Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

9/25(木)ウィーン・フィル来日公演/ドゥダメルの華麗な「ツァラトゥストラ」と純音楽的シベリウス第2番

2014年09月27日 02時00分49秒 | クラシックコンサート
ウィーン・フィルハーモニー ウィーク・イン・ジャパン 2014
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演 2014


2014年9月25日(木)19:00~ サントリーホール・大ホール C席 2階 LA4列 19番 19,000円
指 揮: グスターボ・ドゥダメル
管弦楽: ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
R.シュトラウス: 交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」作品30
シベリウス: 交響曲 第2番 ニ長調 作品43
《アンコール》
 J.シュトラウスI: アンネン・ポルカ 作品1387
 J.シュトラウスII: ポルカ・シュネル「雷鳴と稲妻」作品324

 毎年恒例、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演ツアーがまたやって来た。今年は9月19日から27日までの9日間に、全国5都市(大阪・福岡・郡山・川崎・東京)で合わせて7回のコンサートを開催すると同時に、東北地方における東日本大震災の復興支援事業や青少年プログラムなども行われている。今日はツアーも終盤を迎え、東京・サントリーホールの主催公演のうちの1回である。
 今回ツアーを率いてくるのは、ベネズエラ出身で最近最もホットな話題を提供し続けているグスターボ・ドゥダメルさん。1981年生まれの33歳という俊英だ。昨年2013年は、ミラノ・スカラ座の来日公演に参加し、ヴェルディの『リゴレット』を指揮したり、NHK音楽祭にも登場し「ヴェルディ・ガラ・コンサート」を指揮して日本でも話題となった。NHK音楽祭の方はチケットを取って行く予定でいたのだが、当日台風による暴風雨が吹き荒れて行くことができなかったので、私は直接聴くのは今日が初めてである。
 今回のツアーでも色々な曲が用意されていた。シベリウス、モーツァルト、リムスキー=コルサコフ、ムソルグスキー、ドヴォルザーク、リヒャルト・シュトラウス、ルネ・シュタール(ウィーン・フィルの第2ヴァイオリン奏者で作曲家でもある)などの楽曲だが、今回はウィーンに縁のある作曲家はモーツァルトとシュタールくらい。ベネズエラの指揮者にして、かなり奔放なプログラムとなっていたので、聴く側としても迷うところが多かった。結果、今年は1回聴くだけに留めることにした。プログラムはR.シュトラウスとシベリウスの日を選んだ。

 人気のウィーン・フィルだけあって、さすがに完売公演。会場はぎっしりいっぱいのほぼ満席状態であった。前半はR.シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」。パイプ・オルガンを含む4管編成、16型以上の弦楽5部という大編成により、サントリーホールのステージはウィーン・フィルのメンバーで満杯になっていた。
 腹に響くオルガンの重低音に続き冒頭の有名にトランペット。なんて優雅で晴れやかな音色なんだろう。そしてティンパニの連打は、力強いのにうるさくない、絶妙のバランス感覚で聴かせる。そして金管の分厚い和音。この部分を聴いただけで、ウィーン・フィルの本質的な巧さが分かるというもの。続く「世界の背後を説く者について」では甘美な主題を奏でる弦楽アンサンブルの美しさは陶酔的である。この甘い音色もウィーン・フィルならではであろう。他ではちょっと聴けないような気がする。「大いなる憧れ」では徐々に盛り上げて行く課程が、分かっていても上手いなァと感じる。「喜びと情熱」では管と弦と打が極めて素晴らしいバランスでクライマックスを形作っていた。LAブロックで聴いているだけあって、ナマの音がダイレクトに伝わって来るのが堪らない快感である。
 「墓場の歌」に入ると倦怠感が漂うムードの不協和音がまた、質感が高く響く。ヴァイオリンのソロは私の席からだとよく聞こえないのが残念。「学問について」では低音のフーガの行き場のない雰囲気の中から美しい主題がヴァイオリンの高音に表れる辺りの一瞬で表情を変える鮮やかな対比が見事。「病から癒えつつあるもの」ではそれまでの 様々な動機が回帰してくるが、各パートに入れ替わり立ち替わり表れる際の色彩感というか、オーケストラの中にこれほど多くの色彩が閉じ込められていたのかと、改めてウィーン・フィルの底力を感じさせた。「舞踏の歌」に入るとさらにその鮮やかさが増すことになった。ワルツになるとウィーン・フィルは音色が急に明るくなる。ここでもヴァイオリンソロがあまりよく聞こえなかったのが残念だった。しかし。このようかロマン派のとろけるような甘美な音楽は、カリカリとした先鋭な音色ではどうも・・・・という感じがするので、やはりウィーン・フィルの優美なサウンドはこういう場面では無敵の素晴らしさを発揮する。壮大なクライマックスでは膨大な色彩でホールが満たされるイメージだ。最後の「夜のさすらい人の歌」では、甘美な主題が甘美な音色に乗って、官能的にホールに漂う。これこそはシュトラウスにしか書けない音楽。ウィーン・フィルの音色はあくまで美しく、ドゥダメルさんの指揮もしなやかで陶酔的であった。
 「ツァラトゥストラはかく語りき」をナマ演奏で聴くのは随分久しぶりのことだったので、他の演奏と比較することさえできないが、ウィーン・フィルで聴くことができて本当に良かったと思う。ニーチェもビックリするような、ウィーン風の語り口でのツァラトゥストラであった。

 後半はシベリウスの交響曲第2番。これはかなり問題のプログラムだといえる。何しろドゥダメルさんの出身国ベネズエラといえば赤道に近い南国・熱帯気候。その彼が極北の国フィンランドの音楽を指揮する。演奏するのはヨーロッパ屈指の宮廷音楽の音色を残すウィーン・フィル。いったいどんな音楽になるのか、まったく予想ができない。これは今日サントリーホールに聴きに来られている方々に共通した状況だったと思う。もちろん、それだからこそ聴いてみたかったわけで、「そんなのダメだろ」と聴かずに突き放してしまっては話は始まらないのだ。
 第1楽章は、弦楽の重々しい響きで始まった。呼応するオーボエなどの木管の雰囲気も、やはり普段思い描いているシベリウスのイメージとはちょっと違うようだ。弦楽も前半の甘美な音色とは違って、渋みを増したドイツ風のイメージか。北欧のオーケストラの持つ透明感ともまた違う。管楽器群のもつ色彩感も北欧風とは言い難い。考えてみれば、独墺系のオーケストラでシベリウスを聴くのは初めてかもしれない。ちょっと記憶がないのだ。全体的に漂う、何となくの「違和感」は、聴いているコチラ側の先入観なのかもしれない。演奏自体は非の打ち所のない見事なものだし、クオリティも最高品質であることはいうまでもない。つまり主観的な意味での「違和感」は、シベリウスを聴いていても「寒さ」が感じられないということなのだと思う。素直に先入観無しに聴けば、純音楽的な演奏だといえるかもしれない。
 第2楽章の暗く重々しい雰囲気は、ロシアの支配下、圧政に苦しむ感情が押し込められているような音楽であることはよく知られた話だが、今日はやはりちょっと雰囲気が違うような。ドイツ風の重厚な音色で演奏されると、ベートーヴェンのような主観的な苦悩に聞こえてしまうのである。これも聴く側の先入観だろうか。実際の演奏は、渋く重厚な弦楽と金管、木管は純音楽的に美しい。ダイナミックレンジは広く、弱音から強奏まで一気に駆け上がる機動性も瞬発力もある。劇的な演奏であることは間違いない。
 第3楽章はスケルツォ。動的なスケルツォ主題に対して中間部のオーボエは森の中の小鳥のよう・・・・。本来は波ひとつない静寂の湖のイメージ・・・・だと思っているが、雰囲気はやや違っているような気がした。しかし演奏は素晴らしく、クライマックスに向かう劇的な盛り上がりもダイナミックであったし、コーダから第4楽章になだれ込むあたりは、あたかも「苦悩を通じての歓喜」であるかのようであった。
 第4楽章の明快な第1主題は早めのテンポで壮麗に輝いた。金管の音色はまさに輝かしく、光彩を放つようであった。展開部の混沌とした中から再び光に満ちた第1主題が表れる再現部の鮮やかさは、極めて劇的で素晴らしい盛り上がりを見せた。ここでも金管セクションの分厚いアンサンブルは迫力もパッションも兼ね備えて、感動的であった。コーダに入って徐々にクライマックスな向けて盛り上がっていくのも、素晴らしい劇的な効果を生んでいた。最後の全合奏の音圧は、ホールを揺るがすような迫力であったが、アンサンブルの乱れは全くなく、理路整然と100%のチカラを発揮したという感じ。素晴らしい演奏に、会場からしBravo!!が飛び交った。
 結局、最初から感じていた「違和感」は最後までなくならなかったが、ソレはあくまで私の個人的な感覚であって、演奏は、これはこれで素晴らしかったのだと思う。かつてウィーン・フィルの演奏でチャイコフスキーを聴いた時にも感じた「違和感」なのである。いかにも北欧の大自然を想起させてしまうシベリウスの「標題音楽的」な要素に対して、ドゥダメルさんの指揮とウィーン・フィルの演奏は「純音楽的」な交響曲を描いていたといえば、分かりやすいだろうか。先入観を取り除いて聴けば、これほど巧いオーケストラはないのだから・・・・。

 アンコールは2曲。ヨハン・シュトラウスI世の「アンネン・ポルカ」とII世の「雷鳴と稲妻」。まったく日本人が喜びそうなウィンナ・ポルカ2連発である。こういう曲になると、当然のごとくウィーン・フィルは世界一。目をつぶっても演奏できそうだし、指揮者がいてもいなくても対して変わらない(失礼)。気分は最後にニューイヤーであった。しかし、シベリウスとはあまりにも違うこのピタリとはまった感じは・・・・。

 ドゥダメルさんの指揮は、とくに個性的というわけでもなく、スタンダードな仕上がりと行ったところだろう。全体の印象は、劇的で躍動的、とくにリズム感が良いようで、速いテンポでも遅いテンポでも、音楽が淀みなく流れ非常にしなやかな印象を受ける。音楽に角張ったところがなく、柔らかいのにスナップが効いている感じだ。要するに、フレッシュで瑞々しく、端正でしなやか。若い指揮者の良いところばかりが目立つというわけだ。まあ、半分はウィーン・フィルの持つ揺るぎないスタイルがあったようにも思えるが、それでもドゥダメルさんが何故世界中のオーケストラに呼ばれるのか、その一端が分かったような気がする。
 今回のウィーン・フィルのコンサートは今日の1回だけ聴くことができた。予算の都合でお手軽なC席だったが、満足度は120%。ウィーン・フィルのような完全に固まった個性を持つオーケストラの場合は、逆に個性的な指揮者の方が何かが起こりそうな感じがして面白い。昨年のティーレマンさんのようなアクの強い指揮者との演奏も素晴らしかったが、今回のドゥダメルさんもなかなか面白い。ニコニコしながら何となく、ウィーン・フィルを自在に動かしているのだ。そしてオーケストラ側も本気モードでそれに応えていた。やはり聴いて良かったというのが率直な感想である。

 ← 読み終わりましたら、クリックお願いします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 9/21(日)読響みなとみらい名... | トップ | 9/27(土)日本フィル横浜定期/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事