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8/27(月)【速報】第16回東京音楽コンクール/本選・声楽部門/優勝はアルティエンバエヴァ、2位に種谷典子と小堀勇介

2018年08月27日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第16回 東京音楽コンクール 本選 声楽部門

2018年8月27日(月)18:00~ 東京文化会館・大ホール 自由席 1階 1列 18番 1,500円(会員割引)
指 揮:現田茂夫
管弦楽:東京交響楽団

 毎年8月に開催されている「東京音楽コンクール」は、2015年の第13回開催より国際化が図られ、海外からの参加も可能になって大きく様変わりした。各部門も毎年開催されるわけではなく、3年間に2回開催されるという変則的なスタイルだ。そのため、普通ならメインとなるピアノ部門が今年は開催されず、声楽部門、弦楽部門、金管部門の3部門で競われることになった。各部門とも第1次予選・第2次予選を経て、今週から本選会が開催される。

 その第1陣は「声楽部門」。第1次予選は6月28日・29日に東京文化会館・小ホールで、歌曲とアリア各1曲を8分以内で、第2次予選は8月20日に、歌曲とアリア各1曲以上を約15分の任意のプログラムで、という課題となっていた。いずれもピアノ伴奏による歌唱である。一方、本選会は東京文化会館・大ホールにてオーケストラ伴奏、15分〜20分の任意のプログラムという課題で開催された。
 応募者数は、合計で91名。内訳は、ソプラノ57名、メゾソプラノ8名、アルト1名、カウンターテナー1名。テノール10名、バリトン11名、バス3名であった。第2次予選に進んだのはその内の12名。そして本選に進んだのは5名である。
 それでは登場順・演奏順に概観してみよう。

●森野美咲(ソプラノ)1988年生まれ(ウィーン国立音楽大学修士課程修了)
【曲目】
 ヘンデル:オラトリオ『サムソン』より「輝けるセラフたちに」
 ヴェルディ:歌劇『仮面舞踏会』より「どんな衣装か知りたいでしょう」
 ドニゼッティ:歌劇『連隊の娘』より「フランス万歳!」
 森野さんの歌唱は、クセのない声質で透明感があり、とても素直な印象。基本的に明るい声のため明瞭で華やかな印象が強い。声量はそれほど大きくはないが、その歌唱は端正で繊細な表現に富み、好感が持てる。一方で、あまり押し出しは強くないので、強烈な印象は残さないが、聴く者の心に共感を呼ぶタイプの歌唱のように思える。

●小堀勇介(テノール)1986年生まれ(国立音楽大学大学院音楽研究科声楽専攻オペラ・コース修了)
【曲目】
 ロッシーニ:歌劇『セミラーミデ』より「ああ、試練など何処に?」
 モーツァルト:レチタティーヴォとアリア「哀れな男よ!夢か現か~あたり吹くそよ風よ」K.431
 小堀さんは、軽快なタイプのテノールで、選曲からみてもレッジェーロ系というところか。このタイプの声域には声質も合っている(人の声は皆違うので、合っているとは思うが個人的にはあまり好きなタイプの声ではない)。装飾的な歌唱も軽快で上手いと思うが、やや平板な感じがしてメリハリに欠けるような印象があった。この声域であっても、もう少し押し出しの強さと声量の変化が欲しいところだ。

●種谷典子(ソプラノ)1987年生まれ(国立音楽大学大学院音楽研究科声楽専攻オペラ・コース修了)
【曲目】
 ドニゼッティ:歌劇『ドン・パスクワーレ』より「あの騎士の眼差しに」
 トマ:歌劇『ハムレット』より 「私も遊びの仲間に入れてください」
 種谷さんは絹のように滑らかで艶やかな声質がとても好ましい印象を生み出す。歌唱の表情付けも豊かで、リズム感を含めてノリの良い歌唱が展開された。コロラトゥーラ系の装飾も可憐だし、高音域も自然で伸びやかである。一方、トマの『ハムレット』では技巧性に加えてしっとりとした情感を描き出している。フランス語の歌唱はかなり難しいと思われるが、敢えて難曲を選んだのは、声質と技巧性が合っているという判断だろうか。自由度を感じさせる自然なコロラトゥーラの技巧は軽やかで見事だし、情感を込めるための微妙なニュアンスで描く表現力も素晴らしい。スター性も備えているし、コンクールの結果は別として、今後も追いかけてみたいソプラノさんである。

●宮地江奈(ソプラノ)1989年生まれ(国立音楽大学大学院音楽研究科声楽専攻オペラ・コース修了)
【曲目】
 ロッシーニ:歌劇『ランスへの旅』より「優しい竪琴よ」
 R.シュトラウス:歌劇『ナクソス島のアリアドネ』より「偉大なる女王様」
 宮地さんは選曲に懲りすぎたキライがある。ロッシーニの「優しい竪琴よ」はオーケストラがハープと管楽器のみという編成。ハープの分散和音に乗せて歌われるアリアは、ピアノ伴奏とあまりイメージが変わらない。歌唱の方はクセのない美しい声質で、非常に端正な歌いっぷりで、ちょっと真面目過ぎる印象はコンクールでは決してプラスには働かないのではないかと思われる。また、シュトラウスの『ナクソス島のアリアドネ』は室内楽的小編成オーケストラによるオペラであり、このアリアも弦楽7重奏+管楽器+ピアノという編成。ドイツ語によるコケティッシュなコロラトゥーラ系の歌唱は、十分に可憐で魅力的ではあったが、迫力が感じられる曲ではないので、コンクール用としては難しかったのではないかと思う。

●ザリナ・アルティエンバエヴァ(ソプラノ)1985年カザフスタン生まれ(ロンドン大学ゴールドスミス校音楽学部大学院修士課程修了)
【曲目】
 ヴェルディ:歌劇『椿姫』より「ああ、そは彼の人か~花から花へ」
 グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
 アルティエンバエヴァさんは今回の本選会の中でも最年長の33歳。歌唱からステージ捌きまで、すべてプロのレベルであった。海外からの参戦であり経歴も詳細は分からないが、聴いた限りでは既にある程度の実績があるものと思われる。敢えて『椿姫』を採り上げたのも、本舞台の経験も何度もあるような印象の、落ち着きと貫禄を見せた。ちょっとコンクールのイメージではなくて、完全にオーケストラ伴奏のリサイタルになっていた。ゆったりとしたテンポを採り、声量もたっぷりに大らかに歌う。ヴィオレッタの情感が表現されていたかどうかは別として、技巧的にも押し出しも完全にプロ級であった。『椿姫』の大アリアを堂々と歌い切って、「私は夢に生きたい」はむしろアンコールのような風情。まったく、他者を圧倒していたといっても過言ではない。


 本選会は18時に始まり、すべての演奏が終了したのは20時15分くらい。その後、出演者がステージ上に集合して、審査結果が発表され、表彰式となる。天候が不穏で雷と雨が気になったので、私は結果を見ずして帰宅の途についた。いずれ東京文化会館のメールマガジンで結果が届けられるからである。
 メールマガジンは22時32分に届いた。審査結果は下記の通りであった。

《第16回東京音楽コンクール 本選・声楽部門 審査結果》
 第1位:ザリナ・アルティエンバエヴァ(ソプラノ)
 第2位:小堀勇介(テノール)
     種谷典子(ソプラノ)
 第3位:該当者なし
 入 選:森野美咲(ソプラノ)
     宮地江奈(ソプラノ)

 聴衆賞:ザリナ・アルティエンバエヴァ(ソプラノ)

 第1位となったアルティエンバエヴァさんは、ダントツの別格といった感じで、すでに相当な実績を積んでいるプロのように思えた。何だかアマチュアのコンクールの中に1人だけプロが入り込んでいるようであった。この5名の中では、声量も表現力もステージ捌きさえもが圧倒的な力量の違いを見せていた。つまりこの5名の中から優勝者を選ぶとしたら彼女以外の選択肢はなかったと思う。ただ、コンクールの趣旨、これから日本の音楽界へ、世界の音楽界へと羽ばたいて行こうとする人材を発掘するという意味に於いては、レベルが違いすぎる人が参加するのが良いことなのかどうか、やや疑問を感じないでもない。いずれにしても、コンクールが国際化すれば、どんどんレベルは上がっていくことになる。近い将来、「東京音楽コンクール」が日本人が勝てない世界レベルのコンクールになっていく可能性もあるのだ。

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