1.灯(ともしび)
バー『ガーリック』の扉(ドア)を開けた。
昔と何ら変わりのない、乾いた鐘の音が響いた。
「いらっしゃい」
これも変わらない、主人の声。
「…武蔵(ムサシ)?」
同じ声の主が、1テンポおいて、驚きに声音を変えた。その声に、カウンターに座っている2人の男が振り返り、こちらに視線を注いだ。
「ただいま」
おれは、何度も胸の中で繰り返していた、短い言葉を口にした。
「マジで!?」
その2人の若者が、驚きを隠せない表情で、相次いで立ち上がった。
ヨースケと京一(きょういち)だ。あいつら揃いも揃って、おれの想像通りの行動とりやがる。
「マジで」
不覚にも嬉しくなって、笑いながら言った。ガラにもない緊張は、やはり一瞬であっけなく崩れ去った。ヨースケ達の顔が、パッと輝く。
「すっげ、ちょっ、マジ!?いつ帰ってきたの」
口々に興奮しながら、おれにかけ寄ってきた。
「今だよ、たった今。さっき夜(や)バスで着いて、ここに直行したんだ」
「どこ行ってたんだよ、お前」
「つーか、そのヒゲ前より濃くなってね?」
「うっせーな、ほっとけ」
文字通り、ガヤガヤ騒いでいるおれ達に、店長の声が割って入った。
「久しぶりだな、武蔵。おい、3年ぶりか?」
グラスに注いだビールを、おれに向けて差し出す。
「ああ」
ビールを受けとりながら、カウンターに座った。ヨースケ達も両隣に座った。間近であらためて見据えた店長は、声こそ3年前と変わらなかったが、顔の皺と白髪が、少し増えたようだった。
「老けたね、店長」
「お前に言われたかないよ」
ギャハハ、その通り、とヨースケ達が笑った。少しムッとした。更に店長は、「それ」と、おれの胸元に顎をしゃくった。思わず、ん?と自分のタンクトップの胸元に目をやったが、すぐにその意味を察して顔をあげた。
「ああ、コレ?いいだろ」
笑いながら、左肩を指し示す。
「俺はあんまり刺青(タトゥー)は好きじゃないけどね」
店長は少し、顔をしかめた。
「一生、消えねーんだぞ」
「消す気ないし」
あっさり返す。
2年前に軽い気持ちで、左の鎖骨の上に彫った小さな十字架(クロス)の刺青は、今でも結構気に入っていた。別の街で知り合いになった彫り師に、「18歳以上じゃないと彫れない」と言われたけど、なんかそのときすごい彫ってみたくて、彼に無理を言って、なけなしの金で彫ってもらった。
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バー『ガーリック』の扉(ドア)を開けた。
昔と何ら変わりのない、乾いた鐘の音が響いた。
「いらっしゃい」
これも変わらない、主人の声。
「…武蔵(ムサシ)?」
同じ声の主が、1テンポおいて、驚きに声音を変えた。その声に、カウンターに座っている2人の男が振り返り、こちらに視線を注いだ。
「ただいま」
おれは、何度も胸の中で繰り返していた、短い言葉を口にした。
「マジで!?」
その2人の若者が、驚きを隠せない表情で、相次いで立ち上がった。
ヨースケと京一(きょういち)だ。あいつら揃いも揃って、おれの想像通りの行動とりやがる。
「マジで」
不覚にも嬉しくなって、笑いながら言った。ガラにもない緊張は、やはり一瞬であっけなく崩れ去った。ヨースケ達の顔が、パッと輝く。
「すっげ、ちょっ、マジ!?いつ帰ってきたの」
口々に興奮しながら、おれにかけ寄ってきた。
「今だよ、たった今。さっき夜(や)バスで着いて、ここに直行したんだ」
「どこ行ってたんだよ、お前」
「つーか、そのヒゲ前より濃くなってね?」
「うっせーな、ほっとけ」
文字通り、ガヤガヤ騒いでいるおれ達に、店長の声が割って入った。
「久しぶりだな、武蔵。おい、3年ぶりか?」
グラスに注いだビールを、おれに向けて差し出す。
「ああ」
ビールを受けとりながら、カウンターに座った。ヨースケ達も両隣に座った。間近であらためて見据えた店長は、声こそ3年前と変わらなかったが、顔の皺と白髪が、少し増えたようだった。
「老けたね、店長」
「お前に言われたかないよ」
ギャハハ、その通り、とヨースケ達が笑った。少しムッとした。更に店長は、「それ」と、おれの胸元に顎をしゃくった。思わず、ん?と自分のタンクトップの胸元に目をやったが、すぐにその意味を察して顔をあげた。
「ああ、コレ?いいだろ」
笑いながら、左肩を指し示す。
「俺はあんまり刺青(タトゥー)は好きじゃないけどね」
店長は少し、顔をしかめた。
「一生、消えねーんだぞ」
「消す気ないし」
あっさり返す。
2年前に軽い気持ちで、左の鎖骨の上に彫った小さな十字架(クロス)の刺青は、今でも結構気に入っていた。別の街で知り合いになった彫り師に、「18歳以上じゃないと彫れない」と言われたけど、なんかそのときすごい彫ってみたくて、彼に無理を言って、なけなしの金で彫ってもらった。
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店長は小さなため息を1つついて言った。
「ま、お前が何しよーが勝手だけど。ツケだけは払えよ」
ひょうひょうとした顔で掌を突き出してきた。
「ブッ、イキナリそこ行っちゃうの?」
おれはグラスに口をつけたまま、素っ頓狂な声を出した。
「当ったり前だ。ひょっと出たら3年くらい平気で戻ってこない奴だ。出会った時に言っとかねーと、またいつ出てくか…」
「なぁ、京、今夜お前んち泊めてくんない?」
そんな店長をあっさり無視して、右隣の京一を振り向いた。
「ああ、いーよ」
京一もおれと同じように、笑いながら軽く答える。
「オイ、無視すんな」
店長がちょっと慌てた。
「ヨースケも泊まってけよ」
おもしろいからヨースケにも言っちゃえ。
「モチ」
彼も笑顔で即答。
「オイって…」
「武蔵、それオレのセリフ」
京一が軽くツッコむ。
ずーずーしぃな、お前、相変わらず、等とケラケラ笑い合いながら、おれ達は席を立つ。
「じゃーね、店長。また明日」
3人揃って、おててヒラヒラ。
「ったく…」
でも店長だって、顔、笑ってるもんね。
2人が先に出ていった。
おれは出口で振り返った。
「店長」
「なんだよ」
そのままカウンターまで歩いて戻った。
「これ」
カバンの奥から1つの封筒を取り出す。
「お前…」
封筒の中を覗いた店長が、目を丸くしておれを見た。
「金できたから、帰ってきたの」
照れくさい。露天商のバイト仲間と、久々にしたギャンブルで、たまたま当たった金なのに。
「じゃ」
へへっと笑って、外へ出た。ヨースケ達と合流する。京一は、誰かとケータイで話していた。
「あ、出てきた。そー、オレらもマジびびった。じゃー、今から連れて帰るから」
ピッ、とケータイを切る。
「?」
同棲でもしてんのか、京。
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「ま、お前が何しよーが勝手だけど。ツケだけは払えよ」
ひょうひょうとした顔で掌を突き出してきた。
「ブッ、イキナリそこ行っちゃうの?」
おれはグラスに口をつけたまま、素っ頓狂な声を出した。
「当ったり前だ。ひょっと出たら3年くらい平気で戻ってこない奴だ。出会った時に言っとかねーと、またいつ出てくか…」
「なぁ、京、今夜お前んち泊めてくんない?」
そんな店長をあっさり無視して、右隣の京一を振り向いた。
「ああ、いーよ」
京一もおれと同じように、笑いながら軽く答える。
「オイ、無視すんな」
店長がちょっと慌てた。
「ヨースケも泊まってけよ」
おもしろいからヨースケにも言っちゃえ。
「モチ」
彼も笑顔で即答。
「オイって…」
「武蔵、それオレのセリフ」
京一が軽くツッコむ。
ずーずーしぃな、お前、相変わらず、等とケラケラ笑い合いながら、おれ達は席を立つ。
「じゃーね、店長。また明日」
3人揃って、おててヒラヒラ。
「ったく…」
でも店長だって、顔、笑ってるもんね。
2人が先に出ていった。
おれは出口で振り返った。
「店長」
「なんだよ」
そのままカウンターまで歩いて戻った。
「これ」
カバンの奥から1つの封筒を取り出す。
「お前…」
封筒の中を覗いた店長が、目を丸くしておれを見た。
「金できたから、帰ってきたの」
照れくさい。露天商のバイト仲間と、久々にしたギャンブルで、たまたま当たった金なのに。
「じゃ」
へへっと笑って、外へ出た。ヨースケ達と合流する。京一は、誰かとケータイで話していた。
「あ、出てきた。そー、オレらもマジびびった。じゃー、今から連れて帰るから」
ピッ、とケータイを切る。
「?」
同棲でもしてんのか、京。
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京一のアパートに着くと、おれ達が開ける前に、威勢よく部屋のドアが開いた。
「おかえりなさーい」
思わず目がテンになる。
「ただいま」
「リズ!?」
「久しぶり、武蔵」
ニコッと笑う、その笑顔は、見覚えのある、おれの元カノ。
「お前ら、まさか…」
ゆっくり京一を見た。
「オレたち、結婚しました」
京一が、さっとリズの肩を抱き、彼ら2人が、揃ってニッコリ。
「なにーーーーーーっ!?」
驚愕するおれ。更に、
「あぷーーー」
柱の陰から、赤ん坊がひょっこり顔を出した。リズがかけ寄って抱き上げる。
「京太郎(きょうたろう)です」
「なにーーーーーーっ!?」
赤ん坊、凝視。
「拾ったのか!?預かったのか!?えぇ、早く返せ、親はどこだ!?」
もう頭パニック。
「ひでーな、おい…。オレ達の子だって」
うぅ、当たり前。分かってんだけど。ねぇ、お前たちよ、一体いつからそーなっちゃったんだい?
「あんたがこの街出てって、割とすぐかな、つき合い出したの」
「オレも前の彼女と別れた後だったから、なんとなく」
「あ、そぉーー」
おれは半分放心状態で、出されたつまみを口にする。
「なんとなくって何よぉーー。先に本気になったの京ちゃんじゃない」
ふくれるリズを横目に、部屋の中を見渡した。暖かな色で包まれた部屋の中は、ベビーベッドと、無造作に転がったいくつかのおもちゃ。家具はみんな角が丸いものばかりで、テレビの横に置かれた、小さなサイドボードの上には、京一たち3人や京太郎をアップにした写真が、たくさん飾られていた。今は窓を開け放したベランダの側で、ヨースケが京太郎と遊んでいる。
「きれーにしてんだ」
感心した。同じ部屋なのに、京一が一人暮らしの時とは、まるで雰囲気が違う。
「そうよ、あたし、もうすぐ主婦歴2年なんだから」
リズがちょっと自慢げに話す。聞けば、1年ちょっと前に2人は結婚して、最近、京太郎が生まれたという。遅ればせながら、2人に祝いの言葉をかけた。
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思わず目がテンになる。
「ただいま」
「リズ!?」
「久しぶり、武蔵」
ニコッと笑う、その笑顔は、見覚えのある、おれの元カノ。
「お前ら、まさか…」
ゆっくり京一を見た。
「オレたち、結婚しました」
京一が、さっとリズの肩を抱き、彼ら2人が、揃ってニッコリ。
「なにーーーーーーっ!?」
驚愕するおれ。更に、
「あぷーーー」
柱の陰から、赤ん坊がひょっこり顔を出した。リズがかけ寄って抱き上げる。
「京太郎(きょうたろう)です」
「なにーーーーーーっ!?」
赤ん坊、凝視。
「拾ったのか!?預かったのか!?えぇ、早く返せ、親はどこだ!?」
もう頭パニック。
「ひでーな、おい…。オレ達の子だって」
うぅ、当たり前。分かってんだけど。ねぇ、お前たちよ、一体いつからそーなっちゃったんだい?
「あんたがこの街出てって、割とすぐかな、つき合い出したの」
「オレも前の彼女と別れた後だったから、なんとなく」
「あ、そぉーー」
おれは半分放心状態で、出されたつまみを口にする。
「なんとなくって何よぉーー。先に本気になったの京ちゃんじゃない」
ふくれるリズを横目に、部屋の中を見渡した。暖かな色で包まれた部屋の中は、ベビーベッドと、無造作に転がったいくつかのおもちゃ。家具はみんな角が丸いものばかりで、テレビの横に置かれた、小さなサイドボードの上には、京一たち3人や京太郎をアップにした写真が、たくさん飾られていた。今は窓を開け放したベランダの側で、ヨースケが京太郎と遊んでいる。
「きれーにしてんだ」
感心した。同じ部屋なのに、京一が一人暮らしの時とは、まるで雰囲気が違う。
「そうよ、あたし、もうすぐ主婦歴2年なんだから」
リズがちょっと自慢げに話す。聞けば、1年ちょっと前に2人は結婚して、最近、京太郎が生まれたという。遅ればせながら、2人に祝いの言葉をかけた。
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「あ、ってことは、今、サラ婆(ばあ)んとこ誰がいんだ?つーか、サラ婆元気?」
自分で口にした後で、懐かしさがこみ上げてきた。
サラ婆とは、かつて、彼女自身もその身を投じていたという、「ある仕事」を取り仕切っている、この街の女ボス的存在の婆さんである。彼女の家には、時を経て、顔ぶれは変われど、その仕事を求めてやってくる少女達が、常に4,5人住んでいた。リズは、3年前までサラ婆の家に住んでいた。その仕事とはーーー娼婦である。この街では別に普通な仕事の1つ。
「ピンピンしてるよ、あの婆さんは」
京一が笑いながら答えた。
「今はねー、空音(あかね)と樹里(ジュリ)とせいあがいるよ」
と、リズ。
「…せいあって誰?」
最初の2人は懐かしい顔ぶれだが、最後の名前は思い出せない。
「あれ?武蔵、せいあ知らないっけ。あっ、そーか、ちょうど武蔵が出てってすぐに、せいあが来たんだ。」
「何々、どんな子?」
わくわく。
「すっげ、かわいいよ」
ヨースケが振り返って言う。
「マモラさんより美人かも」
京一もほくそ笑んでる。
「マジで!?」
目がキラリン。
マモラとは、昔、おれ達が揃って憧れていた、少し年上の、かなり美人な娼婦である。もう何年も前に結婚して、サラ婆の家と、この街を出ていったが。
「ちょっと京ちゃん、あたしはー? 確かにせいあ、かわいいけどー」
リズが、ぷーっとふくれる。
「お友達になりにいきましょう」
拳にぐっと力が入る。でも女を買う気なんざ、さらさらない。だって、この街に住むおれらって、みんな互いに声かけりゃ、男女問わずにすぐダチになるんだもん。当然、発展したらカレカノってわけで。他の街からは白い目で見られてるけど、実際住んでるおれたちは、まったくもって、のんきそのもの。
「お前の場合、友達っつーより、すぐに手―出すんじゃねーの?」
ヨースケがからかった。
「なんだとーー?」
ちょっとだけムキになる。
「あぶぷーーー!」
「おっ?」
気がつくと、ヨースケの膝の上にいた京太郎が、ハイハイをして、おれの所まで来ていた。
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自分で口にした後で、懐かしさがこみ上げてきた。
サラ婆とは、かつて、彼女自身もその身を投じていたという、「ある仕事」を取り仕切っている、この街の女ボス的存在の婆さんである。彼女の家には、時を経て、顔ぶれは変われど、その仕事を求めてやってくる少女達が、常に4,5人住んでいた。リズは、3年前までサラ婆の家に住んでいた。その仕事とはーーー娼婦である。この街では別に普通な仕事の1つ。
「ピンピンしてるよ、あの婆さんは」
京一が笑いながら答えた。
「今はねー、空音(あかね)と樹里(ジュリ)とせいあがいるよ」
と、リズ。
「…せいあって誰?」
最初の2人は懐かしい顔ぶれだが、最後の名前は思い出せない。
「あれ?武蔵、せいあ知らないっけ。あっ、そーか、ちょうど武蔵が出てってすぐに、せいあが来たんだ。」
「何々、どんな子?」
わくわく。
「すっげ、かわいいよ」
ヨースケが振り返って言う。
「マモラさんより美人かも」
京一もほくそ笑んでる。
「マジで!?」
目がキラリン。
マモラとは、昔、おれ達が揃って憧れていた、少し年上の、かなり美人な娼婦である。もう何年も前に結婚して、サラ婆の家と、この街を出ていったが。
「ちょっと京ちゃん、あたしはー? 確かにせいあ、かわいいけどー」
リズが、ぷーっとふくれる。
「お友達になりにいきましょう」
拳にぐっと力が入る。でも女を買う気なんざ、さらさらない。だって、この街に住むおれらって、みんな互いに声かけりゃ、男女問わずにすぐダチになるんだもん。当然、発展したらカレカノってわけで。他の街からは白い目で見られてるけど、実際住んでるおれたちは、まったくもって、のんきそのもの。
「お前の場合、友達っつーより、すぐに手―出すんじゃねーの?」
ヨースケがからかった。
「なんだとーー?」
ちょっとだけムキになる。
「あぶぷーーー!」
「おっ?」
気がつくと、ヨースケの膝の上にいた京太郎が、ハイハイをして、おれの所まで来ていた。
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「そうか、お前はおれの味方かぁ」
嬉しくて、京太郎を抱き上げて言った。
「ばぷーーーっ」
京太郎も嬉しそうに両手をあげる。
「信じられん。武蔵が赤ん坊になつかれるなんて…」
わざとらしくおののくヨースケ。彼の小さなメガネがズリおちる。
「この子、恐いもの知らずだから」
追いうちをかけるリズ。
「お前ら…」
ひどい。こーゆーの、ヒニクってゆーんだっけ。
「ばぶーーっ」
「なかなかかわいーじゃん。あ、そーだ」
ふと、おれは、あることを思いついて、京太郎を降ろして、カバンの中を探った。
「あった。ほら、これ、おれが着ようと思って買ったんだけど、いー奴だから、お前にやる。出産祝いだ」
そう言って、おれは京太郎の頭から、だぶだぶのTシャツをすっぽりかぶせた。白地に黒の文字で、後ろにでっかく、何か一文字書いてある。
「ところでこれ、何て読むんだっけ」
買ってはみたものの、おれには読めない。
「鮭(しゃけ)」
何故か昔から漢字好きのヨースケが、呆れたように言い放つ。
「武蔵――――っ!お前、オレのせがれにそんなもん着せるなーーー!」
京一が両手をわなわな震わせて叫んだ。
「なんだよ、カッケーじゃん、な、太郎」
ねぇ。心外ですな、まったく。
「変なトコロで省略しないでくれる!?」
おれの京太郎の呼び方が気にくわないのか、リズが本気で叫んできた。おれも負けじと言い返す。
「じゃー、お前、京のこと京ちゃんて呼んでんなら、こいつのこと、何て呼んでんだよ?」
マジで謎だ。
「チビ京ちゃん」
彼女は、ケロッと言い放つ。思わず、ぶっと吹き出した。
「はぁ?バカじゃねーの、お前。…ところで、せがれって何」
何故か、その場の空気が一瞬止まった。
「…バカはお前だ」
京一がぴしゃりと言い放つ。
「…さ、チビ京ちゃん寝かせなきゃ」
おれの手から京太郎を抱き上げて、いそいそとリズが立つ。
「オレ達、同い年だよな?」
最後にヨースケの冷たい声。
「なんだよ、お前ら、みんなして!」
えー。何?結局、せがれって。
「ばぷーーっ」
こんな風にして、おれの帰郷1日目の夜は更けていった。
* * *
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嬉しくて、京太郎を抱き上げて言った。
「ばぷーーーっ」
京太郎も嬉しそうに両手をあげる。
「信じられん。武蔵が赤ん坊になつかれるなんて…」
わざとらしくおののくヨースケ。彼の小さなメガネがズリおちる。
「この子、恐いもの知らずだから」
追いうちをかけるリズ。
「お前ら…」
ひどい。こーゆーの、ヒニクってゆーんだっけ。
「ばぶーーっ」
「なかなかかわいーじゃん。あ、そーだ」
ふと、おれは、あることを思いついて、京太郎を降ろして、カバンの中を探った。
「あった。ほら、これ、おれが着ようと思って買ったんだけど、いー奴だから、お前にやる。出産祝いだ」
そう言って、おれは京太郎の頭から、だぶだぶのTシャツをすっぽりかぶせた。白地に黒の文字で、後ろにでっかく、何か一文字書いてある。
「ところでこれ、何て読むんだっけ」
買ってはみたものの、おれには読めない。
「鮭(しゃけ)」
何故か昔から漢字好きのヨースケが、呆れたように言い放つ。
「武蔵――――っ!お前、オレのせがれにそんなもん着せるなーーー!」
京一が両手をわなわな震わせて叫んだ。
「なんだよ、カッケーじゃん、な、太郎」
ねぇ。心外ですな、まったく。
「変なトコロで省略しないでくれる!?」
おれの京太郎の呼び方が気にくわないのか、リズが本気で叫んできた。おれも負けじと言い返す。
「じゃー、お前、京のこと京ちゃんて呼んでんなら、こいつのこと、何て呼んでんだよ?」
マジで謎だ。
「チビ京ちゃん」
彼女は、ケロッと言い放つ。思わず、ぶっと吹き出した。
「はぁ?バカじゃねーの、お前。…ところで、せがれって何」
何故か、その場の空気が一瞬止まった。
「…バカはお前だ」
京一がぴしゃりと言い放つ。
「…さ、チビ京ちゃん寝かせなきゃ」
おれの手から京太郎を抱き上げて、いそいそとリズが立つ。
「オレ達、同い年だよな?」
最後にヨースケの冷たい声。
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えー。何?結局、せがれって。
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こんな風にして、おれの帰郷1日目の夜は更けていった。
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