カロカンノート

へぼチェス日記

リビング・トゥゲザー・ロンリネス エリック・クリネンバーグ

2011年01月22日 | 気になるニュース
――日本では独居者(単身者)が増え、孤独死が深刻化しているが、米国ではどのような状況か?

ニューヨーク大学社会学部教授、同大学学報誌「パブリック・カルチャー」編集長を兼務。都市研究、リスクと災害、メディアと文化などが専門。早くから都市部の孤独死問題に取り組み、独居者の社会的孤立を防ぐセーフティネットの必要性を提言している。シカゴの独居高齢者の孤独死を調査分析した著書「Heat Wave: A Social Autopsy of Disaster in Chicago」(2003年)は6つの学術賞を受賞し、同名の演劇の原案ともなった。また、独居者の社交性や自己管理能力、自由や自立などポジティブな面を探った新刊「Solo」が2011年2月に発売される。カリフォルニア大学バークレー校で社会学の修士号・博士号を取得。
 独居者・単身世帯の増加は日本だけでなくほとんどの先進諸国で起きており、この50年間の世界における驚くべき社会的変化のひとつだ。米国も、もちろん例外ではなく、とくに独居高齢者が増えている。

 しかし、独り暮らしの人が必ずしも寂しい生活をし、社会的に孤立しているとは限らない。独り暮らしと寂しさ、孤立、自己疎外(自ら社会との関係を絶つ)などをはっきり区別して考える必要がある。

 米国では独居者の多くは社交的で友人や知人などと時間を過ごし、仕事もお金もさまざまなコミュニケーション手段もあり、深刻な問題とはなっていない。米国では社会的に孤立している独居者の割合はそれほど高くないと思う。

――しかし米国にも孤独死の問題はある。あなた自身、シカゴ地域の孤独死を調査分析し、2003年に出版した著書でそれを示した。

 1995年7月のある1週間にシカゴで亡くなった700人について調査・分析した結果、数百人が孤独死で、うちほとんどは高齢者だったことがわかった。

 シカゴといえばコミュニティの絆が強いことで有名だが、そのような都市で多くの高齢者が孤独死したことに私は衝撃を受けた。その原因は夏の暑さだけでなく、独居高齢者の支援ネットワークが不十分だったことも関係していたのではないかと本のなかで指摘した。

 しかし、これはシカゴだけの問題ではなく、今日の高度管理社会ではどこに住んでいても独居者は孤独死する可能性を秘めている。独居者や高齢者の増加現象は今や世界中に広がっており、とくに北欧など経済が発展して強い社会福祉をもつ国ほど独居者が増えている。米国では子供や親戚と同居したり、老人ホームなどに入るよりも独り暮らしを好む高齢者が多い。

 私たちはこの社会的変化にどう対応するかを真剣に考えなければならない。独居者のなかには寂しさを感じ、社会的に孤立してしまう人もいるからだ。

――日本では家族と同居を好む高齢者が多いが、じつは同居の高齢者の方が独居者より自殺率が高くなっている。この状況をどうみるか。

 それは私の主張とも共通する。つまり、独居高齢者が家族と同居しても問題の解決策にならないということだ。私たちはいまライフスタイルの大きな転換期にさしかかり、これに対応していくのは容易なことではない。

 重要なのは、これは日本だけの問題ではないということだ。それどころか日本は独居者急増と孤独死を深刻な社会問題として認識しているという点において、他の先進諸国より先を行っているのかもしれない。

 しかし、独り暮らしが増えるのは悪いことばかりではない。実際、米国では多くの人が独り暮らしを選択している。人々はそれだけの健康と経済力があれば、自由で自立した生活を維持できると考えるからだ。高齢者も本当に家族と同居する必要性がなければ独り暮らしを選ぶ。

 独居者の増加はある面で驚くべき社会的変化だが、それは同時に社会的孤立という問題も引き起こすということだ。自動車の開発も人々の生活を便利にしたが、一方で交通渋滞、大気汚染、地球温暖化、石油依存などの問題を引き起こした。

 世界中で独居者、とくに独居高齢者が増えている背景には寿命が延びたこともある。人々はかつてなく長生きするようになり、高齢になっても健康で経済力もあり自分の住む場所を確保できる人が増えているのだ。

――社会的孤立の問題に対応すれば独り暮らしも悪くないということか。

 その通りだ。これを良い機会にして、自分たちの住む町やコミュニティを創造的な方法でつくり変えることは可能だ。そうすれば独居者は家族やコミュニティとつながりながら、個々の自由や自立した生活を楽しむことができる。

たとえば、高齢者が利用できる公共の場所や施設を増やしたり、住宅地域・構造を改善して独居高齢者の住宅近くに家族の住宅をつくったり、あるいはあらゆる年齢層の独居者が住むアパートの1階に共同キッチンや食堂を設置し、居住者がいっしょに食事できるようにすることなどだ。

 私の住むニューヨークでは最近、若い独身専門職が多く住む集合住宅で居住者がいっしょにコーヒーを飲んだり、パーティをしたり、映画を観たりできるレクリエーションルームなどを設置するのが流行っている。

――日本の独居者はコミュニケーション能力が不足し、家族以外に人と会う頻度が先進国のなかで最低レベルにあり、社会的孤立が著しいとの調査も出ているが。

 それについてはよくわからない。もしかしたら日本の独居者は本当にコミュニケーション能力が不足していて、家族以外の人と会おうとしないのかもしれない。しかし、独居者の社会的孤立は日本に限ったことではなく、世界的な問題なのである。

――日本では独居者が誰にもみとられず死後半年も発見されない人もいるが。

 それは新聞で読んだことがある。現代の大都市で独り暮らしをしている人のなかには非常に孤立している人もいる。だからこそあらゆる手段を講じて、彼らを完全に孤立させないように支援しなければならない。最も孤立しやすいのは精神障害のある人や、自ら家族や社会との関係を断ち切ってしまった人たちである。

――孤独死した人が何カ月も発見されないようなケースを防ぐにはどうしたらよいか。

 米国ではいくつかのプログラムを実施している。郵便配達員が注意して個々の家を回り、郵便物がたまっている人がいたら社会サービス機関などに知らせる「郵便配達員警報」や、孤立するリスクの高い人を予め社会サービス機関などに届けて時々様子をみてもらうプログラムなどだ。

――米国人は伝統的に個人の自由や自立を大切にし、離婚が多く、高齢者も独り暮らしを好む傾向が強いが、その結果独居者が多いのではないか。

たしかにその傾向はあるが、それは少し誇張されすぎている気もする。たとえば米国の離婚率は高いが、再婚率は世界で最も高いのである。それに個人の自由や自立を大切にする傾向はもはや米国だけでなく、北欧諸国や日本を含め世界中に広がっているのではないか。

――あなたが新刊のなかで指摘した「リビング・トゥゲザー・ロンリネス(同居による寂しさ)」とは具体的にどういうことか。

 私は本の執筆のために約300人の独居者にインタビューしたが最も衝撃を受けたのは、多くの人が人生のなかで最も寂しいと感じるのは(夫婦)関係が破たんした人といっしょに住むことと答えていることだ。自分と合わない人と結婚生活を続けるほど寂しいことはない。だから米国では離婚が多いのである。

――日本では夫婦関係が破たんしても独り暮らしの寂しさや孤独死の不安を考えて離婚しない人もいるようだが。

 多くの人が孤独死を恐れるというのは理解できる。でも、自分と合わない人、関係が破たんした人と結婚生活を続けるというのは大変なことである。

 男性にしてみれば40代で離婚の危機を乗り切れば70代の高齢になって独居の寂しさを感じなくて済むと考えるかもしれないが、女性はそうはいかない。女性の平均寿命が男性よりかなり長いことを考えれば、妻は結婚生活を全うしても夫が先に亡くなり、最終的に独り暮らしをして亡くなることになる。

 それなら嫌な相手と結婚生活を続ける意味はない。実際、結婚生活を終わらせる(離婚を切り出す)のは圧倒的に男性より女性のほうが多いが、それは結婚生活を続けても高齢になってから社会支援などの面であまり得るものはないと感じるからかもしれない。


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