珍友*ダイアリー

管理人・珍友の書(描)いた詩や日記、絵や小説をご紹介☆

『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十四話

2006-09-29 16:51:02 | 第四章 おそまつな花火
4.おそまつな花火

「マナ、ちょっと来いよ。いーモン見せてやる」
 そう言って、太一はマナの病室の片隅に準備していた車椅子を押してきた。
「え、なにーーー?」
 マナは不思議そうに首を傾げたけれど、『いーモン』と聞いて、わくわくしている。
 午後八時5分前。消灯時間の9時まで、あと約1時間。マナは明日の出発にそなえて、ベッドで安静にしていた。
 太一はマナを乗せた車椅子を押しながら、そっと、病室を抜け出した。そのまま少し歩いて、海に面した大きな窓の前で立ち止まった。
「ついたよ」
「ここ?え、なんもないよ」 
 マナはまわりをキョロキョロ見回している。
「いいから。窓の方よく見て、もうちょっと待ってな。ちょっとビックリするかもしれないけど…しっかり見とくんだぞ」
 おれたちは、今夜のことを、あらかじめ医者や看護婦や他の入院患者たちに話して、了解をもらっていた。それでも、マナが突然目の前で花火を見せられて、ビックリしすぎないか、と心配していた。打ち上げ花火の大きな音に、マナの心臓が耐えられるか。それが不安だった。
 その時、ドンッという音とともに、夜空に大きな花が咲いた。
「うわぁーーーーーっ!?」
 マナは初めこそ驚いたが、すぐに目を輝かせた。ガラス越しのおかげか、通常の花火より少し小さいせいか、思ったより音が小さい。 
 火の粉が夜空に散らばり、次の花火があがる。次々あがる花火を、マナは車椅子から身を乗り出して、くい入るように見つめている。
「よかったな」
 おれは、マナのその顔を見るとほっとして、隣にいる鉄平に小声で話しかけた。今、おれと鉄平だけが、少し離れた場所で、マナにバレないように壁に隠れて、こっそりと様子を窺っている。
「うん」
 鉄平も小声で答えた。だが、その後、急に踵を返して走り出した。
「鉄平?」
 おれは驚いて、鉄平の後を追いかけた。

 鉄平は屋上にいた。おれが追いついたときには、屋上の鉄柵に手をかけて、黙って花火を見つめていた。
「マナちゃんの顔、見なくていいのか?すっごい喜んでたぞ」
 後ろから声をかけると、鉄平は顔だけこちらを振り向いて言った。
「いーよ。オレ、コレが言いたかったの。たーまやーー」
 再び花火に向かって、声をあげる。
「…お前、素直じゃないねぇ」
 はしゃいでいる鉄平を見て、苦笑した。
 おれたちより一回り小さい体で、昼間、すごい頑張ってたくせに。
 その時、夜空にひときわ大きな花が咲いた。おれと鉄平は、その花火に目が釘づけになった。
 息を呑むほど美しい、8発目の花火だった。
                                ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十五話

2006-09-29 16:50:38 | 第四章 おそまつな花火
 キャハハ
「スゴーーイ」
 澄んだ夜空に、空音の甲高い声が響く。ロケット花火を発射する度に、おれ達は歓声をあげた。細い花火は、パシュ―ン、という高い音をたてて、次々に、真っ暗な海に吸い込まれていく。
 おれ達は、マナの花火を見届けたあと、海辺で手持ちの花火をしていた。みんなで金を出しあって、コンビニで買った花火セット。花火を始める頃には、京一や刃も仕事を終えて、リズも京太郎を連れてやってきた。
「ビール飲むか花火するか、どっちかにしなさいよ」
 岩陰で1人、こっそりとビールを飲みつつ、片手で皆にあまり人気のない線香花火をしていたら、せいあに声をかけられた。
「じゃ、ビール飲む」
 そう答えたとき、線香花火の火の玉が、ポテッと落ちた。
「あ」
 かすかな明かりが消えて、辺りは真っ暗になった。
「もー。今から打ち上げ花火するから、武蔵、呼んできてくれってさ」
「なんでここにいるって分かったの」
「『どーせ、そこら辺で酒飲んでんだろ』って、ヨースケが。『せいあちゃんが行くと、武蔵、喜ぶだろーから』って」
「あ、バレバレ?」
 おちゃらけて笑うと、ふと気づいた。 
 こいつの声、顔が見えないと、余計、感情が読みとりにくい。
「あれーー?打ち上げ、ねぇぞー。あっ、ラウ、テメー、返せっ」
 岩陰から出て、みんなの方を見ると、マサキが打ち上げ花火の筒をくわえたラウを、慌てて追いかけていた。
「あーらら。ありゃ当分捕まんねーぞ」
 おれはラウにタバコを取られたときのことを思い出して、笑いながら言った。横を見ると、せいあも笑っている。
「せいあー、武蔵なんかと何してんの。こっち来なよー」
「うっせ、樹里」
「うん。じゃー、あたし行くわ」
「あ、待って」
 おれは、せいあを呼び止めて、岩陰から棒の花火を2本拾い上げると、
「せっかくだから一緒にやろーよ」
 と、言った。
 するとヤツは例のごとく、
「…何、そんな持ってきてんの。あんたネクラ?」
 と、しらけた声を突き刺した。
「ばかやろう」
 お前の名前の頭文字は、サドのSか。
 ちなみに、おれの名前の頭文字は、断じてマゾのMではない。

 100円ライターで火をつけると、花火は勢いよく火を噴き出した。
「ねぇ」
「ん?」
 せいあが隣で、自分の花火を見つめたまま、言った。
「あんた、なんでこの街に帰ってきたの」
「へ!?」
 思いがけない問いに、ちょっと考えた。 
 少し離れた場所では、みんなが思い思いの花火をして、はしゃいでいる。ラウは逃げ回るのに飽きたのか、今はもう、何も口にくわえていなかった。

                           ≪つづく≫

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『僕たちなりの大人~Our Own Adult~』第二十六話

2006-09-29 16:49:45 | 第四章 おそまつな花火
「別になんもない」
 考えてもこれといって思い浮かばなかった。ラウの姿をぼんやりと目で追ったまま、つぶやくように答えた。
 …生まれ育ったこの街に、帰ってきたのに、別に理由はない。3年前、この街を出ていったときと同じように。
「じゃー、お前はなんでここにいるんだよ」
 おれは、せいあの方を見て逆に聞いてみた。
 すると彼女も、少し考えて、
「ここが…好きなんだよね」
 と、下を向いたまま、ぽそっと答えた。
「え?」
 思わず聞き返すのと同時に、手から花火が奪い取られた。
「あっ」
 声をあげた時には、すでに、彼女は両手に2本の花火を持って、かけ出していた。少し走ったところで止まり、深呼吸をするように両腕を広げて、夜空を仰ぎ見ている。
 え、何、こいつ。照れてんの?
 もの言わぬ後ろ姿が、そう感じさせた。
 彼女の両腕の先から、オレンジ色の花びらみたいな火花がこぼれ落ちる。
 おれは、『なんか、CDジャケットの写真みたいだな』と思って、その後ろ姿に見とれていた。
 って、何だ、ソレ。誰だ、自分。
 打ち上げ花火の準備ができたらしく、太一が、おれとせいあを呼ぶ声で、我にかえった。

 花火を終えた帰り道、京一たちと分かれると、おれは、せいあと2人きりになった。いや、ラウもいるから、正確に言えば2人と1匹だけど。鉄平は花火の途中で帰って、樹里はヨースケ、マサキ、刃と、『ガーリック』に酒を飲みに行った。空音は太一と、どこかに行ってしまった。 
 仕事の行き帰りで、十分慣れているとは思うけど、おれは一応、せいあを家まで送ってやることにした。
「それにしても、太一と空音、どこ行ったんだ?」
 歩きながら、傍らのせいあに聞いてみた。
「告ってんでしょ。空音、ずっと太一のこと好きだったから」 
 彼女は、ケロッと答えた。
「へっ?」
 そうだったのか。
「って、お前、いいのかよ。お前と太一、その…昔、つき合ってたんだろ」
「別に。そんなの、昔の話だし」
「ふーん」
「何、ヤキモチ?」
「バカ」 
 呆れた。
 彼女が小さなくしゃみをした。
「お前、そんな格好でいるからだろ。ほら、コレ着とけ」
 半ソデの上着を脱いで、彼女の頭にバサッとかぶせた。途端、
ぶしっ」
「…やっぱ、いらない」 
 彼女が上着をつき返す。
「…」  
 黙って受けとる。
 おれって、何。

 サラ婆の家が近づくと、おれ達は不意に足を止めた。
「え、何あれ」
 サラ婆の家の前にある橋の欄干の上に、見知らぬ少女が立っている。両手でバランスをとりながら、フラフラと歩いていた。下には海に続く川が流れている。 
 少女がバランスを崩した。
「わーーーーーーっ!」
 おれ達は慌てて、その少女にかけ寄った。
 ヤベエ、落ちるっ。
 おれは咄嗟に、少女に手をのばした。
                                 ≪つづく≫

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