「でもラウ、本当、元気になったよねー」
空音が目を細めて、ラウの背中を優しく撫でながら言った。すると樹里が、
「ほんと。せいあが拾ってきた時には、まさかこんなに元気になるとは思わなかった」
と、答えた。
「え、こいつ、捨て犬だったの?」
思わず聞いていた。だって今、目の前にいるラウは、真っ白な毛並みがメチャクチャキレイだし、憎らしいほど元気だし、とても元・捨て犬だったとは思えない。
「うん。ラウはねー、2年ぐらい前のすごい雨の日に、せいあが連れて帰ってきたの。泥だらけで、真っ黒で、痩せこけてて。ヨロヨロなのに、なかなかあたしたちがあげるご飯、食べなくて」
空音が答えた。すると、
「あたし、噛み付かれたなー」
と、樹里がちょっと恨めしそうに笑って、ラウを見た。
「そうそう。でも、そしたらね、せいあが言ったの。『このくたばり損ないが。死にたくなかったら、食え』-って」
オーバーな身振りで、空音が言う。
「なんかスゲーな」
マサキが苦笑した。
でも、なんとなく想像できる。
「でもね、そしたらラウ、少しずつだけど、ご飯食べはじめたんだよ」
空音が興奮気味に語った。
「だんだん元気になって、ウチらにもなついてきたよね」
と、樹里。
「うん。それからは、ずっと一緒」
空音お得意ニッコリスマイル0円。
「へー」
おれはあらためてラウを見た。
こいつにそんな過去があったとは。
そして次に、せいあに目を向けた。彼女は今、花火師たちの所に弁当箱を持っていっている。ラウにハッパをかけた時のせいあの様子をもう一度想像して、ふっ、と笑った。なんか、せいあらしいと思った。
「オメー、なーにニヤついてんのよ。仕事すっぞ。仕事」
いきなり後ろから頭をどつかれて、思わず振り返った。
「イッテ。茂さん、何すんのっ」
「何、じゃねぇよ。やぐら、お前が作ったとこ筒が曲がってんだよ。ちゃんと直せっ」
茂さんが、おれを睨んだ。
「はーい…」
「お前らも行くぞ。あとねーちゃんたち、犬は近づけんじゃねぇぞ。チョロチョロされっと、メーワクだから。あと少しで終わるから、ねーちゃんたちはここで待ってな」
「はーい」
頭にタオルを巻きなおした。
おれたち5人は、再び日なたに出た。
夕方頃、全ての筒の設置が終わった。
「少しじゃないじゃーん」
日陰に戻ると、空音がぶーぶー、文句を言った。
「でも、まぁ、お疲れ」
樹里が、おれたちを労う。
「これから火薬いれっから、お前らもう帰っていいよ。おい、深夜、慎吾。こいつら連れていってやれ」
茂さんが若手の花火師のうちの2人に声をかけた。
「今夜八時に花火あげはじめるからな。マナちゃんだっけ。その子と一緒に待ってろよ」
「はい。お疲れさまでした」
「おう。お疲れ」
茂さんや他の花火師たちに別れを告げて、おれたちは二艘の舟に分かれて乗った。
舟が出るとき、後ろを振り返ると、花火師たちが筒の中を確認して、玉を慎重に入れているところだった。
おれたちはもうクタクタだったけれど、花火師たちの準備は、まだ終わらない。花火を打ち上げ終わったら、後片づけもある。クロダマがどうとか言って、素人には危険だからと、後片づけは全部、茂さんたちがやってくれることになっている。つくづく大変な仕事だ、と思った。
* * * ≪つづく≫
★最後まで読んでくれて、ありがとうございます!★
人気blogランキングへ←ランキング、参加してます♪よかったら、応援クリック、お願いします☆
空音が目を細めて、ラウの背中を優しく撫でながら言った。すると樹里が、
「ほんと。せいあが拾ってきた時には、まさかこんなに元気になるとは思わなかった」
と、答えた。
「え、こいつ、捨て犬だったの?」
思わず聞いていた。だって今、目の前にいるラウは、真っ白な毛並みがメチャクチャキレイだし、憎らしいほど元気だし、とても元・捨て犬だったとは思えない。
「うん。ラウはねー、2年ぐらい前のすごい雨の日に、せいあが連れて帰ってきたの。泥だらけで、真っ黒で、痩せこけてて。ヨロヨロなのに、なかなかあたしたちがあげるご飯、食べなくて」
空音が答えた。すると、
「あたし、噛み付かれたなー」
と、樹里がちょっと恨めしそうに笑って、ラウを見た。
「そうそう。でも、そしたらね、せいあが言ったの。『このくたばり損ないが。死にたくなかったら、食え』-って」
オーバーな身振りで、空音が言う。
「なんかスゲーな」
マサキが苦笑した。
でも、なんとなく想像できる。
「でもね、そしたらラウ、少しずつだけど、ご飯食べはじめたんだよ」
空音が興奮気味に語った。
「だんだん元気になって、ウチらにもなついてきたよね」
と、樹里。
「うん。それからは、ずっと一緒」
空音お得意ニッコリスマイル0円。
「へー」
おれはあらためてラウを見た。
こいつにそんな過去があったとは。
そして次に、せいあに目を向けた。彼女は今、花火師たちの所に弁当箱を持っていっている。ラウにハッパをかけた時のせいあの様子をもう一度想像して、ふっ、と笑った。なんか、せいあらしいと思った。
「オメー、なーにニヤついてんのよ。仕事すっぞ。仕事」
いきなり後ろから頭をどつかれて、思わず振り返った。
「イッテ。茂さん、何すんのっ」
「何、じゃねぇよ。やぐら、お前が作ったとこ筒が曲がってんだよ。ちゃんと直せっ」
茂さんが、おれを睨んだ。
「はーい…」
「お前らも行くぞ。あとねーちゃんたち、犬は近づけんじゃねぇぞ。チョロチョロされっと、メーワクだから。あと少しで終わるから、ねーちゃんたちはここで待ってな」
「はーい」
頭にタオルを巻きなおした。
おれたち5人は、再び日なたに出た。
夕方頃、全ての筒の設置が終わった。
「少しじゃないじゃーん」
日陰に戻ると、空音がぶーぶー、文句を言った。
「でも、まぁ、お疲れ」
樹里が、おれたちを労う。
「これから火薬いれっから、お前らもう帰っていいよ。おい、深夜、慎吾。こいつら連れていってやれ」
茂さんが若手の花火師のうちの2人に声をかけた。
「今夜八時に花火あげはじめるからな。マナちゃんだっけ。その子と一緒に待ってろよ」
「はい。お疲れさまでした」
「おう。お疲れ」
茂さんや他の花火師たちに別れを告げて、おれたちは二艘の舟に分かれて乗った。
舟が出るとき、後ろを振り返ると、花火師たちが筒の中を確認して、玉を慎重に入れているところだった。
おれたちはもうクタクタだったけれど、花火師たちの準備は、まだ終わらない。花火を打ち上げ終わったら、後片づけもある。クロダマがどうとか言って、素人には危険だからと、後片づけは全部、茂さんたちがやってくれることになっている。つくづく大変な仕事だ、と思った。
★最後まで読んでくれて、ありがとうございます!★
人気blogランキングへ←ランキング、参加してます♪よかったら、応援クリック、お願いします☆