Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/1(日)ミッシャ・マイスキー/バッハの無伴奏チェロ組曲第1番・4番・5番/奥深いオーラを放つ

2015年02月01日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
東京文化会館 プラチナ・シリーズ 3
ミッシャ・マイスキー《巨匠マイスキーの無伴奏》


2015年2月1日(日)15:00~ 東京文化会館・小ホール S席 A列 24番 7,000円
チェロ: ミッシャ・マイスキー
【曲目】
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第4番 変ホ長調 BWV1010
J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第5番 ハ短調 BWV1011
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009より 第5曲 Bourée
 J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第2番 ニ短調 BWV1008より 第1曲 Prélude
 J.S.バッハ: 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007より 第1曲 Prélude

 東京文化会館の主催による「プラチナ・シリーズ」の第3回は、チェロの大御所、ミッシャ・マイスキーさんによるJ.S.バッハの無伴奏チェロ組曲のリサイタルである。演奏するのは、第1番・第4番・第5番の3曲。私としては苦手なバッハではあるが、シリーズをセット券で買ったために、最前列の中央、ソリストの真正面の席を持っているという絶好の機会に、世界の巨匠の演奏を聴かない手はない、ということで、期待して出かけたのである。
 マイスキーさんを直接聴いたのは随分前のことで、2010年12月、ラトビア国立交響楽団の来日公演で、ドヴォルザークのチェロ協奏曲を演奏した時である(指揮は西本智実さん)。会場は、ここ東京文化会館の大ホールであった。今日は小ホールでの無伴奏リサイタルだが、実は今週末2015年2月6日にはプラハ・フィルハーモニー管弦楽団との協演で、やはりドヴォルザークのチェロ協奏曲を聴く予定になっている。定評のあるバッハとドヴォコンを一挙に楽しむつもりである。

 さて今日の演奏、バッハの無伴奏チェロ組曲だが、有名な第1番の「Prélude」はともかくとして、普段あまり聴くことがなく、曲自体もそれほど知っている訳ではない。そこで曲を個別にみていくよりも、演奏の全体像に言及することに留めたい。
 マイスキーさんのチェロは「奥深い」というのが第一の印象だった。音色は幽玄にして、濃い色合いに満ちている。その音色は、現代の若いチェリストたちとは違って、決して明るくはない。もしマイスキーさんのチェロの音に色を感じるとすれば、「深みのある褐色」といったところだろうか。低弦解剖弦のギリっと震えるような重い音は、同じ擦弦楽器でもコントラバスよりもむしろ深みを感じさせる。中音域から高音域にかけては濃厚で艶やかではあるが、どこかつや消しのような光沢感であり、いわゆる「渋い」音である。
 演奏の表現は実に幅が広いイメージ。曲自体はどう考えても単調だと言わざるを得ないが、その中で、時折グッと音量を下げる際の微細な感覚が、ダイナミックレンジを広くさせ、全体のメリハリを鮮やかにする。通奏低音にはズンと響く力感があり、内声部の分散和音はなめらかにでリズミカル、主旋律はキリッと明瞭な音色で浮き出させている。そして旋律の歌わせ方が、抒情性豊かでロマンティックに響く。それにより、単調に陥りがちな曲想に、生命力が満ちてくる。何と活き活きとした、瑞々しい曲なのだろう。こうした表現力の幅広さ、奥深さを見せつけられると、大バッハの音楽がいかに偉大なものなのかを思い知らされるような気分になる。バッハが苦手だ、解らない、などというのは、お前が未熟だからだ・・・・。マイスキーさんがそう諭してくれているようであった。
 このように、マイスキーさんの演奏には聴くものに訴えかけてくる力の強さがある。その押し出しの強さは(決して押しつけがましいものではないが)私がこれまで聴いたことのある多くのチェリストの中でも最高のランクだと思う。少なくとも、バッハの無伴奏でこれほどズンズンと迫ってくる演奏は聴いたことがない。

 マイスキーさんは、1948年、ラトビアの生まれ。67歳である。ロストロポーヴィチにその才能を見出され、ピアティゴルスキーの最後の弟子となった。ユダヤ系であったこと、旧ソビエト連邦内での様々な迫害など、現代の私たちには図り知ることのない苦労を乗り越えての現在がある。旧ソ連が20世紀の音楽史に落とした影は深いが、その中を生き抜いて国際人として世界の称賛を浴びる巨匠となった今も、彼の演奏する音楽には深い陰影が感じられる。その芯の強さ、精神性の重さ、感情の吐露・・・・。
 今日のコンサートでは、演奏を始める前にマイスキーさんが少し語った。それはイスラム過激派に拘束・殺害された日本人ジャーナリストを悼む言葉であった。今日のマイスキーさんは、演奏が終わってもほとんど笑顔を見せなかった。音楽も怒りと哀しみを湛えていたのかもしれない。私も聴いていて感動はしたもののとうとう最後まで笑顔にはなれなかった。マイスキーさんの素晴らしい演奏に、笑顔でBravo!!と叫べる日が、いつかやって来るのだろうか。

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【お勧めCDのご紹介】
 もちろん、ミッシャ・マイスキーさんによるJ.S.バッハの「無伴奏チェロ組曲全曲」です。2枚組。
バッハ:無伴奏チェロ組曲
マイスキー(ミッシャ),バッハ
ユニバーサル ミュージック クラシック



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