Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

1/6(土)今井正 &青木尚佳/二重奏の魅力/藤沢でサロン・コンサート/共演を重ね生き生きと対話が弾むような演奏

2018年01月06日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
今井正コンサート・シリーズ Vol.2
ヴァイオリン・ピアノ 二重奏の魅力


2018年1月6日(土)14:00〜 L'esprit Français(藤沢市)自由席 1列中央 5,500円(ティータイム付)
ヴァイオリン:青木尚佳
ピアノ:今井 正
【曲目】
シューベルト:ヴァイオリン・ソナタ イ長調 作品162 D.574
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
イザイ:子供の夢 作品14
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調 作品94bis
《アンコール》
 エルガー:愛の挨拶

 ビアニストの今井 正さんが、出身地地元の神奈川県藤沢市で独自に開催しているコンサートのシリーズ。新年早々、まだ松の取れない日に遠く藤沢市まで足を伸ばしたのは、ヴァイオリンの青木尚佳さんがゲスト出演するからだ。「ヴァイオリン・ピアノ 二重奏の魅力」というテーマは、あくまでピアニスト側からの提案ということで、ヴァイオリニストの音楽作りに対して、ピアニスト側がどのように関わるかということらしい。しかし、曲目を観れば分かるように、聴く側にとっては普通のヴァイオリン・リサイタルといえそうである。
 会場は「L'esprit Français(レスプリ・フランセ)」というサロン式フレンチ・レストランで、完全予約制で、お食事会やコンサートなどに利用できるスペースである。今回はコンサートの後にデザートと飲物が提供される「ティータイム」付きのサロン・コンサートという形式であった。JR東海道本線の藤沢駅で小田急江ノ島線に乗り換え、鵠沼海岸駅で下車して徒歩10分。閑静な住宅街(人通りもまばら)の中にある素敵なレストランが会場だ。テーブルを片付けてコンサート用に椅子を並べても40席くらいのスペースだ。久し振りに濃密なサロン空間で、尚佳さんのヴァイオリンを聴くことができそう。早めに着いたら、リハーサルの音が漏れ聞こえて来る。今年のお正月は好天に恵まれたが、海が近いらしく風が冷たかった。

 今井さんはロンドンを拠点に活躍しているピアニストで、数々の国際音楽コンクールや音楽祭の公式伴奏ピアニストなども務め、王立音楽院でも専属ピアニストとして後進の指導にあたっている。一方、尚佳さんもロンドンに留学し、王立音楽大学を首席で卒業した後は王立音楽院に学んだ。そんな関係もあって、2015年7月にお二人は浜離宮朝日ホールにてリサイタルで共演している。またその翌年、尚佳さんがテレビ朝日の「報道ステーション」に出演した際に弾いた山田耕筰の「この道」を独奏ヴァイオリン用に編曲したのも今井さんである。今回は、今井さんが出身地である藤沢で開催しているシリーズに「ヴァイオリン・ピアノ 二重奏の魅力」というテーマで臨むにあたり、尚佳さんに共演を求めたところ快諾されたとのこと。ちょうど年末年始の休暇で帰国しているタイミングなので、お正月早々ということになったのである。

 さて上記のプログラムを見ても分かるように、演奏される曲目は少ないが、実はこのコンサート、公演プログラムが用意されてなく、各曲の演奏前に今井さんが解説をするというスタイルで進められた。だから、時間的には2時間のコンサートになっている。

 1曲目はシューベルトの「ヴァイオリン・ソナタ イ長調}」。シューベルトは尚佳さんの好きな作曲家ということで、この曲はその意味で得意としているはず。息の長い歌謡的な主題が特徴の第1楽章では、ヴァイオリンによる主題が爽やかに歌っている。この旋律を歌わせる感覚には、歌曲のような言語的な感覚というか、息継ぎをしながら言葉を発していくような抑揚が感じられる。2小節〜4小節の一塊の旋律がふわりと丸く形作られ、そのフレージングが次々と紡ぎ出されていく感じだ。歌曲のように自由度の高いテンポの揺らぎに対して、今井さんのピアノが対話するように追いかけていく。
 第2楽章はスケルツォ。今度はヴァイオリンが器楽的な雰囲気に変わり、舞曲らしいリズム感で音楽が流れ出す。こうした表現はその曲相に応じて臨機応変に変化する。そうした引き出しが聴く度に増えているようだ。
 第3楽章は緩徐楽章。ここでは歌謡的な主題を器楽的な変奏曲にしたような趣がある。ヴァイオリンとピアノが主題をキャッチボールしているかのように対話を進めていく。
 第4楽章はAllegro vivaceのフィナーレでソナタ形式。軽快なリズム感に乗せて、ヴァイオリンとピアノの対話が繰り返される。躍動する第1主題とロマンティックな第2主題とでは、ヴァイオリンもピアノも音色が変わってくる。その辺りの色彩感の変化も見事だ。尚佳さんのヴァイオリンには、優しくしなやかな美しさの中に芯の強さがあり、今井さんのピアノには情熱的な強さの中に相手に対する優しさが垣間見える。聴いていて心地よいデュオであった。

 2曲目はサン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」。ヴァイオリンの超絶技巧曲として、リサイタルには欠かせないピースである。逆に多くのヴァイオリニストがプログラムに載せるので、聴く側も曲をよく知っているから、演奏家にとっては試金石になってしまう。そんな目で見ると、尚佳さんの技量の素晴らしさが見えてくる。高速パッセージやリズム感の正確さもとより、そうした技巧の中で描かれる音楽の表現が実に豊かで、濃厚なのだ。フランス音楽らしい色彩的な豊かさもたっぷり見せてくれるし、旋律やリズムに生命力が漲っている。つまり音楽が生き生きとしているのである。尚佳さんのヴァイオリンが次々と沸き上がってくる楽想(解釈)をその場で音に変えて描き出すと、今井さんのピアノがそれに反応して、跳ね返したり、あるいは飲み込んだりして、セッションが盛り上がっていく。そんな感じの素晴らしい演奏であった。

 休憩を挟んで、3曲目はイザイの「子供の夢」。夢幻的な浮遊感のある旋律は、あどけない子供の見ている夢の世界なのか、それとも子供をいとおしく思う大人の夢なのか。尚佳さんのヴァイオリンも今井さんのピアノも、ホッとするような優しさが感じられる。

 プログラムの最後を飾るのは、プロコフィエフの「ヴァイオリン・ソナタ 第2番」。元となる作品94のソナタはフルートのための曲で、ダヴィッド・オイストラフの懇願によりヴァイオリン・ソナタへと改作され、有名になった曲。
 第1楽章はModeratoだが、普通一般的に演奏されているよりはかなり遅めのテンポ設定で曲が始まった。ロマンティシズム溢れる主題がゆっくりと語られていくと、普段は聴き取れないような微妙なニュアンスが浮かび上がって来る。対話的な造形のピアノとのやり取りも明瞭に感じられる。男と女が並んで歩きながら対話しているイメージだろうか。愛を語っているかと思えば、時に不機嫌になって言い争ったりもしている風情に人間味が滲み出てくる。
 第2楽章はスケルツォ。新古典主義的な造形の中に近代的なニュアンスを封じ込めているような・・・・。メリハリを効かせたヴァイオリンに対して、今井さんのピアノがかなり大胆に切り込んで行く。なかなか緊張感のある演奏だ。
 第3楽章は緩徐楽章。息の長い歌謡的な主題はロマンティックだが、やがてブルース風に変化していく。第二次世界大戦中に作曲された経緯からみても、危険な因子を含んでいるとも言える。尚佳さんのヴァイオリンは抒情的な歌わせるが、今井さんのピアノには焦燥感が感じられて、この不思議な曲想に対して対照的な表現が交錯して面白い。
 第4楽章はAllegro con brioのフィナーレ。平均よりはやや遅めのテンポで、シッカリした造形を描き出していく。躍動するリズム感と濃厚な音色で、行き場のない感情が蠢くような印象。多様に変化する情感を描き分けると同時に、全体を貫く共通する色合いもハッキリしていて、二人の表現の豊かさを感じられる演奏であった。

 アンコールは、グッと平和な感じのするエルガーの「愛の挨拶」。揺らぐテンポ感が優しい情感をしっとりと歌い上げる。

 さて今回は小規模なサロン・コンサートという形式で、手が届きそうなくらいの距離感で聴く演奏は、細やかなニュアンスも微妙な音色の変化も手に取るように聴き取れる。会場も空間があまり大きくないので音響はタイト。しかもぎっしり満席に人が入ると、残響音もかなり吸収されてしまう。そうした中で演の奏は、ヴァイオリンもピアノもむき出しの状態になる。サロン音楽の魅力であることも確かだが、演奏する方にとってき条件はキツイところだろう。それでも、尚佳さんのヴァイオリンは伸びやかで、音には艶があり潤いさえ感じさせる。質感が一段と良くなっているのが嬉しい。今井さんのピアノは、ちょっとフォルテピアノのような音色で、タイトな響きの中でアコースティックな雰囲気も感じられたが、ダイナミックレンジが広く、インパクトのある演奏で、表現の幅も広く、陰影がクッキリとしていた。二人のセッションは、互いに影響し合って、より高い次元を求めているのがよく分かった。心情までが見えてしまうのも、サロン音楽の魅力のひとつだろう。


 終演後は、椅子を片付けてテーブルをセッティング、ティータイムとなった。今回は、お客さんの多くは今井さんの関係者だったようで、尚佳さんの取り巻きは私たち数名だったから、ゆっくりと話すこともできた。また、今井さんとも音楽の言語的な要素について深遠なる話題で話し合ったりすることができて本当に楽しかった。
 今年は年末年始の休暇が長く、まだ休みの途中だったが、遠く藤沢まで足を伸ばした甲斐のある素敵なコンサートとなった。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓








コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 1/3(水)NHKニューイヤーオペ... | トップ | 1/7(日)N響オーチャド定期/森... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事