遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

日比野五鳳『初心不忘』

2023年08月08日 | 文人書画

故玩館の玄関を入ったらすぐ、

書や扁額が掛かっています。

しかし、ほとんどの人は、目前にある夥しいガラクタ類に目を奪われて、書額に気づかずに、そのまま中へ入っていきます(^^;

実は、上方には、北大路魯山人の書『静観』と並んで、もう一つ書が掛かっています。

昭和に活躍した書家、日比野五鳳の書「初心不忘」です。

日比野五鳳(明治三四(1901)年―昭和六十(1985)年):昭和を代表する書家のひとり。文化功労者。愛知県生。幼少時から岐阜県の祖父母の下で育つ。古典に立脚した仮名作品の評価が高い。

日比野五鳳は、書家としては仮名作品が有名です。

今回の品は、数少ない漢字作品(色紙)です。

元々、日比野五鳳は、岐阜の書家、大野百錬の下で中国の書法を学んだので、漢字の基礎は十分に積んでいます。今回の書は、そのような素養に立ちながら、独学でマスターした、彼の仮名書法の特徴が良く出ている作品だと思います。

ところで、誰でも知っている言葉「初心忘るべからず」は、誤って用いられることが多くあります。

この言葉は、世阿弥の能芸論『花鏡』の中に出てきます。

初心不可忘、時々初心不可忘、老後初心不可忘、此三句、能々可為口傳。

ここで説かれているのは、能は生涯稽古の芸であり、たとえ、老後の段階であっても、その時々の習得段階で自分が初心者であることを忘れず、さらに上の芸位をめざすことの重要さです。どんな人生のステージにあっても、今の自分が初心者であることを自覚し、常に修練を怠らず次のステージを目指せと言う永久学習論です。

謙虚であった昔の自分を忘れてはいけない、という人生訓ではないのですね。

で、今回の作品です。

『初心不忘』・・・ん!五鳳さん、「可」を忘れた!?(^^;

コメント (6)
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