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プラハ交響楽団《ニューイヤー名曲コンサート》
2013年1月8日(火)19:00~ サントリーホール 招待席 1階 3列 9番
指 揮:イルジー・コウト → ウカシュ・ボロヴィチ
ピアノ: 上原彩子
管弦楽: プラハ交響楽団
【曲目】
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第9番 ロ長調 作品72-1
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第10番 ホ短調 作品72-2
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8
ショパン: ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
チャイコフスキー: 交響曲 第5番 ホ短調 作品64
《アンコール》
ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」より第3楽章
チェコの名門オーケストラ、プラハ交響楽団による《ニューイヤー名曲コンサート》と銘打った来日公演ツアーは、2013年の年明け、1月5日から19日までの間に、全国10都市で10回の公演が行われる。けっこうハードスケジュールで、今日はその4日目。東京都心での公演はサントリーホールでもこの1回のみである。
当初発表されていた指揮者は、首席指揮者のイルジー・コウトさんであったが病気のため来日できなくなり、常任客演指揮者のウカシュ・ボロヴィチさんが代役となった。ツアーに同行するソリストは上原彩子さん。プログラムは1種類のみで、上記の通りとなっている。上原さんによるショパンのピアノ協奏曲第1番を聴きたくて、主催のジャパン・アーツさんによる招待券を手に入れ、会場に臨んだため、席を選ぶことができず、1階の3列目だが左ブロックになってしまった。だいたい第1ヴァイオリンの4プルトくらいの位置なので、センターブロックとはかなり違って、音のバランスはいささか悪かくなるのはやむを得ないところだ(といっても、S席相当)。
今日のオーケストラは、第1と第2のヴァイオリンを対向に配置し、第1の奥にチェロ、その後ろにコントラバス、第2の奥がヴィオラとなっていた。管楽器の方はよく見えなかったが、ホルンは通常通り左側。これだと右側がちょっと薄くならないだろうか。また、このオーケストラは団員がほとんど男性でしかも大柄な人が多い。けっこう馬力がありそうである。
1曲目、というか前半の最初はドヴォルザークのスラヴ舞曲集から3曲。指揮のボロヴィチさんはポーランド出身の若い人で、ポーランド、ハンガリー、チェコといった東欧諸国を拠点に、ヨーロッパで広く活躍しているらしい。元気いっぱいで、音楽も活き活きとしていた。舞曲ということもあるが、やや早めのテンポでリズム感が良く、キレの良い音楽を描き出す。一方、オーケストラの方は、ちょっとくすんだ感じの味わいのある音色で、暖かみのある音。いかにもスラブ系の音楽が似合う。その、いかにも、の感じでお国ものの音楽を演奏するわけだから、多少のアンサンブルの乱れもなんのその、楽しそうに演奏していたものだから、聴いている方も何だか楽しくなってきた。
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2曲目は上原さんの独奏によるショパンのピアノ協奏曲第1番。オーケストラの編成も弦楽を人数を減らしてコンパクトになった。大柄な団員の中央に立つ上原さんがいつもより小さく見えた。
第1楽章はオーケストラのみにより長い提示部の後、ピアノが入ってくるが、思っていたよりも 繊細なタッチだ。音量も全体的には控え目で、ダイナミックレンジもフラットな印象だ。ただし音のひとつひとつがくっきりと明瞭なのは上原さんの特徴で、けっしてドローンとした演奏ではない。一方で、オーケストラの方がむしろ、良く言えば落ち着いた音、悪く言えばメリハリがない音であったような気がする。
第2楽章の緩徐楽章は、ピアノの弱音をベースに組み立てたような印象。繊細でかすかな音に、おもわず耳を澄ませてしまう。感傷的なロマンティシズムを澄みきった音色で美しく描き出していた。
第3楽章になると、ピアノもオーケストラもすこしテンションが上がってきた。ロンドの主題が軽やかに踊る。上原さんは、もとより超絶技巧の持ち主だし、ffでは半分立ち上がって体重を載せた打鍵で強靱な音を出したりもするピアニストだが、今日はそういう面は見せずに、全体としては抑え気味。むしろ微妙なニュアンスや美しい音色などの表現の方に重点を置いた演奏だったと思う。オーケストラも抑え気味で、バランスは取れていた。指揮のボロヴィチさんは終始上原さんの方を見ながら、ピタリと寄り添うようにサポートに徹していたようだ。
今日の協奏曲は、あくまで若き日のショパンの曲という解釈だったのだろうか。繊細で控え目。あまり強い自己主張を見せずに、心の内面に秘められた抒情性を描きたかったのではないだろうか。ショパンらしいナイーブな感性がうまく表現された素敵な演奏だったと思う。
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後半は、オーケストラをフル編成に戻してチャイコフスキーの交響曲第5番。実は会場に入るまで、今日はチェコのオーケストラで《ニューイヤー名曲コンサート》だから、ドヴォルザークの「新世界から」を演奏するものだと勝手に思い込んでいた。席について、プログラムを開いて、あれれ? チャイコフスキーって書いてある…。何とも間抜けな話だが、もちろんチャイコフスキーの第5番は名曲中の名曲であるし、大好きな曲だから問題はないのだが……。
さて気を取り直して、曲が始まると、これがなかなか面白い演奏なのだ。まずテンポは全体的に速めで、インテンポに近く、キレが良い。オーケストラのダイナミックレンジもショパンの時とは格段の違いで、音量も大きい。やはり大柄な男声の多い骨太のオーケストラの本領発揮というところだ。イケイケの感じで、時折突っ走りすぎてオーケストラが追いつけずにパラケそうになったりするのもご愛敬で、なかなかスリリングで楽しい。その勢いのある感じがとても楽しげでイイ感じなのである。ホ短調の第1楽章、この曲がこんなに明るく楽しげに演奏されるのを初めて聴いた。
第2楽章のホルンのソロは、独特の雰囲気があって、これも素晴らしい。ひとつひとつの音がぷぁん、という浮遊感のある柔らかい音色で、暖かみも感じられる。聴かせどころだけに、ホルン奏者の自慢げな音色であった。あまり他で聴いたことのないタイプの吹き方だと思う。
第3楽章のワルツも速めのテンポでグイグイと勧めていく。あまり優雅な感じではなかったかも。中間部の木管もほのぼのとした音色。あまり洗練された感じでないところが、スラブ系の味わいがあって良い。
第4楽章も速めのテンポは変わらず、長調に転じて明るさが増し、さらに推進力も加わって、豪快になっていく。展開部になって全合奏になった時の音圧も素晴らしかったが、弦楽がかなり力強く、強奏の金管群にも負けず、バランスを保っていた。またティンパニが活躍する部分があるが、ちょっと派手目のアクションでノリノリに叩いていた。全体にノリの良いオーケストラである。団員は中高年の男性がほとんどだが、若い指揮者にうまく乗せられていたのか、アンサンブルの怪しいところのあったものの気にせずに、馬力があって駆け抜けていく、といったイメージである。コーダに入ると、例えばコバケンさんなら感極まって天を仰ぐところだが、ボロヴィチさんは楽しそうに全身を使ったダイナミックな指揮ぶりで、やけに陽気なチャイコフスキーであった。まあ、賛否はあるだろうが、お正月らしい演奏で、聴衆も大喜びであった。
アンコールは、ドヴォルザークの「新世界から」より第3楽章。こちらはスケルツォだが、やっぱり。速めのテンポでガンガン責め立てるような演奏。ボロヴィチさんがオーケストラを煽っていく感じだ。ここでもティンパニが大活躍。やはり、お正月は「新世界から」である。
実は、気がついてみると、ショパン以降、すべてホ短調。もちろんショパンの協奏曲もチャイコフスキーの交響曲も楽章によって調性は変わるが、楽曲としてはホ短調に統一されているから、聴く方にとっては安定感があるプログラムになっていた。アンコール曲もこの楽章はホ短調である。そんな心配りも感じた次第である。
今日は上原さんを聴くつもりで出かけたのだが、結果的にはチャイコフスキーの第5番が予想外の快演だった。ポーランドの指揮者で、チェコのオーケストラで、ロシアのチャイコフスキーを演奏するのだから、さぞかし泥臭く、暗雲立ちこめる暗~いイメージかと思いきや、元気で明るく疾走するような演奏で、しかも迫力満点。とにかく、心から楽しませていただいた。こういう意外な展開があるからライブは面白いのである。
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2013年1月8日(火)19:00~ サントリーホール 招待席 1階 3列 9番
指 揮:
ピアノ: 上原彩子
管弦楽: プラハ交響楽団
【曲目】
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第9番 ロ長調 作品72-1
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第10番 ホ短調 作品72-2
ドヴォルザーク: スラヴ舞曲 第8番 ト短調 作品46-8
ショパン: ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 作品11
チャイコフスキー: 交響曲 第5番 ホ短調 作品64
《アンコール》
ドヴォルザーク: 交響曲 第9番 ホ短調 作品95「新世界から」より第3楽章
チェコの名門オーケストラ、プラハ交響楽団による《ニューイヤー名曲コンサート》と銘打った来日公演ツアーは、2013年の年明け、1月5日から19日までの間に、全国10都市で10回の公演が行われる。けっこうハードスケジュールで、今日はその4日目。東京都心での公演はサントリーホールでもこの1回のみである。
当初発表されていた指揮者は、首席指揮者のイルジー・コウトさんであったが病気のため来日できなくなり、常任客演指揮者のウカシュ・ボロヴィチさんが代役となった。ツアーに同行するソリストは上原彩子さん。プログラムは1種類のみで、上記の通りとなっている。上原さんによるショパンのピアノ協奏曲第1番を聴きたくて、主催のジャパン・アーツさんによる招待券を手に入れ、会場に臨んだため、席を選ぶことができず、1階の3列目だが左ブロックになってしまった。だいたい第1ヴァイオリンの4プルトくらいの位置なので、センターブロックとはかなり違って、音のバランスはいささか悪かくなるのはやむを得ないところだ(といっても、S席相当)。
今日のオーケストラは、第1と第2のヴァイオリンを対向に配置し、第1の奥にチェロ、その後ろにコントラバス、第2の奥がヴィオラとなっていた。管楽器の方はよく見えなかったが、ホルンは通常通り左側。これだと右側がちょっと薄くならないだろうか。また、このオーケストラは団員がほとんど男性でしかも大柄な人が多い。けっこう馬力がありそうである。
1曲目、というか前半の最初はドヴォルザークのスラヴ舞曲集から3曲。指揮のボロヴィチさんはポーランド出身の若い人で、ポーランド、ハンガリー、チェコといった東欧諸国を拠点に、ヨーロッパで広く活躍しているらしい。元気いっぱいで、音楽も活き活きとしていた。舞曲ということもあるが、やや早めのテンポでリズム感が良く、キレの良い音楽を描き出す。一方、オーケストラの方は、ちょっとくすんだ感じの味わいのある音色で、暖かみのある音。いかにもスラブ系の音楽が似合う。その、いかにも、の感じでお国ものの音楽を演奏するわけだから、多少のアンサンブルの乱れもなんのその、楽しそうに演奏していたものだから、聴いている方も何だか楽しくなってきた。
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2曲目は上原さんの独奏によるショパンのピアノ協奏曲第1番。オーケストラの編成も弦楽を人数を減らしてコンパクトになった。大柄な団員の中央に立つ上原さんがいつもより小さく見えた。
第1楽章はオーケストラのみにより長い提示部の後、ピアノが入ってくるが、思っていたよりも 繊細なタッチだ。音量も全体的には控え目で、ダイナミックレンジもフラットな印象だ。ただし音のひとつひとつがくっきりと明瞭なのは上原さんの特徴で、けっしてドローンとした演奏ではない。一方で、オーケストラの方がむしろ、良く言えば落ち着いた音、悪く言えばメリハリがない音であったような気がする。
第2楽章の緩徐楽章は、ピアノの弱音をベースに組み立てたような印象。繊細でかすかな音に、おもわず耳を澄ませてしまう。感傷的なロマンティシズムを澄みきった音色で美しく描き出していた。
第3楽章になると、ピアノもオーケストラもすこしテンションが上がってきた。ロンドの主題が軽やかに踊る。上原さんは、もとより超絶技巧の持ち主だし、ffでは半分立ち上がって体重を載せた打鍵で強靱な音を出したりもするピアニストだが、今日はそういう面は見せずに、全体としては抑え気味。むしろ微妙なニュアンスや美しい音色などの表現の方に重点を置いた演奏だったと思う。オーケストラも抑え気味で、バランスは取れていた。指揮のボロヴィチさんは終始上原さんの方を見ながら、ピタリと寄り添うようにサポートに徹していたようだ。
今日の協奏曲は、あくまで若き日のショパンの曲という解釈だったのだろうか。繊細で控え目。あまり強い自己主張を見せずに、心の内面に秘められた抒情性を描きたかったのではないだろうか。ショパンらしいナイーブな感性がうまく表現された素敵な演奏だったと思う。
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後半は、オーケストラをフル編成に戻してチャイコフスキーの交響曲第5番。実は会場に入るまで、今日はチェコのオーケストラで《ニューイヤー名曲コンサート》だから、ドヴォルザークの「新世界から」を演奏するものだと勝手に思い込んでいた。席について、プログラムを開いて、あれれ? チャイコフスキーって書いてある…。何とも間抜けな話だが、もちろんチャイコフスキーの第5番は名曲中の名曲であるし、大好きな曲だから問題はないのだが……。
さて気を取り直して、曲が始まると、これがなかなか面白い演奏なのだ。まずテンポは全体的に速めで、インテンポに近く、キレが良い。オーケストラのダイナミックレンジもショパンの時とは格段の違いで、音量も大きい。やはり大柄な男声の多い骨太のオーケストラの本領発揮というところだ。イケイケの感じで、時折突っ走りすぎてオーケストラが追いつけずにパラケそうになったりするのもご愛敬で、なかなかスリリングで楽しい。その勢いのある感じがとても楽しげでイイ感じなのである。ホ短調の第1楽章、この曲がこんなに明るく楽しげに演奏されるのを初めて聴いた。
第2楽章のホルンのソロは、独特の雰囲気があって、これも素晴らしい。ひとつひとつの音がぷぁん、という浮遊感のある柔らかい音色で、暖かみも感じられる。聴かせどころだけに、ホルン奏者の自慢げな音色であった。あまり他で聴いたことのないタイプの吹き方だと思う。
第3楽章のワルツも速めのテンポでグイグイと勧めていく。あまり優雅な感じではなかったかも。中間部の木管もほのぼのとした音色。あまり洗練された感じでないところが、スラブ系の味わいがあって良い。
第4楽章も速めのテンポは変わらず、長調に転じて明るさが増し、さらに推進力も加わって、豪快になっていく。展開部になって全合奏になった時の音圧も素晴らしかったが、弦楽がかなり力強く、強奏の金管群にも負けず、バランスを保っていた。またティンパニが活躍する部分があるが、ちょっと派手目のアクションでノリノリに叩いていた。全体にノリの良いオーケストラである。団員は中高年の男性がほとんどだが、若い指揮者にうまく乗せられていたのか、アンサンブルの怪しいところのあったものの気にせずに、馬力があって駆け抜けていく、といったイメージである。コーダに入ると、例えばコバケンさんなら感極まって天を仰ぐところだが、ボロヴィチさんは楽しそうに全身を使ったダイナミックな指揮ぶりで、やけに陽気なチャイコフスキーであった。まあ、賛否はあるだろうが、お正月らしい演奏で、聴衆も大喜びであった。
アンコールは、ドヴォルザークの「新世界から」より第3楽章。こちらはスケルツォだが、やっぱり。速めのテンポでガンガン責め立てるような演奏。ボロヴィチさんがオーケストラを煽っていく感じだ。ここでもティンパニが大活躍。やはり、お正月は「新世界から」である。
実は、気がついてみると、ショパン以降、すべてホ短調。もちろんショパンの協奏曲もチャイコフスキーの交響曲も楽章によって調性は変わるが、楽曲としてはホ短調に統一されているから、聴く方にとっては安定感があるプログラムになっていた。アンコール曲もこの楽章はホ短調である。そんな心配りも感じた次第である。
今日は上原さんを聴くつもりで出かけたのだが、結果的にはチャイコフスキーの第5番が予想外の快演だった。ポーランドの指揮者で、チェコのオーケストラで、ロシアのチャイコフスキーを演奏するのだから、さぞかし泥臭く、暗雲立ちこめる暗~いイメージかと思いきや、元気で明るく疾走するような演奏で、しかも迫力満点。とにかく、心から楽しませていただいた。こういう意外な展開があるからライブは面白いのである。
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