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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/28(日)ウィーン国立歌劇場「フィガロの結婚」/オールスター揃い踏みの極上の公演のはずなのに…

2012年10月30日 00時38分35秒 | 劇場でオペラ鑑賞
ウィーン国立歌劇場 日本公演2012「フィガロの結婚」全4幕
WIENER STAATSOPER in Japan 2012 “Le Nozze di Figaro”Oper in vier Akten


2012年10月28日(日)15:00~ 神奈川県民ホール・大ホール F席 3階 14列 11番 14,000円
演 目: フィガロの結婚 全4幕
作 曲: ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指 揮: ペーター・シュナイダー
管弦楽: ウィーン国立歌劇場管弦楽団
合 唱: ウィーン国立歌劇場管弦楽団合唱団
演出・美術: ジャン=ピエール・ポネル
合唱監督: トーマス・ラング
【出演】
アルマヴィーヴァ伯爵: カルロス・アルバレス(バリトン)
伯爵夫人: バルバラ・フリットリ(ソプラノ)
スザンナ: アニタ・ハルティッヒ(ソプラノ)
フィガロ: アーウィン・シュロット(バス・バリトン)
ケルビーノ: マルガリータ・グリシュコヴァ(メゾ・ソプラノ)
マルチェリーナ: ドンナ・エレン(メゾ・ソプラノ)
ドン・バジリオ: ミヒャエル・ロイダー(テノール)
ドン・クルツィオ: ペーター・イェロシッツ(テノール)
バルトロ: イル・ホン(バス)
アントニオ: ハンス・ペーター・カンメラー(バリトン)
バルバリーナ: ヴァレンティーナ・ナフォルニータ(ソプラノ)
村 娘: カリン・ヴィーザー

 4年ぶりに来日中のウィーン国立歌劇場の引っ越し公演で、「フィガロの結婚」の最終日に出かけた。あいにくの雨模様の中、久しぶりの神奈川県民ホールである。今回のウィーン国立歌劇場の来日公演は、「サロメ」、「フィガロの結婚」そして「アンナ・ボレーナ」という演目を用意、ほぼ1ヵ月間の日本滞在である。中でも「フィガロの結婚」は世界でもトップクラスのスター歌手を集めた公演である。今年度の来日公演計画が発表された当初は、確か小澤征爾さんの指揮で「スペードの女王」が予定されていたが、小澤さんの体調が芳しくないことなどを受けて、チケットの前売り情報が流れる頃には、ペーター・シュナイダーさんの指揮する「フィガロの結婚」に変わっていて、オールスターキャストになったという経緯もあった。

 オペラ好きを自認しているとはいえ、昨今の資金不足により予算を大幅に削減せざるを得ず、今回は最安席での鑑賞となった。実をいうと、神奈川県民ホールで3階席は初めてである。先行抽選予約で取ったチケットは3階の最後列。というわけで最初から諦めムードで、とりあえず鑑賞できれば良い、という気持ちでいた。ところが、幸い通路側の席であったため、窮屈な思いはせずに済んだし、前の席の人も邪魔にはならず、視覚的にはまったく死角がなく、実に見やすいのである。NHKホールほどステージまでの距離がないので、意外にコストパフォーマンスの良い席である。
 一方、音響的には若干問題が感じられた。オーケストラ・ピットが大きすぎて、小編成の今日のオーケストラば中央にこぢんまりとまとまっていて、左右に空間がポッカリと空いている。そのせいもあったのが、チェロかコントラバスなどの低音部がほとんど3階まで上ってこない。したがって中高音域だけがキンキン響き、ラジオを聴いているような感じであった。

 まず、オーケストラの演奏から。序曲が始まると、ウィーン国立歌劇場管弦楽団(ウィーン・フィル)のいつもの音色と雰囲気が違っていた。あれ?、と思ってオペラグラスでピットの中を覗くと、弦楽がノン・ヴィブラートで弾いているのが見えた。なるほどね、と納得。シュナイダーさんの指揮は、小気味よいリズムを刻み、立ち上がりが先鋭で、かなりメリハリを効かせている。オーソドックスな演出に対して、キレ味の鋭い演奏を提供していた。典雅で美しいモーツァルトとはイメージが異なるものの、きびきびしてフレッシュな印象さえ感じた。素晴らしい演奏であった。

 それに対して歌手陣はというと、まずフィガロ役のアーウィン・シュロットさん。2006年のメトロポリタン歌劇場の来日公演の頃はまだ新進気鋭といった感じで、ドン・ジョヴァンニを若々しく歌っていたのを聴いた。今回は一段と声の張りと艶が増していたのは良いのだが、序盤は何故かイタリア語の滑舌が悪く、歌詞をきちんと発音している間に音楽が先に進んでいってしまう。オーケストラから半拍遅れてしまうような感じで、切れが良くなかったようだ。後半は持ち直していたので、調子が悪かったのだろう。かつては機転が利くがお人好し、という役柄であったフィガロだが、最近はイケメンでかっこいいフィガロ像が好まれるらしい。そういう点では、シュロットさんは申し分ない。
 アルマヴィーヴァ伯爵役のカルロス・アルバレスさんはベテランの味わいを聴かせていた。レチタティーヴォの押しの強い発声も見事だし、アリアの力強さも同役柄にはピッタリである。最後まで安定した歌唱を聴かせていた。
 伯爵夫人のバルバラ・フリットリさんは、最近はすっかりお馴染みだ。2010年のトリノ王立歌劇場の来日公演と、2011年のメトロポリタン歌劇場の来日公演で「ラ・ボエーム」のミミを歌い、3年続けての大歌劇場の公演に来日したことになる。独特のゆったりとしたヴィブラートで朗々と歌うのは、伯爵夫人の役には合っている。最初のアリアは、第2幕の出だしで、しかも第1幕の間ずっと待たされているせいか、なかなか急に本調子が出ないようである。2つ目のアリアの方が豊かで艶のある歌唱であったような気がする。
 アリアは一つしかないのにほぼ出ずっぱりで、重唱や演技が大変なスザンナ役のアニタ・ハルティッヒさんは、大活躍している割にはあまり印象に残らなかった。そもそも初めて見る人の場合は後方の席からだと顔や姿がわかりずらく、ステージのどこで歌っているのかもオペラグラスで探さなければならない。まして第4幕などは薄暗いし、衣装を取り替えたりするので…。
 ケルビーノ役のマルガリータ・グリシュコヴァさんは、第1幕で登場するところは長い髪を下ろしていたのでどう見ても女性そのもの。軍服に着替えてからは、いかにもケルビーノらしく、かわいらしくなった。二つのアリアはまあまあのセン、ということで。

 演出については、ジャン=ピエール・ポネルさんによる演出と美術は、古典的なものなので、安心して観ていられるが面白味には欠けると言わざるを得ない。舞台装置や衣装は豪華なもので、さすがにウィーン国立歌劇場だけに、高品質なものである。これぞオペラ! という雰囲気は抜群だ。一方で演出は、各出演者が立ち位置を決めて動くだけ。ちょっと典型的すぎるのでは…。音楽は躍動的で元気いっぱいなのに、ステージ上の進行が類型的で動きが少ないために、「フィガロの結婚」で描かれる平民階級のバイタリティのようなものが伝わってこない。いわばドラマが台本通りに進行しているだけで、何が言いたいのかが分からないのである。


ジャン=ピエール・ポネル演出の第2幕から~装置も衣装も豪華だけれど

 今回のウィーン国立歌劇場の「フィガロの結婚」は、なぜか、期待していたほど心がときめかなかった。席は最後列だったけど視覚的には問題なかったし、オーケストラの演奏も素晴らしい。歌手はスターがいっぱい、演目は大好きな「フィガロの結婚」だし…。なぜだろう? 世界一のオペラのはずなのに。演出のせいだろうか。オペラに飽きてきたのだろうか。それても天気が悪かったからか…。

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