遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

鰹蓋物漆器

2021年09月15日 | 漆器・木製品

40年前に入手した鰹の形の蓋物漆器です。

京都、東寺の骨董市で購入しました。

実はこの頃、私は心身ともに衰弱しきっていました。

その少し前、私は目を患い、地方の大学病院で手術を受けたのですが、手術ミスで右目を失い、おまけに院内感染で高熱が続き、生死の境をさまよいました。こちら側へ戻ってこられたのは偶然です。低レベルの病院で、危うく殺されるところでした。

この時の記憶はあまりにも悍ましく、今でもはらわたが煮えくり返るので、これ以上は止めておきます。

にわか片目は不自由です。湯飲みに注いだつもりのお茶が全部テーブルの上にこぼれる始末、遠近感がとれないのです。効き目がダメになり、細かい作業はできません。仕事も、内容を180度転換せざるをえませんでした。

なお、私のブログの文字が異様に大きいのはそういう事情からですのであしからず。

何事にもやる気がで出ず、悶々とした日々を送っていました。

そんな時、雑誌で見た骨董市がふと頭に浮かびました。

「そうだ、東寺、行こう!」

有り金全部(高が知れている)をポケットに入れ、東海道線の鈍行に乘り込みました。

この日は、たまたま21日の弘法市のなかでも、年末の終い弘法に当っていて、ものすごい人出でした。

そこで見つけたのがこの品です。

 

長さ 44.2㎝、幅 16.8㎝、高さ 9.7㎝。江戸時代後期。

 

胸ヒレが把手になっていて、蓋がとれます。腹の中に物を入れるようになっています。一度だけ、鰹のタタキを入れてみました。菓子器の方が向いていると思います。

 

なかなかよく出来ています。

背びれが欠けていたので、木工パテで成形し、黒漆を塗って補修。

尾びれも折れていたので、ボンドで補修。

疵物にしては、結構なお値段でした。その理由は、稀少性。

何処の骨董市へ行っても、赤い鯛の蓋物漆器があります。よほど多数作られたのでしょう。ところが、鰹は少ない。これ以降、お目にかかったことがありません。

ところが・・・

5年前に催されたシーボルト展の図録です。実際に見に行きましたが、多数の展示物のなかでひときわ目立っていました。この展示会の目玉の一つだったのです。赤い鯛ではなく、地味な鰹の蓋物を蒐集してオランダへもって帰るとは、シーボルトさんの目はなかなかですね(^.^)

私にとって、鰹蓋物漆器は、記念碑的な品物です。それまでも、古民具のような物を、ボツボツと集めてはいたのですが、この日を境に、我楽多道に邁進することになったからです。それが良かったのか悪かったのか、神のみぞ知るです(^.^)

40年間、片目でやって来ましたが、残っている左目も、視野が7割を切ってきました。先を急がねばなりません(^^;


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14 コメント

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一瞬。。。 (マンマ♪)
2021-09-15 12:04:11
目を疑ってしまいました😵
そのような過去をお持ちだとは、遅生さまの明るい記事から全く気が付きませんでした。さらに骨董博士と呼ばれるほど、目利きは右に出るものはなし。
素晴らしいです✨✨

いやあ、それにしても変わったものがお好きなんですね💕
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遅生さまへ (くりまんじゅう)
2021-09-15 12:05:50
遅生さまの若い頃のご苦労を 初めて知りました。
お大師様の月命日に開かれるという東寺の弘法市のことはお四国巡礼時に
先達さんから聞き 一度行ってみたい憧れですがいまだに行けていません。

いいものを買われました。けっこう大きいですね艶があってきれいです。
この鰹も きちんと修復してくれる遅生さまの持ち物になって幸せです。

遅生さまの物を見極める眼と 玉虫を見る観察眼は
とても目が不自由とは思えず 日頃からの勉強のたまものと思います。
艶々の鰹には 言われるように鰹のたたきよりもお菓子が似合いますね。
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マンマさんへ (遅生)
2021-09-15 13:44:44
昔、我楽多書房という古本屋がありました。主人はいつも不在、魚釣りに行っているのです。店番は奥さん。古ビルの2階へ登る細い階段の壁には、「狭くて長いインテリへの道」と書かれた張り紙が(^^;
道楽者になりきれない中途半端な人間。こういう人に私はなりたい(^.^)

目利きではありません。その証拠に、いまだにダメな物に手を出してしまいます。

変わった物好きはその通りです(^.^)
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遅生さんへ (みこと)
2021-09-15 13:49:15
この色、この艶、本物よりも本物っぽいですね。特にお腹が鹿児島の生節を彷彿とさせます。

入手までのストーリーといい、遅生さんに直してもらっての今の姿といい、出会うべくしての出会いに感じられます。
まるでお守りですね。

左目お大事に。
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くりまんじゅうさんへ (遅生)
2021-09-15 13:57:54
いろいろ考えるとますます嫌になるし、夜は眠れなくなります。負の循環(^^;
ならば、もうヤケクソで明るくやっています。
東寺の市は歴史が古いですから、雰囲気がありますね。骨董以外の店の方が圧倒的に多いです。

物は良いです、ウソをつきません。物に騙されるのは、こちらにスケベ―根性があるからですね(^^; 人間の騙し合いよりは罪がない(^.^)
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Unknown (tkgmzt2902)
2021-09-15 14:02:52
胸を詰ませながら読み進み、この陶器の並々ならぬ縁に心を打たれました。
フォルムの美しさ、生きているような表現が「欠け」を感じさせません。
江戸の人の表現力はすごいものですね。

夫も片方の目が緑内障で視力を失いました。今程緑内障のことが分かっていなく、見つかったときは手術はできませんでした。自然にそうなったから本人も他人も気がつきませんでした。残る目をとても大切にしています。
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みことさんへ (遅生)
2021-09-15 17:16:47
ありがとうございます。ここまで何とかやってこれたので、後はオマケです(^.^)

確かに、お腹の膨らみようなど、リアルですね。写真にとってみて、あらためてそう思いました。ヒレは後から付けたのでしょうが、本体をこの形に彫るのもなかなかだと思います。
幕末~明治は、日本の手仕事のレベルがピークに達した時期です。狙い目です。
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tkgmzt2902さんへ (遅生)
2021-09-15 17:23:06
恥ずかしながら舞台裏を言うと、この品を見つけた時、お前も片目か、と思って買ったのです。でも、魚を置けばそうしか見えようがありません。裏側にはチャンと右目がありました(^^;
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遅生さんへ (Dr.K)
2021-09-15 21:02:58
終い弘法さんには、私も、20年近く前、行ったことがあります。
凄い人出ですよね。
そこで、これを見つけたのですか!

遅生さんには、シーボルト並の凄い目が備わっているんですね。
それが、この終い弘法さんで開眼されたわけですね(^_^)
記念すべき鰹蓋物漆器ですね(^-^*)
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まあー (美恵子)
2021-09-15 21:24:12
びっくりしました。そんな過去があったのですね。
でも目利きだと思います・・・・いつも見させていただいて。あーすみません、わからない私が言う言葉ではありませんね(笑)
面白い鰹ですね。きっと心に残る原点の品なのですね。いつも楽しみに拝見しています。
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