすものに大きく立ち向かっていく、最高の強さもいります。温かさと強さ。できたかな?
次姉は美味しい役です。モノローグも多く、詩的な叫びも多い。ただし、体力と感情の持続力と切り替えがいります。高橋さんは若いから?!頑張ってくれました。ただ、高橋さんの良さは、激しさよりも、一人月を見るような孤独なせりふを、詩的に言えるところです。これは持ってうまれた感性もあるでしょう。逆に、弱いのが、絡んだ芝居。主人公の西村さんが、怒りと悲しみをぶつけますが、その受け止めが甘い。人生経験の差が出る?!これからもいろんな学びを続けて良い役者になってほしいと思います。
この戯曲は、2年前、「ベビーメタル」を初めてテレビで見た時の「面白い!!」という気持ちとあの音楽の、なんというか遊んでいるようで批評があり、しかも歌い手の10代の少女独特の記号と情緒の世界があいまった、非常に日本的な感覚、昔、初めて唐十郎の芝居を見た時のような、熱いものというのではないけど、それを新たに翻訳したような、そんな感覚で見ていました。この「ベビメタ」に国語の教科書にも出てくる、私の大好きな新美南吉の「手ぶくろを買いに」の最後の言葉、「人間は本当にいいものかしら」をモチーフに、あっという間に書けた本です。個人的なことになりますが、下の息子が来年、高校卒業となり、これまでの子育ての中から見える、いろんなものがストレートに出た戯曲と感じています。子育てというのは、実は一番、社会全面に関わること。病気になったら、医療のことを、学校に行けば教育のことを、日々の暮らしからは、「食」や「環境」の問題を、一番身近なところで、私たちの社会を反映するところ。書くものとしては、そのリアリティを持ち続けられることは、有り難いなと思いつつも、子どもたちにとっては、ものすごく大変な世の中だなと思います。子どもが「尻尾」を隠さないで生きられたらいいな。芝居の中に「尻尾を見せても驚かない友達」と書きました。以前、自分自身をまま出さず、与えられた「キャラ」を演じることで、学校生活がうまくいくという話を聞きました。本当に私たちの「尾」はどこにあるのでしょうか。
では、三人のキツネ姉妹の熱演写真、ご覧ください。

・これが「きつね」三姉妹!


・きつねの旗を降る次姉。


・「尾」を出してもいい友達の前で。


・全て焼かれてミイラになった長姉と…。

小町座「お、あるひとへ」報告 ①

2017-07-23 | 小町座
皆様、ご来場ありがとうございました。5年ぶりのホール公演、キャストも新メンバーということもあり、またこの5年で新しく出会った方々がいらして下さり、今の小町座の空気を感じました。本当にありがとうございました。とりあえず、写真を少しずつ上げる中で、内容についての話を出来たらなあ、と思います。本日は、第2部の「父のうた 母のうた」より。
林和音さんの舞台美術は、「編みあげた作品」。故に穴があり、この「穴」が光を通し、影を作り、光の色や角度によって、いろんな表情を見せてくれました。また、岡田一郎さんの映像は、それ自体が完成されているので、戯曲の都合で演出するのもどうよ、と思いましたが、「穴」につなげて、「下から上」を見上げるまなざしを、お客様に感じていただけたかと思います。また、最後、海のシーンで、山からの水が海につながる、その「流れ」を岡田さんの映像は見せて下さったと思います。ロボット役の西村さんが、その映像の前で芝居をすると、まるでその流れを遡るようにも見えました。二部の美術はご覧いただいた皆さんも、納得!の舞台と思います。この大きな完成された空間に、母親たち一人ずつ、よくまあ芝居をしたと思います。その時代の違う母達をつなぐ、短歌を読むピン前川さん。過剰な表現のできない、淡々とした、本当に難しい役どころでした。
では、写真から、同じ作品でも光によって違う様子をご覧ください。

・二部オープニング。岡田さんの映像と前川くんの短歌。「たましひは尾にこもるかな草靡く靑草原に夕日しずめる」(前登志夫)


・戦争中の母。穴に逃げた息子を見守る。


・現代の母。姿を消した娘に電話で呼び出された場所。


・未来の母のことを話すロボット。


小町座公演二日前

2017-07-20 | 小町座
今日からホールに入りました。美術の林和音さんが朝一、搬入、設置すると…なんだか、どこでもないスペシャルな空間が立ち上がりました。このアートは、とても光に生えます。とにかく、皆様に見ていただきたい。この芝居を企画した時のイメージが、まま、立ち上がっています。山のような海底のような、内臓のような…何にでも見えます。想像力の余韻があるアートは楽しい。
今日は照明を決めました。光がはいると全然違います。よく知ったスタッフさんで、わがままなプランをよく聞いてくださり、いつも感謝です。
さて、今日はなんとか一度通せましたが、収穫は、先のプログに書いたMさん。前半の芝居、怒りの感情が根底にないなあ、と思っていたら、ぐんぐん良くなり、後半の良かったこと。でも、これまでの公演での定説は、本番前に出来がよいのは、とても心配。なので、一日前の明日には、皆一度、こけた方がいいかも!?今日は、アートに引っ張られ、光の空間に酔い、そのおかげで演技がたちました。
晩ご飯の心配しながら、家の仕事もして、明日も9時に集合。暮らしの中で創造する楽しみ、その渦中にいます。手前味噌ですが、小町座10年、10年続けると、素敵なこともおこるのだな、と本日通して感じました。良いものになりました。是非、ご覧ください!

小町座公演1週間前

2017-07-14 | 小町座
7月22日のならまちセンターホール公演まで1週間…。第2部の一人芝居の稽古をしました。母親たちに、よくこんな大変なことをさせるなあ、と書いてから思います。演じる本人のレベルはおいといて、こう書いた方がより人物の深さがでる、ということを、今の段階でする?!というようなことをしてしまいました。
一週間前にホール稽古をした時、現代の母の一人芝居で「うーん」と思い、書き直すことにしました。演じるのは、今回ホール初めて、しかも本格的な芝居は初めてというMさん。小町座三年目のママさんです。彼女は技術的なことは、まだまだですが、セリフの核心というか、こうしてほしいというニュアンスを大変よく理解できる人。ただ、それが表現に追いつくかというと、課題は多いのですが…。これまで覚えたセリフを変えて書き直す、と告げた時、驚いたものの、しかし彼女は書きかえたところをすぐに覚え、稽古にそなえてくれました。日々の暮らし、家のこと、仕事いろんなこと含めての彼女の努力…。そのぎりぎりのところが、逆に芝居に向かわせるのかもしれません。
本人は自分がまだまだ出来ないということを一番わかりながらも、書き換えたところ、最後のシーン、母が「尾」を持つ?!のですが、そこのところの悲しみをなんとか出そうと頑張っています。本当に、彼女のレベルでありえないような課題をドーンと与えています。けれど、このドーンに、ひるまない、というより、「やるしかない」と覚悟を決めて立ち向かうのは、「母」ならではの力のような気がします。彼女のお子さんが、今までセリフもそんなに言ったことのないのに、今回一人芝居と知って、凄くびっくりしたと聞きました。…確かに…心配だろうなあと…。でも、大丈夫!いつも小町座のキャストにいうのは、どんなに稽古の時に私がうるさく細かく言っても、舞台ではそのせりふは、もう私の元から完全に離れて、あなたのところにある。なので、私にはどうにもできない、だからどうぞ、あなたが言いたいようにやって、自由に。…と言いながら、終わってからダメだし?と、話したりしてます。作者としては、あなたに託したこのセリフをどうぞ、自信をもって、のびのびと舞台に上げてください、本当にそんな気持ちです。三人の母たち、それぞれの一人芝居への挑戦を、お客様、どうぞ、はらはら?どきどき、見ていただきながら、今後につながる厳しい感想も、是非、お願いしたいと思います。