珍友*ダイアリー

管理人・珍友の書(描)いた詩や日記、絵や小説をご紹介☆

『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第十五話

2006-09-29 16:46:43 | 第三章 手ぬぐいと明かり
3.手ぬぐいと明かり

 翌日。昨日の家づくりと、昨夜の疲れのせいで、おれは昼すぎまでぐっすり眠っていた。 
 床に転がったまま眠りこんでいたので、起きたとき、体が痛かった。
 のそのそと起き上がって、バスの窓を開けると、潮風が入り込んできた。汗ばんだ体には気持ちよく、目を細めて海を見る。 
 今日も日差しは暑そうだけど、いい天気だ。 
 ふと、昨夜の出来事を思い出し、サイフを開けてみた。 
 小銭しかなかった。 
 どうしよう。バイトでも探そーかな…。
 
 とりあえず昼食を済ませ、海沿いの道を歩いていると、波打ち際の方で何かしている、4,5人の子供たちが見えた。その中に1人、少し年上の少女がいる。ストレートの長い髪。おれは彼女達に近づいていった。

「何やってんの」
 その集団に声をかけると、皆、一斉におれを見上げた。子供たちはみんな、手に小枝の棒きれを持っている。
「武蔵」
 少女がちょっと驚いたように言った。せいあだ。ストレートの髪が潮風に揺れる。
「漢字の練習してるの」
「せいあちゃんに教えてもらってんだ」 
 子供たちが口々に言う。
「へ?」
 彼らの足元をよく見ると、確かに、砂の上にいくつかの漢字が書かれていた。
「武蔵、ちょうどよかった。ちょっと待って」
 せいあはそう言うと、砂の上に置いてあるバッグの側にしゃがみこんだ。サイフから千円札を1枚取り出すと立ち上がって、「ハイ」と、おれに向かって差し出した。
「え…なに?コレ」
 ちょっと戸惑った。すると彼女は、
「昨日のお金。後でよく見たら、1万円札の下にもう1枚コレがくっついてたの」
 と、さらりと言った。
「え!?…なに、お前、そんなんわざわざ返してくれんの?」
 驚いた。変わったやつ。
 昨夜の彼女のふるまいとのギャップに、思わずぷっと吹き出した。 
 彼女は不思議そうな顔をしている。
「いらないんだったらいーわよ」
 少しツンとして、サイフに札を戻そうとする。まだ笑っていたおれは、
「わーっ、いりますいります」
 と、慌てて彼女の手を止めた。
「ラッキー、おれ今、超金欠でさぁ。助かったわ」
 千円札を受けとって笑う。 
 あー、昨日ぼーっとしてたから、二枚くっついてんの気づかなかったんだ。
「別に。もともとあんたのだし」
 彼女は、相変わらず無愛想。
「せいあ…」
 話しかけようとすると、いきなり背後から何かがどんっとぶつかってきて、思わず前につんのめってしまった。
「ぶっ、何だコレ!?」
 振り向くと、腰に、白くて長い毛のかたまりが吸いついていた。よく見ると…犬?
「ラウ!」 
 せいあが声をあげた。
「ワンッ!」 
 その犬がおれの腰にぶら下がったまま、彼女の顔を見て元気よく吠えた。
「これ、あんたの犬?」
 長い毛に、青い、きれいな色の首輪が見え隠れしている。
「うん」
 彼女は答えて、ラウを抱え上げようとした。だが、ラウはおれの腰にしがみついたまま離れない。
「ちょっとラウ、どーしたの?」
 彼女がラウをひっぱった。
「イデデデデデデ」
 まじ、いてーよ。
 子供たちが、ざわざわしはじめた。その時、
「わっ!」
「ぶっ!」
 急にラウが腰からはがれた。その反動で、おれは砂に足をとられて、不様(ぶざま)に前にこけてしまう。子供たちが笑った。
「ごめん、大丈夫!?」 
 頭の上で、せいあの慌てた声がする。
「…」
 温(ぬく)い砂の上にうつぶせになったまま思う。 
 おれ、こいつに痛い目にあわされてばっか。
 釈然としないまま、顎についた砂を手で払って起き上がった。
「あ」
 振り向いて、見上げて、小さな声をあげた。せいあの腕に抱かれたラウが、タバコの箱をくわえて、こちらを見ている。おれが、ジーンズの後ろのポケットに入れていたやつだ。    
 目が合うと、ヤツは、せいあの腕をすりぬけて砂浜に飛び降りた。
「あっ、待てコラ、返せっ」
 おれは子供たちを掻き分けて、ラウを追いかけた。
 だが、波打ち際で、はねるようにして走るラウは、すばしっこくてなかなか捕まえられない。
「くあ、このやろっ」
 ようやくラウの体を捕まえた。ラウはおれの手から逃れようとして、ジタバタ暴れた。
「タバコ返せ、コラっ、…あ``――――っ!」
 隙をつかれて、タバコが、ぺっと吐き捨てられた。
 タバコの箱は、ぽちゃん、と海に落ちて、波打ち際で漂った。
「あーあー、テメー、何すんだよ」
 おれはラウを砂浜に放り投げて、水浸しになった箱をつまみ上げた。 
 中身もぐしょぐしょ。使いもんにならない。 
 うぅ。ねぇ、今日、厄日?
 恨めしそうにラウを見ると、ラウはブルブルッと体を振るわせ、おれを見て、へっへっと笑った。 
 かっ、ムカつく犬。
「オメー、べんしょーしろよ」
 ラウの傍らに立つせいあを、軽く睨んで言った。
「は!?なんであたしが」
「お前、飼い主だろ」
「ラウ、男の子だからヤキモチやいてんだー」 
 子供の1人が茶化すように言った。
 オスか、あいつ。
「おにーちゃん」 
 別の子供が、恐る恐る、声をかけてきた。
                                           《つづく》



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4 コメント

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Unknown (太一)
2006-05-07 15:58:02
タバコは無事に弁償してもらえるのかw

最後のよってきた子供は今後の展開になにかを与えそうな気が。。。
返信する
あは☆ (珍友)
2006-05-07 17:14:39
さりげにきっちり金を返す彼女ですから、弁償してもらえる可能性は高いかもしれません(笑)

子供は。。。実は武蔵に衝撃の真実を…!
返信する
> (m@xim)
2006-05-07 17:21:18
お!

お久しぶりでっす♪♪

またまたコメントありがとうございます!ヾ(●´□`●)

でも私は決して料理上手じゃないですよ!

ほとんどがチンで済ませてしまいます…。

ははw

カボチャ私も好きなんですけど、時間かかるのが厄介ですよねぇ。

でも今度は珍友さんの願いを叶えるため、ぜひ入れまーす
返信する
おぉっ♪ (珍友)
2006-05-07 17:49:02
やった~ぜひ入れてやってください!

料理は手間かかりますもんねぇ…。たくさんのおかずをお弁当に入れる時には、いかに効率よく仕上げていくかがミソだと思うんで、チンも強い味方ですよ

でも、あのm@ximさんのお弁当なら、きっと、心もおなかも満足ですねm@ximさんの愛とおかずが詰まってるようでした
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