先回のブログで、能の土人形『江口』を紹介しました。
もう一つ、大きな能の土人形がありました。
能『黒塚』(観世流のみ『安達原』)です。
幅 30.8㎝、奥行き 19.3㎝、高さ 45.3㎝。昭和。
博多人形には、能を題材にした作品が多くありますが、ほとんどは『羽衣』や『熊野』のように、優美な女性の舞い姿の物です。その意味では、今回の物は例外的です。依頼製作の品かもしれません。
能『黒塚』は、『道成寺』、『葵上』とともに、三大鬼女ものといわれ、いずれも強い怨み、怒りを持った女性が主人公です。
【あらすじ】諸国行脚の山伏たちが、奥州、安達ケ原の一軒家に宿を求めます。主の女は、一度は断ったあと、一行を不憫に思い招き入れます。そして、糸車を回しながら、 自分の境遇を悔やみ、人生の虚しさを嘆きます。その後女は、奥の寝室を決して見てはいけないと言い残し、薪を取りに山へ出かけます。従者が女の部屋を覗くと死体が山積しており、一行は慌てて逃げ出します。女は怒り、鬼女となって襲いかかります。しかし、山伏たちに祈り伏せられ、去って行くのでした。
裏切られた女が怒りのあまり鬼女となって襲いかかる場面です。
裏切られた怒りと悔しさにあふれています。
博多人形特有の細やかな彩色が生きています。
シテが手にしている扇も土でできています。
般若面は沸騰する怒りをあらわしていますが、
やはり、どことなく哀し気な表情が見てとれます。
後ろ姿にも、業を背負った人間の悲哀が滲み出ています。
旅の一行をあばら屋に招き入れ、暖をとってもてなそうと、山へ薪を取りに行っている間に、自分の一番恥かしい部分を見られてしまった ・・・・・・女との約束を破ったのも人間、それに怒り狂い鬼女となるのも人間。
能『黒塚』は、永遠に逃れようのない人間の業と哀しみを、山奥に棲む鬼女と山伏たちによって炙り出す物語なのです。
作者太田卯三夫は、博多人形伝統工芸士。
かなり大きな人形ですが、
両足で立っています。
足の下に箸ほどの太さの木が着いていて、それが木の台に差し込まれています。よく、これだけでもつものです。
先回の相良人形と較べると、同じ土物ながら、作行きの違いに驚かされます(^.^)
博多人形のほうは、工芸品、芸術品という感じをうけますが、相良人形のほうは、土産品、民芸品という感じですね。
古伊万里にも、ヨーロッパ輸出向けの人形と国内向けの風俗人形がありますが、そのことを思い出しました。
もっとも、これらのうちの、どちらが好きかは、好みの問題ですよね。
私は、古伊万里の人形に関しては、古伊万里そのものを好きなものですから、どちらも好きですが、、、(笑)。
相良人形は、家の伝統を守るのが至上命令だったのでしょうね。奥州の風土も関係してそうです。
博多人形の方は、いくつかの製作所や作家が技を競い合い、外国も視野に入れた展開を大きな規模でしてきた結果、恐ろしいまでに洗練された土人形が出来上がったのでしょう。手で触るのが憚られますね。ガラスケースに入れてあるはずです(^^;
田舎者(よく言えば土着民)としては、相良をチョイスします(^.^)
伊万里人形については、今だ手にしたことがないので、どちらがよいかわかりません(^^;
黒塚の近くに、怪しげな鬼女の資料館があったので入ってみましたが、物語に出てくる真偽が疑わしいおどろおどろした道具が並んでいたのを思い出しました。
そうですか、やはり地元にはそれらしい物を並べた所があるのですね。
多少怪しげであっても、行ってみたいです。
芭蕉の奥の細道紀行の目的の一つが、謡曲の名跡を訪ねることだったので、いつかは後を辿りたいと思っています。