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遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

源氏物語『松風』四方盆と江戸時代版本『まつかせ』

2021年07月23日 | 漆器・木製品

これまで、源氏物語からの和歌を刻んだ輪島塗四方盆のうち、能、謡曲と関係のある物をいくつか紹介してきました。

それらの盆は、元々、能、謡曲を意識して作られたのではなく、源氏盆に刻まれた和歌が、謡曲に取り入れられた物を紹介した訳です。

残りの盆は、能、謡曲とは直接関係はありませんが、せっかくですから、漸次紹介します。

輪島塗沈金松風四方盆、21.6x21.5㎝、明治ー戦前。

 

みをかへて
 ひとり
かくれる
      山さとに
ききしに
      にたる
    松風そふく

「身を変へて 一人帰れる 山里に 聞きしに似たる 松風ぞ吹く」

松の木に風が強吹いています。

 

『まつかせ』11.3 x 14.2 ㎝、21丁、江戸中期。

   ↑ ↑ 尼君、明石の君の歌

源氏物語第18帖『松風』の一場面が描かれています。

源氏は、上洛をためらう明石入道に対して、都の明石入道の旧邸を修復して、そこに明石の君とその母、尼君を呼び寄せました。源氏の訪問がない中、松風が強く吹くある日、源氏の形見の琴を弾いていると、松風がまるで合奏するかのように吹きすさんできました。横になっていた尼君は起き上がって歌を詠みます。
 「身を変へて 一人帰れる山里に 聞きしに似たる 松風ぞ吹く」
(尼の姿に変わって 一人帰った山里に かつて聞いたような松風が吹いています)
それに対して、明石の君が返します。
 「故郷に 見し世の友を 恋ひわびて さへづることを 誰か分くらん」
(故郷で懐かしいあなたを恋しく思い、琴をひいているのですが、私が弾いていると誰が分かってくれるでしょう)

挿絵は、この時の情景を描いています。四方盆の松は、この絵の右上部の松を彫ったものだと思われます。

源氏物語54帖の中の一場面を描いたこのような絵は源氏絵とよばれ、数百種が知られています。