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遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

『法花三彩樹下人物紋瓶子』の美をミクロに探る

2022年01月10日 | 古陶磁ー中国

先回のブログで紹介した『法花三彩樹下人物紋瓶子』です。

法花は珍しいとはいえ、写真で見る限り、それほどの品の様には思えません(^^;  

白釉で堤を築いて、ぐるっと囲んだ中に色釉をさす手間は相当なものですが、色釉は薄いし、パッとした感じがしないからです(^^;

そこで、顕微装置の助けを借りて、ミクロな眼でこの品を見てみることにしました。

まず、この品に一番特徴的な窯変です。紫釉が塗られた胴の中央部分や肩部には、ムラムラとした模様が表れています。

大きな窯変模様の周囲には、小さな点が散らばっています。

この点々を拡大すると・・・・

これは結晶ですね。おそらく、マンガン。

紫釉の中に含まれるマンガンが、溶融した状態から冷えて結晶となって析出したものと考えられます。

大きな窯変部を拡大すると・・

大陸の海岸線を上空から眺めているかのようです(^.^)

顕微装置のLED照明の関係でしょうか、紫釉はダークブルーに見えます。

 

瓶子の肩部には、小さな丸(2‐3㎜)模様が貼花で施されています。

少し大きくすると・・

さらに拡大すると・・・

どうやってこれを作るのでしょうか?手の込んだ造形です。

さらに、周りをマンガンの結晶が取り囲んでいます。新発見の惑星か(^^:

 

饕餮紋はどうでしょうか。

白釉の堤が印象的です。

その特徴は、玉と見間違うような潤んだ肌合いです。無造作に築かれた白ペンキ塗りのコンクリート堤ではなく、生き物のような躍動感のある堤です。白釉の堤は、外と内を隔てることなく、内外の色釉と一体となって独特の風景を作り出しています。

貼花の丸(3‐4㎜)には、虹彩がみられます。

 

次は、胴の部分です。

男(高士?)の顔。

松の葉。

松の幹。

いずれも、生き生きとしています。

 

最後は、瓶子の底です。

非常に薄くしか緑釉が掛かっていません。所々に、白い素地がのぞいています。

しかし、全面に虹彩がみられます。

そして、拡大して見ると・・・

驚きの光景が広がります。

下の方のバブルの海は素地の白い部分、上の虹色部は緑釉。

緑釉の中に湧き上がる虹色の玉。

白い素地は、バブルの平原です。 

 

今回の品では、ミクロの目をつかって、肉眼では想像もできなかった豊かな世界の広がりをみることができました。

色釉が完全に熔けていて、それぞれの色彩が調和し、美しい風景ができあがっています。さらに、紫釉中に析出した結晶が、変化のある景色をつくっています。また、白の美しさは格別です。法花の特徴である白釉の潤んだ肌と白い素地の上に展開される泡の海。いずれも、単なる白色を越えた美しさです。

我々の肉眼でこのような美しさを直接見ることはできませんが、これらの微細な風景が集まって出来上がったこの品に接する時、何ともいえない落ち着いた趣きを感じるのではないでしょうか。

法花は、素地によって、陶器と磁器の二種に大別できます。今回の品は純白の磁器です。各種の細工や焼成などから、高度の技術が使われていることがわかります。『法花三彩樹下人物紋瓶子』は、景徳鎮製の可能性も(^.^)

 

 

 

 

 

 


祝!ブログ3周年! 法花三彩樹下人物紋瓶子 ~堤の威力~

2022年01月08日 | 古陶磁ー中国

今日は、Yahooブログから通算3年目にあたります。

いつものガラクタとはチョッと次元の違う品をアップせねばと奥の院をさぐりました。

でてきたのがこれ。

立派な杉箱に入っています。入手してから20年以上たっているのに、蓋を開けると・・・

プーんと、杉の香りが鼻に届きます。

中には、中型の瓶子が入っています。

『明三彩法花瓶子』

最大径 13.7㎝、口径 4.3㎝、底径 9.2㎝、高 20.7㎝。中国明時代。

法花は、中国明代におこった三彩の一種です。筒書きで模様の輪郭をとり、その内側へ紫、黄、緑、青などの低火度色釉を塗り、焼成した物です。このようにすると、釉薬が混じらず、器体に絵画風の表現が可能になります。有線七宝が金属の植線によって七宝釉の混ざりを防ぎ、細かな模様を出すのと同じです。友禅染の糸目糊も同じ役目を果たしています。唐三彩が、馬や駱駝などの器体を三彩で装飾し、色のまじりを味わうのとは対照的です。

今回の品は、上質の磁器上に、筒描きで白釉を線状に盛り、淡い紫、緑、黄茶の三色釉薬を施して、松の大樹の下に四人の人物が表されています。
松の葉などは、筒描きではなく、貼花です。
白釉輪郭線と貼花の凸凹が、器表に描かれた絵模様に奥行きを与えています。

 

瓶子の肩には、下の模様が四組ぐるっと回っています。

下部の模様は、饕餮紋(とうてつもん)?

底や口縁内は、緑釉で薄く塗られています。

紫釉部には、見事な窯変が現れています。

 

毎日のように、そっと持って帰る品物に対して、誰かさんは、ほとんど関心を示しません。またか、というリアクションも、もはや面倒なのでしょう(^^;
しかし、極々々まれに、「これは人に見せるな」とおっしゃる品があります。
目垢がつく、下手するとゆずってしまう、との懸念からでしょう。
そのような品はこれまでわずかに3ツ。法花三彩樹下人物紋瓶子、古九谷尺皿、伊藤若冲・水墨親子鶏図です。

法花とは、釉薬の堤防でぐるっと囲い、他の釉が入ってこないようにする技法です。
誰かさんの周りには、法花と同じように堤防がめぐらされ、外からのガラクタを撥ねつけるようになっています。その堤は非常に高く頑丈です。チョッとやそっとの品では乗り越えられません。

堤防の上には札がたっていて、何やら書かれています。
一、アンタは人が良いので、骨董屋で偽物をつかまされる。
一、アンタは欲が深いので、ネットで贋物をつかんでくる。
この立札により、99.9%の品物ははねられるのであります(^^;

法花も、故玩館も、堤の威力は絶大です(^.^)

 

 

 


染付梅花紋水差

2021年09月13日 | 古陶磁ー中国

このところ、李朝・高麗関係の品をブログで紹介してきました。まだ、どこかにそれらしき品物があるはずなのですが、見つかりません。さてどうしたものかと、考えあぐねすちゃん(^^;)だったのですが、Dr.Kさんの今日のブログ「染付(瑠璃釉?) 水指」を見て、おぉ♪(ノ)’∀`(ヾ)そう言えば、となった次第です(^.^)

径 19.8㎝、高 16.4㎝。中国明末ー清初。

周りを染付で塗りつぶして、白抜きで梅の花が全面に描かれています。ざっと数えて180個。

横に、4本圏線が走っていて、これは轆轤目だと思っていたのですが、よく観ると意図的に凹線をつけたものでした。一種の装飾です。

底の釉薬が掛かっていない部分と上釉との境目に、赤茶色の細い線が現れています。

同じ線は、底の内側にも見られます。

 

さらに、口元にも赤茶の線が出ています。

拡大してみると、

釉薬(写真下半分)の切れた所から無釉の部分へ、赤茶色が浸み出したようになっています。このような茶色の線は、青磁の器によく見られます。青磁釉薬中の鉄分が外へ浸みだして、空気中の酸素で酸化されて発色するのです。この器は、青磁のようにはみえないのですが、釉薬中に鉄分(多分、不純物)が含まれていることは確かです。

内側をそういう目で眺めてみると、釉薬は透明ではなく、少し青味がかっていることがわかります。

ところが、口元無釉部分と内側の上釉との境には、全く赤茶色の線はありません。

この器には、本来、蓋が付いていたのですね。おそらく、窯で焼く場合も、蓋付きの状態で焼成したと思われます。そのため、内側には酸素が少なく、釉薬から浸み出した鉄の酸化が進まなかったのでしょう。

 

この器の本来の用途は水差しではないです。そんなに上等な造りではありません。それに、もし水差しとして作られていたならば、口元にもしっかりと釉薬がかかっていたはずです。

この品とほぼ同様の水差しを、他にもいくつかみたことがあります。日本の茶人が中国の日用雑器を、木の蓋をしつらえて、水差しに転用したのでしょう。

実は、私は一度だけ、元々の蓋(磁器で染付)がついた本来の器を見たことがあります。

その感想は・・・・田舎臭い漬物入れ。

蓋一つで、品物のイメージが大きく変わるものですね(^.^)

 


不明の白磁皿

2021年06月08日 | 古陶磁ー中国

いつものように、Dr.Kさんのすばらしいコレクション(柿右衛門陽刻白磁皿の名品)に誘われ、故玩館のガラクタの中から拾い出したのが今回の品です(^^;

径 16.4㎝、高台径 8.7㎝、高3.4 ㎝。時代、産地不明(明末?)。

 

表側は、陽刻も何もないノッペラボー。しいて言えば、一本のニュウとそれに続くジカンの林(^^;  それから、鉄分が噴き出した小さな黒点が数個(写真でははっきりと見えません)。

 

それに較べれば、裏は少しにぎやか(^.^)

呉須で書かれた不明の銘と巨大なトリアシ。

また、あちこちに釉剥げがあります。

これを見ると、かなり厚く白釉が掛けられているようです。

これだけトロリとエンゴーベした皿は、日本ではあまりお目にかかれないので、中国の皿でしょうか。

よーく目を凝らしてみると、かすかに放射状カンナ削りの跡が見えます(白く写っている蛍光灯の右横)。

やはり、中国、明末位とするのが妥当な皿ですね(^.^)

 


中国 群馬図中皿

2020年12月08日 | 古陶磁ー中国

先回のブログで、古伊万里双馬竹紋中皿を紹介しました。

実はその後、もう一枚、馬の皿を見つけました。

丁度その時、Dr.Kさんが、伊万里双馬文輪花中皿に続いて、天啓赤絵群馬文小皿をアップされました。

 

今回の品は、期せずして群馬の皿です。

馬皿競争も、群馬県突入の様相を呈してきました(^.^)

 

8頭の馬が描かれた皿です。

 

径 21.0㎝、高 4.4㎝、底径 10.5㎝。 中国明末、清初?

 

先回の皿とは異なり、明るい呉須でぎっしりと描きこんであります。しっかりとした筆致、かなりの描写力です。

 

裏側を見ると、圏線が、高台内に1本、高台の外縁に2本、外側に1本描かれています。

このような圏線は、古伊万里によく見られるのですが・・・

銘はよめません。何となく伊万里ではないような・・

 

釉はじきとともに、小穴がいくつかあって、ジカンでつながっています。どうやら、生掛け焼成のようです。

 

決定的なのは、高台内です。かすかに放射状カンナ削りの跡が見えます。

この皿は、中国の品と考えて良さそうです。

時代は、やはり、明末~清初でしょうか。

 

故玩館にある馬の皿は、先回のブログの品とこの皿の2枚だけです。

2枚限りの馬皿ですが、偶然にも、Dr.Kさんの所も双馬皿と群馬皿。おまけに、どちらも、双馬皿は伊万里、群馬皿は中国です。

赤い運命の糸に操られているのでしょうか(^_^)