故玩館の玄関を入ったらすぐ、
書や扁額が掛かっています。
しかし、ほとんどの人は、目前にある夥しいガラクタ類に目を奪われて、書額に気づかずに、そのまま中へ入っていきます(^^;
実は、上方には、北大路魯山人の書『静観』と並んで、もう一つ書が掛かっています。
昭和に活躍した書家、日比野五鳳の書「初心不忘」です。
日比野五鳳(明治三四(1901)年―昭和六十(1985)年):昭和を代表する書家のひとり。文化功労者。愛知県生。幼少時から岐阜県の祖父母の下で育つ。古典に立脚した仮名作品の評価が高い。
日比野五鳳は、書家としては仮名作品が有名です。
今回の品は、数少ない漢字作品(色紙)です。
元々、日比野五鳳は、岐阜の書家、大野百錬の下で中国の書法を学んだので、漢字の基礎は十分に積んでいます。今回の書は、そのような素養に立ちながら、独学でマスターした、彼の仮名書法の特徴が良く出ている作品だと思います。
ところで、誰でも知っている言葉「初心忘るべからず」は、誤って用いられることが多くあります。
この言葉は、世阿弥の能芸論『花鏡』の中に出てきます。
初心不可忘、時々初心不可忘、老後初心不可忘、此三句、能々可為口傳。
ここで説かれているのは、能は生涯稽古の芸であり、たとえ、老後の段階であっても、その時々の習得段階で自分が初心者であることを忘れず、さらに上の芸位をめざすことの重要さです。どんな人生のステージにあっても、今の自分が初心者であることを自覚し、常に修練を怠らず次のステージを目指せと言う永久学習論です。
謙虚であった昔の自分を忘れてはいけない、という人生訓ではないのですね。
で、今回の作品です。
『初心不忘』・・・ん!五鳳さん、「可」を忘れた!?(^^;