おれ達は少し歩いて、角を曲がったところで立ち止まった。
「…何?」
言いにくそうにしている太一を少し促した。すると太一は、堰を切ったように喋り出した。
「あいつね、元気そうに見えるでしょ?実際、だいぶ元気になってきてんすよ。医者も、おれらも驚くぐらい。だけど…。また…いつ、どーなるか、分かんねーから…今度、中央のでかい病院に移ることになったんすよ。体力が回復してきてる、今のうちに」
「…そうか」
確かに中央の病院は、ここより設備がしっかりしている。だけど…その分、入院治療費もかかる。太一も同じことを考えていたらしく、
「今まで、おれとおふくろとで、なんとかやってきたんスけどね。今度ばかりはちょっと…。で、親父から金借りよーと思って」
つとめて明るく喋った。
太一とマナの父親は、マナが生まれて、すぐにこの街を出ていった。彼はどこか遠い街で、新しい家庭をつくったらしい。そんな父親の、養育費の支払いの申し出すら断り続け、彼らの母親は、太一とマナのために、ずっと必死で働いてきた。太一も、働けるほど成長すると、はじめはバイトで母親を助け、今は就職していた。
おれが太一の口から、親父という言葉を聞くのは、本当に久々のことだった。その明るい口調とはうらはらに、彼と彼らの母親は、相当な決意でこの決断をくだしたに違いない。悔しかったに、違いない。
「ま、そんなことはどーでもいーんスけど」
疲れのせいか少し痩せた顔をあげて、太一が笑顔をつくった。
「それより、マナが中央の病院に移る日って、ちょうど…この街の花火大会の2日前なんすよ」
笑顔はもう、しぼんでいた。
「あいつ、それ知った時一言、『今年は、花火見れないね』って…。それから一度もそんなこと言わねーけど、時々すごい寂しそーなんすよ」
「マナちゃん、花火、好きだもんな」
毎年、夏祭りのときに、海から打ち上げられる花火は、この街にいれば病院からでも見られるが、中央に行けば、高層ビルに邪魔されて、見ることができないのだ。
「そう…。で、おれ、どーしてもあいつに花火見せてやりたくて。でも、そんなのどうやって用意したらいいか分かんなくて…。武蔵さん、昔、花火大会のバイトやってたことありますよね?そん時のツテとかなんかありません?」
「うーん…」
確かに昔、この街の花火大会の筒運びのバイトは、何回かしたことがある。その時のツテが、ないことはないが、ここ3年は、そのバイトもやってないし、ましてや1人の少女のために、花火をあげてもらうとなると、
「難しーかもしんない」
「ですよね…」
「でも、なんとかしてみる」
なんとか、したい。
「おねがいします」
太一は申し訳なさそうに頭を下げた。
おれにできることは、それぐらいしかない。
おれたちは、悲しいぐらい、無力なんだ。
≪つづく≫
★最後まで読んでくれて、ありがとうございます!★
人気blogランキングへ←ランキング、参加してます♪よかったら、応援クリック、おねがいします☆
「…何?」
言いにくそうにしている太一を少し促した。すると太一は、堰を切ったように喋り出した。
「あいつね、元気そうに見えるでしょ?実際、だいぶ元気になってきてんすよ。医者も、おれらも驚くぐらい。だけど…。また…いつ、どーなるか、分かんねーから…今度、中央のでかい病院に移ることになったんすよ。体力が回復してきてる、今のうちに」
「…そうか」
確かに中央の病院は、ここより設備がしっかりしている。だけど…その分、入院治療費もかかる。太一も同じことを考えていたらしく、
「今まで、おれとおふくろとで、なんとかやってきたんスけどね。今度ばかりはちょっと…。で、親父から金借りよーと思って」
つとめて明るく喋った。
太一とマナの父親は、マナが生まれて、すぐにこの街を出ていった。彼はどこか遠い街で、新しい家庭をつくったらしい。そんな父親の、養育費の支払いの申し出すら断り続け、彼らの母親は、太一とマナのために、ずっと必死で働いてきた。太一も、働けるほど成長すると、はじめはバイトで母親を助け、今は就職していた。
おれが太一の口から、親父という言葉を聞くのは、本当に久々のことだった。その明るい口調とはうらはらに、彼と彼らの母親は、相当な決意でこの決断をくだしたに違いない。悔しかったに、違いない。
「ま、そんなことはどーでもいーんスけど」
疲れのせいか少し痩せた顔をあげて、太一が笑顔をつくった。
「それより、マナが中央の病院に移る日って、ちょうど…この街の花火大会の2日前なんすよ」
笑顔はもう、しぼんでいた。
「あいつ、それ知った時一言、『今年は、花火見れないね』って…。それから一度もそんなこと言わねーけど、時々すごい寂しそーなんすよ」
「マナちゃん、花火、好きだもんな」
毎年、夏祭りのときに、海から打ち上げられる花火は、この街にいれば病院からでも見られるが、中央に行けば、高層ビルに邪魔されて、見ることができないのだ。
「そう…。で、おれ、どーしてもあいつに花火見せてやりたくて。でも、そんなのどうやって用意したらいいか分かんなくて…。武蔵さん、昔、花火大会のバイトやってたことありますよね?そん時のツテとかなんかありません?」
「うーん…」
確かに昔、この街の花火大会の筒運びのバイトは、何回かしたことがある。その時のツテが、ないことはないが、ここ3年は、そのバイトもやってないし、ましてや1人の少女のために、花火をあげてもらうとなると、
「難しーかもしんない」
「ですよね…」
「でも、なんとかしてみる」
なんとか、したい。
「おねがいします」
太一は申し訳なさそうに頭を下げた。
おれにできることは、それぐらいしかない。
おれたちは、悲しいぐらい、無力なんだ。
≪つづく≫
★最後まで読んでくれて、ありがとうございます!★
人気blogランキングへ←ランキング、参加してます♪よかったら、応援クリック、おねがいします☆
いい子すぎて泣けますww
オイラが太一だから?w
きっと、“太一”って名前の人には、いい人が多いんですなww