Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/30(水)服部百音ヴァイオリン・リサイタル/無限の可能性を秘めた17歳の超絶技巧少女

2016年11月30日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
服部百音 ヴァイオリン・リサイタル

2016年11月30日(水)19:00〜 紀尾井ホール S席 1階 BL1列 3番 5,500円
ヴァイオリン:服部百音(はっとりもね)
ピアノ:ヴァディム・グラドコフ
【曲目】
イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2
グリーグ:ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 作品45
ヴィエニャフスキ:伝説曲(レゲンデ)作品17
シマノフスキ:『神話』作品30より「アレトゥーザの泉」
ヴィエニャフスキ:グノーの『ファウスト』による華麗なる幻想曲 作品20
エルンスト:『夏の名残のばら』による変奏曲
ワックスマン:カルメン幻想曲
《アンコール》
 ミヨー:ブラジレイロ
 服部隆之:『真田丸』のメインテーマ
 パガニーニ:「24のカプリース」より第17番

 色々な意味で話題になっている芳紀17歳の服部百音さんのリサイタルを聴く。今年2016年10月にCDデビューも果たし、それを記念してのリサイタルを名古屋、東京、大阪で行う。事実上の本格的なデビュー・リサイタルという位置づけになるものだ。

 百音さんは1999年生まれというから現在17歳。東京音楽大学附属高等学校の特別特待奨学生である。海外の国際ヴァイオリン・コンクールのジュニア部門で数々の優勝歴があり、そろそろシニア年齢にさしかかり、さらなる飛躍を期待できる俊英である(チラシのキャッチコピーには「スーパーヴァイオリニスト」という言葉が踊っている)。
 会場で配布されたプログラムに記載されているプロフィールやオフィシャル・サイトを見ても「5歳よりヴァイオリニストを始め・・・・、コンクール受賞歴、師事した先生、共演した指揮者やオーケストラなど」というような、彼女のこれまでの音楽歴が書かれているだけで、その意味ではクラシック音楽の一般的なヴァイオリニストとして扱われている。しかし百音さんにはもう一つの顔がある。その名が示す通り、音楽一家である服部家のお嬢さんなのである。父は作曲家の服部隆之さん、祖父は服部克久さん、曾祖父に服部良一さんがいる。一族には宝塚の歌手や俳優、バレエダンサーなどもいて、日本でも有数の音楽一家の一員なのだ。ところがクラシック音楽の世界とはちょっと異なる世界でもあり、その辺りが微妙な感じがするのだが、プロフィールに一族のことが一切書かれていないところをみると、POPS界・映画界・テレビ界・芸能界などとは一線を画して、クラシック音楽の世界でやっていこうという意志があるようなので、私たちとしては歓迎したいところである。

 さて今日のリサイタル。やはり様々な話題に呼び寄せられてか、紀尾井ホールは大入り満員。老若男女の幅広い層の人々が来場していた。とくに若い人たちの姿が目立っていたし、私たちのようなクラシック音楽のマニア系の人もかなり知った顔ぶれが来ている。
 そして演奏を最後まで通して聴いた印象は「豊かな才能に恵まれた未完の大器」。よく使われる言葉だが、若手に対して「未完の大器」というと、「見るべきところは多く将来性を感じられるが、現在はまだまだ荒削りで完成度が低い」という意味に取られがちだが、百音さんの場合はちょっと違う。私が感じたのは、曲によって仕上がり具合にバラツキがあるように聞こえた。よく練習して十分に弾き込んで来たと思われる曲は、超絶技巧を売り物にするくらいに冴えた技巧を見せ、発揮度の高い演奏を聴かせてくれる。ところが逆のパターンになると楽器があまり鳴らずに、全体のテンションが低い。この辺は若さと言えば若さであって、演奏会の数をこなしていく内に、短い時間で楽曲を自分のモノにするチカラが身についていくのだろう。デビュー・リサイタルとしては、後半の超絶技巧ものに力点を置いたために、前半がちょっと仕上がりが浅いという印象になってしまった。この辺りが「未完」のイメージなのである。

 1曲目はイザイの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ 第2番 イ短調 作品27-2」。J.S.バッハの「無伴奏パルティータ 第3番」からの引用に始まり、グレゴリオ聖歌の「怒りの日」の主題が全体を通じる主題になっている。演奏の印象は、テンポの速い第1楽章・第4楽章は前のめりっぽく走り軽快だが、音量が小さめ。技巧的な早いパッセージなどの際にとくに音量が下がる傾向があり、不明瞭になってしまうのが惜しかった。今日は1階の左側バルコニー席で、ステージにも近くよく見通せていたが、紀尾井ホールの豊かな残響の中に演奏事態の音が埋もれてしまうような印象になってしまった。

 2曲目はピアノ伴奏が付いて、グリーグの「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調 作品45」。まずピアノのヴァディム・グラドコフさんの演奏だが、やはり紀尾井ホールの豊潤な音響を味方に付けていないという印象。そのためにどうも色々な音が混ざってしまい、モゴモゴとして混沌とした感じになってしまう。ピアノのパートは低音部が多用されるため、その音の濁りとキレの悪さが北欧音楽から透明感を奪ってしまっていた。そしてその上に乗る百音さんのヴァイオリンは、音量にムラがあるのと(強弱とは違う意味で)、時々ピアノと合わなくなったりすることもあって、全体的にドタバタした印象に終始した。リハーサルが十分でなかったのか、緊張してしまっていたのか・・・・。

 後半は、ヴィエニャフスキの「伝説曲(レゲンデ)作品17」から。作曲家自身がヴィルトゥオーゾ・ヴァイオリニストだったから、創られる曲も超絶技巧ものが多くなるが、この曲はゆったりとしたテンポで感傷的・抒情的な主題が語られる美しい曲である。ここでも百音さんのヴァイオリンがもう少し豊かな音量を持っていたら、と思う。表現的には女性的な繊細さが可憐なイメージを創り上げていたが、元は管弦楽伴奏の曲のせいか、ピアノが少々張り切りすぎだったかもしれない。

 続いて、シマノフスキの「『神話』作品30」より「アレトゥーザの泉」。ピアノが奏でる分散和音のようなキラキラした水の煌めくイメージが特徴的な曲だが、ここでもピアノの音が濁っていてちょっといただけない。ヴァイオリンのパートは近代的不確実な主題を単調にならないようにメリハリを効かせて演奏されていた。美しい演奏だとは思ったが、ピアノが邪魔をしてよく聞こえない・・・・。

 次はヴィエニャフスキの「グノーの『ファウスト』による華麗なる幻想曲 作品20」。『ファウスト』の中のアリアやワルツなどをモチーフにして管弦楽との協奏形式で書かれた曲で、ヴァイオリンの独奏は超絶技巧のオンパレード。後半は超絶技巧曲をズラリと並べたカタチになっているが、この曲辺りでようやく百音さんの持ち味が出て来たように思う。ロマンティックな主題は憧れを乗せて歌わせているし、カデンツァ的に挟まれる超絶技巧のパッセージは、音程も正確だし、リズム感も流れるようで素敵だ。音量も出て来たように感じられる。曲の中程で超絶技巧に釣られて拍手が入ってしまい、分断されてしまったのは残念。

 続いては、エルンストの「『夏の名残のばら』による変奏曲」。アイルランド民謡「庭の千草」を主題とする「超」がいっぱい付く無伴奏ヴァイオリンのための超絶技巧曲である。この曲は間違えずに弾くだけでもかなりの技巧が求められるが、その技巧という点では百音さんは及第点だったと思う。というか、かなり上手い。音量もかなり出て来ていた。重音奏法の連続、弓と左手ピツィカートを同時に演奏するなど、全編が特殊奏法ばかりで、しかも多声的な構成や速いパッセージもふんだんに盛り込まれている。ピアノがいない方が自由に弾けて良かったのかも。この曲については、百音さんはコンクールの課題曲になっていたことがあり、かなり練習を積んでいたようである。その分だけ完成度も高く、超絶技巧だけに目を奪われがちだが(曲自体がそういう風に作られている)、音楽的な表現力、つまり主題の歌わせ方などにもスケール感があり、ロマンが感じられて、素晴らしい演奏であった。

 プログラムの最後はワックスマンの「カルメン幻想曲」。この曲もCDに収録したくらいだから十分に練習が積まれていて、完成度が高かった。超絶技巧はいうに及ばず、カルメンらしい妖艶な旋律の歌わせ方など、表現の方も随分と大人っぽい。音量も随分出て来ていた。演奏する方も自信があるのだろう。それが音楽に表れるから、音色にも多彩さが鮮やかになってくるし、リズム感のノリも良く流れもしなやかになる。素晴らしい「カルメン」であった。惜しいところは、ホールの響きを味方に出来ていないところだ。豊かな残響の中にヴァイオリンの速いパッセージが埋没されてしまう。自分の音が自分の音をかき消してしまい、クリアさが失われていく。ホールの響きを意識して演奏を変えていくことは、今後の経験で得ていくことであり、デビュー・リサイタルでそのことを求めるのは酷な話だが、今後の課題としてほしい点である。

 アンコールは3曲。ミヨーの「ブラジレイロ」。サンバのリズムに乗せた軽快な曲だ。ピアノがまたしても邪魔しすぎ。
 続いては、今年のHNK大河ドラマ『真田丸』のメインテーマ。父である服部隆之さんの作曲で、作曲者からの直伝の解釈だから本家本元と言って良い。テレビ番組での演奏は三浦文彰さんだが、演奏の解釈はそれとほぼ同じ。こちらもたっぷりと練習を積んでいるらしく、演奏は力感が漲り、むしろ三浦さんよりも素晴らしいくらい。
 最後の最後はパガニーニの「24のカプリース」より第17番。百音さんは無伴奏曲の方が伸び伸びと演奏できているようだ。それは利点のひとつだが、ピアノ伴奏時、さらにはオーケストラと共演する協奏曲など、他者との共演時に自由が束縛されることとどのように折り合いを付けていくかなども、今後の課題になってくるような気がする。
 それでも百音さんもタダモンじゃない。その才能には相当に優れたものがあることは確かで、将来が楽しみである。

 終演後は恒例のサイン会。新譜のデビューCDも飛ぶように売れていて、あっという間に長蛇の列ができていた。まあ、サイン会の方は今後も機会があるだろうから、今回は早々に諦めることにして、早めに帰宅することにした。

 ちょっと気になったことだが、今日の紀尾井ホールはほぼ満員の盛況であったが、季節柄か咳をする人がやたらと多かった。ピアニッシモの時にも遠慮なくゴホンゴホンを何人もの人が繰り返していたのは、演奏を妨害しているようで、非常に不愉快であった。17歳の高校生が本格デビューするリサイタルに対して、あまりにも可哀想である。聴衆が多いのは良いことだが、ヘタに動員をかけるとクラシック音楽のコンサート・マナーを守れない人が多くなる。聴き手の在り方が問われるところだ。

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【お勧めCDのご紹介】
 服部百音さんのデビューCDです。いきなりショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番という、すごいデビューです。共演はアラン・ブリバエフ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団。本日のリサイタルでも演奏された、ワックスマンの「カルメン幻想曲」も収録されています。

カルメン・ファンタジー、ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
avex CLASSICS
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