Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/4(水)小林沙羅ソプラノ・リサイタル/平日の午後、清涼で張りのある美声でイタリア語の曲を集めて

2015年02月04日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
よみうり大手町ホール/アフタヌーン・コンサート シリーズ2014-2015/Vol.4
小林沙羅 ソプラノ・リサイタル


2015年2月4日(水)14:00~ よみうり大手町ホール 指定 1列 14番 4,000円
ソプラノ: 小林沙羅
ピアノ: 河原忠之*
【曲目】
カッチーニ: アマリッリ麗し
ヘンデル: 歌劇『セルセ』より「オンブラ・マイ・フ」
ヘンデル: 歌劇『ジュリアス・シーザー』より「私の魂は涙にあふれ」
ベッリーニ:「マリンコニーア」
ベッリーニ:「行け、幸せなバラよ」
ドニゼッティ: 歌劇『愛の妙薬』より「受け取って、貴方は自由よ」
ドニゼッティ: 歌劇『ドン・パスクワーレ』より「あの騎士のまなざしを」
プッチーニ: 歌劇『ラ・ボエーム』より「私が街を歩くと」
プッチーニ: 歌劇『トゥーランドット』より「王子様、お聞きください」
プッチーニ: 歌劇『トゥーランドット』より「氷のような姫君の心も」
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より 第3幕への前奏曲(ビアノ・ソロ)*
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より「さようなら、過ぎ去った日々」
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より 第1幕への前奏曲(ビアノ・ソロ)*
ヴェルディ: 歌劇『椿姫』より「不思議だわ・・・・花から花へ」
《アンコール》
 プッチーニ: 歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「わたしのお父さん」
 ヴェルディ: 歌劇『仮面舞踏会』より「どんな衣装か知りたいだろう」
 小林沙羅:「えがおの花」

 昨年2014年の春にオープンした「よみうり大手町ホール」に来るのは二度目。今日は平日のマチネーという禁断のコンサートである。普通の人が働いている時間に美しい音楽に身も心も委ねるという行為は、一度経験するとクセになりそうな、得も言われぬ快感があるものだ。しかもそれが、麗しの小林沙羅さんのリサイタルということであれば、依存症にすらなりかねない。こんなコンサートが月に何度もあったら、仕事を辞めなければならなくなってしまう。たまにしか来る機会がないのがむしろ幸いだが、何故、大手町で平日マチネーのコンサートを開催するんだ? まるでサラリーマンに仕事をサボれと勧めているようなものではないか・・・・。
 というような愚痴はどうでもよいことだが、昼であろうが夜であろうが、沙羅さんのコンサートはかなり高い優先順位で聴くことにしている。つい3週間前に、ウィーン・シュトラウス・フェスティパル・オーケストラのニューイヤー・コンサートで、楽しいウィーン・オペレッタの名曲の数々を聴いたばかりだが、今日は一転してプログラムのすべてがイタリアもの(イタリア語の曲)である。最近はウィーン在住ながらローマにも行きイタリアの音楽を勉強しているのだという。はやくもその成果を引っさげてのイタリア・プログラムというわけだ。

 1曲目はカッチーニの歌曲「アマリッリ麗し」。昨年2014年7月のフィリアホールでのリサイタルでもオープニングの曲であった(その時の伴奏は荘村清志さんのギター)。河原忠之さんの「歌う」ピアノによる伴奏で聴くとまたひと味違っていて、大きく張りのある声が出ている。ゆったりと歌われる曲ではあるが、今日はちょっとテンションが高いような気がした。
 簡単なトークを挟んで、2曲目からは歌に集中するという。人気曲、ヘンデルの「オンブラ・マイ・フ」。清純派(?)ソプラノ歌手には欠かせない1曲だ。前奏のピアノがとても素敵に響き、沙羅さんの清涼感のある高い声が乗ってくると、一気にバロック・オペラの雰囲気が広がる。沙羅さんのこの曲を聴くたびに、オペラ『セルセ』を観てみたくなる。後方席からいきなりBravo!!が飛んだ。
 3曲目は同じヘンデルで、『ジュリアス・シーザー』よりクレオパトラが歌う「私の魂は涙にあふれ」というアリア。せつせつと愛を歌うとても美しい曲だ。沙羅さんのクレオパトラ! ・・・・これも観てみたい。そういえば、今年の5月に東京二期会主催で『ジューリオ・チェーザレ』の公演が予定されている。沙羅さんは出ないが、後学のためにも観ておきたいものだが・・・・。ちなみに、ジュリアス・シーザーはイタリア語ではGiulio Cesare(ジューリオ・チェーザレ)となる。
 このヘンデルの2曲は、イタリアものではないが、イタリア語で歌われるので本日のプログラム入りしたのだろう。

 続いては、ベッリーニの歌曲を2曲続けて。「6つのアリエッタ」の中の2曲である。「マリンコニーア」は憂いを帯びた民謡風の旋律が美しく、たいへん短い曲。オペラ・アリアとは違って強い声を求めない歌曲ならではの、優しく訴えかけるような歌唱が素敵。
 「行け、幸せなバラよ」は昨年の3月に花をテーマにした紀尾井ホールでのリサイタルでも聴いた。こちらの方が陽気な曲想である。やはり同様に声を必要以上に張り上げることがないので、優しく爽やかな印象になる。声質が澄んでいてクセがないというのは天性のものかもしれないが、やはりキレイな声で聴く方が、清潔な印象なる。バラの花に愛の感情を委ねるといった内容だけに、優しげな歌唱はたいへん好ましい。

 前半も佳境に入ってきて、いよいよベルカント・オペラの登場だ。ドニゼッティの『愛の妙薬』より「受け取って、貴方は自由よ」は、アディーナがネモリーノの真実の愛を知って最後に歌うアリア。大らかで伸びやかな美しい旋律と、装飾的なコロラトゥーラ唱法が魅力のアリアである。沙羅さんは装飾的な技巧も上手いだけでなく、高音部が素直に、優しい声質のままで出せていて、このあたりはローマで本格的に学んだ成果が現れているようだ。歌っている間の表情もにこやかで、オペラ歌手としての演技力もかなり身についてきている。

 最後は、ドニゼッティの『ドン・パスクワーレ』より「あの騎士のまなざしを」。オペラ自体はあまり人気があるとはいえず、上演機会も少ないが、コケティッシュなヒロイン、ノリーナの歌うこのアリアは比較的有名だ。このようなオペラ・ブッファ的な役柄は、今のところ沙羅さんにはピッタリだろう。もちろんご本人はとっても真面目で良い意味で優等生的なお人柄だが、明るい声質と演技力で喜劇の方がより美点を発揮できそうな気がするからである。このアリアについても、明るい歌声と陽気な振る舞いが何よりも魅力的で、技巧的なこととか、発声法だとかいう細かな点よりも、アリアの持つ世界観をステージ上に一瞬にして展開できる才能が素晴らしいと思う。

 後半は、プッチーニとヴェルディという、イタリア・オペラの王道の作品が並ぶ。まず『ラ・ボエーム』より「私が街を歩くと」(ムゼッタのワルツ)から始まった。やはりキャラクタ的にも声域からいっても、『ラ・ボエーム』ならムゼッタが沙羅さんの役柄だろう。このアリアを歌う間だけ、主役の座を完全に奪い去ってしまうほどのオーラを放つムゼッタの声は、誰よりも(ミミよりも)光り輝いていなければならないと思う。沙羅さんのムゼッタには、もちろんその輝きがある。

 一転して、『トゥーランドット』よりリューのアリア「王子様、お聞きください」。女奴隷のリューが王子カラフへの思いを秘めて、王子がトゥーランドット姫の3つの謎解きに挑戦するのを止めようと、魂を絞り出すように歌うアリアだ。プッチーニのソプラノはドラマティックな歌唱が求められる。沙羅さんの歌唱は、徐々にテンションが高まって来た感じで、聴く者の心をグッと掴むチカラを持つようになってきた。
 続いて同じリューのアリアで「氷のような姫君の心も」。まさに魂の叫び!! 沙羅さんの悲痛な、悲しい歌声に、Bravo!が飛び交った。

 ここでちょっと河原さんのトークが入り、歌手にとっては小休止を入れる。主に『椿姫』の解説。そして、ここから先は『椿姫』の世界が展開される。発表されていた曲順を少し入れ替え、『椿姫』の第3幕への前奏曲(ビアノ・ソロ)から演奏された。いつ聴いても素晴らしい河原さんのピアノである。オーケストラのように雄弁で、音色が多彩で、旋律がオペラ的に歌う。
 続けて、第3幕、ヴィオレッタのアリア「さようなら、過ぎ去った日々」。曲の前の手紙を読むシーンの台詞から始まった。ピアノの伴奏が実に悲しげだ。このアリアは死の床についたヴィオレッタがアルフレードとの過ぎ去った日々を思いだして嘆く歌。オペラではベッドに横になったまま歌うことも多く、死相が表れ始めているヴィオレッタが歌うのだから、声量は控え目に、息も絶え絶えといった雰囲気も出さなければならない。それでいて最終幕の見せ場(聴かせどころ)でもあるので、ドラマティックなものでなければないない。そういった意味で、難曲なのである。今日はリサイタルであるから、まさか横になって歌ったりはしないが、絞り出すような悲しい声が印象的だった。悲劇的な役柄での表現力もなかなか素晴らしいものがある。思えば、沙羅さんのヴィオレッタを聴くのは初めてなのである。沙羅さんがオペラの舞台でヴィオレッタを歌い、演じる姿を早く観たいものだ。
 次は第1幕への前奏曲(ビアノ・ソロ)。河原さんのピアノは、単に楽譜に書かれている音符を弾いているのではない。オペラとオペラ歌手を知り尽くしている人だけに、この演奏は明らかにピアノ曲として弾いているのではなく、オーケストラを指揮している感覚なのだろうと感じた。
 そして最後は、「不思議だわ・・・・花から花へ」の大アリア。確かに、この難曲をリサイタルの最後に歌うのは体力的ないってかなりキツイことだとは思う。長いし、高音部が続くし、装飾的なコロラトゥーラ唱法が求められるし、前半と後半では考え方が変わるし、第一、第1幕の幕切れを飾るドラマティックで最高に盛り上がる場面だし・・・・。しかも、多くの場合リサイタルでは「花から花へ」(“Follie!…follie…”から後)の部分は繰り返さないが、今日の沙羅さんはオペラの本番と同様にきちんと繰り返した。これは一切の手抜きなしという覚悟の表れだと思う。声には艶と張りがあり、若さと勢いも感じられる。コロラトゥーラの技巧もほぼ完璧に身につけていて、音程も正確で声量も十分にスムーズに流れている。一方、高音部を無理に出しているような感じがしてしまうところがちょっと惜しい。もう少し「楽に」出るようになれば、本当に完璧なのに、と思う。もちろん、無理して高い声を出すことが決して大切なわけでもないことは解っている。それでも「ハイC」以上の高音にシビレルのはオペラ・ファンの性なので・・・・・。むしろ大切なのは表現力。役柄になりきって、感情移入して、舞台を創り上げる。そういう意味でも、沙羅さんのヴィオレッタを早く観てみたいと思う。今日の沙羅さんの歌唱は、もちろんBrava!! これは間違いない。

 アンコールは3曲も。まずはお馴染み、アンコールの定番、プッチーニの「わたしのお父さん」。明るく清純な少女の歌声は、沙羅さんの十八番である。
 続いて、ヴェルディの『仮面舞踏会』より「どんな衣装か知りたいだろう」こちらは明るく陽気なキャラがキラキラ煌めくような歌唱であった。
 最後は、小林沙羅作詞・作曲「えがおの花」。最近の殺伐とした世相の中にあって、この歌の「こころ」を忘れないようにしなければならない。


 さて、禁断のコンサートが終わった。「平日マチネーにアイドルの追っかけも程々にせい」と友人に突っ込まれたが、まあ、たまにはこんなことがあっても良いだろう。仕事に追われる毎日の中で、一服の清涼剤である。こうしてまた、働く、生きるためのチカラをもらえるのだから。音楽にはそういう面もあるのだと思う。
 終演後は恒例のサイン会。CDの発売からそろそろ1年になるが、サイン会には大勢の人が並んだ。今回は、昨年のフィリアホールでのリサイタルの時の写真にサインをいただいた。
 この後、2月22日には東京芸術劇場の「シアターオペラ」で『メリー・ウィドウ』があり、沙羅さんはヴァラシエンヌ役で出演する。昨年の『こうもり』の続編にあたる新演出ということだ。2013年1月3日の「NHKニューイヤーオペラコンサート」で同役を演じて沙羅さんが大活躍したのは鮮明に記憶に残っているところ。ハマリ役だけに、とても楽しみである。その後も新制作の『フィガロの結婚』にスザンナ役での出演も決まっている。ますます沙羅さんから目が離せなくなりそうだ。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

【お勧めCDのご紹介】
 小林沙羅さんのデビューCDアルバムです。初回限定盤は「えがおの花」の朗読が収められた「特典CD」と「豪華36Pブックレット」付きでBOX入りです。アルバム・タイトルは「花のしらべ」。花をテーマにした古今東西の歌曲の数々が収録されています。ピアノ伴奏は森島英子さんです。

花のしらべ(初回限定盤)
日本コロムビア
日本コロムビア

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2/1(日)ミッシャ・マイスキー... | トップ | 2/6(金)プラハ・フィル来日公... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事