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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/2(水)「快演」フィルハーモニア管/サロネンとヒラリー・ハーンでチャイコVn協とシベリウス2番

2010年06月13日 02時01分00秒 | クラシックコンサート
「フィルハーモニア管弦楽団 来日公演」

2010年6月2日(水)19:00~ サントリーホール・大ホール S席 1階 4列 26番 23,000円
指 揮: エサ=ペッカ・サロネン
ヴァイオリン: ヒラリー・ハーン*
管弦楽: フィルハーモニア管弦楽団
【曲目】
サロネン: ヘリックス
チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35*
《アンコール》
イザイ: メランコリア*
J.S.バッハ: ジーグ*

シベリウス: 交響曲 第2番 ニ長調 作品43
《アンコール》
シベリウス: 付随音楽「ペレアスとメリザンド」より“メリザンドの死”
      組曲「カレリア」より“行進曲風に”

 仕事が非常に忙しかったために、レビューを書くのが10日以上遅れてしまった。こんなことは初めて。しかし考えてみれば、コンサートに行くから余計にいそがしくなってしまったのかも…(-。-;)

 今回のフィルハーモニア管弦楽団の来日ツアーに同行したエサ=ベッカ・サロネンさんはヘルシンキ出身で国際的な活躍をしている指揮者で52歳。現在はフィルハーモニア管弦楽団の主席指揮者・芸術顧問を務めていて、25年にも及ぶ両者の関係は硬い信頼によって結ばれているとか。当然、完成度の高い演奏が期待される。サロネンさんは、今年の11月にはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演でもブルックナーやマーラーを振ることになっている。ツアーは、西宮に始まり、東京(芸劇)、東京(サントリーホール)、東京(東京文化会館)、東京(サントリーホール)、名古屋と回ることになっている。本日は終盤のサントリーホールの日で、同行しているヒラリー・ハーンさんをソリストに迎えてチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲とシベリウスの2番というポピュラーな選曲だった。

 1曲目の「ヘリックス」は作曲家でもあるサロネンさんの作品で2005年の初演。もちろん初めて聴く曲だ。現代曲には違いないが、とても聴きやすい曲で、打楽器を多用した静かな序奏から始まり、中間部には弦楽の重奏にフルートの怪しげなソロが乗るあたりは幻想的な趣もある。終盤に向けてオーケストラが徐々に厚みを増して加速的に爆発してフィニッシュを迎える。曲名は「螺旋」という意味らしく、確かに渦を巻いて中心に向かって昇華していくイメージを巧みに表現している曲だ。作曲者ご本人が指揮をしているわけだから、これ以上の楽曲解釈はない。フィルハーモニア管弦楽団のポテンシャルの高い演奏が、作曲者の意図を十分に表現できていたのだろうと思う。素晴らしい演奏だった。

 2曲目はヒラリー・ハーンさんのチャイコフスキー。天才少女もいつの間にか30歳を過ぎ、このさんざん聴き慣れた曲をどのように演奏してくれるのか。期待で胸はふくらむ。
 弦楽の序奏に続き、ソロ・ヴァイオリンが主題を弾き始める。予測をしていたのとは違い、かなりゆっくりめのテンポで、フレーズをしっかりと弾く。大地に足を踏ん張ったような、堂々たる演奏で、終始、遅めのテンポをとり、すべての音符を正確に弾くというようなガッチリした構成だ。音色は豊穣で艶があり、音量も豊か。ダイナミックレンジを比較的狭くして、ピアノからフォルテまで、音量も音質も均一になるようにしてるようだ。彼女の技量にしてみれば、速いテンポでガンガン攻め込むことも簡単だろうが、今日は、じっくり構えて演奏するようだ。
 第2楽章はミュートを付けたまろやかな音色で、甘美な旋律を極度に感情移入することなく(ある意味冷静に)正確に美しく弾いていた。
 第3楽章になっても、とくに感情の高ぶりを見せず、やや遅めのテンポを保ちながら、冷静沈着に、正確に弾いていく。終盤の盛り上がりには、さすがに少しテンポアップしたものの、曲全体としては,終始「熱くならない」演奏だった。
 今日の演奏は、こちらが期待していたのとはかなり印象の異なる「意外な展開」だった。なるほど、こういう演奏もあるのか、と感心させられる。演奏自体は、正確無比。音にばらつきがまったくなく、音色も艶やかで見事である。演奏者の(勝手な)解釈で、思い入れたっぷりに表現したり、オーケストラとガチンコ勝負をしたり、といった感情論を廃し、冷静に曲を見つめ直した結果が、今日の演奏になったのだと思う。彼女の円熟(?)した側面を感じさせる演奏だった。同時に、このような演奏を引き出したサロネンさんとフィルハーモニア管弦楽団も、ハーンさんの意図を十分に理解した上でのサポートだったと思う。
 ちなみに、今回の来日公演に合わせて、国内先行発売された同曲のCD(ワシーリ・ペトレンコ指揮/ロイヤ・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団)では、むしろ一般的な普通のテンポで、普通に演奏している。やはり演奏会では、いろいろとテーマを決めてトライしているのだろう。ライブならではのおもしろさだ。

 鳴り止まない拍手に応えてソロでのアンコール2曲も珍しい。アンコールの曲名を日本語で言うのもおなじみの光景だ。イザイの「メランコリア」が無伴奏ならではの技巧的な演奏を豊かな音色で包み込み、素晴らしかった。

 後半のシベリウスも、期待していたものとは大きく異なる演奏だった。もちろん、ヘタであるとか、良くない演奏であるとか、とういう意味ではない。個人的な好みと少々違っていたという意味だ。サロネンさんはフィンランドの人だから、シベリウスのこの名曲を、いかにもフィンランドの情景描写のごとく演奏するのだと思っていた。ところが今回の演奏会では、フィルハーモニア管弦楽団という国際級のオーケストラの特性を十分に発揮させ、フィンランド・ローカルからグローバルな純音楽へとランクを上げた演奏を目指したものと捉えることができる。
 こちらもやや遅めのテンポに終始し、スコアの中のすべての音を正確に紡ぎ出していく。弦楽器も、木管・金管の各パートも最高ランクの技巧を持つオーケストラだからこそ、サロネンさんの意図を正確に表現することができたのだろう。遅めのテンポであっても、正確にリズムを刻み、アンサンブルにも曖昧さがない。主旋律を過度に歌わせたり、テンポを揺らしたりもせず、正確に演奏していくのだが、オーケストラのダインミックレンジは広く、緻密であるにもかかわらず、豪快な音を出す。余分な装飾を付けることなく、素直に、客観的に演奏すれば、曲に込められた作曲者の思いが自然に表れてくると信じているような演奏だった。考えてみれば、シベリウスなのだから、フィンランドなのだから、とこちらが勝手に思い入れを加えてしまい、「フィンランドの森と湖と、凍てつく冬の空気感が目に浮かぶよう」な演奏を期待してしまう(とくにシベリウスの場合は)。だが、一歩下がってこちらも冷静に見てみれば、「交響曲」という純音楽を、どのように演奏すべきか、どのように聴くべきかは、自由であり誰の考えが正しい訳でもない。歴史に残るような名曲であるなら、作曲家の意図も、演奏家の解釈も、聴衆の嗜好も、すべてを飲み込む懐の深さがあるのかもしれない。そんなことを考えさせられた名演であった。
 ついでのように行ってはたいへん申し訳ないが、第4楽章の第1主題、弦楽の美しさと金管の華やかさは、さすがグローバル級の音色だった。やっはりこの曲はここが泣かせどころなので…。

 コンサート終了後にはサイン会があったので、開場で購入したヒラリー・ハーンさんの新しいCD(ヒグドン&チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲)にサインをいただいた。ひとりひとりに日本語で「ありがとうございました」と声をかけていた。長い行列ができていたので、サロネンさんの方は断念。

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