Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2/5(日)藤原歌劇団『カルメン』妖艶なニコリッチ/力強い笛田博昭のドン・ホセ/可憐な小林沙羅のミカエラ

2017年02月05日 23時00分00秒 | 劇場でオペラ鑑賞
2017 都民芸術フェスティバル 参加作品
藤原歌劇団公演『カルメン』
(ジョルジュ・ビゼー作曲/全4幕/原語上演)


2017年2月5日(日)14:00〜 東京文化会館・大ホール S席 1階 16列 1番 14,800円
指 揮:山田和樹
管弦楽:日本フィルハーモニー交響楽団
合 唱:藤原歌劇団合唱部
児童合唱:東京少年少女合唱隊
舞 踊:平富恵スペイン舞踊団
演 出:岩田達宗
美 術:増田寿子
照 明:大島祐夫
衣 装:半田悦子
【出演】
カルメン:ミリヤーナ・ニコリッチ
ドン・ホセ:笛田博昭
エスカミーリョ:須藤慎吾
ミカエラ:小林沙羅
スニガ:伊藤貴之
モラレス:押川浩士
フラスキータ:平野雅世
メルセデス:米谷朋子
ダンカイロ:安東玄人
レメンダード:狩野 武

 藤原歌劇団のオペラ公演『カルメン』のニュープロダクション。藤原歌劇団の本公演は一頃は随分と通ったものだが、どういう訳が最近はすっかりご無沙汰してしまい、かなり久し振りになってしまった。東京二期会の公演はけっこうな頻度で観に行っているので対照的ではあるが、別に他意があってのことではなく、演目や出演者、あるいはコチラのスケジュールが合わなかっただけのことだとは思うのだが・・・・。
 今回の『カルメン』もチラシなどで知ってはいたが何となくスルーしていた。ところが昨年末にあった「クリスマスコンサート in 能楽堂」で出演していた小林沙羅さんからミカエラ役で出演するという話を聞いて、改めてチラシを見ると沙羅さんの名前が載っている(ただし写真は載っていない)。うーむ、気が付かなかった。そういえば昨年、藤原歌劇団に入団したということだった。聞けば昨年末の時点で、本公演のチケットは完売に近い状態になっているという。そこで可能であるならという範囲内で、沙羅さんにチケットの手配をお願いしたところ、ギリギリになって座席を確保していただいたという次第。用意していただいたのは16列目でステージ全体が見渡せ、久し振りに「鑑賞に適した良い席」に座ることになった。オーケストラの音も非常にバランス良く聞こえ、歌手の皆さんの声は真っ直ぐ通ってくる。ステージ全体の動きもよく分かるし、オペラグラスを使えば出演者の表情まで読み取れるという距離感。本来はこういう席でオペラを鑑賞するのが正統派の考え方だろう。私のようにオペラでも最前列、というのは本当は邪道なのである。

 今回の『カルメン』の話題のひとつは、指揮が山田和樹さんで、実は今回が彼のオペラ・デビューなのである。その関係でピットに入るのは彼が正指揮者を務めている日本フィルハーモニー交響楽団。オペラのピットに日本フィルとは珍しいナと思っていたら、日本フィルも数十年ぶりなのだそうだ。この辺りの若干の不安材料は、オペラの演奏はシンフォニーとは全然違っていて、指揮者のペースですべてが動いていかないということだ。要は慣れの問題で、経験に裏打ちされた対応力が求められるのは確か。オーケストラも同様である。
 ヨーロッパの都市ごとにある歌劇場には、コレペティトゥーアから上がって来て現場を知り尽くした指揮者がいて、無名だけれども素晴らしく「良い仕事」をしたりする。一方でベルリン・フィルを初めとする一流のオーケストラや、その音楽監督を務めているような、人気・実力共に巨匠・トップクラスの指揮者でも、たまに慣れないオペラをやってグダグダになってしまったのを、実際に聴いたことがある。
 私はヤマカズさんの才能を露ほども疑っていないが、オペラは魔物。何が起こるか分からない。取り敢えず無事に、そして成功裏に終わることを望んでいるものである。

 第1幕の前奏曲が始まると、ヤマカズさんらしい、キレがあってしなやかな音楽がピットから飛び出してくる。速めのテンポを期待感を煽る。日本フィルの演奏も久々のオペラに向けてかなり気合いが入っているらしく、何時にも増して濃厚でダイナミックなサウンドでオペラを盛り上げて行く。オーケストラだけ聴いていても、オペラの情景が目に浮かぶような標題音楽的な表現で、情景描写に力点を強く置いているのが分かる。合唱が加わる部分では、合唱の立ち上がりのタイミングに対してオーケストラがやや先走ることがあったが、これは曲が進むとすぐに修正されていく。オーケストラの演奏は概ね良好で、適度にメリハリを効かせたダイナミックなもので、木管を中心とした濃厚なサウンドが素敵だ。ヤマカズさんのオペラ的な表現・・・・歌手でも合唱でもソロ楽器でも、とにかく主旋律を大きな節回しで歌わせて行くので、聴いていてもさほど違和感なく音楽とドラマが進んでいく。

 一方歌手陣はといえば、まず主役カルメン役のミリヤーナ・ニコリッチさんはセルビアの出身で、背が高く(おそらく本日の出演者の中で一番高身長)、黒髪のエキゾチックな美人。見た目の雰囲気はカルメン役としては申し分ない。歌唱の方は、とくに際立った印象はなかった。ちょっと暗い感じのメゾ・ソプラノでフランス語の歌唱も聴き取りにくく母音の部分だけが大きく飛んで来る感じ。初めのハバネラではオーケストラとテンポ感がぶれていたりして、ちょっと不完全燃焼気味であった。ただし演技の含めてカルメンっぽい存在感は十分で、意志の強い(我が儘な感じ?)自由を求める女の雰囲気はよく出ていて、それだけでも日本人歌手には出せない味わいかもしれない。
 ドン・ホセ役の笛田博昭さんはやや硬質の声質で、立ち上がりのキリッとした歌唱を聴かせる。声量も十分。体格も良いし、カルメンに翻弄される優柔不断な男のイメージよりは、もっと強く、迷いつつも自分の意志を強く主張するような歌唱のイメージであった。第2幕の「花の歌」は切実に、しかも堂々と歌い、見事であった。第4幕の最後のシーンでは鬼気迫るストーカーぶり(?)を力強く歌い切った。
 エスカミーリョ役の須藤慎吾さんはまずまずといったところ。一番肝心の「闘牛士の歌」でもオーケストラや合唱に負け気味で、もう少し強い押し出しが欲しかった。長く伸ばす所だけが妙に強調されていた。この曲はけっこう難しいようで、フランス語の発音が大きな声量を出しにくいのか、低音部もバリトンとしては音程を保ちにくい。実を言えば、満足のいくような「闘牛士の歌」をオペラの本番ではあまり聴いたことがないのである。
 ミカエラ役の小林沙羅さんは本公演が藤原歌劇団でのオペラ・デビューとなる。ミカエラはメリメの原作小説にはほとんど登場しないがオペラ化の際に創作された人物である。悪女的ヒロインのカルメンに対してあくまで清純派としての存在をアピールするお下げ髪と青いスカート。沙羅さんの役柄としてはピッタリだろう。欲望と打算と情欲の物語『カルメン』の中でのミカエラの存在は一服の清涼剤のよう。第1幕の「手紙の場」の二重唱のまったく曇りのない清純さは、沙羅さんのクセのない綺麗な声質と笛田さんのストレートな歌唱が見事に絡み合っていた。第3幕の「ミカエラのアリア」はこのオペラの中の唯一のアリアであり、作品の中でミカエラに与えられた役割の重要性を物語っている。心情の独白を沙羅さんが切々と、そして精一杯の情感を込めて熱唱する。声も良く通っていて、Brava!な歌唱であった。画像はこの場面のもの(会場で販売していたサイン入りの写真)。『カルメン』の配役では、ミカエラにスター級のソプラノさんをキャスティングするかどうかでカルメン像が変わってくるから、上演のクオリティを左右することになる。もちろん今回は大成功の方に入る。


 演出と重なる部分として、合唱の役割がある。今回のニュー・プロダクションでは、合唱(藤原歌劇団合唱部と東京少年少女合唱隊)に相当の人数を投入した。第1幕の煙草工場前の広場や第4幕の闘牛場前などはステージが人で溢れているくらい。全員にきちんと演技が割り振られている状態で、プロの声楽家・オペラ歌手集団である藤原歌劇団合唱部(プログラムには65名が記載されていた)はさすがに上手い。この合唱のチカラが、時として主役達の歌唱を食ってしまうところがあった。全体のコントロール不足なのか、あるいは役をもらえない歌手たちの気持ちが表れてしまったのか・・・・。
 演出は岩田達宗さん。ニュー・プロダクションだがとくに時代の読み替えなどはせずに、原作の世界を比較的ストレートに表現したものになっている。舞台装置は左右からコンクリートの壁がせり出していいる。基本的に幕ごとに固定されていて、人(それも大勢の)の動きが場面を創っていく。これらの構造物の間から見えるステージ後方のスクリーンには大きく赤い満月が常に映し出されていて、冷たい赤が物語の悲劇性を象徴的な表しているようだ。このような映像を投射する舞台美術の方式は最近多いが、客席の位置によっては見えなかったりもするので、個人的には疑問に思うこともある。今回は沙羅さんのおかげで1階のS席だったからよく見えたので良かったのだが・・・・。

 本当に久し振りの藤原歌劇団公演の鑑賞だったが、本公演は大成功だったと思う。実際に鑑賞していても面白く、退屈してしまうような場面もなかった。ヤマカズさんのオペラ・デビューも上手くいったと思うし、日本フィルも素晴らしい演奏をしてくれた。歌手の皆さんも平均以上の出来映えで、日本のオペラも水準はけっこう高いことを再確認した。

 公演自体はほぼ満席状態で、休憩時のホワイエも人でいっぱいだったのにはちょっと驚かされた。東京二期会のオペラ公演が客の入りが良くないのと対照的である。その理由は分からないが、少なくとも藤原歌劇団の方が様々な努力の成果が実っているということであろう。
 終演後はすぐに出演者の皆さんがホワイエに出て来られて、ファン・サービスも欠かさない。人がいっぱいでちょっとしたパニック状態になっていた。出演者の方々にそれぞれファンの方がいて、もう大変。私も沙羅さんにはチケットを手配していただいたお礼だけはどうしてもしておきたかったので、混雑を必死にかき分けて・・・・といった状態であった。いずれにしても、主催団体と出演者の皆さん、そして観客が一緒になってオペラを盛り上げて行くのは素晴らしいことだと思う。

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