珍友*ダイアリー

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十話

2006-09-29 16:42:25 | 第三章 手ぬぐいと明かり
「はっきり言って、ムチャクチャだ。そんなの」
「そこをなんとか!本当、おねがいします。茂(しげ)さん」
 おれは、昔のバイト先である、この街の花火職人の事務所を訪れていた。茂さんは、ここの親方である。当時から、おれによくしてくれていた、ここの花火職人の深夜(みや)さんという人に頼んで、茂さんと会う段取りをつけてもらったのだ。
「マナちゃん、本当に花火、好きだから。おれたち、手伝えることなんでもしますから」 
 おねがいします、と頭を下げつづける。
「…その子、そんなに花火、好きなのか」
「はい」
「そうか…」
 茂さんは、考えこんでいるようだった。
 しばらくして、言った。
「大会の3日前に、うちのやつ等と島に筒運べ。バイトじゃねーから、もちろん金は出さねーぞ。それなら、あげてやる」
「ほんとっスか!?」
「けど、武蔵。玉代だけは払ってもらうぜ」
「はい。…何円?」
「尺玉1つで、46000円」
「げっ!そんなにするんスか!?…つか尺玉って、こー、花火開いた時、どんぐらいの大きさなんすか」 
 おれは両手を広げて、花火が開いたときのジェスチャーをした。
「尺玉は、330m上空で直径300mちょっとの花を咲かせる。俺たちが花火大会であげんのは、7号玉から2尺玉がほとんどだな。ラストに3尺玉をあげたりすんが。ちなみに尺玉っつーのは、10号玉のことだ」
 なんて言われても、さっぱり分からない。ただ分かるのは、
「もーちょっと安いのありませんかねぇ?」 
 値段の高さ。
「7号玉で2万ちょっと。それより小さい玉だと、3号玉で1つ3600円。間に4,5,6号玉があるが」
「…3号玉って、どれぐらいの大きさになるんですか」
 数字で大きさを言われても、ちょっと想像しにくいが、とにかくマナには、できるだけ大きな花火を見せてやりたい。値段のこともあるが、あんまりしょぼすぎるのも嫌だ。
「直径60~70mの花火だ。島は海岸から約1km(キロ)離れた所にある。病院は海のすぐ側にあるから、まあ、大体同じ距離だと考えていいだろう。そこに上空120mに、3号玉の花火があがる。どんな風に見えるかちょっと計算してみろ」
「いや、ムリ」
 ますます、分からない。
「だろーな。俺も見たことねぇから、ちょっと分かんねーけど。まぁ、そんなにしょぼいっつーことはないと思うぞ」
「ちょっと考えさせてください」
 おれはそう言って、事務所を後にした。おれの頭は、たくさんの数字でパニック寸前だった。最初から、花火を打ち上げてもらう約束ができたら、あとはみんなと相談しようと思ってたけど。何においても、まずは、花火をあげてもらえることになってよかった。

 数で勝負か、でかさで勝負か。 
 みんなで相談した結果、3号玉1コ、4号玉3コ、5号玉1コ、7号玉2コの、合計7発の花火をあげてもらうことになった。値段の内訳は、太一の家が2万円、せいあ、空音、樹里から1万円ずつ、京一とリズから、共同で8000円、バイト暮らしのヨースケとマサキから5000円ずつ、大工見習いの刃から4000円、プーのおれから3000円。残りの2000円を、せいあが海辺で漢字を教えている子供たちから共同で。
「みなさん、本当にすみません」
 と言う、太一と母親が、マナの入院治療費もあるのに、2万円出して、
「いいよ、あたしたち、けっこー貯金あるし」
 と言う、せいあたちが、快く1万円ずつ出すのに対し、肩身が狭い他の男ども。つーか、むしろ、おれ。
 そんなわけで、おれは手っ取り早く、『ガーリック』で働いて金をつくることにした。(給料の前借り、言い出しやすいしね。)だが、さすがの店長も、おれの一言目が、『3000円、ちょーだい』だったから、始めは目を丸くして、
「ふざけんじゃねぇよ、こんガキャぁ」
 と、言っていた。
 だけど、事情を聞くと納得してくれた。
                                     ≪つづく≫


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