花火大会3日前。マナの花火をあげる当日がやってきた。朝早くから、茂さんたちと一緒に、海岸から1km沖にある小さな無人島に、舟で渡る。おれ達サイドのメンバーは、おれとヨースケ、太一にマサキ、それと…
「だいじょーぶか、鉄平(てっぺい)」
「…うっす」
舟酔いで、ぐったりしているマナの友達、鉄平。例の、将来、医者になりたいという少年だ。おれ達が島に筒を運びに行くという話をしたら、『自分も行く』と言ってついてきた。
「お前、舟、乗ったことねーの?」
と、おれが聞くと、
「あるけど、オレ、昔から舟弱くて」
と、声変わりの途中の声で、弱々しく答える。
「だっせー。だって、1kmだぜ、1km」
マサキが鉄平をからかって、「ねえ、ヨースケさん」と、傍らのヨースケを見やった。
「………」
ヨースケも酔っていた。
そのうち舟は小島についた。茂さんたちは、毎年この島から花火大会の花火をあげている。今日は、3日後に迫った、夏祭りの花火大会の時に使う筒も、一緒に設置するのだ。おれ達はそれも手伝う。
大玉用の筒を固定するための“やぐら”を組んでいたら、汗が噴き出してきた。今日も、相変わらずいい天気で、気温は、どんどん上がっていく。
やぐらを組んだり、筒を運んだり、小さな筒を固定して、取っ手を作る作業を分担してやっていたら、昼になった。
「よし。休憩」
茂さんのかけ声で、おれたちはそれぞれ、昼食を兼ねた休憩をとるために、日陰に入った。
「あーーー、疲れたっ」
マサキがクーラーボックスから取ってきたジュースを片手に、ドサッと地面に転がった。
「想像以上にキツイっすね、これ」
鉄平もジュースを飲んで、一息ついて言った。
「ああ」
おれは頭に巻いていたタオルを取って、汗を拭いた。
打ち上げ花火の準備は、やはり、かなりの肉体労働だ。
「メシ、メシ」
太一が嬉しそうに、コンビニのビニール袋の中を探る。おれ達も、それぞれの袋から、自分の昼食を取り出した。
「パン」
「おにぎり」
「弁当」
…。どれもみんな、コンビニ製。
「…もっと、いーモン食いてーよなー」
チロリと隣を見やると、茂さんや他の花火師の何人かが、愛妻弁当を食っていた。…おいしそうである。やっぱ、アイだよ、アイ。若僧5人がため息をつきかけた、その時、
「ワン!」
元気な犬の鳴き声が聞こえた。見ると、ラウがおれ達のすぐ側に、ちょこんと座っている。
「ラウ!お前、なんでこんなとこにいんだよ!?」
おれ達は驚いて、口々に声をあげた。すると、
「もーーっ、ラウ、はやーい」
「あっ、いたいた。おーい、みんなー!」
遠くから、おれ達の所に向かって歩いてくる、空音、樹里、せいあの姿が見えた。
「お前ら、なんで…」
「深夜さんに連れてきてもらったの」
せいあが答える。見ると、舟を泊めおわった深夜さんが、少し遅れてついてきていた。
「お弁当、つくってきたんだよ」
空音がニコッと笑って、ふろしきに包んだ弁当箱を掲げる。
「みなさんもドウゾ」
樹里が花火師たちに声をかけた。
「おおーーーーっ!」
男たちの歓喜に満ちた野太い声が、晴れ渡った空に響く。天の助け。神の恵み。深夜さん、神様。あんたら、女神。
≪つづく≫
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「だいじょーぶか、鉄平(てっぺい)」
「…うっす」
舟酔いで、ぐったりしているマナの友達、鉄平。例の、将来、医者になりたいという少年だ。おれ達が島に筒を運びに行くという話をしたら、『自分も行く』と言ってついてきた。
「お前、舟、乗ったことねーの?」
と、おれが聞くと、
「あるけど、オレ、昔から舟弱くて」
と、声変わりの途中の声で、弱々しく答える。
「だっせー。だって、1kmだぜ、1km」
マサキが鉄平をからかって、「ねえ、ヨースケさん」と、傍らのヨースケを見やった。
「………」
ヨースケも酔っていた。
そのうち舟は小島についた。茂さんたちは、毎年この島から花火大会の花火をあげている。今日は、3日後に迫った、夏祭りの花火大会の時に使う筒も、一緒に設置するのだ。おれ達はそれも手伝う。
大玉用の筒を固定するための“やぐら”を組んでいたら、汗が噴き出してきた。今日も、相変わらずいい天気で、気温は、どんどん上がっていく。
やぐらを組んだり、筒を運んだり、小さな筒を固定して、取っ手を作る作業を分担してやっていたら、昼になった。
「よし。休憩」
茂さんのかけ声で、おれたちはそれぞれ、昼食を兼ねた休憩をとるために、日陰に入った。
「あーーー、疲れたっ」
マサキがクーラーボックスから取ってきたジュースを片手に、ドサッと地面に転がった。
「想像以上にキツイっすね、これ」
鉄平もジュースを飲んで、一息ついて言った。
「ああ」
おれは頭に巻いていたタオルを取って、汗を拭いた。
打ち上げ花火の準備は、やはり、かなりの肉体労働だ。
「メシ、メシ」
太一が嬉しそうに、コンビニのビニール袋の中を探る。おれ達も、それぞれの袋から、自分の昼食を取り出した。
「パン」
「おにぎり」
「弁当」
…。どれもみんな、コンビニ製。
「…もっと、いーモン食いてーよなー」
チロリと隣を見やると、茂さんや他の花火師の何人かが、愛妻弁当を食っていた。…おいしそうである。やっぱ、アイだよ、アイ。若僧5人がため息をつきかけた、その時、
「ワン!」
元気な犬の鳴き声が聞こえた。見ると、ラウがおれ達のすぐ側に、ちょこんと座っている。
「ラウ!お前、なんでこんなとこにいんだよ!?」
おれ達は驚いて、口々に声をあげた。すると、
「もーーっ、ラウ、はやーい」
「あっ、いたいた。おーい、みんなー!」
遠くから、おれ達の所に向かって歩いてくる、空音、樹里、せいあの姿が見えた。
「お前ら、なんで…」
「深夜さんに連れてきてもらったの」
せいあが答える。見ると、舟を泊めおわった深夜さんが、少し遅れてついてきていた。
「お弁当、つくってきたんだよ」
空音がニコッと笑って、ふろしきに包んだ弁当箱を掲げる。
「みなさんもドウゾ」
樹里が花火師たちに声をかけた。
「おおーーーーっ!」
男たちの歓喜に満ちた野太い声が、晴れ渡った空に響く。天の助け。神の恵み。深夜さん、神様。あんたら、女神。
≪つづく≫
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