Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

2010年~2012年に聴いた名曲/セザール・フランク「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」

2013年01月02日 01時55分20秒 | クラシックコンサート
 もともとヴァイオリンの音楽はかなり好きな方なので、リサイタルを聴きに行くことが多い。ヴァイオリン曲の中核をなすのがヴァイオリン・ソナタ。数多の作曲家が名曲を残している。その中でも、個人的に「3大ヴァイオリン・ソナタ」と決めているのが、リヒャルト・シュトラウス、サン=サーンスの第1番、そしてセザール・フランク。なぜベートーヴェンやブラームスが含まれないのか、その辺の事情は、あくまで「個人的」ということでお許しいただくとして、この3曲がヴァイオリンの魅力をたっぷりと伝える曲であることには異論はないだろう。1年前、《2011年に聴いた名曲(1)/リヒャルト・シュトラウス「ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18」》という記事でR.シュトラウスを採り上げたので、今回はフランクを採り上げてみようと思う。2012年の1年間で、フランクのヴァイオリン・ソナタを聴いたのは4回だった。少しボリュームが足らないので、2010年まで遡って、この3年間に聴いたフランクのソナタを時系列に従って再レビューしてみたい。以下は、それぞれの演奏会の時の記事からの抜粋に加筆訂正したものである。

【曲目】セザール・フランク作曲/ヴァイオリン・ソナタ イ長調

【1】ヴァイオリン: 日下紗矢子 ピアノ: アレッシオ・バックス
 2010年7月6日(火)18:30~ 日経ホール

「 ヴァイオリン・ソナタの定番中の定番、フランク。フランス風の自由奔放なロマン的な要素とドイツ的な構造感を合わせ持つ名曲である。第1楽章は幻想的かつ叙情的な主題で始まる。日下さんのヴァイオリンは、音色もキレイだが、流麗なレガートを効かせながらもリズム感が正確で揺るぎない。そのために、感情に流されることがなく、構造を強く感じさせながら、旋律を歌わせることができるのだろう。第2楽章に入るとピアノが奔流のごとく力強く低音部を描き、ヴァイオリンも激しい主題をパッションを込めて奏でる。ここへきて、その力強さ故に、それまでの美しかった音色に濁りが生じてきた。もちろん意図してのことなのだろうが、個人的には美しい音のままでいてほしかった。第4楽章までこの傾向は続き、結局、フランクの演奏は音色よりも曲の持つ「情念」を優先するカタチとなった。
 もともとこの曲は、ヴァイオリンとピアノの力関係が一対一であって、ピアノが単なる伴奏に終始してしまうと、曲全体がパワー不足になってしまう。逆にピアノが出過ぎると、ヴァイオリンの脆弱さが目立ってしまう。その点では、今日のバックスさんはこの曲でパワーを出しぎみであったのか、日下さんのヴァイオリンにも思わず力が入ってしまっていたような印象だった。前3曲の印象からくる日下さんのイメージだと、フランクはピッタリだと思っていたのだが、やや予想と違う演奏だったために、戸惑いを感じたことも事実。しかしそれは解釈の捉え方の問題なので、個人的な嗜好で批判めいたことを述べるのは本意ではない。素晴らしい演奏であったことは間違いないのだから。」
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 2010年のこの時の時点で、日下さんはベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のコンサート・ミストレスを務めていたが、今年2013年の4月から読売日本交響楽団のコンサート・ミストレスも兼任することになった。お目にかかる機会は多くなるが、ソロの演奏を聴く機会も増えると良いのだが…。

【2】ヴァイオリン: 川久保賜紀 ピアノ: 江口 玲
2011年7月7日(木)19:00~ ヤマハホール

「 第1楽章、属九の不協和音に乗る何とも不思議な空気感のある第1主題…、川久保さんのエレガントなヴァイオリンが素敵だ。主題が展開していき、徐々にクレッシェンドしていく際、ヴァイオリンの音がどんどん色濃くなっていくのが印象的。ビアノによる第2主題も江口さんの軽やかで透明な音色が、この楽章の不思議な雰囲気をさらに醸し出していく。
 第2楽章は本来なら第1楽章に相当するような力強い楽想と構成を持っている。次々に現れる早いパッセージにも、川久保さんと江口さんの息はピッタリで、ハギレの良いリズム感で、それでも1本調子にならずに、微妙に急緩を織り交ぜて、激しい川の流れのごとき演奏だった。
 第3楽章は、第1楽章の主題が表現を変えて現れたりするが、自由な形式の中にも曲全体の統一感がある。とくに中盤から終盤にかけての旋律が美しく、心にせまってくる楽章である。ここでは、とくに川久保さんのヴァイオリンの低音部の音が豊かに響いた。どんなに強く弾いても音が荒れたりない。情熱を前面には出さずに、1歩下がって控え目でいるところが、ブランクっぽいエスプリが効いていると思う。
 第4楽章はまさにフィナーレ楽章にふさわしく、第1~3楽章の様々な主題がカノン風に現れるロンド、という複雑な構成。川久保さんのヴァイオリンは「流麗」で「豊潤」のまま、最後までエレガントさを失わず、それでいて最後はドラマティックに盛り上げていく。江口さんとの掛け合いは、とくにコーダに入ってからは躍動感と音楽の喜びに溢れていて、素晴らしいフィナーレとなった。
 川久保さんのヴァイオリンは、今が一番「旬」なのではないだろうか。安定して完成の域に達している技巧と、女性的な瑞々しい感性に加えて、そろそろ円熟度も増してきている。自己主張を強く押し出すのではなくて、聴く者の心を自然に開かせてしまう音楽を創り出している。一方、江口さんのピアノも押しが強くはなく自然体である。このおふたりが奏でる今日のリサイタルは、聴く者たちをやさしく包み込んで、穏やかな感動をもたらしてくれた。痺れるような感動をもたらす音楽も良いし、涙なくしては聴けない音楽も悪くないが、今日のように心に豊かさをもたらしてくれる音楽もまた、理想的なものだと思う。」
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 フランクのヴァイオリン・ソナタの持つ不思議な空気感が、川久保さんのエレガントなヴァイオリンとよく似合っていた。間を取り持った江口さんの温かみのあるピアノも一役買って、穏やかで優しい演奏になった。

【3】ヴァイオリン: ライナー・キュッヒル ピアノ: 加藤洋之
 2011年11月5日(土)14:00~ 横浜みなとみらいホール・大ホール

「 フランクのソナタは、私も最も好きなヴァイオリン・ソナタのひとつ。後期ロマン派の爛熟した濃密な音楽、しかもフランス系の絵画的な色彩感と夢幻の境地を彷徨うような幻惑的な旋律や複雑な和音の構成など、ヴァイオリンの曲としては最高傑作の部類に入る曲だ。キュッヒルさんの演奏はというと、これがいわばウィーン風の優雅な音色と、ドイツ系の律儀な演奏という感じで、なるほどこういう解釈や演奏スタイルもあったのか…と、音楽の奥深さを感じつつも、やはり違和感は隠せない。いわゆる全楽章を通じての循環形式という構造的手法が、律儀な演奏の中からクッキリと浮き上がってくる。それはそれで良いのだが、逆に感性の趣くままの「揺らめき」のようなものが少ないと、フランク特有の「感情的」に部分が感じられずに終わってしまった。一方、この曲はヴァイオリンとピアノが対等レベルの役割をもっていることでも知られているが、 加藤洋之さんのピアノは濃密な音楽空間を描き出していてなかなか素敵だった。ちなみにキュッヒルさんと加藤さんは長年にわたりパートナーとして共演しており、お二人の行きはピッタリと合っていたのは言うまでもない。」
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 世界一のコンサート・マスター、ランナー・キュッヒルさんであるが、ソロのリサイタルとなると、必ずしも世界一というわけにはいかないようである。いつも聴いている若いソリストたちの演奏と比べると、どうしてもアンサンブル重視型であり、押し出しが足らない。聴く側としては不完全燃焼といったところか。

【4】ヴァイオリン: 南 紫音 ピアノ: 江口 玲
 2011年1月17日(火)19:00~ 紀尾井ホール

「 後半はフランクの「ヴァイオリン・ソナタ イ長調」。数あるヴァイオリン・ソナタの中でも最も好きな曲のひとつだ。夢幻的であるかと思えば感傷的になったり、憂鬱になったり、憤怒の表情を見せたり、人間の本能的な感情のさまざまな側面を描き出しているようにも聞こえる。美しい旋律と和声の曲だと捉えれば、純音楽的にも素敵なソナタになっている。
 第1楽章は、第1主題の艶っぽいヴァイオリンの音色が印象的。弱すぎることもなく、しっかりとした主調が通っている。第2主題の江口さんのピアノがまた華麗だ。
 ほぼ間を置かずに演奏が始まった第2楽章は、激しくうねるようなピアノに低音から太く力のあるヴァイオリンが応じる。中間部のppも見事にコントロールされていた。
 第3楽章は「幻想的なレチタティーヴォ」と標題がある通り、他の楽章の主題も現れたりする自由な形式だが、統一感のある楽想が豊かで、とても抒情的で聴かせ所だ。南さんのヴァイオリンは感傷的な部分があまり悲しげに聞こえないところが良い。若さが溢れ、瑞々しく潤いたっぶり(化粧品の広告のような表現?)の音色が粛々と演奏された。
 第4楽章は、ロマンティックな主題を、ピアノとヴァイオリンがカノン風に追いかけっこをする。音楽的な構造も見事だが、どうしても男女の心のすれ違いのように聞こえてしまう。なかなか解決しないすれ違いが最後に1つの主和音になった時の安心と感動は、何度聴いても新鮮さを失わせない。そのような想像をしながら聴いていると、南さんと江口さんではちょっと年の差があって恋愛のイメージではないかもしれないが、やはり若い女性ならではの瑞々しい感性が個性となって演奏に表れてきて、それはもう素敵なフィナーレであった。
 フランクのソナタは、演奏技術も難易度が高く、ピアノ・パートも等々に充実しているし、演奏時間も長い大曲である。しかしこの曲の最大の魅力は曲が持っているロマンティシズムだと思う。そしてそれは演奏家の持つロマンティシズムによって表情が変わってしまうほどの柔軟性を持っているような気がする。女性のヴァイオリンと男性のピアノの場合、あるいはその逆の場合、男性同士の場合、女性同士の場合…、それぞりに異なる雰囲気を醸し出してくる。とくに男性同士だと純音楽的な構造感が強く出てくるような気がするし、女性同士だと非常にエレガントな曲になる。やはり一番素敵なのは女性のヴァイオリンと男性のピアノの場合で、妙に艶めかしく、男女の対話のようになる。今日の南さんの演奏は、清冽なイメージから徐々に抜け出し、(上品な範囲内で)官能的にさえ思えた…のは私だけだろうか。」
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 南 紫音さんのこの日のリサイタルはオール・フレンチ・プログラムだった。あまり強烈な押し出しではないが、しっかりとした芯のある音楽作りで、しかも瑞々しく多彩な音色を持っている彼女には、フランス音楽がよく似合う。フレッシュな演奏が、この曲の新しい側面を描き出していた。

【5】ヴァイオリン: 有希 マヌエラ・ヤンケ ピアノ: 歩 マノン・ヤンケ
 2012年3月9日(金)16:30~ 日経ホール

「 後半のプログラムは、フランクのヴァイオリン・ソナタのみ。こちらも言わずと知れた名曲だ。ここでもピアノが淡泊でやや弱いのが気になった。この曲はピアノ・パートがあたかもオーケストラのような多様性と色彩感を持っていて、単なる伴奏ではない。ピアノに力があると曲全体に力感が溢れ、官能性や抒情性にもぐっと厚みが出てくる。今日の演奏では、ヴァイオリンは見事ではあったが、ピアノが弱い分だけ、曲全体にも彩りがやや足りない感じがした。第1楽章は遅めのテンポで思い入れたっぷりにピアノが弾かれるが、ヤンケさんの若さに対して少々ねっとりし過ぎのようにも思えた。第2楽章はぐっと力感が増して推進力も出てきた。ヤンケさんの豊かで艶やかな低音が大きなスケール感を出していて素晴らしい。怒濤のごとく盛り上がって第2楽章が終わったら…。拍手が起こって、しかもかなり多くの人が同調してしまった。ヴァイオリンのリサイタルを聴きに来る人で、この曲を知らない人がいっぱいいるなんて…、大手町から動員でもかけたのだろうか…。ちょっと興醒めしてしまった後の第3楽章では倦怠感のようなけだるさが、第4楽章ではふたたび官能的なロンドとカノンが、ヤンケさんの濃厚なヴァイオリンで紡ぎ出されていく。ストラディヴァリウス「ムンツ」の響きは豊潤で、まるでピアノに覆い被さるほどの豊かな音量だった。(中略)
 有希 マヌエラ・ヤンケさんは、お父さんがドイツ人の音楽家で、もちろんドイツ生まれのドイツ育ち。体格も大柄だからというわけではないだろうが、音楽性にも大陸的なスケール感が感じられる。日本人特有の繊細さも併せ持っているが、日本人演奏家に比べれば線が太い。豊かな音量と厚みのある音色が特徴的だが、無理に大きな音を出しているような目一杯といった感じがないので、安心して聴いていられるのが良い。とにかく、技巧的にはまったく問題もなく、曲全体の構成力や豊かな表現力も素晴らしい。まあ、強いて言うなら、ひとつひとつの音にもっと細やかな味付けを、さらに繊細なニュアンスが欲しいところだ。と、まあこれも素人の勝手な戯言にすぎないと思うのだが…。」
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 有希 マヌエラ・ヤンケさんは、2012/2013年シーズンからドレスデン国立管弦楽団(シュターツカペレ・ドレスデン)のコンサート・ミストレスに就任した(2年間の試用期間の後、本採用となる)。2012年10月の同オーケストラの来日公演にも同行し、第1ヴァイオリンのフォアシュピーラーを務めていた。出世といえば出世なのだろうが、ソロのリサイタルの機会が減ってしまいそうなのが、ファンとしてはちょっと惜しく、複雑な思いだ。

【6】ヴァイオリン: ジャニーヌ・ヤンセン ピアノ: イタマール・ゴラン
 2012年11月28日(水)19:00~ 紀尾井ホール

「 後半はフランクのソナタ。ここで大曲が出てきた。美しさも爛熟期を迎えたロマン派後期の傑作である。ヤンセンさんの「濃い」演奏は、協奏曲の曲目の中では、このフランクが一番合うような気がした。
 第1楽章は夢の中を漂うような浮遊感がうまく表現されていた。ヴァイオリンの音色も艶やかで色気がある。ただ、いわば順序が入れ替わって緩徐楽章が先に来ているようなものなので、moderatoのテンポがゴランさんのピアノとの間で、微妙な流れのギクシャクした感じを残した。
 第2楽章は、allegro楽章で、ここにきてようやく二人の本領発揮といったところだ。冒頭から提示部の音の奔流のようなダイナミックな流れ、パワフルなヤンセンさんの肉太な音色が、劇的な楽章をグイグイと引っ張って行く。なかなか情熱的な素晴らしい演奏である。
 第3楽章は「幻想的なレチタティーヴォ」。ヴァイオリンが語るように、歌うように、あるいはカデンツァ風に演奏される。自由な形式だけに、ヤンセンさんのヴァイオリンもここでは自由度の高い演奏で、旋律をたっぷりと歌わせていた。ゴランさんのサポートもさすがのものである。
 第4楽章は、ロンド・ソナタ形式のロマンティックな楽想がカノン風に展開される。複雑に絡み合った構造と、抒情的で高揚感に溢れる音楽は、まさに爛熟のロマン派といった感じで、数あるヴァイオリン・ソナタの中でも最も好きな楽章のひとつだ。ただ、この楽章はヴァイオリンとピアノの呼吸ほピタリと合わせで、曲の流れをスムーズにしないと、聴いていて音がバラケて聞こえてしまう。協奏曲のヤンセンさんとゴランさんは、どうだったのかと問われれば、完璧とは言えなかったような気がする。両者の個性がぶつかり合ってしまったのかもしれない。
 ヤンセンさんの濃厚なヴァイオリンは、やはりこの曲には合っていたとは思う。個人的な好みを離れて客観的に聴けば、素晴らしい演奏だったと断言できる。会場でも大きな拍手とBravo!が飛んでいた。(あくまで個人的な)印象なのだが、ヤンセンさんはご存じのようにかなり大柄の体型、ということは手も大きい。そのせいか、ヴィブラートの揺れ幅が大きく、どちらかといえば男性的なヴィブラートとなる。小柄で指の細い日本人女性のヴィブラートとは、すこし感じが違うのである。そのせいか、聴きようによっては音程が曖昧に感じられる所がかなりあった。もちろん許容範囲内だが、(あくまで個人的には)少々居心地の悪さを感じたりもするのである。」
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 この日はあまり体調が芳しくなく、少々ボンヤリしていたので、この感想にはいささか自信がない。全体的にあまり良い印象とと言えない記述になっているが、ヤンセンさんのファンの人には叱られそうである。

【7】ヴァイオリン: 神尾真由子 ピアノ: ミロスラフ・クルティシェフ
 2012年12月5日(水)18:30~ 千葉県文化会館・大ホール

「 後半はフランクのヴァイオリン・ソナタ1曲である。この曲はちょうど1週間前の2012年11月28日にジャニーヌ・ヤンセンさんのリサイタルで聴いたばかり。偶然が重なるものだが、世界のトップ・アーティストの演奏でフランクを聴き比べできるなんて、幸せなことである。
 第1楽章はゆったりしたテンポで、しかも小さめの音で、夢幻の世界を漂うように曲が始まった。中盤に向けての盛り上がりでは、ロマンティックな情感が強くなり、音そのものも豊かで厚い。
 第2楽章では一転してリズム感良く、推進力が素晴らしい。第1主題と第2主題の対比も鮮やか。とくにクルティシェフさんのピアノが躍動感に溢れているのに、出しゃばりすぎないところが良い。神尾さんは、低音部に力感と、前へ前へと突き進んで行くような勢いが感じられ、素晴らしかった。
 第3楽章は、ヴァイオリンとピアノが対話するようになるが、二人の駆け引きが絶妙であった。ヴァイオリンの旋律の切れ目にピアノがすーっと出てくるあたりの上手さは、ヴァイオリニストと伴奏ピアノという関係ではなく、デュオとしての完成度の高さを感じさせた。
 その印象はそのまま第4楽章のカノンで確信に変わった。1小節ごとに主役が入れ替わるように、ヴァイオリンとピアノが交互に絶妙にバランスを入れ替えて、厳格なカノンを構築していく一方で、演奏全体は極めてロマンティックでドラマティックである。終盤からフィニッシュに向けての緊張感の高まりなども、二人の見事な表現力が素晴らしい相乗効果を上げていた。フランクのソナタは最も好きな曲のひとつであり、これまで数え切れないほどの回数を聴いているが、1、2を争うほどの名演だったといって良いと思う。お二人に、Bravi!! 」
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 2012年11月~12月の神尾真由子さんとミロスラフ・クルティシェフさんのデュオ・リサイタル・ツアーでは2種類のプログラムが用意されていて、この日は【プログラムB】で、フランクが演奏された。ツアーに先立って、お二人による新譜CDがリリースされていて、もちろんフランクのソナタも収録されている。CDの演奏も素晴らしいが、ナマの演奏の持つ圧倒的な存在感には比べるべくもなかった。若い(しかも一流の)演奏家の方々は、演奏するたびにどんどん進化していく。そんなことが実感できた演奏であった。


 フランクのヴァイオリン・ソナタは4つの楽章を持ち、演奏時間も30分弱という大曲である。したがってほとんどのリサイタルでは、後半のメイン曲として演奏される。ソロのヴァイオリニストにとっては、必ずといって良いほどリサイタルで採り上げる曲であり、また聴く側もそれを望む。いわば一種の試金石となる曲である。
 2010年~2012年の3年間に実際に聴いたのは上記の7回であるが、顔ぶれを見れば分かるように、いずれも“超”が付くくらい一流のヴァイオリニストばかりだ。それぞれの演奏には奏者の個性が見事に反映されていて、ただ譜面通りに弾いているような演奏はひとつもない。やはりフランクを弾くときはかなり気合いが入るようである。ここに採り上げた7回の演奏のレビューは、それぞれ聴いた直後に印象を書いたもの。こうして並べてみると、同じ曲でも演奏者によって印象はまちまちなのが分かり、とても面白い。
 また、この3年間では、ここに登場した7名以外のヴァイオリニストの演奏でしかフランクを聴いていないことになる。まだまだフランクを聴かせていただきたいヴァイオリニストはたくさんいる。2013年は、何回くらい聴けるだろうか。

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